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53話 怒り

悲鳴が聞こえて、俺とエティーは反射的に声のした方向へ走り出した。


ガサガサと草を掻き分けて進むと、さっきの冷たい気配が悲鳴がした方からしてきた。

「うっ・・・!」

エティーは少し顔色を悪くしながらも一緒に気配の方に進んでいる。

そして拓けたところが前方に見えてきて、そこには1体の魔物を遠巻きに取り囲む黒ずくめのハンターたちの姿があった。

魔物は2メートルほどのライオンに蝙蝠の羽、尻尾が毒針という姿だ。

見ただけでマンティコアだとすぐにわかった。

マンティコアは鋭い牙をむき出しにして取り囲むハンターたちを警戒して唸り声をあげていて、マンティコアの目の前にギルマスが剣を構えてハンターたちに指示を出していた。

「隙を見て足を狙え!魔法が得意な奴は魔法で羽か毒針を撃て!」

「「はい!」」

周りをよく見てみると、参加者の何人かは草むらに隠れながら戦っている様子を見ている。

俺とエティーも様子を見ようと草むらに隠れた。


「行くぞっ!」

ギルマスの号令でハンターたちは次々と武器で攻撃したり魔法を撃ったりしているが、マンティコアは前足と毒針の尻尾を巧みに操って武器をいなしたり魔法を避けたりしていた。

「ガアアアァァッ!」

そしてマンティコアが鋭く吠えて横に一回転すると、衝撃波がいくつも出てハンターたちを襲った。

「ぐわっ!?」

「がはっ!?」

ハンターたちは腹や頭に当たって次々と吹っ飛ばされた。

ギルマスとレイドはそれぞれ剣を構えて衝撃波をそらして、吹っ飛ぶハンターたちをチラッと見ながらも攻撃の隙ができたとマンティコアに駆け寄り、ギルマスは前からレイドは横から切りつけた。

しかしマンティコアは上に跳び上がり、その勢いのまま蝙蝠の羽をバッサバッサとはためかせて上空まで飛んだ。

「くそっ!・・・お前ら大丈夫か!?」

「だ、大丈夫です!」

ハンターたちはよろけながらも皆立ち上がった。


「ガアアアァァッ!」

マンティコアは上空でまた吠えると、口からファイアボールをいくつも吐いた。

それが次々とハンターたちを襲う。

「うわあっ!」

「あちちち!」

ハンターたちは悲鳴をあげながらもファイアボールを避けて草むらに逃げたり服に火がついて慌てて叩いて消したりしていた。

「ファイアボールに気をつけてこっちも魔法を撃て!」

ギルマスの指示でハンターたちは避けながらもファイアボールやウインドカッターなど撃つが、マンティコアは上空にいるので巧みに避けられていた。


と、エティーが急に草むらから飛び出すと、マンティコアに向かってファイアボールを撃った。

「お、おい!エティー!?」

「!?」

俺が慌てて声をかけたので、ギルマスはエティーが草むらから出てファイアボールを撃ったのに気が付いた。

「嬢ちゃん!草むらに隠れてるんだ!」

「いやよ!私もハンターなんだから戦うわ!」

その時、マンティコアはエティーに向かってファイアボールを撃ってきた。


「危ない!」

ギルマスはエティーを庇って迫り来るファイアボールを剣で切った。

ファイアボールは切られた瞬間に爆発し、それにあおられたエティーは尻餅をついた。

「嬢ちゃんは下がってろ!あんたに怪我されちゃあ困るんだよ!」

「で、でも!私は・・・!」

「ギルマス!危ない!」

ハンターの声にギルマスが慌てて上空を見ると、マンティコアがこちらに迫ってきていた。


マンティコアはギルマスを押し潰そうとしているようにドスンと勢いよく着地して、前足でギルマスの体を押さえつけた。

「ぐわああっ!」

ギルマスは苦しいようでもがくがまったく体が抜けないようで、苦悶の表情を浮かべている。

「ギルマス!?このやろう!」

レイドや動けるハンターは次々と切りかかろうとするが、マンティコアは羽や毒針を振り回して牽制している。

「あ・・・ギルマス・・・!」

エティーはマンティコアを目の前にして恐怖でガタガタと震えている。

ギリギリ剣は持っているけど、とても攻撃できる余裕がないように見える。


どうする!?

