01. プロローグ 3
刀の握りが棟を向けたままの逆持ちだったが、この機を逃さじと、素早く相手に詰め寄る。相手も攻撃を受けるべく右足を一歩踏み出す。しかし、踏み出した足はその力に耐えられず膝ががくりと揺れて体勢も崩れてしまった。
真っ直ぐ構えた剣を横殴りするように右から左へと刀の棟で思いっきり払う。
剣の塚を握る左手は、思わず離れてしまったが、残る右手は力強く握ったまま、弾かれる勢いのままに腕と手の甲をそのまま壁に強く打ち付けた。
相手の正面が空いた。
返す刀で相手の右脇腹を打ち付ける。何かが壊れる感触。肋骨の一部が折れたはずだ。
「ぐはっ!」と、息を吐いて、苦悶しながら壁に背中をつけたまま、ずりずりと崩れ落ちていく。
勝負は決した。
ちょうどその時、もうひとつの月が昇ってきたのか、灯り取りの欄間から一筋の光が差し込んできて、崩れ落ちた相手の顔を照らした。
切れ長の目。こちらを睨んで大きく見開かれた瞳。引き結んだ綺麗な形の口元。
凜として美しく整った顔立ち。
――女だったのか?……
思わずその表情に見とれてしまってドギマギしてしまう……
そんな不埒な考えがよぎった瞬間……
唐突に足下の床が抜け落ち、ポッカリと空いた底の見えない暗闇に落ちていく……
ぼんやりしていて、階段を踏み外してしまったような感覚。はっ!として息が止まる。
目が覚めると同時に、落ちていく体を踏み留めようと足を必死に踏ん張った。踏ん張った勢いで上半身を起こして跳ね起きた。膝のところで足をくの字に曲げて突っ張っている。
何?何が起きたのか?まったく判断が追いつかず、フリーズしたようにしばらく虚無を見つめていた。
しばらくして、見慣れた自分の部屋にいることが理解できてきた。
夢?夢?そうか、夢だったんだ……。
息を大きく吐き出して、固まっていた全身の力を抜く。夢を見ながら無意識に暴れていたのか、体のあちこちが痛い。喉も痛い。魘されて大声で叫んでいたのかもしれない。
異様にリアルな夢だった。まだ息が荒く胸のあたりが苦しい。最近不思議な夢を見ることが多い気がする。しかし、今日のはまた特別不思議な感覚だった。
――かっこよかったなぁ……
そんなことをぼんやりと考える。
寝る直前まで、主人公が異世界で成り上がっていく冒険譚小説を読んでいたから、その世界に引きずられてこんな夢をみたんだろうか?たぶん、そうなんだろうなぁ……しかし、リアルすぎてちょっと疲れた。ぜんぜん眠った感じがしない。頭の奥の方にツーンとした刺すような痛みがある。
う~ん、学校行きたくないな~。
そんなことを考えながら、ベッドの上で大きく身体を伸ばして横になる。しかし、すぐに目覚ましの音が鳴り出して、二度寝はできなかった。