90話 迫る前夜
暗くなった森の上、夜空に星が浮かんでいる。
あっちの世界で俺は都会に住んでいたから、こうして星が見えたことなかったなー。
星なんて田舎のじいばあの家に泊まった時しか見た記憶しかないや。
俺はそう思いながら焚き火に刺さったジャガイモがいい具合に焼けたのを見計らって塩をふってかじりついた。
ほっくほく!うめー!
あの後、作戦会議が再開されやっぱり俺はギルマスに強制参加させられた。
最初の会議とはうって変わって場を仕切って作戦を説明するロディオータと、顔を真っ青にして呆然として置物化していた福団長に疑問を覚えつつ、作戦はすんなり決まってベテラン騎士たちもギルマスも反対意見はないということで、明日の作戦は決定した。
「おい、イオリ。明日本当に大丈夫なんだろうな?」
俺の隣で干し肉を食べながらグランはそう聞いてきた。
「俺に関しては大丈夫だよ。」
だってすでに空間の精霊には協力してくれることになってるし。
空間の精霊は明日の朝から俺についててくれるって言ってたし。
因みに俺の担当?の木の精霊と雲の精霊と呼んだ空間の精霊は再開した作戦会議の終了と共に解散してった。
そして夜になったので騎士団やハンターたちはそのまま森で寝泊まりすることとなり、俺たちハンターは騎士たちのテントの隣の広いスペースでそれぞれ何人かで集まって焚き火を囲んでいる。
ハンターたちの中でテントを持っているものはそれで寝泊まりすることとなったが、急に集められて来たのでハンターの半分ほどはテントを持ってきていなくて、やむなく騎士団の予備の大型テントを借りてそこで寝ることになったようだ。
大型のテントに泊まるといっても10人が横になればいっぱいになるので、そんなところで寝たくないと不満のハンターたちは毛布だけ借りて焚き火近くでごろ寝したりしていた。
俺はリンクに荷物を全部入れていたからテントは持ってたし、俺が預かってたグランの荷物にもテントがあったので、とりあえずごろ寝している人たちよりはだいぶマシなのかもしれない。
再開された作戦会議では、明日の作戦はこうだ、とロディオータはテーブルに広げられた地図を指し示しながら説明してくれた。
「イオリの魔物を魔界に帰す、という提案が我々騎士団やハンターたちとしても被害が最小限と判断してそれを採用しようと思う。まず、イオリには「魔物の大群」のルート上に空間魔法で魔界と人間界が繋がる空間を生み出してもらう。その空間から左右の放射状に騎士やハンターを配置して、はみ出そうになる魔物たちをいなして空間に向かわせるんだ。倒すのが目的ではないのだから空間に近いものほど防御力の高い者を配置していくのが望ましいね。弓を使えるものは放射状の後方から前線支援してもらいたい。」
「ですが、そんな簡単に魔物は空間に入るでしょうか?」
ベテラン騎士は首を傾げながらそう意見した。
確かに、目の前に不自然に変な空間ができたら魔物でなくても警戒するよね。
「それは俺も思った。なので、そこは魔法でどうにかできないかと考えた。魔法を得意とする騎士やハンターに風魔法を使ってもらい、空間に吸い込まれるように風の渦・・・サイクロンを作ってもらえないかと思ってる。」
「風の渦?サイクロン?」
俺がそう疑問に思うと頭の中に魔法の情報が流れてきた。
風魔法サイクロンは五芒星の魔法で、唱えた者から前方の中範囲に風の渦を起こす魔法で通常なら吹き飛ばしたりするのだが、その逆の吸い込むのも可能な魔法なようだ。
つまりはあれか、要はサイクロンを使って巨大掃除機のように吸いこまれるようにしたいってことか。
それなら空を飛んでる鳥系の魔物でも空間を通らすことができるけど、でもそれって騎士たちやハンターたちが巻き込まれる可能性がないかなあ?
