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お気に入り小説2

公爵令嬢との悲恋を引きずる騎士レクトス なんて女々しい男なのかしら。しっかりおせっかいして差し上げます。

作者: ユミヨシ

前のお話が、切ないとの事なので、しっかりとレクトスのその後を書きました。

ハッピーエンドが大好きなので。前のお話を読んでいないと解らないかもです。

これで良かったんだ…これで…

愛しいアルメディーナ。

君がか弱いふりをしている令嬢だって知っていたよ。

私の事をとても愛してくれていたね。

でも…私はただの騎士団員。バルト王太子殿下に望まれたら君は行く行く王妃だ。


わざと君を貶める会話をした。

わざと公爵家に乗り込んで見苦しい男を演じた。

わざと…わざと…


どうか、よい王妃になっておくれ。

私は、騎士として一生王家に仕えていくよ。

君の幸せを祈っている。愛しいアルメディーナ…愛しているよ…





レクトス・ミルフレッドは、ミルフレッド伯爵の弟で、王国の騎士団の副団長だ。

歳は25歳。


剣技に優れている彼は、出世をして、若いながらも騎士団長に認められ、副団長に去年就任した。

黒髪碧眼で、容姿は極めて普通。剣技は優れていて身体を鍛えてはいるが、大柄と言うわけでもなく、見かけは平凡な男性だった。


彼は数年前、恋愛で悲しい思いをした。

現王妃であるアルメディーナの婚約者だったのだが、彼女の為を思って、身を引いたのだ。

彼女は当時のバルト王太子殿下に婚約を望まれたから。


その時の心の傷が原因で、いまだに結婚出来ないでいた。

王国騎士団の副団長である。彼との結婚を望む令嬢は多い。


ミルフレッド伯爵家を通して、婚約の打診が来るのだが、兄に頼んで断ってもらっていた。断って貰っていたのだが…


どうしても王宮の夜会に出なければならなくなった。

今まで避けていたのだ。


バルト国王陛下直々に夜会で誕生パーティを開くので、騎士団長と副団長どもども出席するようにとの命令である。



数年前、色々とあった。

当時王太子だったバルト国王がアルメディーナとの婚約を望んだために身を引いた。

あの時は辛かった。

それに気まずくて、いかに王家に仕える騎士とはいえ、公の場の警護以外は顔を合わせたくなかったのに、命令なら行かなければならない。


行っても、大勢の貴族達が来る中で、直接話をする事はないだろう。


仕方が無いので、騎士団長と共にレクトスは出席する事にした。


黒に金糸の入った夜会服に身を包み、騎士団長と共に今宵は馬車で王宮に向かう。

ツエルド騎士団長は40歳。年季の入った筋肉モリモリの男だ。


「夜会なんて久しぶりでな。ハハハ。今宵は食べまくるぞ。」


「私も久しぶりで。何年も行っていませんでしたから。」


「そうそう、お前、今宵は覚悟した方がいいぞ。お前を狙う令嬢達が鈴なりに押し寄せてくるかもしれない。」


「えっ?そうなんですか?」


どういうことだ?俺を狙う令嬢って…


「先々の騎士団長はお前しかいないからな。騎士団長夫人。鼻が高いぞ。令嬢達がお前に群がるだろうな。」


いや、結婚なんてしたくはない。もう、恋愛はこりごりだ。


そして、王宮の夜会でとんでもない事が起こるのである。


会場に入った途端、数人の令嬢達が一斉に群がって来た。


「初めまして。貴方様がレクトス様ですのね。わたくし…」

「ちょっとどきなさいよ。わたくしの方が自己紹介が先よ。」

「何をおっしゃっているのやら。」

「貴方達こそ、邪魔よ。」


レクトスは慌てて逃げ出した。


何が起こっているんだ?


