94話 ナイスショット
「ギャギャギャッ!!」
アスピドケロンの頭の上にいたゴブリンライダーがそう言って鞭を振り回した。
アスピドケロンの頭に鞭は何回も当たってピシッピシッという音をしたが、アスピドケロンはまったく痛がる様子もなくボーっとしている。
多分、甲羅だけじゃなくて皮膚も強くて鞭が当たったくらいではなんともないようだ。
・・・じゃあなんでライダーは鞭持ってるんだろう・・・。
あれかな?形から入るタイプなのかな?
とか思ってたら、アスピドケロンはゆっくりゆっくり横を向いて、ルートからそれだした。
ロディオータの言った通りになりそうだ!
これは大変だ!
そんなことを思いながら俺は今、アスピドケロンの真横を走っていた。
ロディオータに説明を受けた俺はいても経ってもいられずロディオータが止めるのも無視してまた持ち場から離れ、アスピドケロンの方に走り出した。
作戦の責任者のロディオータには勝手にウロウロして申し訳ないけど、俺は皆が戦ってるなかを呑気に待ってるような性分じゃないんだよ。
まあ、その性分をわかってるのか多分だけど、ロディオータは俺がウロウロするのをほっといてくれているようだ。
たしなめるのも止めるのも本気な感じがしないから、そう思ってるだけだけどね。
本当にウロウロしてほしくなかったらロディオータの持ってる魔剣で脅すとか、他の騎士に見張っとくように言いそうなんだけど、それをしないならこっちは好きなように行動させてもらいますってことだ。
『なにかアイデアはあるのかい?イオリ。』
アスピドケロンの様子を伺いながら真横を走り抜けようとしている俺の肩に乗っている情報の精霊は聞いてきた。
「おお、一応ちょっと思い付いたから試してみようと思って。」
そう言いながら真横を走り抜けた俺は、アスピドケロンの真後ろに来る位置まで移動した。
「はぁっ、はぁっ・・・。」
全体を見渡せるとこからアスピドケロンの真横まで走ったから息切れした。
あっちの世界にいた時よりは体力はついたと思うんだけど、それでも走り慣れてないしなあ。
【武術超越】の時はまったく息切れしないのに。
それも【武術超越】の補整なんだろうか?チート過ぎる・・・。
俺は呼吸が整ったところで一応、周りに人がいないのを確認して集中して精霊を「呼んだ」。
『この近くの風の精霊、ちょっと来てくれー。』
サイクロンを複数人が唱えた時に複数の風の精霊が来たのは声が聞こえたからわかっていた。
風の精霊はその後その場にとどまっていたようで、俺の「呼声」に応えてふたりの風の精霊が来た。
『イオリ、なにか用?』
『なんでも協力するわよ。』
精霊は相変わらず急に呼び出したのにも関わらず超協力的だ。
「ありがとう。早速なんだけど今出ているサイクロンの同じ大きさのサイクロン出せる?吸い込むんじゃなくて吐き出すほうで。」
『できるわよ。』
「じゃあ、俺を起点に放射状に出るようにして、向かいのサイクロンに放射状の端同士を合わせる感じでお願い!魔力はいくらでも食べていいから!」
『ふふふ、わかったわ!』
ビュオオオオォォォッ!
風の精霊の明るい声とともに、俺の目の前からサイクロンが出現してあっという間にでかくなった。
そして俺のリクエスト通りに吸い込むサイクロンの端同士が繋がった。
『なるほど!吐き出すサイクロンと吸い込むサイクロンを向かい合わせにすることでとても強い風の流れを作ったんだね!ははは!アスピドケロン以外の魔物がとんでもないスピードで空間に吹っ飛ばされてるぞ!』
情報の精霊は爆笑しながら魔物たちがビュンビュン空間に飛ばされていくのを見ているようだ。
こいつやっぱり趣味悪いと思う。
アスピドケロンは急に強くなった風にちょっと大地を踏み鳴らして身を低くして、初めて地面を踏ん張りだした。
サイクロンに晒された地面ですらめくれてるのにまだ吸い込まれないのかよ!?
