65話 ハインツへの道中
朝6時ちょっと前。
やっぱり精霊に叩き起こされた俺は、先に起きてて朝飯を作ってくれて持たせてくれたローエに行ってきますを言って西側出入り口に向かった。
因みに今日の俺の担当?の精霊は土の精霊と虫の精霊だ。
虫の精霊は例によって体長30センチ位でカブトムシを丸っこくしたような見た目で、こいつが体当たりして起こしてくれたのだ。
出入り口にはすでにレイドら3人が来ていて、近くに馬車があってその前に商人と従者が立っていた。
「はよっすー!」
レイドらにそう言いながら近づくとにこやかに挨拶してくれた。
「おお、おはようイオリ。」
「「おはよー!」」
うむ、やはり双子は朝から声が揃っていらっしゃる。
それから商人と従者に挨拶した。
「護衛依頼を受けたハンターのイオリです。よろしくです。」
「イオリですと!?おお、噂は聞いてますぞ。私はノヴェーラで雑貨屋をしておりますアビロ商会の商人ウルーノです。」
さ、さすが商人。
俺の噂を知ってるのね・・・。
ウルーノさんは50代くらいの黒のチョビヒゲでベレー帽のような帽子をかぶっててタレ目の柔和な笑顔のおじさんだ。
体は思いっきりメタボで商人らしい派手めな丈の長い服を着ている。
俺が護衛依頼を受けてから誰も受けなかったようで、4人で護衛する事になったようだ。
「いやあ、レベルAのレイドに人気の双子アルスとルナに噂のイオリが護衛をしてくれるというのはなんだか贅沢な気分ですな。」
「ん?人気の双子?2人って人気なの?」
「ははは、なんか俺たち明るい性格だからすぐに依頼人と仲良くなるんだよ。それで指名されることが多くてさ。」
「もちろん依頼もちゃんとやるからね。」
つまりリピーターが多いってことか。
それで評判になって人気って訳かな?
なんだかすごいパーティと一緒に依頼することになったんだなあ。
「・・・なんだかすごい人たちと一緒になったなあ、みたいな顔をしてるがイオリ。」
顔に思いっきり出てたのか、呆れてレイドが言ってきた。
「こっちこそお前と一緒にやるなんてえらいことになったなと思ってるんだぞ。お前がいるならもう護衛完了してるようなもんだ。レベルS並の奴が守る馬車に危害を加えられる奴がいると思うか?」
「レベルS並!?買いかぶり過ぎだよレイドー。俺なんかよりレイドの方が絶対強いって。」
そう言ったらレイドがめちゃくちゃ呆れた目をされた。
なんでい!本当に思ってることでい!
そうしているうちに鐘が鳴って6時になったこともあり、俺たちは馬車に乗り込んで出発した。
馬車での移動中、護衛のやることは1人が従者の隣に座って周囲を監視して魔物などが襲ってきたら馬車の中で待機している護衛が飛び出して対応にあたるのが流れということで、まずはレイドが従者の隣で周りを監視することにして、俺たちは馬車の中で待機する事となった。
と言ってもずーっと黙ってるわけにもいかず、話しているんだけど。
「へえー、ウルーノさんの店は輸入雑貨が中心なんですね。」
「そうなんです。まあ、小さい店なんですけど他には置いてないものを置いていると結構いい評判をいただいてましてね。」
「その他には置いてないものを見極めて買い付けるのがウルーノさんって訳かあ。」
「ウルーノさんってすごいのねー。」
俺とウルーノさんの会話に双子が入ってきた。
まあ、2人の性格もあるし4人しかいないんだし、会話に入ってきて当然だ。
「他国の物って面白いものばかりですよ。それがハインツの町にはたくさんあるわけです。」
「それは船で色々輸入品が入ってくるからですか?」
「そうです。ハインツなどの港町には問屋がたくさんありまして、船で他国の物を仕入れてまして、それを我々商人が買い付けるんですよ。」
ということはハインツの町は町自体だけじゃなくその輸入品も色々見れるってことか!
