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姫騎士のタクト!  作者: コーラス
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第2話 出会い

【統一暦195年6月 エンダルシア平原 クレア・カルディナロート】

 

 クレア・カルディナロートは艶やかな黒髪を風になびかせ、父祖伝来の真紅の甲冑を纏い、馬上から眼前で行われている戦闘を見守っていた。

 近隣の村落から野盗の討伐依頼があり、騎士団を率いて捜索すること3日。ようやくこの平原で敵を捕捉したが、想定以上の規模の野盗の集団で気づけば乱戦になっていた。

「元傭兵の野盗のようですな。我が騎士団が手古摺るとは中々な連中のようで。」

 隣で呟くのは祖父の代から我が家に仕える老騎士トレド。もう60を超えた歳だが、未だ私の側近くで仕えてくれている。

「そうね。帝都から離れているとはいえ、東部でこれだけの規模の野盗が出没するなんて……。戦乱続きで帝国の統治能力が低下してきている証拠ね。」

 いくつもの国が覇を競っていたこの大陸を英雄エルウッド・カーンが統一してから200年。彼が打ち建てた統一帝国は建国後100年は隆盛を極めたが、50年ほど前から皇族や外戚たちの権力闘争により徐々に衰退の一途をたどってきた。ここにきて、北方の異民族の国境侵攻、天候不良による飢饉の発生、諸侯同士の領土紛争と、国内外にいくつもの問題を抱えている。それなのに、病がちな現皇帝の後継者争いで宮廷や貴族議会はそれらの問題を悉く無視している。

「いつも犠牲になるのは無辜の民か……。」

 クレアはそう吐き出さずにはいられなかった。

 カルディナロート家は代々騎士として帝国に仕え、帝国東部のエンダルシア地方の一部を領地としてカルディナロート騎士団を形成し、この地方の治安維持を担ってきた。ここエンダルシア地方は、異民族の侵入に悩まされる北方や西方と比べて比較的治安がいい土地なのだが、昨年の東部の大貴族同士の紛争で傭兵の流入と多くの難民が発生したことにより、今回のような傭兵崩れの野盗の討伐依頼が度々騎士団に舞い込むようになってきた。

「姫様、敵が崩れ始めましたぞ。私も隊を率いて掃討に向かいます。」

 トレドの声に、クレアは視線を戦場へ移すと敵が後方へ下がり始めた。老騎士は手に槍を持ち、馬を走らせ退却し始めた敵の方へ向かっていった。

「……いつまで、こんな事が続くのか。民が安心して暮らせる世はいつやってくるのか」

 クレアは空を見上げ、やるせなくそうつぶやいた。

「もらったぁ!!」

 不意に男の声がし、その方向に視線をやると、草むらからフードを被った男が矢を構えている姿が映った。

(しまった!)

 クレアは咄嗟に馬の腹を蹴り、距離を取ろうと試みたが、男が放った矢が馬の脚に刺さり、草原に投げ出されてしまった。

(くっ、身体が…)

 背中から落馬したためか、思うように起き上がることができない。その間、刺客は短刀を抜き放ち走り寄ってくる。ここで死ぬのか、そう思ったとき、不意に風が吹いた気がした。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ」

 見慣れぬ異民族のような服装をした青年が妙な金属の筒を持って自分と刺客の間に割って入ってきた。

 予期せぬ乱入者に、刺客も一瞬戸惑いを見せたがすぐさま冷静さを取り戻し、

「なんだ、小僧、お前からあの世に行くか?」

 と、短刀を青年の方に向けた。

「俺にとっちゃ既にここがあの世なのかも知れないけど、女の子が襲われてたら見逃せないんだよな……」

 青年は金属の筒を持つ手が震えていたが、それでも刺客に対峙した。意外と胆力はあるのかもしれない。

「ごちゃごちゃと!逝けやぁぁぁぁぁ!」

 刺客が青年に飛びかかった。その時、青年の持つ筒から煙のようなものが吹き出した。

「う!?があああああああああ!?」

 煙を浴びた刺客は倒れ込みのたうち回った。

「熊避けのスプレーだからしばらくつらいと思うよ」

 そう言うと青年はその場にへたり込んでしまった。

 クレアは目の前で起きた光景に戸惑いつつもゆっくりと身体を起こし、青年の方に駆け寄った。

「礼を言わねばならないな。私はクレア・カルディナロート。危ないところを助けてもらい感謝する。貴殿は?見慣れぬ服装だが、西方からやって来た商人か何か?」

「俺は甲斐拓斗。えーと、クレアさん?ここってもしかしてヨーロッパだったりする?」

「カイタクト?珍しい名前だな。そしてヨーロッパとは聞かぬ地名だな。ここは統一帝国のエンダルシア地方だ。」

 それを聞くと青年は頭を抱え、

「やっぱりか、信じたくないけどここは異世界ってやつなのか?群馬から異世界に来ちゃったのか?」

とブツブツと呟いた。

「よくわからんが、もしかして行くアテが無いのか?」

「もしかしなくてもその通りです」

「ふむ……命を救ってもらった礼だ。よかったら我が騎士団の砦に来るか?」

「このままだと野垂れ死ぬかさっきの野盗に殺されるしかないから、断る理由がないな。ぜひお願いしまます。」

 後にこの大陸の運命を大きく変える出会いであった。



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