シズカさんと馬の国で再会を果たす
楯さんの死後の話ですね
「お前にはほんと苦労かけたな
今日までほんとありがとう」
「あなたそんなこと言わないで
大丈夫すぐに良くなるわ」
首を横にふると
「すまんな 昨日枕元にお迎えが来たんだよ
お前と夫婦になれてほんとによかった
僕がいなくなっても長生きしてくれ」
涙ぐむ奥さん
「あなた私もあなたと出会えて幸せよ
来世でも夫婦になりましょうね」
別の世界へ行く予定なので苦笑いをする
「そうだな来世で出会えたらまた結婚しような」
夫の手を握りながら
「あなた約束よ」
天井を一度見つめ目をつぶり
「すまんな 少し眠るよ また後でな」
暫くして夫が呼吸をしていないのに気が付き
すがりつき声を殺して泣き出す妻
「あなた お疲れ様 どうか安らかに
わたしも近いうちに行くから
その時はよろしくね」
葬儀は家族葬で行われ後日DRAの主催でお別れ会が執り行われた
DRAの最大の功労者楯元騎手が逝去された
天寿を全うし安らかな最後だった
~時間は遡り~
亡くなる前日の夜
楯さんが寝室で寝ていると枕もとへ死の宣告馬が現れた
「楯さん 初めまして 突然すいません あなたは明日
お亡くなりになります。」
その突然の言葉で目が覚め飛び起きると神々しい1頭の牝馬が目の前にいた
死の宣告を受けたのになぜか嬉しさがこみ上げてくる
不思議な感覚が体を支配する
「あなたは天馬さんがいっていた馬の神様ですか?」
楯さんが天馬に神様の話を聞いたのは30年以上前のことですが
それは今でも鮮明に記憶に残っていた
「はい、そうです 話が早くて助かります
それで天馬さんからお聞きになられていると思いますが
馬の国へ来ていただけますか?
無理強いはしませんのでお気持ちをお聞かせください」
一応いつもの選択肢を楯さんに提示して説明する馬の神様
「馬の神様、どうか僕を連れていってください
馬たちの役に立てるのであれば喜んで馬の国へ行きますよ
良い返事を聞いて喜ぶ神様
「ありがとうございます。ほんと助かります
これでなんとか5頭での模擬レースもできそうです」
楯さんは気になることを聞いてみた
「それで神さま お聞きしたいのですが僕より5年前に亡くなった
横長さんですが今はそちらの世界に」
笑顔の神様
「ええ、横長さんも天馬さんと同胞のため
調教のお手伝いをしていただいております
やっぱり騎手の方が騎乗されていないと
競馬にはなりませんからね」
「それを聞いて安心しました」
翌日早朝
楯は目が覚めると体の変化に驚いた 昨日まで起き上がるのも
難儀だった不自由な体が驚くほど身軽に動かせたからだ
ここ最近体が動かず自分でも最後が近いと感じていた
昨日までと大違いだこれも神様のおかげだろう
神さまから人生最後の日を迎えるプレミアム
「さあ、今日1日未練を残さないように生きよう」
向かうは妻の寝室へ
静かな寝息をたてている愛しい妻の顔を見て
頭を下げ
「今日までほんとにありがとう
こんな僕についてきてくれて
沢山苦労かけたね」
「夫らしいことあまりできなかったけど
どうか許してほしい どうか
僕の分まで長生きしてほしい」
そして静かに部屋を出て
自分の部屋へ戻り身辺整理をしよう
といっても貯蓄とか保険とかはすべて妻に任せているため
慌ててすることもない
お世話になった方々へのお礼の手紙をしたため
机の引き出しへ収納
もうすこし時間があればお世話になった方々に一言
挨拶したいがさすがに今日が命日だと
告げることができないとあきらめた
イスに座りふと考えた
今日が命日と宣告を受けたのに不思議とこころが穏やかな
ことに驚くがそれと同時にこれから先のことをおもい
浮かれている自分にも驚いていた
残された時間は少ないが妻への感謝の気持ちをこめて
朝食の準備をすることにした
騎手から調教師になって最後はDRAの解説者として
全国を渡り歩いた経験もあり楯さんは昔から
自炊するのも得意だった。
メニューはシンプルに
白米のご飯 白みそのお味噌汁 焼き鮭 生卵 焼きのり 漬物かな
準備が整い妻を起こしに行く
妻の寝顔を見て感慨深い気持ちになる
「もうこの寝顔を見れないんだな」
妻の体を優しくゆする
「おい もう朝だよ 朝食の準備もできてるよ」
目覚める妻
夫の元気そうな顔を見て眠気もおさまり
「あら あなた体の具合はいいの?」
昨日迄とまるで違い健康そうな夫の姿をみて
妻は安堵した
「ああ、今日は気分がいい さあ朝食をたべよう
お味噌汁が冷めてしまう」
どこからか美味しそうな食べ物の匂いを感じ
「まあ あなたの手料理食べるの久しぶりね
すぐ着替えていくわね」
夫婦仲良くテーブルを囲み和やかな朝食を食べて
二人仲良く懐かしい思いで話にはながさく
いつもの穏やかな日々
楯さんは昨日の馬の神様は夢の出来事で自分はまだ
死なないのではないかとふと疑問に感じたが
それは突然現れることになる