このままじゃあ、ギルマスが殺される!

レイドや他のハンターたちがなんとか助けようとマンティコアに近づこうとしているけど、まったく武器も魔法もダメージを与えてないこの状況で、助けられるとは思えない。

かといって・・・レベルAなんて戦ったことないけど戦えるか、俺!?

でも助けないと・・・ギルマスが・・・。


と思っていると、マンティコアは前足で捕まえた獲物を見て、その苦痛に歪む顔を見て、ニヤリと笑った。



え、笑う?

そこでなんで笑うんだ?

そんな・・・まるで、弄ぶみたいに・・・。

人の命を・・・奪うのか?


あ、なんか腹立ってきた。

あの笑顔に、イライラする。


俺って、あんまり怒んないタイプなんだぞ。

あちらの世界で喧嘩を吹っ掛けられても避けてたから、馬鹿にされたことなんて結構あったけどそれでも怒らなかったくらいなのに。


俺は気付くと草むらから出て、マンティコアに近づいていた。

いつの間にか謎現象も発動しているようで、全部がゆっくりだ。

俺はギルマスが押さえられている前足に近づくと、右足を後ろに上げた。

「お前・・・その前足を退けろ!!」

そう言いながら思いっきり上げた右足で前足を蹴った。


バキボキベキィッ


マンティコアのでかい前足は俺が蹴っただけで、くの字どころかめちゃくちゃに折れた。

あれ?いつもは音聞こえないのに聞こえたな。

よっぽどの音だったのか?まあいいや。

マンティコアは悲鳴のような声で吠えると、ヨタヨタと前足を庇いながらものすごい怒りの表情でこちらを唸ってきた。

でもギルマスや皆はまだ反応していない。

マンティコアだけ少し早い。

・・・これはグランと戦った時と同じことが起きている。


マンティコアは口を開けてファイアボールを目の前で撃ってきた。

俺は少し体を横にするだけで避けた。

今撃ってきた感覚からして、グランよりは少しだけ早い。

通常1秒が5秒になるのだが、グランは1秒が3秒になって、マンティコアは多分1秒が2秒くらいになっている。


ここでようやく周りが反応しだした。

ゆっくりだが驚いている。


「なんで笑顔になってんだよ、あんなに苦しんでたのに。」

毒針の尻尾を振り回してきたが、それも避けた。

「苦しませて殺すなんて、ふざけんな。あの女の人もお前に食べられた人たちは皆生きたかったんだぞ。」

尻尾を避けながら素早く近づいて魔剣を抜いて、片方の羽を切った。

これで空に飛ばれる心配はなくなった。

切った羽の根元から血が吹き出てマンティコアは苦しがっている。

「命は弄ぶもんじゃない。笑顔で・・・人を食いやがって!」



俺は魔剣を振り上げた。

「風の精霊・・・剣に風を纏わせてくれ。」

俺は小声で風の精霊に話しかけた。

魔法の知識は本の精霊が本を頭に入れてくれたからわかる。

魔剣は魔法を剣に纏わせることができるそうだ。

こんなことしなくても倒せそうな気がしているが、なんとなく一撃で倒せるのはこの方法がいいと、感覚がいってる気がした。

『了解。イオリが怒ってるからサービスしとくわ。』

白い淡い光が緑に変わり、それが風となって剣に纏わりついた。

なんかものすごい魔力が凝縮されている感覚がする。

周りの空気がビリビリして鳥肌が立つような感覚という感じだ。

ちょっと嫌な予感がするが、イライラしてるからまあいいか。


魔剣から放たれた魔力に、マンティコアは驚き怯えた表情をしてガタガタと震えだした。


「今さら恐怖しても遅ーよ。はああぁぁ―――――っ!!」


ズバアアアァァァッ!!


魔剣を振り下ろすと縦の衝撃波が一瞬にしてマンティコアを真っ二つにして奥の木々や草むらを切り裂いた。

マンティコアの体は左右にゆっくりと別れてズシンッという音と共に倒れた。

と同時に、謎現象は解けた。



「・・・っはー!スッキリした!」


2つになって地面に倒れたマンティコアを見て俺がそう言うのを、皆がぽかんと眺めていた。




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