北の大地を天馬が駆ける
翌日早朝、佐藤さんから紹介状を受け取り俺は北海道へ向かう飛行機に搭乗する
新千歳空港からはNR最寄り駅の日高線静内駅までいってそこからは
路線バスが走っているそうだ
来年にもメリーも佐藤さんの牧場へ移送されるから
俺も静内でアパートで部屋を借りることを検討しているが
佐藤さんからは牧場就職するなら賃金と住むところは保証
すると言われて悩んでいる
プラチナシップが繁養されている牧場までは、南千歳で乗り換えて
苫小牧方面行きの電車とバスで2時間ほどかかる場所だ。
まあ電車もなく気動車だし今の時期は普通しかないからな
馬主さんは普段どうされているか聞いてみると牧場併設のヘリポートから
千歳まで飛んで飛行機で東京まで行くらしい
これは獣医さんとか緊急で呼ぶためのものでもあるらしい
アメリカ人の感覚だね 買い物で自家用機を使うらしいから
【牧場最寄りの路線とバスも数年後廃止されるとわ天馬はまだ知らない】
バスの停留所を降りるとそこは一面に広大な放牧地が広がっている
柵の中には当歳馬かな可愛い幼駒がお母さん馬と放牧されている
【まだ、無理して走らないでね 怪我したら大変だから】
【お母さん わかってるよ~】
牧場は何処だろう? というか牧場の土地はこの周辺全部だろう
牧場はこちらですという看板を頼りに俺は歩き出す。
11月も終わり、厳しい冬が始まる北の大地だな
10分くらい歩いたのかな? やっと牧場の建物が目に入るが
さすがに規模がでかい
牧場で働いている従業員の方に案内を頼みやっと到着したよ
俺は短い期間で2人目の馬主さんと面会している
こんなことが俺の人生であるなんてつい最近まで
思いもよらないことだ。
この人物大物馬主で有名な伊藤さんである
今は俺が渡した紹介状を読んでいるところだが、
たまに首をかしげる仕草で俺を見る
この部屋には俺と伊藤さんと調教師のかたとプラチナシップ担当
厩務員の方がいる
伊藤さんが手紙を読み終えてテーブルの上に置くと
俺を見る時眼鏡がキラリと光る
「貴方が佐藤さんの手紙に出てきた天翔天馬さんですね
名前を聞く限りお父様もさぞ競馬がお好きな方でしょうか」
「はい ご想像どうりの父親です
万年負け続けて3年前に競馬から足を洗いましたけど」
「そうですか それで天馬さんは一度DRAの入社試験を
受けられたのでしたね 確か2次の面接で落とされたとか」
「はい、お恥ずかしい話ですけど 落ちた理由も
なんとなく理解してますし 今は楽しく競馬場巡り
していますから幸せな毎日です」
なんか、俺の面接みたいだよな
佐藤さんの所でも雇用しましょうかと
言われたけどまさかな
「それで今回この静内までこられた理由は
プラチナシップの種付けのお話でしたね
佐藤さんにも日ごろお世話になっておりますし
シンジケートも2口購入されてますから
問題はありませんが、何でも
天馬さんはプラチナシップとの面会を望んでいるとか」
「はい、そうです 一度会って彼と話がしたいと
思いましてご迷惑かと思いますが
佐藤さんにもご無理をいい紹介状を書いていただきました。」
彼? 馬だよね
「当牧場では見学者はお断りしているのですがね
種牡馬も引退している功労馬であれば
問題ないのですが、プラチナシップは種牡馬としての初年度ですから」
「はい、それは わかっているのですが、
プラチナシップのメリーローズへの正直な気持ちを知りたいと思い
どうか会わせてください ほんの数分でも構いませんので」
俺は、頭を下げていた。
「プラチナシップの正直な気持ちですか?