この護衛依頼受けてよかったかも!楽しみだなあ!
たまに魔物が襲ってくるが馬車の中の俺たちが対応した。
盗賊も1度出たが、俺は人型はダメなんだと説明してレイドと双子にお任せした。
そして昼になって途中の脇道に馬車を停めて簡単にすませて、午後からは御者席の隣にはアルスが座って監視した。
夕方になって、道の端の方に場所を停めてそこで夜を明かすことになった。
そこは往来する馬車の休憩ポイントになっているそうで、焚き火跡があちこちあった。
その1つに焚き火を作ることになって枝を集めたり近くを探索している時。
俺はなんとなくふと、ルナが近くに立て掛けておいた弓矢が気になった。
そういえば・・・俺って弓術できるんだっけ。
どんな感じかやっときたいなあ。
「なあルナ。あの弓矢って触ったらダメ?」
「え?いいわよ。イオリ、弓矢に興味あんの?」
枝を焚き火跡にくべていたルナは俺の方を見てそう聞いてきた。
「うん。俺って今まで撃ったことなくてさ。どんなもんか興味が湧いて。」
「弓矢って面白いわよ。意外に引くのに力いるけど狙ったところに当たったらスッキリするの。」
ルナはそうニコニコしながら言って弓矢を渡してきた。
「矢が勿体ないから1回だけ撃たせてもらっていい?」
「いいわよ!」
テレビでなんとなく見たことある感じだけで構えてみて、矢をつがえて引っ張る。
おお・・・ホント、意外に力いるなあ。
狙いはどうしよう・・・、向こうの方を飛んでる鳥を狙ってみよう。
結構離れているからどうせ当たらないけど、方向はこんな感じかな?
あれ?いつの間にか周りが謎現象になってる。
あ、いや、謎現象じゃなかったね。【武術超越】だね。
前に川で魚を捕るときもなったから、戦闘と判断されたってことか?
届かないと思うんだけどなあ・・・。
まあ、いいや。適当なタイミングで、えーい。
ヒュウウゥゥゥンッ
「ギャッ!?」
「ギャッ!?」
「ギャッ!?」
あれえ?
鳴き声が3つ?
途端に切れた【武術超越】。
「えっ!?えっ!?」
ルナはビックリしてあたふたしている。
「ありがとう。適当に撃ったらなんか当たったよ。」
「いやいやいや!!なんでそう落ち着いてんのイオリ!?めちゃくちゃ凄かったわよ!!」
狙った鳥が落ちたところと思われるところに行ってみたら、鳥の魔物の首に矢が刺さってました。
・・・それも3羽。
どうやら俺の放った矢はたまたま鳥の魔物が一直線に並んだ瞬間に一気に3羽まとめて刺さったようです。
いや・・・さすがに自分でも引くわあ。
とりあえず、3羽一気に仕留めたなんてドン引きされるだろうから、2羽をマジックバッグに隠して1羽仕留めたことにした。
「あの距離で生まれて初めて撃って1羽を一発で当てるなんて・・・私何年も弓矢扱ってきたのに、自信なくすわあ・・・。」
ルナはガックリと肩を落としていた。
2羽隠しといてよかった・・・!
翌日からは俺も御者席の隣で監視することとなった。
といっても俺は監視なんてしたことないからレイドにアドバイスをもらって、密かに精霊に協力してもらって精霊たちが馬車の周りを見回ってくれたりした。
因みに魔物はそこまで強いのもいなかったしレイドたちは強かったのもあって精霊の力を借りることはなかった。
そうして俺たちはたまに襲ってくる魔物に食べられる魔物がいたら、捌けるレイドとアルスが捌いて食べたりと呑気に移動して、予定通り4日目の昼にハインツの町に到着した。