「風の渦は調整次第で放射状にできるはずだから、それもあって我々の陣形は放射状に配置している。とりあえず、魔法が得意な騎士10人ハンター10人を選抜しといてもらえるかな?20人ならそれなりに強い風の渦が作れるはずだから。」
「承知しました。」
「わかりました。」
ベテラン騎士の1人が答えて続けてギルマスが答えた。
それから明日の配置についてなど細かい話をして、作戦会議は終了となった。
まあ、ちょっと驚いたのは放射状の前線に副団長が出ることになったということだ。
なんか急なことだったみたいで、それで副団長はびっくりして置物化していたらしい。
へぇー、副団長って一番安全なところで一番文句言ってるようなイメージの人だったのに、意外。
まあ、副団長っていうくらいだから強いのかもしれないな。
・・・んまあ、作戦会議はいいんだよ。
俺は「空間魔法で作れる空間は何メートルくらいの大きさまで可能?」とロディオータに聞かれて『どこまででも作れるよ』と空間の精霊が言ったから「どこまででも作れるけど、とりあえず100メートルにする?」と言って全員にドン引かれたけどね!
そういやあ、普通は頑張っても3メートルなんだったね!引かれて当然だ!テヘッ
問題はそうではなく、今このジャガイモを頬張ってる現場で起きてるのだよ。
「イオリ、そのジャガイモ美味しそうだね。」
「塩味かけたらもっとも美味しいすよ。どーぞ。」
俺は目の前に刺していたジャガイモを焚き火の向かいに座って一緒に食べているロディオータに塩の入った瓶と一緒に差し出した。
「ありがとう。じゃあ俺の見つけたキノコをあげるよ。」
「わ、ありがとうございます。うまそー。」
・・・。
「・・・うん。うまい。・・・っていうか、なんでロディオータさんここにいるんすか?騎士団長なのに?」
なんでハンターたちの焚き火に普通に混ざってんの?
きらびやかな鎧は焚き火に照らされて眩しいし背中に背負ってた魔剣は邪魔だからとそこら辺に立て掛けてるし。
っていうかいつの間にキノコ見つけたの?
「ははは、俺はハンターたちと仲良くなりたくてね。中でもイオリに興味があってさりげなくお邪魔してみたよ。」
ニコニコそんな笑顔で言ってるが、全然さりげなくなかったよ。
ものすごい笑顔の圧で「俺もここで食べていいかなあ?」って言ってたし。
騎士たちは戸惑ってたし他のハンターたちは逃げてったよ。
だからこの焚き火は逃げ遅れた俺とグランとロディオータの3人で利用している状態だ。
グランは俺が変なことをやらかさないか心配でいてくれてるらしいが、まったくの無愛想で警戒心むき出しでロディオータを凝視している。
警戒しているからツッコミもなりを潜めている。
なんかこのロディオータ、騎士団長なのに変な人だなあ。
あ、そういえば気になってたことがあった。
「あの、ロディオータさんって、ハンターのこと好意的に見てますよね?」
思えば、この人は初対面の時からずっとハンターたちや俺のことを興味深げに見てきただけで、騎士たちのように見下して笑うこともなかったし。
ロディオータは俺のその言葉にニコリと笑って頷いた。
「そうだよ。むしろ俺は、ハンターたちに憧れてるんだ。」
「「え!?」」
「俺には剣の師匠がいてね。その人がレベルSのハンターだったんだ。」
「「!?」」
師匠がレベルSのハンター!?
そういえば・・・グランがこの国にレベルSはいたけど5年前に大往生で亡くなったって言ってたな。
「もしかして、5年前に亡くなったっていう・・・?」
「そうそう。その人が師匠だったんだ。俺は依頼として15年前から亡くなる少し前まで剣術を教わってたんだ。元々父の友人でね、それもあって依頼したというのもあったんだけど、15年前の時点でレベルSだったから当たり前だけどとんでもなく強くてね。最初は足だけとか読書しながらとか、まともに相手してくれなくてね。まあ、その時の俺は10歳だったし、父親が辺境伯だったこともあって自分が偉いと思い込んでたガキ大将だったんだけど、師匠と戦って見事にプライドを木っ端微塵にされたのさ。」
辺境伯?
確かラノベでは魔物の多くでる地帯などの危険な領地を管理しているのが辺境伯じゃなかったっけ。
爵位も結構高かったような・・・。
だったらその息子が調子乗りだったとしても不思議ではない気がする。
あくまで俺のイメージだけど。
「おかげで考え方も価値観も変わってね。そしたら師匠が剣を教えてくれるようになってね。剣の才能があったみたいで、それであっという間に騎士団に入ることになって、あれよあれよと言う間に【神の炎を持つ者】って言われるようになって騎士団長になっちゃったんだよ。」
「展開急だな!」
あれよあれよの時になにがあったんだよ。




