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5 われらのシロヴィニスカ3

本日二話目です

あら?


冬薔薇に、秋桜に、夏葵に、春蘭?

随分と季節がばらばらの花が揃って咲いているのね、ここは一体どこかしら?


…なーんて。

嘘よ、嘘。

分かってるわ、ここは―――わたくしの夢の中でしょう?


わたくしにぴったりの、美しい花々だもの。

花畑の中で微笑む麗しの王女。国民が見たら感動して瞳を潤ませるに違いないわ。

ねぇ、あなたもそう思うでしょう?


ところであなたは誰かしら。

見たところそこそこの容姿は持っているみたいね。

でなければ、この美しいわたくしの、美しい夢の中に入ってこられるはずないわ。


名前を言いなさいな?


あら、なんだか冴えない名前なのね。

それならもっといい名前を考えてあげるわ。


そうね、何がいいかしら。

クレインディーっていうのはどうかしら。それともマキシアム? カーシャルイっていうのも捨てがたいわ。

ううん、そうね、……決めたわ!


あなたの名前はオッドフルーラよ。

素敵な名前でしょう?

あなたは、わたくしの美しい夢を彩るのにぴったりの脇役だわ。


わたくしの名づけの才は国でも一番って言われていたんだもの。

お洒落で素敵で、美しい人にぴったりの名前を考えるのが得意なの。


実はシルヴィの名前を付けたのもわたくしなのよ。

あのときはまだわたくし付きの護衛ではなかったけれど、あれだけ強くて美しいのだもの、わたくしの考えた名前を受け取るには相応しかったから名づけてあげたわ。


シルヴィとは誰かって、あなた、変なことを聞くのねぇ!


シルヴィはシルヴィよ、シロヴィニスカ・レイディーン。

高潔なる白銀の騎士、わたくしを敬愛し、わたくしに一生仕えることを誓った臣下よ。


日が差すうちはわたくしの斜め後ろに付き従ってわたくしを守り、夜になれば寝室の扉の前に立ってわたくしを守るの。

常にわたくしの傍にいるのよ。


それならどうして今ここにはいないのか、って?

あらあら変なことを聞くのね。


ほら、そこにいるじゃないの。


シルヴィ!

近くに寄ることを許してあげるわ、わたくしの話し相手になりなさい!


…シルヴィ?

来るのが遅くってよ、わたくしの騎士なんだもの、いつだってわたくしの言うことには耳を澄ませていなくっちゃ。


…シルヴィ!

遅いわ! なんてことなの、騎士として最低限のことだって出来ていないじゃない!



……あなたの騎士なんてここにはいない、ここにいるのはあなただけ?

何を、何を言うのよ、あなたは。


オッドフルーラ、あなたは処刑よ!

首をはねてしまうよう、お父様に言うんだから!

お父様はわたくしを愛しているから、わたくしの願い事は全部、全部聞いてくださるのよ!


そんな嘘をつく恥知らず、わたくしの夢にはいらないわ!



…夢、そう、わたくしの夢の中よ……いいえ、いいえ、あら? どうして?

ここはわたくしの夢の中。



…そう、ここはあなたの夢の中。

そう、ね、そうよね。

あなたの夢の中。


…ええ、いいわ、何だって話をするわ。


シルヴィとわたくしの出会ったきっかけ?


それはシルヴィが王城に上がってきて、訓練場で稽古しているところを参観したときよ。

見目麗しく強い騎士がいたから、わたくしが直々に褒めてあげたの。

シルヴィは感動していたわ。


まだそのときは騎士でなかったはず?

あらあら変なことを言うのね、シルヴィは騎士よ? わたくしだけの騎士。


その話はもういいって、あなた、随分と乱暴なのね。そういうせっかちな人は嫌われてしまうわよ?



最近した会話は何か、ねぇ。


そうね、シルヴィがわたくしに付いてこないって言うから、ちょっと叱ってあげたわ。


どうして付いてこないのか、どこに付いてこないのか、って、あなた、一度にいくつも質問をするのは礼儀がなっていなくってよ。


まあ、わたくしは寛大で美しい王女だから、教えてあげるけれど。感謝なさい?


どうしてかなんて知らないわ。

シルヴィはわたくしの傍に常に付き従い、常にわたくしを守るべきなのよ。それなのにそれを破るなんて意味が分からないわ。


お風呂に入ったり寝たりする時間はあなたの傍から離れるはず、って、あなた、そんな訳ないじゃない。

シルヴィは常にわたくしの傍にいたわ。


もちろんわたくしが湯あみをするときだって護衛をしていたわ。

侍女たちがわたくしの髪を洗っていて、シルヴィはわたくしに背を向けて扉の方を向いて立って守っているの。


いくら人間離れしていても一切睡眠を取らないはずはない?

人間離れって、あなた、シルヴィはわたくしの騎士なのよ? そういう嫌らしい言葉を使うのはよしてちょうだい。


もういい、って、乱暴ね。人の話は最後まで聞くべきだわ。


それで、…どこに付いてこないのか、だったかしら?


わたくしの、…………わたくしの。

ええ、っと、わたくしの……。


嫁ぎ先であるローレーン王国ではないか、ですって?


とつぎ、さき。


わたくしはこの国の王女なのよ。

この国の至宝、この国の民全てが愛する宝石、お父様が慈しむ名花。

わたくしがこの国を離れるはずないわ。


そうよ、だから、シルヴィはいつだってわたくしに付き従って、……あら、あら、あら?

どうして、いえ、でも、シルヴィは。



お父様がわたくしの存在を疎んだ?


何を言うのよ、そんな訳ないじゃない、お父様はいつだってわたくしのことを溺愛しているのよ。


わがまま王女をいつまでも遊ばせておく訳にはいかない?


誰よ、そんなことを言ったのは!

わたくしは美しく賢く優しい王女よ、わたくしほど美しく愛らしければちょっとの我儘だって当然受け入れられるべきでしょう!?

わたくしの可愛らしい願いを叶えることもできないなんて、恥を知るべきだわ!


だからわたくしは、シルヴィをきつく叱ってやったの!

名君は、時として厳しい言葉を使ってでも、臣下を正すべきなのよ!


わたくしに付いてこないなんて、シルヴィは騎士失格だわ!

あり得ないのよ、裏切者なのよ!

シルヴィをわたくしの騎士になんてしなければよかった!

シルヴィなんかにわたくし自ら名づけをするなんて勿体なかった!

そんな不出来な騎士なんて消えてしまえばいいの!

早くわたくしの美しい視界から消えなさい!

わたくしをこんなに失望させるなんて、死んでも償えないわ!



言い過ぎですって?

そんな訳ないじゃない、わたくしを裏切ったのよ、わたくしを失望させたのよ!


だから。

ふふ、だから、ふふふ、そうでしょう?

わたくしがこうやってきつく叱ってあげたんだから、シルヴィだって自分の罪を思い知るわ。

そうして今度こそ――――わたくしだけの騎士になるの。


美しいシルヴィはわたくしのもの。

未来永劫、わたくしだけのもの。


ほら、早く戻ってきてちょうだい、シルヴィ。


あなたの主人が待っているわ。





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