表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫騎士のタクト!  作者: コーラス
1/3

第1話 Hello, world!

【統一暦195年6月 エンダルシア平原 甲斐拓斗】


 青い空とはるか遠くの地平線まで見渡せる草原。つい数秒前まで自分が立っていた場所とは全く違う風景に彼、甲斐拓斗は思考を停止させていた。

「えーと、ここは一体……」

 必死に記憶の糸をたぐる。そうだ、今日は大学の発掘調査で群馬の遺跡に向かっている途中、山道で土砂崩れに巻き込まれて……。

「いや、土砂に流されたって言っても、いきなりこんな北海道みたいな風景の場所って……?」

 ますます混乱して頭を抱えたその時、背後から複数の足音が聞こえてきた。

「消防か救助隊か?」

 振り返ると、まるで中世ヨーロッパのような服装をし、弓を構える男たちがいた。

「は?」

 意味が解らなかった。映画の撮影か大規模コスプレ会場に侵入してしまったのかと考えた。

「怪しいやつ!放て!」

 リーダーらしき男が言い放つと、複数の矢が飛んできて、その内の1本が足元のすぐそばの地面に突き刺さった。コスプレ道具や弓道の矢とも違う、明らかに殺傷能力のある本物の矢だった。

「っ!?うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 死が突如眼前に迫ったことで、弾かれたように逃げ出した。我に返った時にはすでに悲鳴をあげながら走っていた。後ろから先ほどの一団が矢を射かけてくる音が聞こえる。

(ヤバい、どこかに隠れないと……)

 そうは言っても見晴らしのいい草原のため、隠れる場所など皆無だった。とりあえず走り続けて敵をまくしかないと思った。

 15分ほど走っただろうか、なだらかな丘陵地帯にたどり着き、後ろを振り返ると先ほどの男たちの姿はもうなかった。全身で息をしていた。

「はあ、はあ、逃走成功か……。」

 丘の陰に身体を横たえ、休息をとった。

「一体、なんなんだここは……。」

 土砂崩れに巻き込まれて気がつけば大草原で中世ヨーロッパみたいな格好をした男たちに矢を射かけられる。冗談みたいな悪夢だが、全身から噴き出す汗と息苦しさが、これが現実だということを無情にも突き付けてくる。

「おおおおおおおおおおお!!」

 身体を横たえている丘陵地帯の下から鬨の声と、金属音が聞こえてきた。

「勘弁してくれよ、まったく……」

 恐る恐る覗き込むと、赤色の甲冑の一団と先ほどの男たちと似た服装の一団が戦闘状態になっていた。300人対300人といったところか、まるで世界史の教科書でみた中世のタペストリーに描かれている戦場そのものだった。

「ん?」

 その戦場でひときわ目を引く存在があった。赤いバラを刺繡したマントを身に着けた真紅の甲冑の騎士。恐らく、赤色甲冑の集団の指揮官であろう。だが、筋骨隆々とした感じではなく、自分より小柄、そうまるで、

「女の子…?」

 思わず、真紅の甲冑の少女に釘付けになっていた。

「ん?」

 真紅の甲冑の少女の背後、100メートルほどの草むらが動いた。動物か?と思ったが目を凝らすと、金属の反射が見えた。背後から指揮官を狙う気だ。そう気づいた瞬間、拓斗は走り出していた。誰も、拓人自身ですら気づいてはいなかったが、この大地に新しい風が吹いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