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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第一章

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12. 説明会(1)


合格の報せの二日後、ハナノとフジノは騎士団本部の中にある訓練棟のホールでの説明会に来ていた。集まっているのは、今回合格した新人の騎士約150名だ。ホールには簡易の長机と椅子が並べられ、席にはあらかじめ書類が置かれおり、ハナノとフジノは後方の端に腰かけた。

 

 着席するとすぐに、結構な量の視線が二人に向けられる。

 

「ほら、あの双子の男の方」「試験の時の炎の竜巻、あいつらしいぜ」「マジかよ」「今回、トップじゃね」

 ひそひそとフジノに対する囁きが広がっていく。ハナノはこちらを振り返ってフジノを見る人達の邪魔にならないように身を小さくした。地元で神童だった双子の兄はいつも注目を浴びていたので、見られるのは慣れっこだが視線の数が圧倒的に多くてちょっと緊張してしまう。


 フジノは大丈夫だろうか、と隣を窺うと全くの平静だった。ちょっと呆れるくらいに平静だ。

「フジって、図太いねえ」

「こういうのよくあったじゃん、慣れてるだろ」

「いや、実家の時より全然人が多いよ」

「そう? まあ僕は経験豊富だしね」

「よく言うよー、ずっと一緒だったよ? こんな沢山の人に見られる経験なんてなかったよ」

「人数なんて、何人でも変わらないよ」

「うへえ、だから図太いよ」

「天才だしね」

「はいはい」

「僕はハナだけ見てればいい。ハナも僕だけ見てて」

「うへえ……」

 なんてやり取りをしていると、前の方から明るくのんびりした声が響いた。

 

「はーい。新人騎士の皆さん、聞いてくださーい」

 ざわざわしているホールが静かになる。ホールの一番前には、水色の髪の眼鏡の騎士が立っていた。髪色が水色なのは珍しい、細身で穏和そうな雰囲気の騎士だ。


(新人騎士の皆さん……いい響き)

 ハナノはうっとりする。何といってもハナノはその新人騎士の一人なのだ。


「まずは、入団おめでとうございます。私は第二騎士団で副団長を拝命しているサーシャといいます」

 水色の髪の騎士が名乗る。


(副団長かあ)

 ハナノは感心してサーシャを眺めた。細身で眼鏡、穏和な雰囲気なのに副団長という事はきっと強いのだ。見た目じゃないんだな、とハナノは思う。


「今日、皆さんには書類の手続きと騎士服の採寸に来てもらっています。机の上の書類を埋めてくださいね。

 そして採寸。皆さんに用意する騎士服は既製服の袖丈と裾丈を調整することになります。サイズの確認と、腕と足の長さを測ってください。ちなみに騎士服は役がつくとオーダーメイドになります。副団長である私はオーダーメイドなんですよー。オーダーメイドは動きやすさが違います。皆さんもいつかはオーダーメイドになるよう是非励んでください」

 ここでサーシャが言葉を切る。何人かの熱い新人が「はい!」と元気よく返事をした。

 ハナノは自分が役付きになるなんて滅相もないのでここは沈黙だ。隣のフジノをちらりと見ると冷めた目付きで前を見ていた。

 

「丈調整した騎士服は来週の任命式までにお届けします。任命式の詳細はお手元の紙にも書いてあるので読んでおいてくださいね。任命式後の皆さんの身分は、騎士見習いとなります。半年間の訓練終了後に正式な、騎士となりますので、まずは半年間がんばりましょうね」

 サーシャはそう言ってにっこりした。


「では、入団手続きの書類の記入をしてください。終わった方から採寸に移ります。男性は廊下に出て、並んでる部屋のすいてる所へ。女性は人数が少ないので、ホール後ろの小部屋で採寸してください。分かったら返事くださーい」


「「「はい!」」」

 約150名の夢と希望と使命感に膨らんだ声がホールに響く。ハナノも元気よく返事をした。


 「良い返事ですね。私はずっとここにいるので、不明なことがあれば聞いてください」

 サーシャがそう言って、新人達が手元の書類を探る音がしだす。


 

「ねえ、フジ。配属っていつ分かるんだろ?」

 書類を書きながら、ハナノはフジノに聞いた。

 

「ハナ、ちゃんと読んで。最初の“ご案内”に来週の任命式の後、配属が発表って書いてあるよ」

「あ、ほんとだ。えっ、各団の責任者と共にそのまま配属先に行くって書いてあるよ。てことは、帝都の騎士団以外は荷物を全部持って任命式に出なきゃダメなんだね」


「ハナ、だからちゃんと読んで。帝都の騎士団の場合もそのまま寮へ入寮するから、どちらにしろ荷物は全部持って出席だよ。見習い中は帝都に家があっても寮暮らしだって。自分の荷物にはちゃんと名札をつけておけって書いてある。名札もあるよ」

「名札? あー、この革のぴらぴらだね」

「そう、失くさないでね。預かっておこうか?」


「子供じゃないんだから大丈夫だよ……でも、そっかあ、任命式後すぐの配属かあ、じゃあフジとは任命式の後、しばらくお別れだね」

「は? なんで?」

「なんでって、フジはきっと帝都の騎士団だよ。成績上位者は帝都だってフリオ兄さん言ってたじゃん。私はそんな訳ないからきっと離ればなれだよ」

「そうかなあ」

「うん。さすがにちょっと寂しいなあ。……あ、せめて、フリオ兄さんと同じとこに配属されないかな。そういえば、配属希望書く欄あったね。あれ? フリオ兄さんって第何団に居たっけ?」

「うーん、十八団か十九団だったかな? でも、兄と一緒にしてくださいって書くのはどうかと思うな」

 フジノが真面目な顔で諭してくる。

 そう言われて、ハナノは確かにそうだな、と思った。己の剣と実力だけで、帝国のために戦う騎士が兄と一緒の団がいいです、は全然かっこよくない。全然凛々しくない。


「……確かに、遊びじゃないもんね。よし、ここは、希望は特にありません、だね」

「そうだね。それがいいと思う」

「ありがとう」

「どういたしまして」

 フジノがにっこりする。


 そんな調子で話し合いながら書類を書いていると、結構時間がかかってしまった。ハナノが書類を提出して、採寸のためにホールの後ろの小部屋へと向かう頃には人影はまばらで、ハナノは採寸部屋で採寸を待つ新人女騎士達の最後尾にと並んだ。

 








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フジノ、おま言う(^o^;;
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