廊下へ逃げ出せば、


近衛兵が5人走り込んで来て、ガシっとレクトスは腕を掴まれ拘束された。


「私はレクトス副団長。騎士団所属のっ。何をするっ?」


有無も言わさず、引っ張られ、宮殿の奥へ連れていかれる。


奥には庭へ通じるテラスがあり、そこで待っていたのは、バルト国王陛下と、アルメディーナ王妃であった。


レクトスは何故、自分がここへ連れてこられたのか混乱する。

久しぶりに会うと言う訳でもない。遠目の警護で何度かご一緒はしているが。

近くで見るアルメディーナは相変わらず美しかった。


酷い別れ方をした。

相手を貶めた挙句見苦しい別れ方をしたのだ。


何ともいえず気まずい。

そして…胸が痛んだ。


数年前の胸の痛みが蘇る。


-どうか、よい王妃になっておくれ。

私は、騎士として一生王家に仕えていくよ。

君の幸せを祈っている。愛しいアルメディーナ…愛しているよ… ―



この言葉は言えなかった胸のうちだ。

あの時は本当に辛かった。

苦しかった。


アルメディーナ王妃は銀の髪をアップにして綺麗に巻いた髪を垂らし、銀のドレスを着て、

レクトスに近づく。


レクトスは騎士の礼を持って跪いて。


「王妃様。何用でしょう?このように私を拘束して。」


「レクトス。貴方。いい加減にしなさいよ。」


「え???」


「聞いたわ。ツエルド騎士団長から。貴方、わたくしの事を引きずってまだ独身でいたのね。」


レクトスは慌てて、


「何を言っているのですっ。騎士としてあり得ません。そのような不義な事。バルト国王陛下に失礼ではありませんか。」


バルト国王はテラスの椅子に座っていたが、立ち上がり、レクトスの前まで来て、


「俺は俺で、お前には申し訳なく思っているのだ。お前からアルメディーナを奪ってしまった。ツエルド騎士団長から聞いたぞ。騎士団長の家で酔いつぶれた時、お前、泣きながら騎士団長に話したそうだな。アルメディーナの為を思って身を引いたのだと…悲しい辛い苦しい…いまだに吹っ切れない。結婚したくない。女々しくはないのか?」


レクトスは真っ青になった。


「そ、そんな事、言ったんですかっ?どこの女々しい奴ですっ。それ。

王妃様の事を思って身を引いたのではなく、身分違いの婚約だったので、堅苦しかった事は事実でして、王妃様の事を引きずって結婚しないのではなくて、ただ、一人の方が気が楽と言うっ。」


