51話 マンティコア
ピイイイイ―――――――――!
夜の森にそんな音が響き渡った。
鳥の鳴き声とは違う、ものすごい甲高い音だ。
なんか笛のような音だなあ・・・。
テントを立てていた俺は手を止めて辺りを見回した。
特になにもない・・・よな?
『イオリ、イオリの後を付いてきていた黒ずくめの人間がこちらに来てるわよ。』
え?忍ぶのが得意なハンターが?
「イオリ!緊急事態発生につき、試験は中止だ!」
そう言って黒ずくめの男のハンターが慌ててやって来た。
30代くらいの全身黒ずくめでフードを被った姿で、腰に剣をさしている。
「え!?緊急事態!?」
「あ、急にすまない。俺は今回の野外試験であんたの後を付いて行くように言われたレベルAハンター、レイドだ。」
レベルAハンター!今までレベルBハンターなら何人も見たことあったけど、レベルAはほとんどなれないことから、"才能のA"と言われているんだっけ。
へー、この人才能があるのか!すげえな!
俺の感心している視線に気付かず、レイドは続けた。
「さっきピーという音がしたのを聞いただろう?あれは後をつけるハンターが緊急事態が発生したときに吹く笛の音だ。」
「確かに聞こえた・・・。あ、ってことは、参加者の誰かになにかあった可能性があるってこと?」
「恐らくな。申し訳ないが、あの笛が鳴ったら試験は中止となるから、俺の指示に従って一緒に山を下りてほしい。」
「わ、わかった。」
試験は中止かあ。まあ、なんかあったのならしょうがないよな。
俺はさっさと立てていたテントをしまった。
「とはいえ・・・もう辺りは夜になってしまったな。これから下山となると危険だ。魔物の心配もあるし遭難の危険性も出てくるから、一旦参加者全員が集合した方がいいかもしれない。」
ヒュウウウ・・・
すると、空に向かって火の玉が打ち上がったのが見えた。
「あれは所在地を知らせるための火の玉だ。俺たちも上げて所在地を知らせるぞ。」
そしてレイドはファイアボールの魔法を唱えて空に向かって打ち上げた。
山の何ヵ所からも火の玉が打ち上がった。
参加者についているハンターが放ったもののようで、どうやらそこまで離れたところにはいないようだ。
山の頂上にいるというハンターの火の玉も上がって、全部で6つ上がった。
・・・あれ?6つ?
参加者は7名、山の頂上のハンターも含めたら8つ火の玉が上がらないといけないんじゃないのか?
「レイド・・・、2つ足りない・・・よな?」
「ああ。おかしいな。・・・とりあえず、全員と合流してなにがあったか確かめないとな。」
しばらくして、上空に光魔法を放ったハンターがいて、レイドによるとその光魔法を放ったのが忍ぶのが得意なハンターのリーダー格の人物が放ったもので、ここに集合、を意味しているそうだ。
俺とレイドは光魔法を頼りに森を進むこととなった。
レイドは近くに落ちていた枝で簡単な松明をあっという間に作って火魔法で灯をともして、それで辺りを照らしながら進んだ。
因みにレイドが火魔法を使うときは俺の担当している火の精霊が対応していた。
どうやら魔法を使うときは、1番近くにいるその種類の精霊を呼ぶようだ。
っていうか、夜の森って雰囲気が変わって怖いな。
すごく静かだし、空気が冷えてるような感じがするし。
魔物もたまーに出るけど、ホーンラビットとか強くないものばかりだけど、闇に紛れてるからバッと現れたらさすがに驚くよ。
とか思ってたら、ガサガサガサガサ草を掻き分ける音が聞こえてきた。
わ、こんな緊急な時に魔物かよ。
だが、草を掻き分け現れたのは魔物ではなかった。
「た、た・・・たすけっ・・・」
血まみれの女性だった。
「ひっ!?」
「だ、大丈夫かあんた!?」
俺が血まみれの姿に驚いてしまったのに対して、レイドは姿を見るなりすかさず女性に駆け寄った。
女性は軽装で、どうやら盗賊っぽい。
腕やら足やらなにかに引っ掻かれたような傷があって、傷口はぱっくり開いて赤い血がダラダラと流れていた。
女性の顔は涙と血でぐちゃぐちゃになっていて、顔面蒼白でガタガタと震えている。
「君、試験の参加者だね?君についていたハンターは?何があった?」
レイドが自分の荷物からポーションをすぐさま出すとそれを飲ませながら聞いた。
女性は地面に座り込んで急いで飲んで、息を荒げながらしゃべった。
「さ、参加者です・・・。山を進んでたら、同じ参加者の男の人が・・・マ、マンティコアに食べられて・・・逃げてきたんです!」
「マンティコア!?」
レイドは顔色を悪くしてそう叫んだ。
マンティコアって・・・、よくゲームセットとか漫画でも見るあのマンティコアでいいのか?
