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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第一章

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27/110

27.ウルフザン討伐(1)


ハナノが帝国騎士団に入団して一ヶ月経ったある日の早朝、ハナノとローラの部屋がノックされた。


(今の、ノックだったよね?)

 音で起きたハナノはさっと身を起こす。辺りは真っ暗だ。頭はまだぼんやりしていて、先ほどの音は夢だったのかと思っていると、再びノック音が響いた。

 

「はい」

「ハナノか? サーバルだ」

 扉の外から緊迫感のあるサーバルの声が返ってくる。

「すぐ、開けます」

 ローラももぞもぞ起き出すのを横目で見ながら、ハナノはベッドから出た。


(何かあったんだ、何だろう? 良いことではないな)

 サーバルの声の硬さにそう思いながらハナノが扉を開けると、すでに騎士服姿のサーバルが立って居た。


「おはようございます」

「おはよう、ハナノ。これから第二団は魔物討伐の任務に向かう。最初に言っておくが、ハナノは連れて行かない。でも討伐の準備には慣れておいた方がいいからすぐに着替えて出てきなさい。ここで待つ」

 サーバルは早口で厳しい口調でそう言った。いつもと違うその様子に、ハナノは今さらながら自分は帝国騎士団の騎士になったんだ、と実感する。


「分かりました」

 ハナノも硬い口調で返事をすると、一旦、扉を閉めて素早く着替えた。準備の手伝いだけとの事だったが、帯剣もする。サーバルも帯剣していたし他の騎士達もそうなのだろう、帯剣しながらの作業に慣れておいた方がいい。


「任務?」

「うん。でも私は準備の手伝いだけみたい」

 起き上がって様子を見ていたローラに簡単に事情を説明して外に出た。

「サーバルさん、お待たせしました」

「うん、行こう」


 まだ暗い中を、サーバルと共に騎士団の本部へと向かう。

「今回は、非番の者も含めて第二団全員に出立命令が出ている。かなり規模の大きい討伐だ。期間も最低三週間はかかると思う」

「全員に出立命令なんて、何があったんですか?」

 非番も何も関係なくこんな早朝に出発するなんて、よっぽどの事態なのだとハナノにも分かった。


「ウルフザンが大量発生したんだ。村が三つ無くなった」

「ウルフザン……でしたら、私は全くお役に立てませんね。私ではきっと首は落とせません。分裂させるだけです」

 出てきた魔物の名前に、自分はむしろ足を引っ張るだけだとハナノには分かった。


「詳しいな。ウルフザンなんて遭遇したことはないだろ?」

「ないですが、図鑑にのってますし」

「勉強熱心だな」

「はい。フジノもですよ。ところでフジノは行くんですか?」

「ああ、あいつは連れて行く。」

「……分かりました」

 そうだよね。とハナノは思った。

 フジノなら絶対、役に立つ。足なんて引っ張らない。

(私は……)

 役には立たない。

 第二団に配属されて一ヶ月、もちろん、剣の稽古や訓練では周りの騎士達との力の差は歴然だったが、皆、優しかったし、溶け込めている実感はあった。帝都の巡回や雑務をこなす中では労働力の一人として何とかやっていけてると思っていた。でも、肝心の魔物の討伐では自分は第二団では全く役に立たないのだと、ハナノは思い知らされた。


(非番の騎士まで動員するほど人出が欲しい任務なのに、私は連れて行かないんだな)

 そもそも皇室直属である第二団への任務はレベルが高い。そのレベルに見合った騎士達が本来なら配属されてるはずで、つまり、ハナノはお荷物でしかない。ハナノはさすがにちょっと落ち込んだ。


「すまんな、連れて行ってやれなくて、一人で残る方が嫌だよな」

 ハナノの様子に気づいたサーバルが優しく声をかけてくれる。

「いえ、私の実力ではしょうがないことです」

「違う、新人一人も任せてもらえないなんて、私の力不足だ」

 サーバルがぎりっと唇を噛んだ。





***


「私の力不足だ」

 ハナノに声をかけながらサーバルはぐっと唇を噛み、つい先刻のアレクセイとのやり取りを思い出す。

 

