77話 ネフィーと会う
翌日。
午前中に孤児院に来たアルに今日の午後からのアポが取れたと言うと、アルも午後から大丈夫と言ってくれた。
お土産の件はどっちでもいいらしい。
こっちの世界の文化では貴族の文化があるために貴族間ではなんか賄賂とかそういうのがあったり、貴族と商人の間でも色々とあるみたいだけど、一般人が王族や貴族にあげるのは賄賂にもなんにもならないらしい。
というか、そもそも一般人が王族や貴族に物をあげる機会はないんだけどね。
どっちでもいいならお土産あーげよっと。
ちゃっちゃと昼飯を食べてアルと出発。
城壁を抜けて城の前に来て、門番に許可書を渡したらしばらく待たされて昨日の執事が来た。
「こんにちはー執事さん。」
「ようこそおいでくださいました、イオリ殿、アルフレッド殿。」
「アルフレッド・ジル・カンディンスキーと申します。」
執事とアルはお互いににこやかに一礼していた。
なんか俺だけ軽い感じだけど、性格だし一般人だからいいんだよ!
『初めてのお城でなぜ君は緊張してないのかねえ?人間の権力者の集まった場所に来てるんだよ?さてはアレなの?性格図太いんじゃなくてアレなの?』
なーんで今日がよりにもよって俺の担当?が情報の精霊なんだよ!?
アレとか言うな!
異世界の城で権力者がいるっていまいちピンと来ないだけだよ!
気持ちとしては、海外の古城に観光で来てるって感じ。
そして古城を管理している人の娘さんに会うくらいの気持ちなんだよ。
「おや?どうされましたイオリ殿?」
俺が心の中で情報の精霊にツッコミをいれていたらなんとも言えない表情になったのを執事に察知された。
「い、いえ。なんかお城の中に入るから今さら緊張してきたかも。」
「ふふふ、大丈夫ですよ。姫様も楽しみに待っておりますよ。」
「あ、ははは・・・。」
アルと情報の精霊は嘘つけという空気を出していたけど無視した。
城の中はファンタジーものでよく見る、ヨーロッパの古城そのものの光景が広がっていた。
石造りの壁には豪華な絵画が飾られていて調度品もそこらじゅうにあって、天井には花の壁画にでかいシャンデリアがぶら下がっていた。
窓の外は中庭が見えて、噴水がいくつも見えて緑も多くバラのアーチとかもチラッと見えた。
ふわーっ、すごいなあ・・・。
俺はキョロキョロしながら執事についてって、アルも興味深げに見回している。
『あ、あれは80万の壺、120万の絵画だねえ。おっとこっちには300万の絨毯だ。今イオリの目の前にあるランプは160万だね?試しに割ってみるかい?ウリウリ』
目の前のランプが小さく揺れる。
ぎゃーー!!やめろばか!!
慌てて声がしたランプの手前を殴るが精霊はこっちから触れられないみたいで空を切った感覚がした。ちくしょうめ!
つうかなんでいちいち金額を言ってくるかねえ!?
しかも俺が近くを通った調度品ばかり!
わざとだな!?絶対わざとだなあ!?
くそう!情報の精霊の笑い転げてる感覚がする。
「・・・。」
アルの視線が痛いけど無視じゃい!
広い廊下を進んで広い階段を上り城の中に進んでいく。
全身鎧を来た警備の人もたまにすれ違ったり、黒と白のメイド服を着たメイドさんがしずしず歩いているのにも何人にもすれ違った。
「こちらが姫様のお部屋でございます。」
ある扉の前に立ち、執事はコンコンとノックした。
中から「はい」という声が聞こえてきた。
執事は扉を開けると、俺とアルに中に入るように促してきて、俺はひょっこり部屋を覗きこんだ。
部屋の中はとても豪華な家具に調度品が並べられていて、部屋の中央にテーブルとソファがあってそこにネフィーはこちらを向いて座っていた。
相変わらずの黒髪美少女で、今日は髪を軽く結い上げてて紫のフリルは少なめだけどキラキラした豪華なドレスを着ていた。
ネフィーはぎこちない笑顔でぎこちなく立ち上がった。
「お、お久しぶりです。」
あわー、しばらく会ってなかったから人見知り発動してらっしゃるわー。
まだ部屋の中を見てないアルはどうした?という顔をしていたので「ちょっと待ってて、人見知り発動してる」と囁いて、俺だけ部屋に入った。
「久しぶりです姫様。元気でした?」
「あ、はい。げ、元気でした・・・。」
俺が少し砕けて話しかけると驚いた表情をしていた。
恐らく王族にあったらまずする挨拶とか礼儀とかをやらなかったからかもしれない。
後ろで執事とアルが驚いてるっぽい空気も感じられたが無視だ無視!
