2、魔王降臨
私の名前は笹倉澄子。都立星野高校の二年生です。土曜日なので愛犬のジョンの散歩をしています。東京によくモンスターが出没するようになりました。あまり野外で人は見かけません。みんな、家の中に閉じ籠っているのでしょう。でも、私は大丈夫。私はSパーティーで魔女をしていますから。こう見えても、うちの高校ではトップクラスの実力者ですよ。ウフフ。気が弱いお嬢様だって舐められるんですけどね。人は見かけによらないというか。見た目で逆に得をしちゃっているというか。出たとしてもどうせ弱小モンスターです。レベルだって、結構上げているのですから、負けるわけが。
「見つけた、獲物」
「持ち帰ろう」
目の前に巨人が現れます。オーガ。鬼族の巨人。しかも二匹です。嘘でしょ。こ、こんな強敵のモンスター。今まで相手したことないわ。公園内にいる人たちが悲鳴を上げて、逃げていきます。そ、そもそもこの公園ってスライムとかそういうのしか出ないはず。私はパーティーでもほ、補助的な役割しかしてないのよ!? ひ、ひぃ、こ、殺される……!
思わずジョンを抱きしめて、座り込んでしまいます。
「主上、捕えますか?」
「ああ、使い魔として使えるだろう」
角の生えた魔人が私の前に降り立ちます。空中にはケンタウロスに引かれた車に幼い顔立ちの男の子が腰かけています。
魔人の蹴りが炸裂します。オーガが呻き声を上げて倒れました。強い! いえ、でも魔人を操るですって。上級レイドでも魔人は出てこない。その遥か上の超級レイドくらいのものよ。SSSランクパーティでも魔人だなんてラスボスレベルの化け物を従えている……!? レア職にも程があるでしょう!
私が驚いている間にオーガは倒れていました。そして巨大な光に包まれて小さくなって、アイテムボックスに吸い込まれていきます。
「これで俺の眷属がまた増えたな」
「主上、おめでとうございます」
魔人が頭を下げます。男の子が笑みを作ります。そして私に近寄ります。
「笹倉澄子、だな。お前はSSSパーティーに誘うことはできん。せいぜい家の中で震えて暮らすことだ。この辺はオーガがうろついている。女性徒ならば攫ってしまうだろう」
「あ、あなたは」
「俺はこの近辺を治める魔王だ。SSSパーティーの奴ら、上級レイドの上の階層のモンスターを解き放っている。気を付けた方が良い。一般市民にも容赦なく襲いかかって来るだろう」
「魔王」
魔王? そんな職業の高校生なんて初めて聞いたわ。でも魔人を使役しているもの。魔王と言わないで何と言えばいいの?
男の子は背中の黒い翼を広げるとケンタウロスの方に戻っていく。い、家に戻らないと。こんなところをうろついていたら、化け物たちに喰われかねない……。