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8話 町へ~治療院と道具屋~

銭湯を利用してさっぱりとした気持ちの俺とロックが外で待つことしばらく、ローエ達女性陣が出てきた。

全員の石鹸や使用済みタオル、男2人の着替えは荷物持ち担当の俺が持ち、女性陣の着替えだけはローエが持つこととなった。


そうしてそのまま町に食材の買い出しへとなったのだが、ローエが「その前にイオリに連れて行きたい所がある」と言ってきた。


「昨日の日射病や記憶喪失のこともあるし、治療院に行こうと思うんだけど。・・・もっとも、記憶喪失に関しては治療院でも治療法はないとは思うんだけど、一応診てもらってもいいと思うのよ。」


それからローエから説明してもらったのだが、治療院というのは、教会が経営している病院のことだそうだ。

主に怪我や毒・麻痺等の体調異常や呪いなどを安価で治療する施設で、症状によっては入院もできるほど施設規模も大きいらしい。

しかし精神に関わる病気などはオカルト的面や宗教的面もあることから、治療法などはないらしい。

おそらくまだこの世界では未発達な分野なのだろう。


説明を聞いた俺はすごく戸惑った。


自身のことを心配して言ってくれたことに対して申し訳なさと感謝はあるが、記憶喪失ではない。

治療院がそういった分野で未発達なのは幸いというか、よかったと思うが、だとしてもバレる可能性がないわけじゃない。

挙動とかから見破られないか?

そういった嘘とかわかる魔法があるかもしれないし。

しかし、そうはいっても、ここで行かないと断ると明らかにローエに不審がられてしまう。


「えっ・・・あー。治療院ってお金はかかる?」

「治療院は診察だけなら無料よ。治療したり薬が要りようになったら、治療費や薬代が発生するけど、元が教会だからだいぶ安価ね。多分診察だけで終わるかもだから、お金はかからないと思うけど、もし治療や薬が要りようなら、出すわよ。」

「や、それは悪いからとりあえず・・・診察だけ受けてみるよ。」


ローエ達に怪しまれないためにもここは受けた方がいいだろうな。

もし怪しまれて「今すぐ出てけ」となったら無一文の俺にはキツいし・・・何より世話になっている恩返しもできなくなるもんな。

幸い、精神に関わる病気などが未発達ならこっちが気を付けてれば案外バレずにうまくいくかもしれないし。

嘘とかわかる魔法がないかはわからないが、あったとしても・・・「いい間違え」とかで誤魔化したらなんとかなるかも。

それに無料ってとこ大事だし。




治療院は銭湯がある第3地区と同じ地区にあり、歩いて10分ほどの所にあった。

全体が真っ白な石造りなのは他の建物と同じだが、大きさは他の建物と倍近く大きく5階建てで、青色の屋根に大きな十字架に似たオブジェが掲げられていた。

これまた大きな玄関の扉は開け放たれていて、何人もの人達が出入りしている姿が見えた。

ローエ達に続いて建物内に入ると、日本の病院とほとんど変わらず、1階部分は広々とした待合所には15人くらいがイスに座って順番を待っているようで、また待合所の向かいには3つカウンターがあり、左端だけに3人ほどの列ができていた。


「あのカウンターは左から診察受付、薬の受けとり受付、治療費や薬代や退院の際のお金の支払い受付なの。ということで診察受付に行きましょ。」


診察受付の列に並んでしばらくして順番が回ってくるとローエが受付に説明して、そこまで待つこともなく診察の順番が来た。





結果から言うと、俺は「記憶喪失」と診断された。


俺にとって幸いなことに、担当した医師は精神的なものはほとんど診察・治療したことがなく、記憶喪失については全く診察したことがなかったのだ。

なので前日に日射病だったこともあって一応体の状態を一通り診て、健康であることを確認しつつ記憶に関する簡単な質問やローエの話を聞いて、「おそらく記憶喪失では」と結論づけたようだった。


