92話 サイクロン
序盤は三人称視点で、それから主人公視点になります。
目の前に巨大な空間の渦が出現し、出現するとわかっていた誰もがぽかんと口を開けていた。
もちろん、軽く詠唱しただけでできるものではない。
副団長が庵に諭すように話したように、空間魔法は熟練の魔法使いでも使える者を選ぶし、人間界と魔界を繋ぐとなればさらに難易度の高い魔法になる。
そのため多くの魔力とイメージが必要になり、魔法使いを50人集めてできるかどうか、なのだ。
それでも無理にでもやるとなると、クープーデンを筆頭にした高位の魔法使いなどを呼ぶか、近隣の町や村から魔法使いを大量に呼ぶ必要があるほどのことなのだ。本来ならば。
さらに仮に空間魔法が発動したとしても、人間の魔法使いが1人で空間を作れるのは直径3メートルの輪か渦ができるのが限界と言われてる。
これは魔力により輪や渦の大きさが決まるということであり、過去には大量の魔力を持っていた魔法使いがありったけの魔力を注いだのちぶっ倒れたのが3メートルだったから、3メートルが限界とされているのだ。
「本当に・・・イオリって何者?」
ロディオータは驚いたのち、目の前のあまりの光景に苦笑してそう呟いた。
はい!現場の麻生庵で~す。
先ほど俺の空間魔法モドキにぽかんとしてした皆は正気に戻って、今は事前の作戦の説明通りに空間の左右に放射状に広がっております。
空間から近いところから騎士たちでも防御が得意なメンツが並んで放射状の外に向かってハンターたちの中でも防御が得意なメンツ、という風に並んでまして、その後ろに槍が得意な騎士やハンターが並んで、そのまた後ろに弓矢や魔法が得意な騎士やハンターが並ぶって感じなんですねー。
そして俺の身に万が一なにかあったら空間魔法が解けてしまうということで、空間から少し離れたところで全体が見渡せるところの司令塔ロディオータがいる側にいることになったんですね~。
もうそろそろ来るんではないかと空気も少しずつピリついてますし、皆の顔もどことなく緊張感がただよってきております。
このあと一体どうなるのでしょうか!
では、スタジオに一旦お返ししま~っす。
はあ。緊張感がすげえ居心地悪くてつい地方のリポーター風に解説してしまったぞ。
俺は緊張感が漂う場面にあんまり立ち会わないからなにしていいかわかんない。
俺の横ではロディオータが地図を見ながら部下の騎士になんか次々と指示してるし。
今のうちにちゃんと見とこうと、俺はちょっとだけ近づいて空間を覗きこんだ。
空間の表面は水面が乱反射しているようにキラキラしていて向こう側の魔界は見えなかったけど、よく見ようと目を凝らしたらボヤーと見えてきた。
真っ赤な空に赤黒い岩山が見える。
真っ黒い葉の森が遠くに見えて、鳥とは思えない奇っ怪な魔物が奇声をあげながら空を飛んでいて、人面の巨大なムカデや腕がいくつもある恐竜が歩き回って奇声をあげている。
「うん・・・。魔界っぽいと言えばいいのかなんというか・・・。」
『おや、ここは魔界の端だね。人間界で言えば僻地ってとこかな。魔界の中心部はもっとまともだよ。人間界と変わらない文化だよ。』
「ええ・・・、なんかよかったような残念なような。」
俺としては今見えたのが魔界のイメージだったのだけど、人間界と変わらない文化ってことは、城とか家とかあるってことか?
あのムカデみたいなのとかが城で働いてんの?
まあ、掃除とかはすぐすみそうだけど。
「イオリ、そろそろ大群が来るみたいだよ。」
魔界の城で人面ムカデが鼻歌混じりに掃除しているのを想像していたらロディオータにそう呼ばれて、俺はちょっと離れたところに移動した。
「来たぞ!!」
誰かの大声が響き渡って、「魔物の大群」が来る方向から、いくつもの魔物の雄叫びや足音、少しの地響きや木々がなぎ倒されるような音がして空気が重たくなるような感覚がした。
こっちは誰もが緊張した面持ちでそれぞれ皆武器を構え、全員が鋭い視線を目の前へと向けていた。
やがて木々がメキメキ言いながら次々と倒れてたくさんの魔物が一斉に姿を現した。
「来たぞ!!サイクロンを唱えるんだ!」
ロディオータの号令で後方に控えていた魔法が得意な騎士たちやハンターたちが一斉に唱えた。
『『『数多の精霊がひとり、風の精霊よ・・・!
