76話 アポ取り
朝。
『イオリ起きろーー!』
「わーーーっ!?」
耳元で精霊に叫ばれて飛び起きた。
「・・・は?ふぁ?・・・へ?なに?」
瞬きを何回もしてアワアワしながら体を起こしたら、精霊が挨拶してきた。
『はよーさんイオリ!さっさと起きろ!シャキッとしろ!』
「はあ?へえ?あ、おはよう。」
『ちょっと鱗の精霊、もうちょっと優しく起こさないと~。おはようイオリ。』
大声を出して起こしたら精霊が俺の枕元から、もうひとりの精霊が空中から聞こえてきた。
いつものように「視た」ら、枕元に緑色の蛇のゆるキャラがいて空中に鳥の精霊がいた。
蛇と鳥・・・
ハラハラドキドキが止まらない組み合わせだ・・・
『俺は鱗の精霊だ。よろしくな!』
「はあ、よろしく。・・・鱗?蛇ではなくて?」
『蛇はちょっとジャンルせめーだろ。この姿は分かりやすく蛇だが、トカゲや鱗の肌とかを司どってんだよ。そんなことより!顔洗うのか?朝飯食いに行くぞ!』
鱗の精霊は早口でそう言いながら俺の横腹を頭突きしてきた。
痛くないけど追いたてられる感じで俺は慌ててベッドから出た。
『ちょっとちょっと鱗の精霊!せっかち出てるよ~!イオリ無視していいからね?』
「お、おう。」
俺は大いに戸惑いながら部屋から出て、広間に行くとちょうど子供たちが朝御飯を食べていた。
「「「おはよーイオリ!」」」
「おはよー。」
「あらおはようイオリ。今日は早く起きたのね。」
「あ、うん。精霊がせっかちで大声で起こされた。」
「精霊がせっかち・・・?ま、まあ、朝御飯すぐ用意するわね。今日はお城に申請しに行くんでしょう?」
「うん、そう。」
あの後、グランらと話したのだが、城の中に知り合いがいても入るには申請がやはりいるらしいのだ。
でも「ちょっと中に入りたいんです」より「知り合いに会いに来ました」の方が申請が通りやすいそうだ。
なのでその申請をしに、城に行くというわけだ。
しかし身分も特にないハンター1人で知り合いに会うというのは難しいようで、アルの提案で子爵の嫡男のアルも一緒に行くことになった。
知り合いのところに男2人で行くのはアレかもしれないけど、まあ、礼儀とか所作とかわからない俺のサポート役をやってくれるらしい。
だが、アルの貴族としての仕事もあるので明日以降でアポを取りにいくつもりだ。
朝食後、原っぱで遊ぶために飛び出してった子供たちの後に続けと俺も飛び出した。
・・・あ、グランにおはよう言わずに出てきちった。
ま、いっか!
『走れイオリ!ちんたらしてんじゃねえ!1番乗りでアポ取りに行け!』
「別に1番乗りじゃなくていいじゃん。鱗の精霊落ち着いてって。」
『落ち着くってなんだ!?走れ走れー!』
左肩に乗った鱗の精霊が叫んでるし、それを呆れた感じで見ている鳥の精霊が右肩にいる感覚がある。
今日の担当?はガヤがすごそうだなあ・・・。
ノヴェーラの東側から入って北側から出て、道なりに丘を上がったところにローワン城がでっかくそびえ立っている。
すげえ昔からあるみたいで、城壁や城は白ではなくて年期の入った灰色だ。
でもそれが趣があってかっこいい感じになっている。
城壁の出入り口には全身鎧の門番2人がいたが、こっちをじろりと見られただけで止められることなく城壁の中に入れた。
城壁の中は目の前に小さめな噴水があって、それを中心に左右と奥に道が続いている。
左右の道は城壁の中にある貴族の屋敷とかに繋がってて、奥の道をまっすぐ行くと城に着くみたいだ。
俺はチラチラ周りを見ながら奥に進み、城の出入り口に着いた。
城の出入り口には先程の城壁の門番と同じ2人の全身鎧がいた。
今度は俺が近づくと1人が前に立ちはだかった。
「ローワン城に用事か?何者だ?」
「すいません。友達んとこに遊びに行きたいんで、城の出入りの申請をお願いします。」
「あ?友達?」
「うん、友達。」
俺はそう言って腕につけたブレスレットを見せた。
金の彩飾を施された、王家の紋章が入ったブレスレットだ。
みなさん覚えてるかな?
そう!ローワン国のお姫様、ネフィエンヌことネフィーにもらった友人の証だ!
