日本のある町にて
「右によけて!次左!そのまま相手の懐に!」
私はその言葉通りに禍々しい黒い靄を纏った帯状のモノを避け、相手の懐まで潜り込み、象形文字の書かれたお札をその本体である球体に貼った。私はそこからバックステップで距離を取り、球体は光を放ち天に昇華されていった。
「ありがとね~、こんちゃん~!」
私はそう呼びながら、相棒をわしゃわしゃともみくちゃにした。
「やめろやめろ~、くしゃくしゃにするんじゃない、僕の毛並みが乱れるじゃないか」
「ははは~」
その笑い声は静寂な森の中に明るく響き渡った。
私は森を抜け、少しだけ整備された道に出た。そこから眺める形でちょっとした町が広がっている。学校のグラウンド、碁盤の目状に並ぶ家々、ちょっと大きめの建物である市役所、町のど真ん中を通っている鉄道が見える。その景色を右側にして道を十分ほど進むと左側に階段がある。そこで私は立ち止った。
「ここに泊まろうか」
今私の肩に乗っているまると呼んでいるこの細長い動物もどきのは嫌そうな顔をした。カワウソのような愛らしい顔をしているけれど、その表情は不細工である。
「今日も外で寝るの~、最近多いよ、外」
「仕方ないじゃない。お金ないんだから。依頼も来ないし」
「そうだよね、人類も進歩しちゃって、なんでも自分で解決しちゃうようになったから、僕らの仕事も少なくなってきたね、その代わり変なのが生まれてきてるみたいだけど」
まるは私のポニーテールをゆさゆさしながらそう言った。
「あれなんだろね、1万年生きてきたけど初めて見るね」
「僕の推測だけど、今の人類の感情が具現化したものだと思うな」
「そうなのかな、私はもっと違うものだと思うけど」
「例えば?」
「宇宙から来たものとか」
私はにこっとしながら言った。
「君は本当に宇宙に興味津々だね、そんなに生きているなら宇宙飛行士にでもなればいいのに」
「宇宙飛行士になっても果てまではいけないじゃない。もっと他の方法を模索しているの!」
私たちは階段を上りきり、目の前には神社が見えた。役所の人か誰かが手入れしているのだろうか、かなり奇麗にされている。私たちはコンビニのおにぎり一つを頬張り、その神社の裏側で一夜を明かした。