「お黙りなさい。」


アルメディーナ王妃から睨まれる。


「貴方は優しかったわ。本当に、わたくしの事をとても大切にしてくれた。感謝しております。有難う。だから、貴方には幸せになって欲しいの。」


「王妃様…」


「だからこれは命令です。わたくしが紹介する令嬢と見合いをしなさい。いいわね。」


「承知しました。」


王妃の命には逆らえない。


バルト国王は、ニンマリ笑って、


「いつまでも我が妻に思いを寄せられても困るからな。」


レクトスはそれこそ慌てて、


「私は王家に忠誠を誓っている騎士です。絶対に有り得ませんから、失礼します。」


その場を後にする。


ツエルド騎士団長がニヤニヤしながら、待っていて。

レクトスは抗議する。


「国王陛下になんて事を。王妃様に横恋慕しているとか思われたら私は…」


「俺は国王陛下を幼い頃から知っていてな。気心も知れている。」


「だからって…」


「ま、観念して身を固めるんだな。王妃様が紹介する令嬢でも、夜会で群がってくる令嬢でも。」


この夜は地獄だった。


会場に戻れば、色々な令嬢達が声をかけて来て、

自己紹介を受け、相手をするだけでも疲れてしまった。

その上、アルメディーナ王妃が紹介する女性と見合いもしなければならない。

レクトスは眩暈を感じるのであった。



数日後、見合いが設定された。


王宮の庭にあるテラスに近衛兵に案内されて行ってみれば、誰もいない。


可愛らしい白い尖った屋根の下にある白い椅子と丸テーブル。給仕はいるが、肝心の令嬢が見当たらないのだ。

季節は春なので、春の色とりどりの花が満開である。


遠い日を思い出す。


アルメディーナは、あの時、


「ああ、春も近くて。ほら、もうすぐ花が沢山咲きますわ。」


と、嬉しそうに言ったのだ。


あの幸せな時の後、別れがくるなんて思いもしなかったから、

だからレクトスは春が大嫌いだった。


ふと、声をかけられる。


「貴方が女々しいレクトス・ミルフレッド?」


「女々しいとは失礼な。」


声のした方を見上げれば、金の髪の少女がニコニコしながら、木の上から見下ろしていた。

白い花が満開の木の枝に座っている少女は、着ている白いドレスをひらひらさせて、

履いているハイヒールは木の下に転がしてあり、


それはもう、楽しくてたまらないような表情で。


「わたくし、リリアーテ。王妹になります。隣国の留学から帰って来たのよ。」


ふわりと、木の上から飛び降りた王妹殿下は、レクトスの前に行き、その顔を見上げて、


「貴方がわたくしの婚約者になる方ね。よろしくお願い致しますわ。」


レクトスは驚いた。


王妹殿下なんて聞いていない。身分違いもいい所だ。

それに…似てないぞ…こんな王妹がいたなんて聞いた事がない。


バルト王太子は銀の髪にエメラルド色の瞳だ。

この少女は金髪碧眼である。それに少女と言える位、幼く見える。


リリアーテは微笑んで、


「歳は18歳ですの。幼く見えると言われますわ。隣国での勉学も終わって、そろそろ結婚したいとお兄様に言いましたら、貴方との見合いを勧められましたの。」


慌てて、跪いて騎士の礼を取る。


「リリアーテ様。身分違いもいい所です。私は伯爵家の出。あまりにも違い過ぎます。」


「でも、未来の騎士団長は貴方しかいないと聞いています。わたくしは、この国を支える手伝いがしたい。お兄様である国王陛下や、王妃様の手伝いをしたいの。」


「それでしたら、私と結婚しなくても、貴方様に出来る事はあるのではないですか?」


「ちょっと立ち上がってみて下さる?」


レクトスは立ち上がる。


リリアーテはレクトスの手を握り締めて、瞼を瞑り自分の両手で優しく包み込む。


温かい力が流れ込んで来て、身体の疲れが取れて行く。


レクトスはリリアーテに聞いてみる。


「この力は?聖女の力…」


「そうよ。わたくしの母は側妃で聖女の力を持っていたの。わたくしは少しだけ、癒しの力を受け継いでいるわ。それから…お兄様から聞いております。貴方は辛い恋をしたのね…わたくしは貴方の心も癒してあげたい。」


泣きたくなった…

レクトスはリリアーテの言葉を聞いて涙がこぼれた。


「私は、春が嫌いです。美しく咲く花はあの方を思い出すから。」


「わたくしは春が好き。春は希望の色だから…わたくしの事を知って欲しいの。貴方の事もわたくしは知りたいわ。」


恋をしてみたいと思った。

新たなる恋を…

レクトスはリリアーテに出会わせてくれたバルト国王とアルメディーナ王妃に感謝した。



リリアーテは隣国で勉学に励んだ後、3か月前に帰国し、アルメディーナ王妃の慈善活動を手助けしているとの事。

病院へ訪問する王妃について行き、僅かながらの癒しの力を使って、苦しむ病人を楽にしてあげているとの事だが、


「わたくしの力は大した事はなくて。痛みを少しの間、取る事しか出来ない。身体を少し、楽にしてあげる事しか出来ない。亡くなったお母様は素晴らしい聖女の力を持っていたのに。わたくしは駄目な王妹なのよ。」


