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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第一章

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25/110

25.第二団の見習い騎士(4)


上位四団はエリート騎士の集まり、と聞いていたので、平凡でちんちくりんな自分は第二騎士団で冷たくされるのでは、とハナノは心配していたのだが、入ってみるとそんな事は全然なかった。


「お、ハナノ! 団長と同伴じゃん」

「ほんとだ、うちのナンバーワンだぜ、高くつくぜえ」

 本日もアレクセイと共に詰所に顔を出したハナノを先輩達は明るく気さくに迎えてくれる。その迎え方は地元の警邏隊のおっちゃん達のノリと大差ない。地元の警邏隊と違って、帝国騎士団の第二団ともなると名だたる貴族の次男三男四男五男が多いはずなのに話題は結構下世話だ。男所帯なんてどこも似たものなのだろうか。


 因みにこの詰所。帝都駐屯の八つの騎士団の内、皇室直属の第一から第四までは本部にのみ詰所があるが、それ以外の第五から第八の団は帝都をエリアごとに受け持っていて、街中にも大きな詰所があり、そちらでの活動がメインとなっている。

 

「そういうの止めてください。アレクセイ団長が汚れます。それにうちの団長に値段なんてつけられません」

 きっぱりと反論しておくハナノ。

 なぜ、天使みたいな団長が統べてるのに、団員は下世話なのだろう。解せない。


「団員ぉ、愛されてますね!」

「サーシャより愛が深いかもなあ」

「ハナノ、頑張れよ! うちの団長を落とすのは大変だぞ!」

 という感じでハナノは第二団にも馴染んできている。

 サーシャが言っていたように、新人らしい新人は珍しく、そういう、ザ・後輩に飢えていた騎士達はハナノを歓迎してくれて、何くれと親切だ。

何だかマスコット的な扱いをされてるようで、それは不本意ではあるが、しょうがない。実力をつけて、良い意味で見返してやるしかない。


(見てろよ!)

 ハナノは今日も、見返す決意を新たに密かに闘志を燃やした。


 本日の第二団での活動は帝都の巡回だ。

「ハナノはサーバル班ね」

 アレクセイの指示に従い、ハナノはすっかり慣れた赤毛のつんつんショートカットの女騎士の元へと向かう。

「サーバルさん、今日もこちらです。よろしくお願いします」

「おー、よろしくな」

 にかっと笑うサーバル。


「よっ、ハナノ」

 サーバルの横のサーバル班の騎士が嬉しそうにハナノを迎えた。この騎士はサーバルに腰巾着みたいに付いて回っている騎士でトルドという。軽薄そうな感じの男だが、悪い人ではないし、面倒見もいい。そんなトルドは第二団の騎士達の中でも特にハナノの入団を喜んだ騎士だ。

 

「俺、7年目にしてやっと後輩らしい後輩ができて嬉しいよ。年下、格下、元気、可愛げ、これだよなあ」

 今日も、帝都巡回の準備をしながらトルドはしみじみと言う。

「はい、ありがとうございます! 第二団は7年も新人が来なかったんですか?」

 

「いや、少ないけど来てたよ。来てたけど、あんなの後輩じゃなかった。俺さあ、14才で入団して第二団だったんだけど、初めての後輩は次の年に入ってきたカノンで、そこから三年空いて入ってきた後輩はサーシャさん。もう、どっちもぜんっぜん可愛い後輩ではなかったからな。サーシャさんなんて、初対面からサーシャ“さん”って呼ぶしかなかったしな。去年は新人なしで今年がやっとハナノ。やっと会えたよー、俺の後輩」

 トルドがそう言い、ハナノはハナノの前の新人がサーシャであることに驚く。

(サーシャさんって、あのサーシャさんかな? 

副団長の? え、あの人、入団二年で副団長になったの)


「カノンは可愛かったと思うぞ」

 ここでサーバルが口を出してきた。

「年下なのに、顔も実力も爵位も上の奴なんて可愛くも何ともないですー」

 トルドが口を尖らせて返す。


「爵位? カノンってそうなのか? いいとこの家門か?」

 トルドの言葉にサーバルが少し慌てた。

「サーバルさん、ほんとそういうの全然ですね。カノンはヤンバス侯爵家の次男ですよ」

「侯爵!? うっそ、マジで!」

「マジです」

「えー、マジかあ……うわあ、どうしよう、私何かしてないか? 大丈夫か?」

「今、カノンから何もないなら、大丈夫ですよ。それにあいつは爵位なんて嵩にきない、マジ出来た奴っすよ。俺は人間的にも負けてるんですよ」

「トルド、お前のそういう負けを素直に認めれるとこ、いい所だぞ」

「あざっす」

「しかし、カノンは侯爵家だったかあ……あ、そういえば昔、ただの風邪なのカノンに治癒で治してもらったことある。あれ、大丈夫だったかな。今思えば先輩の立場を利用していたような気もする。根に持ってないかな」

「それならファシオさんも、ささむけ治してもらってたから大丈夫ですよ」

「は? ささむけを治癒で? ファシオはアホなのか?」

「たぶん、ちょっとアホですね」

「ふふん、じゃあ、私の方が全然マシだな。な、ハナノ」

「ええっ、はい! たぶん」

 突然話を振られて、ハナノは適当に返事をしてから疑問を口にした。

 

「あの、治癒って言ってたと思うんですけど、カノンさんという方は治癒魔法が使えるんですか?」

 治癒魔法は特性がないと使えない。使い手は貴重な存在だ。

 