「そりゃよかったっす。俺は因みにホレこの通り。相変わらず元気にハンターやってますよ。」
「そ、そうですか・・・。」
「今日は遊びに来ちゃったけど大丈夫でした?なんか予定とかあったんじゃないですか?」
「い、いえ。今日は午後から暇でしたから本を読むつもりでしたし。イオリがこうして遊びに来ていただけるなんて嬉しいですわ。」
そう言って遠慮がちにニコリと微笑んでくれた。
よしよし、ちょっとは発動は弱まったかな?
「んで、今日は遊びに来るにあたって、ハンターの俺が姫様んとこに遊びに来てもまあ、礼儀もなにもわかんないんで、礼儀とか知ってる俺の友達連れてきたんですが。アルフレッド・ジル・カンディンスキーなんすけど。部屋に入れて大丈夫です?」
「え、あ・・・は、はい。だだ、大丈夫です。」
姫様はちょっと不安げに眉を潜めた。
「大丈夫大丈夫!アルはめちゃくちゃいいやつですから。孤児院に色々と寄付したりしてるくらいなんすよ。」
「そ、そうですか・・・。」
俺は部屋の外に向かって手招きすると、アルはしずしずと部屋に入ってきた。
入ってきて深く一礼して、自己紹介した。
「アルフレッド・ジル・カンディンスキーと申します。ネフィエンヌ様にお会いできて光栄でございます。」
これが挨拶なのねー。
そりゃさっき驚かれるわけだわ。
「よろしくお願いしますわ。ど、どうぞ。お座りになって。」
ネフィーに促されて俺たちはネフィーの向かいのソファに並んで座った。
ネフィーも座り、執事が扉を閉めてドアの前に待機して、隅で待機していたメイドがすぐさま紅茶を持ってきた。
「あ、お土産あるんでよかったら。」
俺はいそいそとマジックバッグから取り出すフリしてリンクから昨日買った焼き菓子セットの包みを出した。
「あ、ありがとうございます!」
ネフィーは焼き菓子を見て顔を輝かせた。
「ん?もしかしてお菓子好きなんすか?」
「あ、はい。・・・どれも美味しそう。」
「このお店、甘いもの好きには有名なスイーツ店らしいですよ。」
「そ、そうなんですか・・・。早速どれかいただいてみようかしら・・・?」
そう言ってネフィーが紅茶を出していたメイドをチラリと見ると、メイドはにこやかな笑顔で「ではお皿に移し代えましょう」と包みを受け取って一旦部屋から出ていった。
・・・と思ったらもう戻ってきた。早くね!?
ネフィーはしばらく迷ってオレンジピールの入ったマドレーヌを摘まむと、ぱくっと一口噛んだ。
「わっ!・・・お、美味しい!」
うっ!相変わらず美少女の笑顔は眩しいぜ!
「でしょ?ここの美味しいんですよ。アルも食おう?」
「ありがとう。では遠慮なく。」
そう言って俺はレーズン入りパウンドケーキ、アルはチョコチップクッキーを摘まんだ。
う~ん、パウンドケーキ甘めで紅茶に合うわあ~。
このお土産にして正解だったかも。
「ネフィーはあれからまた本買いに行ったりしたんすか?」
「いえ。また魔物に襲われるかもってことで、しばらくは行かないことになりまして。執事やメイドに頼んでます。」
「ふーん。あ、でも城に図書館があるからそこのを読むとかはしないんすか?」
「たまに読んだりしますけど・・・私が好きなのは小説なので、そういった類いのは図書館には置いてないんです。」
人見知りで小説が好き・・・。
俺の世界でそういった女子は恋愛小説が好きそうなイメージなんだが。
もしくはBのLか。
さすがに野暮なことだから聞かないでおこう。
こうしてしばらく他愛もない話をしていたら様子を見ていたアルも少しずつ会話に入ってきた。
多分人見知りと事前に俺が言ってたし、ネフィーの様子からあえて今まで黙っていて、ネフィーの緊張が少しずつ解けたところで話に入ってきたということなんだろう。
さすがアル!
さてはおモテになるな!ちくしょうめ!




