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姫騎士のタクト!  作者: コーラス
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第3話 初めての行軍

【統一暦195年6月 エンダルシア平原 甲斐拓斗】

 

 夕焼けに赤く染まる平原では、カルディナロート騎士団の兵士たちが忙しく戦後処理に動き回っていた。死んだ仲間は丁重に埋葬し、近隣の教会から僧侶を連れてきて祈りをささげる。死んだ敵は、使えそうな武具や弓矢を死体から取り外して、一つの大穴に放りこんで埋葬する。トレドという老騎士によると、死体をそのままにすると疫病の原因になるし、戦続きで武具の値段も上がっているから使えるものは持って帰るのだそうだ。

「タクト、あとはトレドに任せて私たちは先に砦に戻りましょう。」

 夕日を背に真紅の騎士クレアがタクトとトレドのそばに歩み寄ってきた。

「わかった。砦はここからどのくらいなんだ?」

「ここから馬を飛ばせば1日、徒歩だと3日といったところかしら。」

 舗装されていない道を徒歩で3日、現代人日本人には厳しい距離だろう。

「……まずは馬の練習をしないとな」

「ふふ、そうね。砦の馬番に話をして練習するといいわ」

 凛々しい顔立ちのクレアがクスっと笑った。

「おおそうじゃ、おぬし、妙な筒の武器しか持っておらぬのだろう?せめて護身用にこれを持っていくといい」

 拓斗がクレアの笑顔に見惚れていると、トレドがすっと短刀を手渡してきた。

 手に持つと、予想以上にずっしりとした重さを感じた。包丁とは違う、戦いの道具だと思った。

「これは……あの刺客の短刀じゃないか」

「左様。捕虜から武器を取り上げたのでな。武芸の心得のないお前さんでも扱えそうな武器はそれくらいじゃの。まあ、この地方も野盗や貴族同士の小競り合いが増えてきた。砦に帰ったら儂が武芸の稽古もつけてやろう」

「はは……やることがいっぱいだな」

 どれだけ現代日本が平和で恵まれた社会だったかを実感した。ここはある意味弱肉強食の世界だ。

「さあ、行きましょう。まずは、日没までに街道の宿場街まで進むわよ」

 クレアが騎乗し、後ろに50名ほどの兵士が徒歩で付き従う。拓斗もその兵士の端に並んで歩き始めた。



【統一暦195年6月 カルディナロート騎士団砦 甲斐拓斗】


 エンダルシア平原を出発して3日。一行はエンダルシア平原北部の山岳地帯にあるカルディナロート騎士団の根拠地に到着した。

 平原を抜けるまでは足元が悪く、拓斗は兵士たちについていくので精一杯だったが、街道に入ると、整備された地面になり大分楽に歩けるようになった。

 日没を迎え、完全に夜になったころ、ようやく宿場町に到着し、タクトはやっとベッドで眠れると安堵の表情を見せたが、古株の兵士に首根っこを掴まれ、

「野営の準備をするから、薪を拾ってこい」

と命令されてしまった。どうやら、宿屋に宿泊できるのは、指揮官クラスのみで一般兵は宿場町の外で野営になるそうだ。クレアは宿場町の代表に挨拶をした後、教会に泊まるとかですでに姿はなかった。

 拓斗は宿場町周辺の林に入り、乾燥してそうな木の枝を拾い集めて両手に抱えて野営に戻った。

「おう、新入り戻ったな。別のやつらが町に火と野菜を調達しにいってるから少し待ってろ」

 グラハムと名乗った古参兵が50人近い兵士にテキパキと指示を出して動かしていた。どことなく軍曹という言葉が似合いそうな男だった。

 30分ほど経ち、若い兵士3名がランタンと麻袋いっぱいに野菜を抱え戻ってきた。

「さあ、飯の準備をするぞ!」

 グラハムがそういうと、兵士たちは現代でもキャンプで使用するようなトライポッドのようなものを複数組み立てはじめた。拓斗がグラハムに言い渡されたのは、キャベツや玉ねぎのようなものを細かく切ることだった。切った野菜を塩漬け肉とともに鍋に入れてそれぞれのトライポッドに掛けて、薪に火をともした。

 ふと空を見ると、現代の日本では中々見ることができない満天の星空だった。

「どうぞ」

 先ほど野菜を取りに行っていた若い兵士のうちの一人、トビーが野菜と塩漬け肉のスープの入った椀を持ってきてくれた。

「うまい……」

 思えばこっちにきてから初めて食べた食事だった。塩漬け肉の塩味が疲れた身体にしみわたっていった。食べることは生きることだと思った。

 翌朝、払暁と共に一行は街道を北へ出発した。寝袋などという便利なものもなく、昨夜は麻の布を地面に敷き薄い毛布を掛けて眠りについたため、身体中が痛んだ。

 痛む身体を引き摺って、一日中歩き続けふたつ目の宿場町に着き、前日と同様野営をし、さらにもう1日街道を進み、山岳地帯の入り口を見張る様な高台にカルディナロート騎士団の根拠地、通称「赤バラ砦」が姿を現した。

 城壁に囲まれ、中に入ると体育館ほどの大きさの煉瓦造りの3階建の建物が中央にあり、その側に兵士が寝泊まりする二階建ての兵舎や馬を飼育する厩舎、パン焼き小屋のようなものも付属している。500人から1000人は入れる様な大きさの砦だった。

 若い兵士トビーに案内され、お前の部屋だと通されたのが、兵舎2階の北側の角部屋だった。広さは四畳半ほどで、2段ベットと机が1つ置いてあるだけの質素な作りだった。

 とりあえず、拓人は一緒に異世界に飛ばされてきたリュックをベッドに置いて荷解きをした。

 先の戦闘で使った熊避けスプレー、懐中電灯、スマートフォン、歴史の概説書、着替え数点、その程度だった。

 硬いベットに身体を横たえ、

「ここで、生きていくしかないのか」

そう呟くと、初めての行軍で疲れ果てていたのか、ゆっくりと泥の様な眠りに落ちていった。


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