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妄想の帝国

妄想の帝国 その52 ゴリン選手村包囲網

作者: 天城冴

国際的スポーツイベントを無理やりに開催したため、新型肺炎ウイルスの超変異株を生み出してしまったニホン国。その災禍により世界中から疎まれ、実質的に他国に支配されていた。そんななか、その原因となったスポーツイベントの施設周辺を見張る男たちがいた…

昔の栄華はどこへやら、いまや最貧国の仲間入りも間近となった旧ニホンの元首都トーキョーのはずれの埋め立て地。空き家となったマンション群の一角に、コンクリートの塊や鉄パイプ、ガードレールや道路標識などがうず高く積まれ隔離された地域があった。人がほとんどいなくなり、野良猫やカラスさえロクにみなくなった湾岸地帯で、その一角だけは賑わい、もとい緊張感にみちた人々が交代でがれきの山を見張っていた。

「ふう、今日も誰も抜け出してこないか。そろそろ中でくたばったかな」

「それは、わからん。なにしろ体力だけはある奴らだし。一応、あのゴリンにでるだけの実力はある、と思われている奴らだからな。もっともボランティアだの、アイオイシーの関係者はもう変異ウイルスにやられているかもしれんが」

「国立競技場のほうの連中は片付いたがな。まあ、ゴリン観戦中に感染がひろまったなんていうギャグみたいな展開だったが、最後はパニック映画並みに悲惨だったな。感染者が蔓延して競技場から出ようとしたのを全員閉じ込め、治療もせずに放置して、全員息絶えたころ競技場事丸焼き。言ってて信じられんが、やっちまったんだよな。酷いような気もするが、ほぼ全員ウイルスに感染しただろうし、あのウルトラ変異株、スーパーオメガだったか、感染力が超強いってやつ」

「ああ、そうだ。あの忌まわしいトーキョーゴリンとやらを開催したせいで、世界中から変異株に感染してたやつらが押し寄せた。しかもそれぞれ違う種類で、ニホン国固有のあちこちの変異株も一同に会してウルトラ変異株とやらができちまったんだ。感染力が強いうえにほぼ助からない、助かったとしても、ああなっちまったら、おしまいだ。逃げ出した奴らをみたことあるだろ、あれが一流のアスリート、ニホンの期待とか、祖国の星とか言われてた奴らとは思えん。あんなのが、増えたらニホン国再興なんて絶望的だ。ただでさえ、米中ロ、カッコクレンの奴らのお情けで生きてるっていうのに。これが世界の経済大国のなれの果てかと思うと泣けてくる。全部ゴリン開催した奴らのせいだ」

「だから、開催反対だったんだよ。開催したとしてもせめて各国の選手を隔離して、競技以外、他国の選手たちやニホン人に接触しないようにしとけばよかったのに」

「アベノのバカとかが連中が開催強行したせいだ。太鼓持ちの芸能人だの御用学者だの総動員してな。新型肺炎ウイルスの脅威だ、変異株が来た、ワクチン接種が遅れた、緊急事態だのいって、あらゆる行事はほぼ中止、イベント関連、文化芸術関連は虫の息、飲食、小売り業、サービス業のほとんどは自粛要請いや強制で息も絶え絶えだった。ウイルス封じ込めと医療崩壊を防ぐために国民は必至で耐えてたんだぞ。なのに、ゴリンだけは特別扱い。ゴリンの国際組織アイオイシーのバッハッハなんぞ、無観客はいやだ、なんぞいいだしやがってあのぼったくり男爵が!国際競技場でくたばったらしいな、ざまあみろだ。アベノやガース総理だの政府の連中や都知事のオオイケ・リリーと一緒に国立競技場ごと焼かれたから、せいせいしたわ」

「巻き込まれた観客だの、ボランティアだのは気の毒だったが感染しちまったら、おしまいだからな。救う手立てがないし、情に流されて家族とかと最後の別れなんぞさせたら、あっという間に蔓延だ。そうでなくても、ほかの変異ウイルスで首都だけでなく、ニホン全国いっぱいいっぱい。おまけに豪雨災害だの、猛暑の熱中症だので、ただでさえ大変だった。野党の奴らはよくやったよ。ジコウ党の下っ端が、総理だのサンカイ幹事長だのが死んじまっておろおろしてる中、死者と患者だけは減らした」

「そこら辺だけは俺も認めるが、だが結局カッコクレン、各国連合の大国の奴らにニホンは乗っ取られちまったじゃないか。もっとしっかりしてくれりゃあ」

「そうはいっても、トップ連中、ジコウ党幹部がほぼ全滅、マスコミだの経済界だの連中だってあのゴリンのおかげでトップやら重鎮やらも観戦した奴らは競技場で灰だぞ。生き残ったとしても、経済がほぼ死滅、医療崩壊がおきてるなかで、ニホン国民が全滅を免れたのは奇跡だって言われてるんだよ、半分近くに減ったがな」