簡単な質問には「わからない」を通したし多分バレないだろうと思っていたが、体の状態を診るとなったときに「魔力の状態を診ていきましょう」と言われた時はめちゃくちゃ動揺した。

自分は精霊から「魔力が駄々漏れ」と言われている状態なのだ。

それを不審がられるとそこからボロが出るかもしれない、やばいと思っていたが、そこは何とかなった。


というのも、精霊が解決してくれたのだ。


『あなたイオリでしょう?協力するわ。任せて。』


担当医師が魔力状態を診ようと俺に手をかざした時に、そう声が聞こえてきた。

その精霊は「私は治癒の精霊よ」と言ってきたのだが、先日突撃取材を受けたときに一緒に来た精霊とは種類は同じだが違う個体のようで、治療院に棲みついてるものだそうだ。


その治癒の精霊は俺の「魔力が駄々漏れ」状態を"体調異常"として一時的ではあるが通常の状態に"治療"したのだ。

一時的なのはやはり無理矢理な理屈での治療のためで、十数分しかもたないと言っていたが、担当医師が魔力状態を診るのは数分だったので十分だったといえよう。


診察が終わって担当医師がローエ達と話をしている隙に、治癒の精霊の声が聞こえる方向にお礼と、好きなだけ魔力を食べていいと小声で言うと『うふふ、ありがとう』と喜ぶ声が聞こえてきた。





「記憶喪失はともかく、体は健康でよかったわ。記憶も何かの拍子に戻るかもしれないから、あまり気にしすぎないようにね。」


内心安心していたら、ちょっと気落ちしたと見えたのかローエはそう俺を気遣って、子供たちも心配そうにこちらを見上げてきた。

そんな皆に申し訳なさと心配してくれる嬉しさに苦笑してしまう。


「うん・・・ありがとう。気にしすぎないっていうのはその通りだよな。これからのことを考えないとだし。」

「とりあえずこのあとは、買い出しでしょ?ローエ姉ちゃん。」

「ええ。ついでだから買い出ししながら町案内しようかしら?いろんな地区を行くから寄れないお店は店頭で教えていくって感じで。」

「そうしてくれたら助かるよ。買い出しの荷物も持つよ。・・・全部は持てないかもだけど。」


もうすでに着替えとタオルと石鹸持ってるし。


「じゃあ、ここから近くのお店にまず向かいましょ、こっちよ。」

そう言ってローエは西方向に歩きだした。

第3地区をつっきって10分ほどで第3地区と第4地区の間の大きな通りにでた。

その大通りにある道具屋に案内された。


「ここはグレンデニア商会って大きな商会がやってる道具屋で、ポーションとか毒消しの薬とか色んな薬とかも売ってて他のお店よりも安くて品質もいいから町で人気のお店よ。」


そう言われて中を覗いて見ると、いろんな色の薬の瓶がたくさん並んでいるのが商品の多さで少し手狭になっている店内にも関わらず、なかなか繁盛しているようで人が多かった。


「このお店はポーションや薬の材料にもなる薬草の買い取りもやってて、もしイオリが薬草が生えてるのを見つけたらここに売ったらいいお小遣い稼ぎになるわよ。」

「私たちもたまに家の近くに薬草が生えてたらここに売りに来たりしてるの。」

ローエの説明にインカも続けて説明する。


「へぇー、どれくらい売れるんだ?」

「薬草3株1束で300Gよ。他の店では200G位だから、この店で売るのがオススメよ。」

「なるほど・・・。」


まあ、どう考えても俺の今の無一文の状況だからわざわざ案内して教えてくれたんだな。多分。

孤児院の経済状況を考えても、数日の内には出ていかないといけないからその後の生活にすぐにでも役立つ情報だし、覚えとこうっと。


それにしても、ローエ達は親切だし、子供達もいい子ばっかだから出てっても、遊びに行きたいなあ。もちろんお土産持って。

経済状況もなんか足しにしてもらえるような、差し入れとかで恩返しできないかなあ・・・?



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