行くことはいくらなんでも恐れ多いからないと思っていたけど、まさか行くことになるなんてなあー。
まあ、城の中に入るために利用しているみたいになったら失礼だから、もちろん会っておしゃべりするつもりではいるんだけどね。
そのついでにクープーデンに会えて図書館に行けたらいいなって感じ。
ということで、俺はネフィーんとこに遊びに来たんだぜ!
ドーン!(ブレスレットを見せつけている)
「!?そ、そのブレスレットは・・・!?しょ、少々お待ちください!!」
門番はブレスレットを見るや慌てて城の中に駆けていった。
ちょっと待ってたら慌てて戻ってきた。
門番の後ろには執事がついてきていた。
・・・あ!あの執事はネフィーと一緒にいた執事だ!
執事は俺を見るとニコニコ笑顔で近づいてきた。
「これはこれはイオリ殿。」
あ、覚えててくれたんだ!
「こんちわ執事さん!覚えててくれたんすね。」
「姫様を助けていただいた恩人を忘れるわけがありません。」
「姫様は元気でしたか?相変わらず・・・?」
「はい、元気に人見知り中です。」
わーお、あれから1ヶ月半経ってんのに人見知りは治らずか。
まあ、しょうがない、そうかんたんに性格なんて変わらないものだからね。
「門番から、遊びに来て下さるとお聞きしましたが。」
「はい。どうしてるかなって思って。んでアポ取りに。」
「そうですか。姫様は明日の午後でしたらお時間があります。どうでしょうか?」
「明日の午後なら大丈夫です。あ、俺だけだと所作とか礼儀とかで失礼なことしちゃいけないから、俺の友人の貴族と遊びに来るつもりなんすけど。」
「ほう?貴族のご友人がおられるんですか?」
「あ、はい。アルフレッド・ジル・カンディンスキーです。」
アルのフルネームは夕べ、聞かれるだろうからとアルからの提案で覚えた。
「ああ、カンディンスキー子爵家の。あの家のものでしたら大丈夫です。」
あの家のものでしたら大丈夫です?
大丈夫じゃない家があるのかな?
・・・まあ、王族や貴族の世界も色々あるんだろう。
ラノベでよくあるもんな。派閥とか派閥とか派閥とか。
「わかりました。んじゃあ、明日午後よろしくお願いします。」
執事さんは胸ポケットから紙とペンを取り出すと、サラサラとなんか書いて俺に渡してきた。
「申請許可書です。明日そのブレスレットと許可書を門番に見せたら入れますからね。」
受け取った紙には申請許可書という文字と日付や大まかな時間、俺とアルの名前等がかかれてあった。
俺はお礼を言って城から離れた。
そうして俺は城壁を出て、ノヴェーラの町に帰ってきた。
『明日か!明日じゃあ俺たちはヒメサマ見れねえな!つまんねえの!・・・でも遅刻したらいけねえ!今から寝ろ!』
「は!?せっかち過ぎだよ鱗の精霊。今ってまだ午前中よ?いくらなんでも早いって。」
『早くてわりいことなんてねえ!』
左肩からの騒ぎ声が大きいよお。
『それよりイオリ、これからどうする~?なんか買いものしてく~?』
鳥の精霊が鱗の精霊を無視して呑気にそう言ってきた。
・・・ん?買い物?
・・・あ!明日持ってくお土産!?
そうだ、忘れてた!
あれ?・・・そういやあ、こっちの世界でも遊びに行くならお土産ってあったほうがいいのかな?
貴族はどうなんだ?
「鳥の精霊、ちょっと聞きたいんだけど、俺のいた世界では遊びに行くならお土産持っていったりするんだけど、こっちの世界でもそうなん?」
『僕は情報の精霊みたいに色々知ってる訳じゃないからねえ・・・。アレなら情報の精霊呼ぶ?それか・・・明日一緒に行くっていう人間に聞いてみたら?』
え?情報の精霊呼ぶの?
ただでさえ鱗の精霊がずっとわーわー言ってるのに加えてウザい情報の精霊来られたら疲れるな・・・。
といってもアルは今日は貴族の仕事があるってノヴェーラに来てないみたいだし、かといってわざわざ訪ねていくような用事でもないしなあ。
「・・・まあいいや。お土産とりあえず買っといて、明日アルに聞いてみる。もしいらなかったらリンクに入れっぱにして子供たちにあげたらいいから。」
『あははっ、情報の精霊を呼ばないところが賢明な判断だと思うよ。』
鳥の精霊はケラケラ笑ってそう言った。
それからお土産はなにがいいか問題に直面し、騒ぐ鱗の精霊を無視して鳥の精霊とああだこうだ話して、結局は風の精霊神ウィンディがノヴェーラに来たときに買いに行ったスイーツ店に行くこととなり、そこで焼き菓子が5種類くらい入ったセットものを買った。