 これより早朝、というよりは深夜にサーバルは緊急用の伝書鳩によって起こされた。サーバルはすぐに準備して指示された騎士団本部の中庭に向かう。

 そこには星空の下、アレクセイと他の何人かの班長が既に集まっていた。


「サーバル」

サーバルに、気づいてアレクセイがやって来る。

「魔物ですか?」

「ああ、ウルフザンの大量発生だ。既に村が三つ壊滅している。領主が下手に手を出した上に、報告しなかったんだ」

「村が三つ……」

 サーバルは事態の大きさをすぐにのみ込んだ。


 ウルフザンは狼型の中級魔物だ。中級の魔物は倒すのには熟練の騎士複数名以上であたるとされている。

 ウルフザンは一匹だと中級とはいえ問題ない。少し脅してやれば逃げていくし、近くに棲みかの森があれば無闇に手を出さずにそちらに追い込むのが基本だ。

 本来は十匹程度の群れで行動する魔物だが、群れで人里の村に現れたとしても、村の周囲で大量のかがり火を焚けば村まで入ってきたりはしない。これだけなら下級の魔物に加えてもいいくらいだ。

 そんなウルフザンが中級に格付けされているのは、一つの厄介な特徴のせいである。彼らは一撃で首を落とすか、体を完全に消失させるかしないと、切り口から分裂するのだ。そして一度大量に分裂させてしまうと、群れ同士の喧嘩で傷付けあって分裂もするので手に負えなくなってしまう。こうなると森からあぶれたウルフザンは人里を襲う。

 ウルフザンが森から出てきた場合は、速やかにかがり火で追い返して、その増殖が危険なレベルなのであれば、完全な駆除が可能な実力を備えた騎士団で駆除すべきだが、今回は領主が勝手に私兵を出した。そこで下手に分裂させた上に、その失態を隠そうとして泥沼にはまった形だ。


「総数は良くて500匹、最悪なら2000匹だ。非番の者も含めて第二団全員で向かう。ただ、ハナノは連れて行かないんだ。君には申し訳ないんだが、まずは本人にそれを伝えて準備だけでも一緒にしてあげて欲しい」

「フジノは?」

「連れて行く。むしろ必要だね」

「そうですか」

 フジノを連れていくと聞いて、サーバルの顔が曇った。ハナノは落ち込むだろうな、と思ったからだ。


「今回は異例の早さで貴族会議も騎士団の派遣を決定して、昨夜からすでに発生地近くに駐屯していた二つの団も動いている。15年前の大発生に匹敵するレベルなんだ。ハナノは連れて行くわけにはいかないよ」

「そんなに深刻なんですね……」

 

 ウルフザンは15年前にも大量発生している。当事サーバルはまだ10才で騎士ではなかったが、その収拾を固唾を飲んで見守っていた。

 南部で起こったそれは七つの村と町を壊滅させ、主要都市にまでその群れが迫ったのだ。このまま事態が悪化すれば帝国中にウルフザンが溢れるのでは、と最悪の事態まで想像させるような様相だった。それを決着させたのは帝国騎士団第一団長だ。

 普段現場に行くのを頑として拒む第一団長を、当時の皇室が拝み倒して引っ張りだしたというのは有名な話だ。そして第一団長によって南部の一番大きなウルフザンの群れが殲滅され、残党は他の騎士達がきっちりと始末し、事態は何とか収拾した。


「今回は、アレクセイ団長の魔法頼みという訳ですね」

「そうだね。こういう大量の雑魚の掃除は僕が適任だよ。しかも無人、やりやすいね。陛下からは最悪村と森を消失させてもいい許可は取ってある。出来たらそれは避けたいから。サーバル達には頑張ってもらいたいんだ」

「分かりました」

「まあ、今回は僕の活躍ないかもなんだけど」

「はい?」

 アレクセイの活躍なしに大量のウルフザンの討伐は不可能だ。サーバルの声が裏返る。

「気にしないでー」

「はあ」

 

