42話 逃げてきた女性
小1時間ほど、物陰で待つ・寄ってきた魔物を倒す・血抜きして放置・物陰で待つ・・・をある程度繰り返して、量的にも十分になったところで切り上げた。
倒した魔物は近くに森があったりしたので森の魔物が多く、ホーンラビット2匹、ゴブリン3匹、ブラックマウス5匹、そして肝心のジャイアントスネークは2メートルほどのが2匹、1メートルほどのが3匹だった。
この内、魔物肉として買い取ってくれるのはホーンラビットとジャイアントスネークだったのでゴブリン・ブラックマウスらは血抜きの穴に一緒に埋めた。
あ、そうそう。前に水の精霊に血抜きをしてもらったし、水の精霊も『やってあげようか?』と言ってきてくれたが、今回はアルがいるためにもちろん地道に血抜きをした。
そして当然すべては討伐用マジックバッグに入らないということになり、俺のマジックバッグに無理矢理押し込んだ。
俺の戦いはやっぱりとても驚かれた。
俺の雰囲気から、そこまで強いとは思ってなかったんだそうだ。
まあ、俺はチートのおかげで強く見えるだけであって、実際素人レベルなんだけどね。
「さーて、帰ろっかアル。帰り着いたらちょうど夕方くらいになるんじゃないかなあ。」
その時、近くの森から草を掻き分ける大きい音がした。
ん?なんだ?魔物かな?
2人で見守っていると、勢いよく女性が飛び出してきた。
「た、たたた、助けてっ!!」
女性は涙を流しながら俺たちに助けを求めてきた。
女性は20代くらいの町民のようで、地味な服装をしているが服のところどころが汚れている。
それに足元を見ると裸足で傷だらけだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
「た、助けて下さい!と、盗賊に拐われたんですけど、逃げてきたんです!この森の奥にアジトがあって・・・!まだ、捕まってる人たちがいます!」
と、盗賊!?
女性はその場に座り込んで泣きながら呼吸を整えていた。
その様子からだいぶ走って来たんだろう。
だから服は汚れてて裸足で傷だらけということか。
「ア、アル!どうしよう!?」
こういうときにどう対処したらいいんだ!?
「とりあえず、盗賊が追ってくるかもしれないからちょっと森から離れよう。そこで詳しい話をしてもらえるかい?イオリ、替えの靴下や靴持ってないかい?」
アルは道に座り込んでいる女性の側に屈んで優しい笑顔でそう指示を出してきた。
なるほど!靴下と靴ね!
「あるある!・・・はい、これとこれ履いて。靴下はちゃんと洗ってあるからきれいだよ。」
俺はすかさずマジックバッグから靴下を出して、自分の履いていたブーツを脱いで女性に促した。
マジックバッグには俺がこの世界に来たときのスニーカーが入っていたが、この世界にないから警戒しちゃうだろうと、スニーカーは自分が履くことにして、今履いているブーツを差し出したのだ。
女性はマジックバッグだと知らないのでペッタンコの鞄から出てきた靴下と見たこともない靴に驚いていたが、おずおずと靴下とブーツを履いてくれた。
そして森からさっさと離れたところに移動して、女性を休憩してもらうために座らせた。
女性は俺が出した水筒をがぶ飲みしていた。
よっぽど長い距離を走ってきたんだろうな。
そして落ち着いた女性に、詳しいことを聞いた。
「わ、私、昨日町の近くの森で木の実を1人で採ってて、そしたら盗賊が突然現れて拐われたんです。殴られて気を失っている間にアジトに運ばれたみたいで、気が付いたら洞穴にいて。私みたいに拐われた女性が2人いて、その2人が私を逃がしてくれたんです。」
「盗賊は何人いたかわかる?」
「7人です。女性や子供を拐って他国に売り飛ばしていると言ってました。」
うわっ、なんて奴等だよ。
ラノベやゲームでよくいる盗賊だけど、実際に聞くと腹立ってくるな。
「アジトの場所はわかる?」
「すいません。捕まりたくない一心で逃げてきたので・・・。だいぶ走ったと思うので森の奥だとは思うんです。あと、拓けた丘になってるところにある洞穴だとは、洞穴の外が見えたんでわかったんですが・・・。」
女性はそれ以上はわからないようで、俺たちは2人で話し合った。
「どうする?アル。逃がしてくれた女性2人が心配だけど・・・。」
「それもあるから、早いとこアジトに突入したいね。でも盗賊7人はちょっと多いなあ。」
そして俺にとっての問題は・・・盗賊、というところか・・・。
「アル、実はさ・・・、俺、人間と人型の魔物がダメなんだ。だから盗賊を殺すことができないんだ。」
「そうなのかい?珍しいね。まあ、僕も身分の関係で殺人はダメなんだけど。」