トイレにいってくると立ち上がった楯さんに異変が訪れる
めまいを感じ意識がなくなり倒れこむ
「あなた あなた大丈夫 ...」
妻は救急車を呼ばないで主治医に往診を頼むことにした
診察の結果
体が異常に衰弱している以外体に問題はない
心配ならすぐに入院手続きをしますと言われ妻は
それじゃあ 明日にでも病院へ連れていきますと答えたが
妻の内心では最後は病院ではなく自宅でと考えていた
~死後の世界~
楯さんを迎えに来た馬の神様との邂逅
楯さんの体にすがり泣いている妻を上から
楯さんはもう一度妻に感謝の気持ちを込めて呟いた
「来世では夫婦になれないがお前と夫婦になれて僕は
幸せだったよ ほんとにありがとう」
「それじゃあ 逝きましょうか?」
名残惜しいがふんぎりつけないとな
「はい、お願いします」といい目をつぶる
楯さんの体は光に包まれこの世界から消滅し別の世界へ
そして目を開けるとそこは異世界馬の国の噴水広場
楯さんの容姿は事前説明されていたように若返り騎手になりたての
20歳ごろへと変化し服装はなぜか勝負服を着ていた
周りのたくさんの馬たちからの視線が楯さんへ注がれる
流石現役で5000戦勝は伊達ではありません
主戦で騎乗した馬たちもこの馬の国にはたくさんいますね
「ねえ、あのかた まさか楯騎手でしょうか?」
「きっとそうよ なんだか懐かしいですね」
その2頭の牝馬は〇〇〇マックイーンと○○○○ウイークだった
この世界へきて馬との念話ができるようになった楯さんだが
流石に最初は驚いた表情を見せ
天馬さんはいつもこんな感じで馬たちと会話していたんだと理解した
この馬の国でならシズカにも僕の言葉で謝罪ができるはず
楯さんは今でもあの時のこと引きずっていますがはたして
シズカさんはどう思っているのでしょうか?
「楯さん お久しぶりですね お待ちしてました
これで調教も多少楽になります。」
天馬の本音ですが 美鈴に頭を叩かれます
「天馬 お待ちしてましたは楯さんに失礼でしょ
奥様だってきっと悲しんでいるのだから
楯さん すいません」
「あの~楯さんすいませんでした 無神経でした」
天馬は頭を下げる
「天馬さん 僕も同罪ですから気にしないでください
妻には来世では夫婦になれないと
謝罪もしてますから 僕も今日からはここの住人ですよ」
楯さん 天馬の周りの馬たちに視線を合わせて
思い人を探すしぐさをする
「それに僕はここへは彼女【牝馬】を探しに来たのですから
ここへ来れて天馬さんにはほんと感謝していますよ」
楯さんのその言葉を聞いて天馬の後ろから
栗毛の綺麗な牝馬が現れた 一目でサイレントシズカと気が付く楯さん
「楯さん お久しぶりです 生前はお世話になりました
こうして馬の国でのんびりと余生を過ごせているのも
みな楯さんのおかげですよ あなたが騎乗してくれたから
わたしもG1馬になれました。ほんと感謝しています」
シズカに会えて涙ぐむ楯さん
「シズカ 僕は君に謝罪をするためにここへ来たんだ
レース前に異変に気が付かなくてごめん
せめて3コーナーまでにレースを中止していたのなら
骨折なんてしなかったと思っている
君に無理をさせなければ...」
シズカは首を横へ振り 楯さんに寄り添い
「それは違います あの時のわたしはほんと走るのが
楽しくてはしゃいでいました 先頭の景色が最高で
自分の肢の違和感も感じていたのに無理をして
怪我をしたのは私の責任で自業自得なんです
誰も悪くはありません 当然楯さんも厩務員さんにも
罪はありません だからどうか罪悪感を持たないでください」
やさしいシズカの言葉で多少気持ちが軽くなったが
それでも楯さんの気分は晴れることはないだろう
そこでシズカが提案をする
「それじゃあ 楯さん こうしましょう
この馬の国でわたしの伴侶になってください
いつも天馬さんとメリーさん達の仲睦まじい夫婦の姿を
見て羨ましく思っていました どうですかこの提案に
のっていただけますか?」
楯さんも生前から天馬とメリーの仲がいいのは知っている
人と馬との違う種族なのに仲が良く羨ましいと
いつも思っていたのはほんとのことだ
「シズカ 僕でよければよろこんで伴侶になろう
そして馬の国のことも僕に教えてくれると助かる」
鼻先を楯さんへこすりつけ愛情表現するシズカ
「これで私たちは夫婦ですね 末永くよろしくお願いいたします。」
仲睦まじい様子をみていた周りの牝馬たちから
「あちゃ~ 先を越されました 私も狙っていましたが
でもまあ まだチャンスはあります
この馬の国は一夫多妻ですからね」
ほんと楯さん大人気です
「あ~いいな 楯さん 俺には言い寄ってくれる
可愛いい牝馬はいないのかな」
と愚痴をいうのは横長さんです
楯さんは病気ではなく長寿での老衰です
年齢的には90歳前です
横長さんは本文にありましたが5年前に他界しています
老衰で自宅で寝ながら最期を迎えるのが夢です