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OVER  作者: 多趣味な金龍
第1章:若人よ

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25/25

LIMIT20:気を

 11:37 会場エリアA


「シオンさんが『既にあすっちが向かった』って言ってたけど、今からでも増援間に合いますか、ね!」

 

 市民センターのレンガタイルが貼られた壁を()()()()、燃えているテントの残骸の上を、越が通過する。


「知らんが噂に聞きゃァ、カセって野郎は豪運らしいからそれを祈っておけ」


 彼の右肩で抱えられたままのコマンドは、自慢のカウボーイハットを落っことさないよう押さえる。

 そんな2人は現在、降した(モホーク)をシオンに任せ、嘉生(カセ)チームの元に奔走している最中であった。


「確かに、他チームはまだまだ踏ん張っているようですからねっと!」

「千紗も『すぐに倒せるような【賜り者】から片付ける』って、そこら中のドローンに視界を移している」


 越がもう1度力強く跳ぶ中で、コマンドはリボルバーを取り出し、ゴム弾から44口径弾に込め直す。

 どのチームへいつ増援を送れるのか、眼を酷使しながら思索している千紗の負担を、少しでも緩和させようとする意思と共に。


「分かってると思うが、他の所に行くから時間は掛けられねェ。だがせめて、他のヤツらが来るように最後まで踏ん張るぞ」

「了解」





 同時刻 同エリア


「……ハァ……ハァ……バケモンが……!」

「そいつは心外だな。俺は()()()()人間だ」


 嘉生チームに居た1人の男の首根っこを、バイカー姿の大男が《ギチチ……》と革手袋が擦れる音と共に右手で掴む。


鎖鉄(サテツ)さん!」

「動くな、そこの熱いの。加減を間違えても責任は取れねぇんだ」


 バイカー、もとい、流者(ハンドマン)がこれ見よがしに右腕を高く掲げる。

 明日人は彼の【能力】も分からない以上、下手な真似はできなかった。


「コッ……! コッ……! カッ……!」


 ただ、そうだとして、流者(ハンドマン)は容赦しない。

 着実に右手の力は強まり、鎖鉄の気道は開いては閉じるだけ、頸動脈を流れる血液は滞り、脳に送られる酸素の量は0へと近付く。


「それ以上は止めるっス!」


 明日人が制止するも、遂に鎖鉄の手は流者(ハンドマン)の右腕から離れた。

 

「アンタ!」

「まぁ待て。言っただろう、俺は真っ当だと。ただ気絶してもらっただけだ」


 鋭い眼光で拳を燃やす明日人に、流者(ハンドマン)は血色が青くなっていないのを確認させる。

 終われば、四肢がだらんと揺れている鎖鉄を《ポイッ》と遠くへ投げ捨てる。

 その身体は投げられた勢いに反して、ゆっくりと空を飛び、地面に落ち着いた。


「ただ、最後はお前だな」


 流者(ハンドマン)がまた、背筋と後ろ足を伸ばし、両手を前に出して構える。

 

「思い通りにはさせねェっス!」


 明日人が炎で飛んで距離を詰める!

 拳のリーチが届くようになれば、先ほど捨てられた鎖鉄を巻き込まないように左フックを打ち込む!


「無駄だ」


 その言葉通り、拳が流者(ハンドマン)の手前で遅くなる!


「まだまだァ!」《ゴォォォ!》


 打撃が当たらないならと、宙に浮いたまま追加して炎を噴射!


「これは迂闊には触れられんな。だったら払おう」


 流者(ハンドマン)が両手で空間を掻き分ければ、炎を直接触れずに周囲へ散らしていく!

 しかし、それが意図せずとも曲面の壁へと移り変わり、彼の視界が絞られる!


「押し込むっス!」《ゴォォォォォォ!!!》     


 明日人は残っていた右拳を壁に押し当て、炎を再噴射!

 壁の炎をも吸収して威力が底上げされ、槍のように突き進む!


「勢い付いたな。だが、まだまだ足りんぞ」


 人は本来、鋭い物体には顔を背けるようにできている……それでも、流者(ハンドマン)は少しも瞬きしない!

 それどころか、壁の()()()()()()()()部分に意識を向け、滑らかな曲面へと戻していく!


「正直……! ここまで手応え無いと萎えるっスね!」《ゴゥッ!》


 明日人に手応えは無くとも、彼の両腕はコールタールのような粘性の高い液体に絡まれた感覚を覚えている。

 それで両拳を思うように引けないのを、噴射した炎に押されて抜け出そうとする……

 

「逃がさん」「なっ──」


 だが、これはどうだろうか!?

 彼の思惑に反し、炎を噴射すればするほど、逆に流者(ハンドマン)の間合いへと吸い込まれているのだ!


(こりゃドツボにハマったっスかね!?)《ゴォォォォォォ!!!》


 明らかにピンチに陥っていると実感すれども、炎を止めてしまえば反撃されると判断し、早まる心臓と共に勢いを強めていく……

 けれども虚しく、炎は流者(ハンドマン)の横へ逸れていくばかりであった……


「見たところ、拳からしか炎が出ないようだ」


 流者(ハンドマン)の両手と親指が、明日人の両肘へと向かわれる……


「ッツウッ!!!???」

 

 突如! 腕から全身にかけて鈍痛が走る!

 反射で腕を曲げようとするも、肘を抑えられて真っ直ぐに伸ばされる!

 

「今圧えているのは“尺沢(しゃくたく)”だ。かなり効くツボだろう?」


 明日人が「グブッ……! ギュゥッ……!」と呻く中、流者(ハンドマン)は彼の浮かんだ身体を地面へ降ろし、腕を上げさせながら両膝を着かせる。


「こうして見れば、俺と相性が悪かったな」

「そうかもしれないっスね……」


(肘は動かせない……っスけど!)


 手首から上はかろうじて動かせる! 

 両の掌を《バッ》と広げ、炎で挟み撃つ!


「だから無駄だと言ってるだろ」


 呆気無く、これもまた流者(ハンドマン)の周りへと流されて行く……


「本当……嫌になるっスね……!」

 

 一体どれほどの絶望を味わったのか、()()()()今ここで成せる術は尽きた。

 されども、脂汗が滲む顔に笑いのマスクを貼り付け、見下ろしている大男に見せ付ける。

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