LIMIT19:気を
11:35 会場エリアD
後ろ髪を4束に分けて纏めている日本人が、ベージュのカラーグラスの奥で青く光る義眼から味方の【賜り者】のバイタルをチェックする。
「ふんふんなるほどなるほど、こっちもそっちも勝敗が1つずつ決まった感じだね」
納得した様子でひとりごつ彼を、剱を含む【能力者】3人が消耗していながらも囲む。
「だったら……俺もちょっとテンポ上げようか!」
両手の指を《パチン!》と鳴らし、剱たちへ爆炎を《ドッカァン!!!!》と噴き上げる!
「危ねぇっ!」
6つの感覚をフル稼働させ、剱は側転して無傷で躱す!
他2人はどうなったのか土煙で視認できない!
「大丈夫か!?」「他人を心配するのは感心するけど、余所見は厳禁だぞ!」
《ドォン!》《ボォン!》《ボッカァン!!!!》
高密度な爆撃に、裾の焦げた部分や胴体についた泥を払う暇が無い!
ただひたすらに躱して回避して逃れる!
(こりゃぁ……! ちとやべぇな……! このままだと武士なのに山賊焼きになっちまう……!!!)
「ほらほらそれそれ! もっと熱く激しく踊ろうか!」《ボボボボドドドドッカァァン!!!!!!》
(だが背に腹は変えられねぇ! 演らなければ殺られるだけだ!)
爆撃の合間を狙い、右手の刀を鞘に納める……
(【惰剣】! 爆炎!)
左手で鞘に念を込めると、刀の装飾が別物へと成る!
鍔は尾張透かしから鉤透かしへ、蛇腹組の柄の色は黒から赤へ変化する!
「インターバルはまだだけど、そこで止まっちゃって良いのかい!?」
《ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォ!!!!!!!!》
フィンガースナップの音量に呼応するように、さっきより強く、速く、巨大な爆炎が唸りを上げる!
その勢いでいくつもの屋台に設置していた割り箸、テーブル、総重量20kgのガスボンベが吹っ飛んでいく!
「“水の段・回渦”」
剱の目と鼻の先にまで爆炎が迫り来たその際! 刀の鍔に右親指を掛けて、右足を軸に反時計回り!
同時に腰と上半身の回転速度の差を活かし、通常より幾分と早く刀を引き抜き、横切ってきた爆炎に向けて突き刺す!
《グニャリ》
しかし、彼の手に応えたのはスポンジ! 暖簾を押すが如し!
爆炎の外郭に沿うように、切先が曲がりくねってしまった!
(ちぃっ! やっぱイメージし辛いのは無理か! だが止まる訳にはいかねぇ!)
鞘に繋がる異空間へ今しがた仕舞ったばかりの黒い装飾の刀を、左手で逆手に握りながら走る!
《ボン!》
怯まずに突進してくる剱に向け、カラーグラスは爆炎を起こしながら反動で距離を取る!
「洒落くせぇっ!」
規模が小さい! 虚仮脅し! なれば、刀に沿わして軌道を上げる!
だが、そうしている間にもどんどんと引き離されていった……
「何やら対抗策を思い付いてたようだが、どうやら結果は追い付いてくれなかったようだね」
結果として、状況は僅かばかりも剱の方に好転しなかった。
そこにカラーグラスは余裕そうにして、踊るようなステップで腰に垂らしたベルトを揺らす。
「へっ! 勝手に絶望してくれるたぁ、随分と気が利くじゃねぇか! だけど俺にとっちゃぁよぉ、たかが1手潰されただけだ!」
剱は彼の煽りには動じず、刀を構える。