レクトスは励ますように、


「駄目なんかではないです。きっと貴方に励まされた病人達は慰められているはずだから。」


「有難う。そう言って下さると嬉しいわ。今度、一緒に買い物に行きましょう。欲しい物がある訳じゃないの。貴方と楽しみたいの。色々と。」


「解りました。一緒に買い物を致しましょう。」


レクトスは休暇の時に、リリアーテと共に王都を歩いた。

王妹である。何かあったら大変だ。


いざという時の為に、近衛兵6人が目立たぬように、後を付き従いリリアーテを守っている。


リリアーテと腕を組んで歩くレクトス。

リリアーテが美術館を指さして、


「あそこで絵を見たいわ。」


「まだあったのか…」


アルメディーナと一緒に行った美術館。

今は遠い日の思い出。


レクトスは頷く。


「一緒に美術館へ入りましょう。」


飾られている美術品は幾分か変わっているけれども、あの頃に飾ってあった絵もまだ飾ってあって。


アルメディーナと共に見た朝日が昇る山の絵や、変な顔をした人間の絵。

全てが懐かしくて。


アルメディーナは面白いのね。と笑いながら見ていたけれども、

リリアーテは興味深そうに、その絵を眺めて、


「わたくし、絵を描く事が好きですの。さすが、先人達の絵は何度見ても、感じるものがありますわ。」


「以前にも来た事があるんですか?」


「ええ。絵が好きなので。わたくしは花の絵を描いて、それを欲しいと言う方に差し上げて、喜んでくれるのが嬉しくて嬉しくて。ああ、わたくしは人の為に役に立っているのだなって…そう思えて。」


「リリアーテ様…」


ああ…この王妹殿下は、人の役に立ちたい。その思いが強いのだ。


レクトスはリリアーテに向かって、


「私と同情で婚約をされなくてもいいのです。リリアーテ様。私と貴方様は身分違い。貴方様にふさわしいお方に嫁がれる方が貴方様の為です。」


「わたくしにふさわしい方?隣国の第二皇子に婚約を申し込まれたわ。国の為にわたくしは婚約を受け入れる、前国王陛下も了承していたのに、男爵令嬢にうつつを抜かして婚約破棄をされたの。わたくしは悪者にされたのよ。身分が何よ。身分が高いからって、完璧な人間なんていないわ。わたくしは必要とされたいの。必要とされたいのよ。」


レクトスはリリアーテに愛しさを感じた。

強く抱きしめて。


「私は貴方を必要としています。貴方は私との恋を望んでくれた。どれだけ私の傷ついた心が癒されたか。どうか、私と婚約をしてほしい。必ず騎士団長になる。貴方にふさわしい男になるから。」


「有難う。レクトス。貴方の事、愛しているわ。」


二人は顔を寄せて、口づけを交わした。


リリアーテの唇は甘かった。


レクトスはリリアーテを一生守って行こうと決意するのであった。



後に、レクトスはリリアーテと1年の婚約期間を経た後に結婚をし、30歳になって騎士団長に就任した。


レクトス騎士団長率いる騎士団は、バルト国王とアルメディーナ王妃を近衛騎士達と共に守り、隣国にも睨みを効かせて王国は大いに栄えたと言う。


リリアーテとの間には可愛い女の子が授かり、レクトスは妻を大事にし、娘を猫かわいがりし、幸せに過ごしたと言われている。








まったく世話がやける男だわ…

貴方がわたくしの為にわざと悪人を演じて、身を引いたと知った時、わたくしがどんなに悲しかったか、解る?


貴方の心の臓に打ち込んだ、悲しみの楔をわたくしが解かないでどうするのかしら。

だから、バルト国王陛下に頼んだわ。

彼にいい人を紹介して欲しいって。


紹介してくれたリリアーテなら幸せにしてくれるって納得したのよ。


わたくしは、よい王妃になったつもり。

でも、まだまだ足りないわ。もっともっと高みに登ってみせる。


貴方と結婚は出来なかったけれども後悔はないわ。

だから、貴方も騎士団長として、高みに登って頂戴。

そして、幸せになって頂戴。


愛していたわ。レクトス。遠い昔の恋人…

遠い昔の恋は、春の思い出と共に封印致しましょう。





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[良い点] 前話が切なかったので、ハピエンで良かったです。 [一言] 面白かったです。
[一言] 結局のところ地位があったほうが女は嬉しいだろうと、女の心より将来の保証を男は優先すると、そういうことか。 地位ある男と地位のない男。 どちらにも望まれてるなら、望む相手と結ばれたほうが幸せ…
[気になる点] 根本的な点として、別によりを戻したいわけでもない単身者は女々しいのだろうか。 [一言] 事情に気づいたなら、当事者の王と王妃が女々しいと言うのはなんだかな。 ある意味前話と繋がってるが…
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