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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第一章

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26/112

26.第二団の見習い騎士(5)


「ねえローラ、毎朝訓練棟まで走らない?」

見習い騎士生活十日目の頃。

 絶対に成し遂げなければならない目標だった帝国騎士団に入団して、その説明会で仲良くなれたと思ったら、配属先が同じ帝都で寮の部屋まで一緒になった人生初の友人がそう提案して、ローラは呆れた。


「これ以上早く着いてどうするのよ」

 友人のハナノはそもそもの起床時間が早いので、それに合わせたローラもハナノと共にほぼ食堂の営業開始時間から朝食を食べ、見習い騎士の訓練を行う訓練棟に向かう。集合する大教室に着くと、部屋にいるのはほんの数人で、他の同期と教官が来るまで予習をしたりしているのだ。

 今以上に早く着く意味はない。


「早く行く為じゃなくて、基礎体力作りのために。私、走り込みビリだし」

「あー、うん。そっか」

 

(気にしてたのね)

 ハナノは訓練最初に必ずある走り込みではいつもビリだ。

 ただビリとはいえ、進行を妨げるほどの遅れはないし、毎回上位者から「ハナノー、がんばれ」「きっと昨日より早いぞー!」と温かい声援が飛ぶ明るいビリなので気にしていないのかと思っていたのだが、そんな事はなかったようだ。


「ダメかな? もし嫌なら一人で走っていこうかなって」

「いいに決まってるでしょ。ただし、ジョギングね」

 ローラの返事にハナノは、ほわっと笑う。

「ありがとう、付き合わせてごめんね」

「いいのよ。謝ってんじゃないわよ、友達でしょ」

「えへへ、はーい」

 そうしてハナノと毎朝走って訓練棟に行くことになった。


 そんな成り行きで毎朝、友人と共に早朝より起きて朝食を食べ、軽く走るという習慣が出来たこの訓練期間も三週間になろうとしている。


 友人のハナノは相変わらず走り込みはビリで、筋力トレーニングの成果も芳しくはないが前向きに取り組んでいる。でも座学については、科目によっては優秀で、特に魔物の知識については教官も舌を巻くレベルだ。双子の兄のフジノもそうなのでその影に隠れ勝ちだが、ローラは密かにこれについてはハナノの方が上ではと思っている。

帝国の地理や歴史になると月並みだ、フジノは地理と歴史にもやたら詳しいのにこの差は何だろう、とそこは疑問だ。


 城や夜会でのマナーになると、ハナノとフジノはどちらもそこそこの出来で、実家で恥ずかしくないようにと最低限の事を学んだらしい。


 最初は明らかに実力に見合わない第二団への配属に、胡散臭げな様子でハナノを遠巻きにしていた同期達は、少しずつハナノを見直してその素直な人柄に触れ、今ではすっかり“皆の妹”みたいな扱いになっている。

 

 ローラにもその気持ちは分かる。自分も含めて騎士団の女騎士はどうしても“素敵なお姉様”系が多い。可愛いは貴重なのだ。女子寮での先輩達にもハナノは「可愛い!」と大人気だ。

 ハナノと同じ第二団だという先輩女騎士サーバルは「私だって、背丈ならハナノと同じだぞ」と言っていたが、サーバルは筋肉質な性質で体格が全然違う。先輩方は「サーバルはちょっとねえ」「固そうだもん」「ハナノに張り合えるのはもうミドリさんだけよね」と口々に言っていた。

 

 因みにミドリ、とは第一団の副団長をしている女騎士だ。現在は長期の遠征中でローラはまだ会った事はないが、黒髪の小柄な女らしい。ハナノは自分と同じくらい小柄と聞いてとても会いたがっていた。先輩方によるとミドリはバチバチに強いようで、会った事もないのにハナノは既にミドリに憧れている。