さすがにあの眠そうな目は必死になっている気がする。
真後ろにいるから顔見えないけど。
「風の勢いを強めたのにまだかよ・・・。」
ううむ。俺はどうしようかと苦い顔をした。
因みに騎士たちやハンターたちは急に強くなった風に面食らっているが持ち場を離れないようにしているから、魔物だけがビュンビュン空間に飛ばされていっている。
「ギャギャギャッ!」
アスピドケロンの頭の上のゴブリンライダーがアスピドケロンにしがみつきながらなにか叫んだ。
するとアスピドケロンは鳴いた。
「ンオオオオォォォ・・・」
するとアスピドケロンの手足が甲羅の中に納まって、頭も引っ込めた。
地面に甲羅の腹がついて、ますます動かない感じになってしまった。
もしかして、あれでやり過ごそうってことか!?
「ええっ!?甲羅の中入っちゃった!?」
『あれは絶対防御体勢とったね。こうなったらますます動かないよ。』
えー!?どうしよう!
そうしてる間に他の魔物は空間に吸い込まれていって、アスピドケロンだけとなった。
このままアスピドケロンだけをここに置いておく訳にもいかない。
どうにか空間に吸い込まれてくれないかなあ?
亀・・・甲羅・・・。
俺の脳裏にあるゲーム画面が浮かんだ。
そしてあるスポーツの場面も。
そうだ!ゴルフだ!
「風の精霊!吐き出すサイクロンを止めてくれ!んでふたりでマンティコアを切った時みたいに、これに風を纏わせてくれ!お願い!」
俺はそう言いながら、リンクからあるものを取り出した。
それは長さ2メートルほどのちょっと太めの世界樹の枝だった。
世界樹から切り取っただけの原木そのままをリンクに入れていたのを引っ張り出してきて、俺は両手に握ってその枝に【魔力譲渡】した。
世界樹の枝は魔力との相性ともいいし、強度面もいいらしいけど俺は自分の魔力を送ることでさらに強度を高めるイメージをした。
枝は淡く光だして、まるで魔剣のように輝きだした。
・・・うん、なんかやっちゃった気がする。
けど今は無視しよう!
『『風を纏わせるわよ。』』
ふたりの風の精霊の声がして、マンティコアの時とは倍ぐらいの風の魔力が枝に纏わりついたのを感じた。
枝は淡い光から緑色に光っている。
俺は何回か素振りした。
あっちの世界の駅のホームで何回かおじさんがやってるのをまさか俺がこんなファンタジーな世界に来てやることになるなんてな!
振る度に枝はフォンッ!という音をたてて風が舞う。
・・・よし!
やってやりますか!
俺はまだ手足の出ていないアスピドケロンに後ろから近づいてった。
そして真後ろの、丁度尻尾にあたるところの側に立つと、ちょっと深呼吸をして枝を構えた。
「これで・・・」
後ろに振りかぶった。
そして思いっきり力を込めてスイングした。
「吹っ飛べええぇぇぇ―――――っ!!」
カアアアアァァァァンッッ!!
アスピドケロンはでかい図体にまったく似合わない高音を響かせて一瞬で空間に吹っ飛んでいった。
俺は枝を肩に担いで空間の先の魔界を見てみたが、アスピドケロンは魔界の空にキラーンと星となって飛んでってしまった。
「・・・ふむ!やり過ぎた!」
一部始終を見ていたロディオータや騎士たちやハンターたちはぽかんとした表情で俺を見て立ち尽くしていた。
『ファ―――――――!』
情報の精霊は爆笑しながら叫んでいた。
某配管工が甲羅を蹴った場面とゴルフのスイングを掛け合わせてみました。
これで閑話を挟んだらこの章は終わりです。




