セレクトセールに上場する
5月下旬 佐藤牧場
「それで天馬クン メリーローズ202Xの件なんだけど
7月のDRA主催セレクトセールに上場するからね」
俺はその言葉で驚きのあまり心臓が止まりかけた。
隣にいる美鈴はまたかという顔で苦笑い
勿論お義父さんも相変らずだと苦笑い
「そんなに嫌なら 君が購入するかい
庭先取引でなら商談もできるけど
いつまでもそれでは困るだろ」
「お義父さん いくらですか?」
「君は変わらないね それじゃあ5億といえば
今すぐ払えるのかい」
美鈴が慌てる
「お父さん ダメよ 口にしたら」
俺は素早くスマートホンを操作する
「今口座に振り込みましたので
ご確認ください」
呆れる美鈴
「ほらごらんなさい 知らないわよ」
「え、まさか この短時間でかい」
「天馬はネットバンクに口座があるから
土日祝日何時でも振り込めるのよ」
そこへ、お義母さん登場する
「貴方、今銀行から5億円が振り込まれたと
連絡が来たのだけど 何のお金かしらね?」
「あら、天馬さんと美鈴も来てたのね いらっしゃい」
「振込確認できたのでしたら契約書お願いしますね
よし、これであの仔馬俺のものだな」
「いや、それはそれで困るのだけど
だが今現金で5億あれば
牧場設備を新しくできるし拡張もいいな
馬バスも天馬クンのところの新型も買えるか」
「こら 二人とも 現実世界へ戻りなさい」
ということで仔馬の購入の話は白紙に戻りました。
俺は出されたコーヒーを一口飲んで カップをソーサーに戻す
「天馬くん 君がメリーの仔馬に異常な執着を持っているのは
知っているけど君はメリーとプラチナ産駒が市場で
いくらか知っているのかな?」
「いえ、知りませんね」
「そうだろうね、まあ現実的には市場に出たのはサイクロン
だけだけどね、ローズとアイアンは私と伊藤さんのところだからね
サイクロンの落札価格は、3億円だよ 当歳馬でね」
「プラチナアイアンは2歳馬のG1夕日杯で1着、最優秀牡馬に選出されている
今年は、既に五月賞を勝っている この意味わかるよね」
「馬主の間でも 何とか今年の産駒を手に入れたいと
私のところにも毎日電話もメールも来ているよ
私も最初は馬主の仲間に軽い気持ちで庭先取引しましょうと
新年会で話題にしたけどね 今後悔してるよ」
「だから私は今年の産駒だけは、セレクトセールに上場することにしたんだ
馬主はね確かに優秀な仔馬は欲しいけどそれ以上に生産牧場の経営者として
人との付き合いも大切なんだよ、私が所有している繁殖牝馬はメリーだけじゃない
他にも数十頭の牝馬がいて当歳馬も1歳馬もいるんだよ
今年も私が当歳馬を所有したらどうなると思う」
天馬は首を左右に振る
「誰も私の牧場の馬を購入しなくなるよ確実ね
天馬クン、確かに良血馬だからといって必ずレースで勝てる
馬になるわけでないのは馬主なら当然わかっているけど
皆、夢が見たいんだよ 私が夢をみたように
日本ダービーで勝つ馬を 私はそれを手にしてしまった。」
ガチャ
扉が開きお義母さんがお義父さんに声をかける
「伊藤さんから連絡来てね日本ダービー1着だったと
喜んでいたわよ 貴方に感謝しますと伝えてくれ
と伝言ももらったわよ」
それだけ伝えるとすぐにその場を後にする
「まあ、なんだよ 良血馬だから勝つときもあるけど
大半は夢や幻で終わるからね
まあ元騎手の美鈴なら騎手として栄光も掴んだし
掴めなく悔しいまま引退した先輩達も見てきたよね」
「勿論よ お父さん 私は運よくローズに騎乗できたから
最高の騎手人生だったわ」
「天馬クン 競馬に関しては君もDRAの元職員だしね
私のいいたいこと理解してくれていると思う
今年だけでいいから産駒をセレクトセールに
上場させてくれないか」
天馬はあまり理解できていないが今回はお義父さんの意見に従うことにした
「お義父さん わかりました
今年のセレクトセールに上場します」
「そうか、わかってくれて嬉しいよ」
「来年からは私がすべて所有してもいいですね」
だめだ、天馬クン何も理解してくれていないかも
しれないと佐藤は思った。
「お父さん 諦めて牧場でもメリーにべったりだからね
ほんと 天馬はメリーもメリーの産駒も好きよね」
「美鈴 誤解しないでくれ 俺が所有したいのは
メリーの産んだ牝馬だけだよ
正直牡馬はプラチナだけでいい 引退馬もできれば牝馬がいいな」
佐藤は、この天馬の言葉で光明を見た
「じゃあ、天馬クンは牡馬ならいくらでも
セレクトセールに出してもいいと思うんだね」
「当然ですよ 牡馬なら俺は購入しませんよ
メリーの産駒の可愛らしさは牡馬よりだんぜん牝馬ですよ
まるで違いますからね やんちゃ坊主より
ローズのような愛らしさです」
この言葉を聞いた佐藤は、天馬の本質を理解した。
7月某日 天馬は佐藤の誘いにのりセレクトセールに見学に行くことになる
天馬も生産牧場を経営していて登録牝馬も3頭いるから上場できるし落札も可能
なんだけどまさか落札しませんよね
セレクトセールに上場できるのは、当歳馬と1歳馬です。
マロンの仔馬は榊原さんが引き取りにきましたけど
その時メリーの産駒を見て交渉したそうに
見てましたが、お義父さんが今年のセレクトセールに出しますので
そちらで落札してくだいとやんわりお断りしていました。
今日はうちの馬バスで行きます 新車です名前はメリーローズ号
DRAの馬バスのまねですね 乗るたびにメリーが照れてます。
馬バスには、俺と美鈴が乗り込み運転手はお義父さんの
牧場の運転手がしてくれます。
来年までには俺が免許を取得します。
「今回は天馬も行くのね 昨年はいなかったから
少し 寂しかったのよ 仔馬も取られるしね」
「メリー今回は俺が厩務員するから安心してよ
でも この子と別れるの俺はつらいな」
「パパ ママ いっしょなの」
はしゃぐ 仔馬が不憫
「美鈴 だめかな」
「念話は私にわからないけど今回は諦めてね」
生産牧場で働く人は皆さん このような気持ちなんでしょうね
仔馬を売却しないと生活が成り立たない
牝馬も購入できないし種付けもできない
また落札されないともっとこまりますけど
今回の上場リストは既に配布されていますので
一番の注目は、勿論 プラチナ、メリーローズ産駒
メリーローズ202Xです。
※セレクトセールに上場
当歳馬と1歳馬は別々の日に上場されます。
当歳馬は母親と2頭で上場されるときもあれば
単独の時もあります。
育てた仔馬を上場する気持ち複雑ですね
売れると悲しいけど売れないと経営が苦しくなる
手をかけたぶんだけ辛くなる




