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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

いくら練習して労苦しても 才能には勝てないはずなのに

作者: 佐村綺羅斗

少年野球のクラブチームに入部してから5年がたち卒団式を終えた将威祐斗しょういひろとは、中学の野球チームの選択にあぐねるなか、チームメイトたちは次々と中学野球チームに加入していき、中には才能あるメンバーがシニアに入部していく。 そんな仲間との実力の差を感じてしまった祐斗は中学での野球を断念しようとするが、ある天才野球少年とやらに声をかけられて……?


 終わりの曙


最初は「頑張ろう」と思った。 だけどすぐに目の前が真っ暗になった。 自分の未熟さに……



 あれは少年野球クラブを卒団する直前の最後の試合だった。 相手は同じチームの低学年で、来年度に高学年に上がってくる4年生たちもいる。 その紅白戦で彼はいつも守っているキャッチャーの守備に就いた。 結果的に勝ちはしたものの、低学年相手に彼は、バットにかすりもしなかった。たかが紅白戦の試合でミスもくそもないなどと思っていたが、実際はそうではなかった。 みんながみんなというわけではないが、ほぼみんなバットに当ている。少なくとも、一度もボールがバットに当たらなかった選手は彼以外いなかった。 そんな現実に歯の根が合わない。

自分だけおいていかれているということに、以外にも焦る。 それから彼は、チームを卒団して中学での野球で学校のクラブチームに入部するか、それともシニアへ入部するかまだ、悩んでいる途中だった。 みんなは続々と中学の野球チームに入部していき、入部していないのはとうとう俺だけになった。(また出遅れたな……)だんだんと未熟な自分が嫌になってくる。何なのだろうかこの感情は。この時から彼は、こんな気持ちになるのが大嫌いになっていた。もうその時点で野球が嫌になっていたのかもしれない。 それから結局、野球部に入るのをやめた。親はやめることに対して、「やめたいなら好きにしなさい」とだけ口にしてほかには何も言わなかった。別にやめたくてやめたわけじゃない。実力の差がありすぎるから諦めただけだ。そう彼は自分に言い聞かせていたのだった。


 13歳の決心


何がダメだったんだろうか。 朝起きて一番に考える。が、すぐに考えるのをやめた。「いまさらそんなこと」 最初からわかっていた。釣り合わないことくらい。 またたくまに中学の制服に着替えて、何の変哲もない朝食を食べ終えると、即座に外へとつながるドアを家の内部が見えないように押し込んだ。 いつからだろうか。仲の良かった友達と気まずくなったのは。いや、共に野球をプレーした仲間を避けるようになった。というほうが正しいか。小学校を卒業してからもう一か月が過ぎたのだ。そのグダグダな関係も、そろそろ慣れてくれるといいのだが。 学校に行く途中、朝から硬式ボールで壁当てをしている中学生らしき生徒がいる。 朝から劣等感に自分が襲われそうになってしまう。朝っぱらから、しかも硬球で。頑張るやつは違うなと改めて思い知らされる。彼はこんな心情になるのが大嫌いだ。「やってらんねーよ」壁当てをしている生徒に向かって言い捨てた。

 

 ちゃっと上履きに履き替えて、目立たないように後ろの入り口から教室に入る。窓際の自分の席に座って外を眺めると、またもや野球をしている奴らがいて、倦まずにはいられない。(あぁ……疲れた)学校に来て早々そんなことを思っていると、不意に見知らぬ奴から声をかけられた。「君、野球やってたよね」驚いた。まさか自分が別のクラスの奴から声を掛けられるとは。そんな本質のない驚きが最初にきてしまうものの、本来の疑問が後から頭を何度もよぎる。何故自分が野球をやっていたことを知っているのか、彼は一体誰なのか。それからひとしきり頭を整理して頷く。何はともあれ嘘をついたところで、騙せないことくらい、この雰囲気からしたら承知の上だ。だから結局、正直に頷くしかなかった。「じゃあ何で今はやってないの?」たちどころにされたくない質問をされて、思わずそいつを睨んでしまう。答えたくないということを察してくれたのかと思えば、今度は意図不明な提案をしてきた。「うちのチームに入らない?」「……は?」そんなオファーを断ることに何故か、尻込みしてしまって秩序を失ってしまう。最初の一言が出てこない。もしかしたら自分は野球ができることに浮かれてしまっているのかもしれない。でも何かが引っかかって言葉が引っ込んでしまう。「……なんで?」やっとの思いでとりあえずそう聞いてみる。「なら逆に聞くけど君は野球やりたくないの?」またも答えにくいことを聞いてくるのでそのまま黙り込んでしまった。 しばらく二人の会話に沈黙が続いたが、その少年はそれ以上、なにも質問してこなかった。「今日の放課後校庭来てね!」とだけ最後に言い残して返事をする間もなく、教室を出て行ってしまった。

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