風の力をもって渦を生み出し、我が前の敵を吸い寄せろ!サイクロン!!』』』
緑色の風がどこからか吹いてきて、巨大なひとつの竜巻を横にしたような渦が空間の前に出来上がった。
ビュウウウウ・・・という音をたてて近づいてくる魔物たちを少しずつ吸い込みだした。
「ガアアア!?」「グウゥゥ!?」とか戸惑った声を出しながら魔物たちは転がるように1体1体ずつ吸い込まれていき、あっという間に次々と魔物が吸い込まれていく。
鳥っぽい魔物が空を飛んでいたのも、風にあおられて驚いているうちに吸い込まれていった。
「おお!いい感じだ!」
「この調子だ!」
「すげえな!魔物がどんどん吸い込まれていくぞ!?」
見ていた騎士たちやハンターたちは感心したように声をあげている。
しばらく見ていたら、風にあおられないように横に避けだす魔物や地面に這いつくばる魔物が出てきた。
横に避けだす魔物をほっとくと次々と横に避ける魔物が出てくるかもしれないし、這いつくばる魔物を風避けにして魔物の吸い込みが悪くなるかもしれない。
ロディオータはすかさず指示を飛ばした。
「放射状に広がったのをそのままさらに広がって横に避ける魔物の対応を!弓矢や魔法ができる者は這いつくばる魔物を射て!」
「「はい!」」
ロディオータの指示に答えて放射状に並んでいた騎士たちやハンターたちはさらに広がって横に避ける魔物にぶつかっていって、サイクロンの方に行くようにいなしだした。
そして這いつくばる魔物には弓矢がビュンビュン飛んでいって怯ませたり、土魔法の石つぶてで魔物を転ばせたりして次々と魔物が吸い込まれていく。
「よし、いい調子だ。問題は・・・これがいつまでできるか、だな。」
ロディオータがそう呟く。
今回の作戦の一番の問題点は、時間だ。
魔法は使うときに精霊に魔力を渡すのだが、魔法を維持するのにも魔力は必要となる。
例えば焚き火の場合。
火魔法で焚き木に火をつけると火は木を燃やすことで維持されるので、焚き火はつける時に魔力を消費するだけですむ。
しかし、なにもないところに火をつけ、それを維持させなければならないときは魔力で維持させるのだ。
そして今回の空間魔法にサイクロンは維持させるものがないために魔力で維持させる。
ということは、空間魔法はイオリの魔力で維持させ、サイクロンは唱えた者たちの魔力で維持させるということだ。
「イオリ、空間魔法は後どれぐらいもちそうだ?」
ロディオータは心配そうに聞いてきた。
俺は情報の精霊に魔力で維持させるということを事前に聞いていた。
「うーん、後1時間くらいかなあ。」
本当は空間の精霊にやってもらっているので空間の精霊が飽きない限り永遠に等しいくらいにできるし、俺の魔力は無限だから尽きるなんてことはまったくないんだけどね。
でもそんなことを言ったらさすがに非常識なのはわかったので、適当に1時間と言ってみた。
そしたらロディオータはは!?という顔をして来た。
「い、1時間も大丈夫なのか!?・・・あんだけ大きな空間魔法、10分でもありがたいというのに・・・。」
・・・1時間でも十分非常識でしたー。
『いや、もう今さら非常識を気にしても遅いと思う。』
情報の精霊の的確なツッコミ・・・ぐぬぅ・・・、お前、いつもはボケなのに・・・。
「そ、そうなると、問題はサイクロンを唱えた者たちか。彼らは恐らく30分ももたないかもしれないな。」
「え!?30分!?」
「魔物の大群」は1000だ。
どんどん吸い込まれていってはいるが、この調子でいって30分で終わるとは思えない。
うーん、どうすっかなあ。
魔力・・・魔力・・・。
・・・あ、そういえば・・・。
アレを使ったらよくないか?
ふと、俺の頭にあるアイデアが浮かんだ。