それは種付けするメリーローズへのでしょうか?」
「昨日のレースで現役引退しましたけど
彼女の望みはプラチナシップとの子供を授かる
ことなんです。ですからプラチナシップに
彼女のことをどう思っているのか聞いてきてくださいと
メリーから直に頼まれてきたのです」
「こりゃあ、おかしな話だ」調教師
「馬がしゃべるもんかよ」 厩務員
「お前たち お客様の前で失礼ですよ黙りなさい」
「でも 伊藤さんもおかしいと思いますよね
そんな与太話」
「まあ、いいでしょう こちらも失礼なことを
しましたからね、プラチナシップに面会するだけなら
問題ないでしょう お客さんを馬房へお連れしなさい」
「はい、わかりました」
3人と天馬が廊下へ出る
「勿論 私たちも同伴しますから
そのへんはご理解ください」
「ありがとうございます。ご配慮に感謝いたします」
いよいよプラチナシップに会える
数分後俺たち4人はプラチナシップの馬房の前に到着する
「この中ですよ、」
「私たちは、あちらにいますから用事が済んだら
呼んでください あと馬房に入るのでしたら
蹴られないように用心してください」
俺は伊藤さん達にお礼を言うと馬房の入口から
プラチナシップへ挨拶する
勿論念話になるけど
「プラチナシップさんこんにちは、
俺は天翔天馬と言います」
不審者を見るような目つきがすぐ驚愕に変わる
【こいつは驚いたな、変な奴が来たかと思ったら
ほんととんでもない奴が来たもんだ
まさか俺と会話できるなんてな】
俺はプラチナシップから了解を得て馬房内へ入る
「伊藤さんあいつ普通に馬房へ入りましたね
プラチナシップも騒がないし
もっと暴れると思いましたよ」
馬房の中では
「あまり時間もないので肝心とこだけお聞きしますけど
メリーローズさんご存じですね
あの尾花栗毛の綺麗な牝馬ですよ」
同じレースに出ているし俺も彼女のこと時たま頭に浮かぶ
【ああ、勿論知っているがあいつがどうかしたのか?】
「はい、昨日の王女杯で勝って現役を引退しました。
来年からは繫殖牝馬になりますので
近いうちに静内へ移送されてきますよ」
【繁殖牝馬か? もう相手は決まっているのか?】
「はい、決まっていますよ 」
「相手が気になりますか? 綺麗なお姉さんですから彼女
古馬にも礼儀正しいし新馬にも慕われているし
俺が牡馬なら間違いなく口説いてますよ」
プラチナシップさんの様子が少し変だ
なんかイラついているような感じでプルプルしてる
俺に焼きもちかな
「俺も最後のレース後のウイナーズサークルで
横に並んで口取り式に参加しました
彼女とても綺麗でしたよ」
俺をにらみつけてくるし鼻息も荒い
「でも彼女にはデビュー当時から好きな牡馬がいましてね
繫殖牝馬になったらその人の子供を産みたいと
いってましたよ」
【もういい、黙れ ああ俺はあいつが好きだよ
一目惚れだ あいつが隣のゲートに入るだけで
スタート出遅れるほど気になっていたよ
教えろよあいつの相手は何処の牡馬だ
俺が許さない 種付けは俺がする】
もうプラチナさんそんなに興奮しないでくださいよ
「それはよかった。メリーもきっと喜びます
種付け相手は勿論貴方ですから
両想いの可愛いい仔馬が生まれますね」
【え、ほんとか 相手は俺なんだな】
「そうですよ、メリーさん生涯貴方だけ
に種付けされたいといってました。」
俺は薄々気がついていたが、プラチナシップさん
昔からメリーさんのこと好きだったんだ。
それもゲートで立ち上がるほどか
【オイ天馬 厩務員を呼んで出かける準備をさせろ
俺は今すぐ走りたくなった。
勿論鞍上はお前が跨れ他の奴は断る】
「え、俺 乗馬は一度しか経験ないですよ」
【俺がいるから問題はない、早くしろ】
「わかりましたよ。」
俺が馬房から飛び出すと通路で3人が唖然としている
「まさかほんとに念話で会話できるなんて
佐藤さんの手紙の最後に書いてありましたが胡散臭いと
信用していませんでした。」
「そんなことより乗馬の準備お願いします
鞍とハミと俺にもキュロットとブーツとヘルメット貸してください
他の誰も乗せないというから俺が乗ります」
伊藤さんが羨ましいそうな目で
「天馬さんが羨ましいです、私でもまだプラチナシップに
乗せてもらえませんからね」
天馬は
「あとで乗せてくれるように頼んでみますよ」
「約束ですからね 頼みましたよ」
伊藤さんも興奮しているけど自分の馬でしょ
自分でプラチナに頼めばいいのに
俺は準備してもらった乗馬服に着替えて
外へ出ると念話で怒られる
【遅いぞ、いつまで待たせるんだ
直ぐに乗れ】
「伊藤さん それじゃあいってきます」
「プラチナさんいいですよ」
【それじゃあ、飛ばすぞ~】
パカラ パカラ~
プラチナが物凄い速さで走り出す
現役時代を彷彿させる末脚をまじかで見るなんて
慌てて別の馬で追いかけてくる厩務員さん
「伊藤さん見ましたか?
プラチナシップのあの心底嬉しそうな顔 俺初めて見ましたよ」
「しかし、佐藤さんの手紙にもありましたが、
馬と念話で会話できるなんてすごい人が
いるものですね、ほんと羨ましいです」
「夕日が沈む前には帰ってきてくださいよ天馬さん」
※ 種牡馬など放牧はありますが人が騎乗するのは難しいのかな
牧場へ帰るころには天馬はへとへとだったが、
その道中でのプラチナとの会話はとても楽しかった。