ライオンに蝙蝠の羽が生えてて尻尾が毒針か棘の生えた球状のものっていう、あの?
確か人を喰うってやつじゃなかったっけ?
俺の考えるマンティコアそのままだったら、低レベルじゃないはず。
え、ヤバくない?
「わ、私も食べられそうだったのを、私についていたハンターさんが助けてくれて・・・。しばらく逃げてたんですけど、追い付かれて・・・そのハンターさんが、自分が足止めするから・・・逃げろって・・・そして笛を吹けって、渡されて・・・。」
よく見たら女性は手に小さな縦笛みたいなのを持っている。
「そうか!笛は君が吹いたのか。」
「は、はい・・・。」
しゃべっているうちに女性の傷口は段々と自然に塞いがっていって、女性自身も俺たちとしゃべっているうちに落ち着いてきた。
「ハンターがどうなったのか気になるが、マンティコアがいるなら集団でいないと危険だ。あの光魔法の元に参加者とハンターが集合しているはずだから、俺たちも行こう。君、歩けるかい?」
「は、はい。大丈夫です。」
女性はフラフラと立ち上がり、重い足取りで歩きだした。
しばらく歩いて、俺たちは光魔法魔法を放ったリーダー格のハンターの元へ辿り着いた。
女性と会って話を聞いていたこともあり、俺たちが最後の合流となったようで9人の男女がいた。
忍ぶのが得意なハンターは皆、黒ずくめだからどれがハンターか参加者かすぐにわかった。
レイドはリーダー格のハンターを見つけて近づいて行ったのを、俺もなんとなくついていった。
リーダー格のハンターはスキンヘッドの傷跡があるチョビヒゲおっさんだった。
ていうか・・・
「うええ!?ギルマス!?」
なんとビックリ、そこにはいつもの厳つい鎧姿ではなく、全身黒ずくめのギルマスの姿があった。
「よお、イオリ。お前らで全員揃ったってことか。」
「え、え、なんでギルマスがここに!?つかハンターて!?」
「俺はいつもはギルマスやってるが、現役のレベルAハンターなんだよ。今回の野外試験は嬢ちゃんがいるから、嬢ちゃんの後を付いていたんだよ。」
ギルマスはそう言ってクイクイと隣を親指でさしていた。
隣にはエティーが機嫌悪そうにしていた。
エティーがいるからギルマスが後を付いていた?
なんでわざわざギルマスが?
あれかな?エティーは貴族のお嬢様らしいし、なんかあったら貴族から文句言われるからかな?
大変だなあ、ギルマスって。
「ギルマス、こっちに来てたらたまたまこの参加者に合流したんだ。笛を吹いたのは彼女だそうだ。」
レイドと俺の後に付いてきていた女性をレイドが紹介して、女性は俺たちに話したことと同じ内容をギルマスに伝えた。
マンティコア、の名前のところでギルマスも隣で聞いていたエティーも驚いていた。
「マンティコアだと!?そんな魔物が出るのはもっと奥だろう!?こんな浅い山に出てくるなんて今までなかったぞ!?」
ギルマスは焦ってそんなことを言っていたのだか、よほどのことなんだな。
俺は話の邪魔にならないようにすすーっとエティーに近づいて、エティーにヒソヒソ声で聞いてみた。
「エティーごめん、マンティコアってどんな魔物か教えて。」
「は!?なに言ってんのあんた!?・・・あ!あんたそういえば・・・。」
エティーには俺が記憶喪失だと話したはず。きっと、多分。
エティーはすぐに察してくれた。
どうやら話してたな俺。
「マンティコアはレベルAの魔物で、獅子の体に蝙蝠の羽を生やして毒針のついた尻尾を持っているわ。とても凶暴で人を食べることで有名よ。いつもはここから何百キロも離れた山奥にいると言われていて、たまにどこかの村が襲われたとか噂に聞く程度よ。」
どうやら俺が知ってるマンティコアと同じなようだ。
それにしてもレベルAか。確実に強いだろうな。
「どれくらい強いとかは知ってる?」
「私たちハンターのレベルと魔物のレベルは同じような強さの表し方をしていて、レベルDハンターの私たちはレベルDの魔物と互角の強さってことを表しているのよ。だからマンティコアの場合、レベルAハンターが倒せるってことを表しているんだけど・・・。マンティコアはレベルAの魔物の中でも強い方と言われているから、レベルAハンター数人でも難しいかもしれないわね。」
え!?そうなのか!?
確か、ギルマスとレイドはレベルAハンターって言ってたけど、後何人かいても厳しいってか。
「ギ、ギルマス。ここにレベルAハンターって・・・何人いんの?」
恐る恐る見たギルマスの表情はものすごく厳しいものだった。
「俺とレイドしかいねえ。・・・後はレベルBやCだ。」
えええ!?大丈夫なのか!?