身分ってことは、貴族は殺人がダメってことか。
「・・・じゃあイオリ、殴ったりはできる?」
「それは・・・問題ない。けど俺たぶん超弱い。」
あちらの世界ではほとんど避けてたけど、こちらの世界に来る直前ケンカしてたから人を殴るのは大丈夫だ。ただ超弱いけど。
「それ・・・問題だね。・・・うーん、僕たち2人とも殺人がダメならここは一旦町に戻ってハンターズギルドで緊急依頼を出した方がいいかも。」
なるほど、それで集まったハンターたちと突入するということか。
その間、女性たちは大丈夫か心配だけど、なんとか急いだら助けられるかもしれない。
と、女性が飛び出してきた森から誰か飛び出してきた。
ボロボロの身なりで黒い髭モジャの男2人だった。
手には斧と剣をそれぞれ持ってて、血走った目で辺りを見回している。
「あれ!もしかして!?」
「と、と、盗賊ですっ!!ひいいっ!!」
女性は男たちを見た途端、ガタガタ震えて目をつぶって体を縮こませてそう叫んだ。
その声が聞こえてしまって、男たちは俺らを見つけた。
「おう!その女を寄越しな、ガキども!」
「痛い目見たくなかったら寄越せ!」
男たちはイライラしているようで武器を振り回しながら近づいてきた。
「しょうがない、イオリ、超弱くても1人お願いできるかい?」
「え、ああ。わかった。」
俺とアルは女性を守るように男たちの前に立ちはだかった。
「あ?言うこと聞けねえのか?ぶっ殺すぞ?」
「盗賊に渡すわけがないでしょう?」
アルは鼻で笑いながら細剣を鞘に入った状態のまま、構えてそう答えた。
なるほど!鞘に入った状態でやれば切らずに戦えるってことか!
俺が感心している中、男は鼻で笑われたのがカチンときたのか、顔を真っ赤にして怒りだした。
「はっ!ガキがいっちょ前に偉そうに!殺して身ぐるみ剥いでやる!」
「盗賊とバレてるってことは女が喋ったな?どっちにしても殺さないとなあ!」
男2人はそれぞれそう言うと、俺たちに襲いかかってきた。
『イオリ!僕手伝うよ!』
肩にいる石の精霊がヤル気があるようで、そう言ってきた。
確かに魔剣使うわけにもいかないし、鞘に入った状態で戦うなんてぶっつけでやるのは気が引けるし、ここは石の精霊を頼ろう。
「あんがと。頼りにするよ。」
男2人がある程度近づいてきたところで謎現象が発動した。
俺は剣を振り上げてゆっくりこちらに近づいてくる男に注意しながら、アルの様子を伺う。
アルに見られたら魔法を使ってないということがバレてしまう。
アルの攻撃のタイミングに合わせて石つぶてをお見舞いしたらバレずにすむと考えた。
アルは魔物と戦った時と同じくフェンシングのようなポーズで次々と体の部位を突いていく。
鞘で突かれているので痣ができるぐらいの鈍痛は受けているみたいだ。
俺はその様子を見ながら、俺を襲ってくる男の攻撃を避けていた。
そしてアルは止めの攻撃を放つためにぐんと一歩大きく男に向かって跳躍した。
鞘の先が男の体に当たるちょっと前に、俺はここだと判断して石の精霊に指示した。
「石の精霊!顔に思いっきり石つぶて!」
『えい!』
どっからかビューンと手のひらサイズの石が飛んできて、男の顔のど真ん中に命中した。
え?手のひらサイズ?でかくね!?
だ、大丈夫!?死んでないよね!?
男がゆっくり倒れると、謎現象は解けた。
慌てて倒れている男に近づくと、男は顔面鼻血まみれで歯がボロボロ抜け落ち、「う・・・うが・・・」と呻いて気絶した。
よかった生きてるー!
ごめんね盗賊さん。歯は入れ歯かなんかしてください。
この世界に入れ歯があるか知らんけど。
アルの方はどうなった?と見ると、無事倒したみたいでアルの足元で男が倒れて気絶していた。
腹を鞘で思いっきり突いたみたいであまりの痛さに気絶したようだ。
あっちは痣ぐらいで歯も折れてない。俺の相手の方が不憫なことになってしまった。
「お姉さん、大丈夫?男たちは気絶させたよ。」
ガタガタ震えていた女性に声をかけると、女性は恐る恐る目を開けて男たちが倒れているのを見て、ほっとしていた。
さーて、こいつらどうしよっかなあ?
「アル、こいつらどうしよう?」
アルに話しかけたが、アルはなんか考え事をしていた。
「おーい、アル?アルさ~ん?」
「え!?ああ、ごめん、ちょっと考え事をしていたよ。ど、どうしたんだい?」
「こいつらどうしようって思って。」
「そうだね・・・。」
とりあえず、適当に近くに生えていた木に縛りつけた。
ロープはさすがになかったので木に絡まっていた蔦を引きちぎってぐるぐる巻きにしてみました。