 ローラが少し心配していた、配属先の第二団でもハナノは上手く溶け込めているようで安心した(マスコット的な扱いではあるらしく、ハナノ本人は不満のようだが)。

 ローラ自身も配属された第三団には、長兄や次兄の知り合いがいて気にかけてくれるので問題なく溶け込めている。

 問題があるのはハナノの兄であるフジノだろう。

 その不遜な態度で、同期の中では明らかに浮いているし、ハナノが言うには第二団でも先輩からの受けは悪いらしい。フジノは魔法の補習があるので第二団に顔を出す事はまだ少ないらしいが、既に感じが悪いのだろう。


(そりゃ、そうよねえ)

 ローラは今、せっせとハナノに帝国の地理について解説している兄フジノをちらりと見る。


 妹のハナノには周囲が引くくらいの重たい愛と甘さを注ぐフジノだが、その他に対しては基本無視だ。感じが悪いなら悪いなりに反応があるならまた違うのだろうけれども、同期が話しかけてきてもフジノは良くて「ふーん」で、通常は黙殺。ハナノが慌てて取りなしているが、ほとんどの同期はフジノに関わるのを止めだした。


(まずいんじゃない?)

 とローラは思う。騎士団という集団に属するなら、ある程度周囲と関係を築くべきだ。それにローラはハナノとの関係上、フジノともそれなりに喋るから分かるのだが、フジノのあの態度は子供っぽいだけなのだ。

 何というか、知識と実力だけある小さな子供みたいだ。しかも妹への執着を見るに色々拗らせている。


(ご両親に愛されなかった、とかでも無さそうだけど、何でこんなにややこしくなってるのかしら)

 ハナノから実家の話を聞く限りでは、家族関係に問題はなさそうだ。


(まるで、小さい時のお茶会での私なのよね)

 全身に棘をまとったようなフジノの様子は、ローラに昔の自分を思い出させた。


 騎士の名門の家に生まれ、自らも望んで騎士を目指していたローラは昔、常に余裕がなく、茶会等で会う同い年の令嬢達を見下してずっとツンツンしていた。彼女達だってローラとは違う努力や志があったに違いないのに勝手に下に見て虚勢を張っていたのだ。

そうしてある日、総スカンを食らう事になる。茶会で見下していた令嬢達に無視され、冷笑されたローラはしかしプライドが邪魔して泣く事も出来なかった。

 完全に心が折れたローラには騎士の道しか無くなる。そこからは無我夢中で入団試験の為に研鑽した。無事に入団して暗くて硬い戒めが解け、余裕の出来たローラが説明会で運命的に出会ったのがハナノだった。物怖じしない明るい性格に、あっという間に好きになり、ハナノもローラを好いてくれた。


そこからは今までが嘘みたいに、上手くいった。帝都駐屯の同期の内、女騎士はローラとハナノを含めて四名で、他の二名とはハナノを通じてすぐに打ち解ける。寮では同期と共に先輩達に可愛がられ、自分でもびっくりするくらい甘えさせてもらっている。


(騎士団で同性と上手くいったのは、ハナノのお陰でもあるし、放っておけないのよね)

フジノが剣呑なのはローラとは違う理由なのだろうが、孤立している様子が昔の自分に重なる。

 ふう、とローラは息を吐き、今日もちゃんとフジノに絡む。


「ねえ、フジノ。ハナに構いすぎよ。気持ち悪いわよ」

「兄なんだから、妹に構うのは当然だろ」

 ローラに慣れてきたフジノはローラの事は無視したりしない。要は慣れるとそれなりにコミュニケーションが取れるのだ。


「ハナにはもう私が居るんだから心配ないわよ。妹離れしなさいよ」

「僕は一生、ハナノから離れるつもりはないね」

 本日も真っ直ぐきっぱりシスコンぶりを晒しているフジノ。周囲の同期達が「うわあ」と引いている。引きながらもちょっとだけ面白そうにフジノを見ている。もう、同期とはこういう所から受け入れてもらうしかないんじゃないだろうか、とローラは思う。


「うへえ」

 ハナノもフジノの言葉に悲鳴をあげている。


「あなた、手がかかるわねえ」

ローラは呆れてそう言った。

 

 

 


 

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