「あとさ、ついでに言っておくけど、ハナノに関しては訓練期間が終わるまでは、どんな小さな魔物討伐にも参加させないつもりではあるよ」

 付け足されたアレクセイの言葉にサーバルは驚く。


「えっ、どうしてですか?」

「僕がまだハナノの実力を掴みきれてないから」

「……確かに、他の騎士達と比べると実力は劣りますが、悪くはない子ですよ。帝都の精霊の森くらいなら問題ないと思います。何なら私が面倒をみます」

 この一ヶ月、ハナノは基本的にはサーバルの班で共に行動していたので、サーバルはハナノが意外にしっかり考えて動いている事も、状況判断が的確である事も知っている。騎士の仕事にも前向きで、何でも学んで成長しようとする意欲が大きい。中でも騎士の花形任務、魔物の討伐に関してはかなりの熱意を持っている。

 サーバルはハナノに出来るだけいろんな経験をさせてやりたかった。

 

「それはダメ。僕はハナノだけじゃなくて、君や他の団員達の事も心配だからね。訓練期間中、魔物討伐に同行させない事は折りを見て、僕からハナノに話すよ」

 アレクセイがそう言って話は終わり、サーバルはハナノを迎えに来たのだった。


(私の身も心配? どういう事だ。ハナノを気にして私がやられる事を言ってるんだろうか?)

 でも、ハナノは自分で判断して動けるし、魔物の事もしっかり勉強している。低級で単独の魔物相手なら危険はないと思われる。

 他の見習い騎士達も討伐に少しずつ参加してるだろうし、魔物討伐は場数を踏むしかないのに、全ての討伐任務から外すのは可哀想だ。おまけにハナノは周囲に対して自分の実力が劣っている事を気にしている。それなら成長の機会はたくさん与えてあげるべきだと思う。


 サーバルはハナノと共に中庭に向かう道中、イライラしながら歩いた。歩く速度がどんどん早くなる。


(くそっ、とにかく私の実力不足ってことだよな。団長は私にはハナノを任せられないと判断したのだから)

 サーバルは心の中で自分への悪態をついた。



***


 ハナノは、苛立つサーバルの隣を歩きながら、サーバルは今回の討伐の大変さを考えて気が立っているのだと思い、役に立てない自分が悔しかった。



2人が中庭に着くと、そこは魔法の光で明るく照らされ、既に半数以上の団員が揃っていた。皆せわしなく出立の準備をしている。

ハナノはサーバルと共に、食糧やテントの数の確認や積み込みを手伝う。


「ハナノ!留守番らしいな」

 ファシオがハナノに気付いて大きく声をかけてくる。

 今はこれくらいずばっと、カラッと言ってくれるのがありがたい。


「はい!寂しくなります!」

「ふはは、1人でも、訓練しとくんだぞ、お前、弱っちいからな」

「精進します」

 ファシオの他にも気安い騎士達が、いろいろと声をかけてきた。

「お土産買ってきてやるからな」

「寂しくても、飯は食えよ」

 ハナノは全てに明るい笑顔で応えた。


「ハナ」

 しばらくするとフジノもやって来た。

「フジは皆と一緒に行くんだよね」

 ハナノはもっと明るく言うつもりだったのに、出てきた声はずいぶんしょんぼりしてしまっていた。

「うん」

 フジノが申し訳なさそうに頷く。

「気を付けてね」

「うん、僕は大丈夫。ねえ、ハナ」

「なに?」

「僕としては、ハナがこっちに残る方が安全だから安心だよ。僕の事は心配しなくていいからね。ハナの為にもっと強くなってくるから」


「ふふ、もう十分強いよ」

「まあね、でももっと強くなるから」

 フジノは柔らかく笑うと、自分の持ち場に戻っていった。ハナノは、留守番だけれども実のある留守番になるよう努力しようと思いながら準備を手伝った。


 


 



お読みいただきありがとうございます!


アクセス解析の話ごとのユニーク数を見て、検索除外にも関わらず更新を追ってくれている方がいるのでは……と気づきこちらを書いています。

更新が不定期で申し訳ないです。連載とは違って改稿のため、毎日更新するぞ!みたいな勢いはなく、ボチボチになっております。

結局ほとんどの話を削除して再投稿の形を取っているので、検索除外を外して週に一回、金曜日の夕方に一週間の改稿分をまとめて投稿しようかな、と思っています。

チェックされている方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いします。


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