「おかげでトーキョーはほぼ無人の廃墟か。周辺の県のほうが今は栄えてるだろうよ。とはいえ、ほとんど郊外都市レベルだがな。物価もだいぶ高くなって、自給自足だ、全部。太陽光パネルつけといてよかったぜ」

「ガソリンなんか高すぎるからな。ハイブリッドカーならなんとかなるだろうが。ホントに遠出はやりにくくなったな」

「そのせいで、この近くに住んでた俺らがこの見張りの役をやってるんだろうが。仕事もロクにないなか、ドルでかなりの額が支払われるんだからな」

「ああ、そうだな。ジコウ党の残党どもやその取り巻き連中を捕まえるのもあるが、それだと動き回らなきゃいけないし、なるべく殺すなって言われてるから、厄介なんだ」

「どうせ、原発廃炉作業とか危険作業を一生やらされるか、それともウイルス治療薬とかの実験台になるんだろ、捕まるときに死んだほうがましかもしれんけど。まあ、途中でリンチされて死んじまうのもいるらしいが。捕まえる奴らも金目当てだけじゃなく、恨みもあるからな」

「恨まれて当然だろ、政府の連中の対策が不味すぎて、おまけにゴリン開催強行したから、みんなひどい目にあってんだぞ。家族だの友人だのを奴らに間接的に殺されたり、商売をダメにされたり、積年の恨みとやらがあるからな。ジコウ党の関係者だの中央の官僚の奴らだの、政府にすり寄ってた自称学者だの作家だの評論家だの芸能人連中はみんな同じ穴のムジナ、恨みの対象なんだし」

「まあ、とんでもないスーパーオメガ株を生み出してニホンを実質滅ぼした奴らだからな。とはいえ、連中がウイルスに感染してるわけじゃない、あいつらを捕まえる仕事のほうが安全だろ。感染してるのは俺らが見張ってる奴らだからな」

「そう、選手村にいて、そこから出ようとしてる奴らだ…ん!おい」

「おしゃべりに夢中になりすぎたか」

二人の目線の先にはコンクリートの塊。その塊が少し動き、浅黒い腕が突き出した!

「警戒しろ!出てくるぞ!」

二人は銃を構えて狙いを定めた。

ガラガラとがれきの山が崩れ落ちて、やせ細った男性が腕をばたばたさせながら、体を奇妙にくねらせ、中から飛び出そうとした

「ク。クニー、カエリーターイ!」

目が突き出て呂律が回らない舌で叫ぶやいなや

バン!バン!

銃声が響き渡る。

二人は男性に弾を次々に打ち込む。

やがて、男性は動かなくなった。

「…死んだ、か」

「ああ、たぶん。撃たなくても、あの様子じゃもう脳もやられて永くなかっただろうが」

「それでも、あれ以上近づかれたら俺たちも危ない。たとえ、この防護服を着ていても油断はできない」

「ああ、そうだな。狂犬病のようにあっという間にウイルスが脳に達して、あちこちに炎症起こして、思考も言動も滅茶滅茶になっちまう。一度やられたら脳細胞が再生しないんだろ、したとしてもダメージが大きすぎて、元の生活どころか、ほぼ寝たきり。認知機能とかもダメになっちまう。廃人だよ、いわば」

「恐ろしいウイルスになっちまったからな。さて、火炎放射器で焼き払うか」

「銃やら火炎放射器やらの扱いにもすっかり慣れちまったな。このクソ重苦しい防護服にも」

「そうだな。…いつまで続くんだろうな」

「中の、選手やらが全員死ぬ、まで、だろ。こいつがどこの国の、ひょっとしたらニホンかもしれんが、奴かは知らないが、確かもう数十名にはなっているはずだ」

「名簿と突き合せれば…、偶然入っちまった奴とかスタッフとか、コーチとかもいるからな、何人いるか、今も生きてる奴らがまだいるかも正確なところはわからないだろう」

「いっそ、国立競技場みたいに焼き払うか」

「ちょっと、規模がおおきすぎるらしい。なにしろ、ゴリン後はマンションにするはずだったから、結構広いんだよ。だから、俺たちみたいな見張りが数十人も必要なわけだし」

「確かにな。いっそミサイルとか打ち込んじまうとか」

「あの映画みたいに原爆を打ち込むとか。勘弁してくれよ。ま、割のいい仕事なんだから、気分はよくないが」

言いながら男たちは死体を焼き払った。

ごうごうと音をたて燃え盛る火のなかで、ゆらり、と影が浮き出た。

こころなしか、かなしげな顔をした男の顔が、何かを言いかけていた。

“でなきゃよかった、か。早く気が付けばよかったな、選手さんよ。ゴリンなんか拒否すれば中止にしちまえばよかったんだ”

男は心のなかで呟き、灰になった体にそっと手を合わせた。


どこその国では何がなんでも国際的スポーツイベント開催をいってますが、この話のようなことにならないことを切に願いますわ。

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