「ああ、そうだよ。宮廷の治癒魔法使い並らししいぜ。骨折くらいなら簡単に治せる」

「ええ、すごい」

「まあそれで第四団に取られたんですけどね。」

 トルドが悔しそうだ。

 魔法使いの中でも治癒魔法の特性を持つ者は少ない。たとえかすり傷を治せる程度であっても、治癒魔法の特性があれば、魔力の量に関係なく国の補助で魔法学校に入れたりもするくらい貴重だ。騎士団では治癒魔法が使える者は重用され、各団にバランス良く配属されている

 

「しょうがないな、うちは他にも治癒使える奴いるし、アレクセイ団長も少し使える。第四団のラッシュ団長は魔法は全然だし、バランス考えたらそうなるだろ」

「そうですけどねー」

「ええっ、アレクセイ団長、治癒魔法も使えるんですか!?」

「おう、使えるぞ」

「ほえぇ、すごい」

 あのかわいい団長はどこまで凄いのか。ハナノは目を丸くした。

「最年少騎士団長だもんな」

「そうっすね。あそこまで凄いと家柄のせいだと僻む奴も出ませんね」

「かわいいですしね!」

「だなあ、サーバルさんよりは確実に可愛い」

「あん?」

「なんでもないでーす。おい、ハナノ、話題変えろ」

「え? 話題ですか? あー、じゃあ、もうひとつ、聞いてもいいですか?さっき出てきた後輩のサーシャさんって副団長のサーシャさんですか?」

 トルドの振りにハナノはさっと応える。こちらも気になっていた事柄だ。


「そうだよ」

「じゃあサーシャさんって入団2年で副団長になったんですか?」

 すごいな、水色眼鏡。

「いや、サーシャさんは、そもそも空いた副団長枠で入ってきたんだ」

「つまり、初日から副団長……」

 ますますすごいな、水色眼鏡。


「サーシャはちょっと特殊なんだよ。来た時は20才で受験可能な年齢は越えてたから入団試験も受けてない。アレクセイ団長がどこからか引っ張ってきたんだ」

「へえぇ」

「あの時は、最初はさすがに抵抗あったけど、それもすぐになくなりましたねえ」

「まあ、あれはなあ」

 サーバルとトルドは何かを思い出すようになる。

「? 何かあったんですか?」

「何かっていうか……とにかくサーシャは特殊なんだ。機会があれば分かるよ」

「ふーん、分かりました」

「さ、そろそろ行くぞ。帝都の巡回」

 お喋りは終わりとばかりにサーバルが伸びをする。ハナノは「はい!」と元気よく応えた。



***

 

 本日、ハナノが行う帝都の巡回は帝都に駐屯している騎士団に順番で回ってくる仕事の1つだ。

 巡回は街班と森班に別れていて、騎士団として重きを置いているのは森班、森の巡回である。


 森、とは帝都の北側に広がる精霊の森を指す。精霊の森は、文字通り精霊の住んでいる森で帝国内に複数存在する。最大のものは帝国の南の端に広がる“南端の精霊の森”で小さな国ぐらいの規模があり、その最深部にはエルフ達が暮らしていると言われている。

 精霊の森の近くは気候が温暖で土壌も豊かだ。その為、帝国内の大きな都市はほとんどが精霊の森に近接して築かれていた。

 そして精霊の森には精霊もいるが、魔物も通常の森よりずっと多く生息している。無闇に森から出てくる訳ではないが、はぐれたり迷ったりした個体が人里までやって来て人を襲う事もある。

 また、精霊の森は基本的には一般人は立ち入り禁止なのだが、森の浅い部分ならと山菜やキノコを求めて入る者は少なからず居て、森の恵みを生活の足しにしている事もあり、厳しい取り締まりはしていない。


 その為、名だたる精霊の森近くには必ず騎士団の駐屯地があり、騎士達は日々森の入り口や浅い部分の巡回を行っている。帝都が接する精霊の森はそこそこの規模で、帝都に暮らす民は多いので、大切な仕事の一つだ。


 今日は、ハナノが体験する初めての帝都の巡回で、人生で初めての精霊の森に行くのかも……と少しわくわくしていたのだが、入団二週間の実戦経験なしの新人にまだ森は早い、との事で、ハナノは森ではなく、文字通りの帝都の巡回を行う街班となった。


「なんか、すみません。私が居るばっかりに森じゃない方で」

 自分のせいで、サーバル班が森から外されたと思うとハナノは申し訳なかった。帝都の巡回の花形は森班なのだ。比重も森班8つに対して街班は2つ。街班なんて、騎士団は今日も働いてますよ、みたいなアピール目的のものなのだ。


「気にすんなよ。ただの順番だからな」

 サーバルが言う。

「そうだよ。ハナノ、後でジェラート食べようぜ。俺、奢ってやるよ」

「えっ、そんなお気遣いなんていいですよ。トルドさん」

「いいんだよ。そういうの、したかったんだあ」

 にっこり笑うトルド。

 軽薄で腰巾着だけど、いい人だ。


「トルド、買うのはいいけど、最後にしろよ」

「もちろん、そうしますよ。だからサーバルさん、最後がメインの通りになるようにコース組みましょうね」

 

 サーバル班はその日、帝都の巡回で昼間からの酔っぱらいの喧嘩の仲裁1件と、道案内を8件を行った。トルドによると道案内は、街班の一番主な仕事で8件は少ない方らしい。

 道案内で全く役に立てなかったハナノは、見習い期間中の外出制限がなくなったら、休日に帝都を歩いて道を覚えようと思った。ローラがきっと詳しいだろうから案内をお願いしよう。

 

 巡回終わりには、トルドが言っていた通りにジェラートを買ってくれて、本部に帰ってからフジノに話すと、すごく羨ましがられた。

 

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