39話 精霊神は豪快
ウィンディは依頼をやるなら付き合うと言ってきた。
「せっかく会えたんだし、帰っても暇だからどんな感じで依頼をやってるのかナマで見たい!」
だそうです。
俺は別に構わないということで、今は2人で掲示板を見ている状況だ。
ううむ、なんかハンターたちがヒソヒソ言っている。
「あれがイオリか。あの子の待ち人っていう・・・。」
「そうらしいな。あの子、イオリをずっと待ってたんだよ。」
「もしかしてカノジョか?」
「待ってたんだっていうんなら、そうじゃねえの?」
「え、あんな超可愛い子のカレシがアレか?まあ、見た目はそんなに悪くはないが・・・超可愛い子のカレシにしてはって感じじゃねえ?」
「だよな。もしかしてあの子、乱視か?」
俺のせいでウィンディに乱視疑惑が。
その前に、カレシカノジョじゃないし!
まあ、端から見たらそう思われてもおかしくないのはわかってるけど、相手は人間に似た姿をしているけど、風の精霊神様。
俺のカノジョ扱いになってるのがなんか畏れ多いわ。
「うん?イオリどうしたの?」
「ん、ん?何でもない。」
外野を一旦無視して掲示板に集中した。
掲示板はいつものように討伐から採取から町中の依頼やら目白押し。
どうせなら、町の外に出てもいいかなあ?
「しばらく討伐やってたから、採取依頼にしようかな。この近くで採取となると・・・コレかな。」
「へえ、「フクロウの羽採取依頼」かあ。」
ウィンディは興味津々に依頼書を見ていた。
「フクロウの羽採取依頼」は、ノヴェーラの町から東北にある山に生息しているフクロウの羽を10枚取ってきてほしいという内容だ。
東北にある山、というのは俺がグランデニア商会の道具屋に上級薬草を売った際に採取した場所にした山のことだ。
結構山々が連なったうちの1つの山らしいが、フクロウは山の麓にいるので日帰りで帰ってこれる距離らしい。
レベルD以上が対象で、報酬は4000G。
「山を歩き回ることになるかもしれないけど、いいか?」
「大丈夫よ。面白そう!」
ウィンディはニコニコしてそう言ってくれたので、依頼書を持って受付へ向かった。
今日の受付はオリアナさんでもカリュムさんでもない新人の男の人だったので特に話すこともなく、さっさと作業して採取用のマジックバッグをもらった。
リア充め!という目で見られたような気がしたのは気のせいだよな?
早速、俺たちは山へ移動した。
東側から町を出て、砂漠に向かう東にのびた道を逸れて北へ行くとすぐに森にたどり着き、その森の少し奥が目的の山の麓のようだ。
森はとても静かで、空気がすげえ気持ちいい。
まあ、この世界に来てから汚れた空気なんて吸ってないんだけどね。
でもね、アレですよ。
森林見ただけでマイナスイオンを感じる気になってるやつですよ。
あ、でも緑を見たらリラックス効果があるとか視力がよくなるとか聞いたことあるな。
「どうしたの?イオリ。」
「うん?なんでもない。ちょっと緑に癒されてるだけ。」
「緑が癒す?」
隣を歩くウィンディは首を傾げていた。
いくら精霊神様でも、汚い空気とかわかんないだろうなあ。
「んまあ、それぐらいあっちの世界の人間は疲れてるってことだよ。」
「ふうん。あっちの世界の人間は楽しそうなのに大変なのね。」
「そうだな。娯楽とかいっぱいあるけどそれ以上に疲れることがいっっぱいあるんだよ。」
人間関係とか、ね。はははっ。
『わっ、イオリが遠い目してる。』
・・・・・・はっ!
いけないいけない。
そんなことより!依頼だよ!
「て、ていうかフクロウ全然見つからないな・・・。」
木の枝に掴まってるイメージがあったからズンズン奥に進みながら上の方を見ているけど、まったく姿が見えない。
やっぱり夜じゃないとダメだったかな・・・?
「この世界のフクロウはやっぱり夜行性?」
「ううん。昼も飛んでるはずよ。」
ウィンディも周りの木の上の方を見ながら返事してきた。
因みにこうやって探している間にも魔物はちょくちょく出てきて、俺が倒していって採取用マジックバッグに入れている。
謎現象を初めて目の前で見たウィンディは手を叩いてすごいと言ってくれた。
なんだか恥ずかしいやい!
「確か、フクロウって木の穴に巣にしてるんじゃなかったっけ?」
『そうだよ~イオリ!・・・あ、もしかして外にいるフクロウより巣を探そうってこと~?』
「そうそう。木の穴ならフクロウより見つけやすいかなって思ってさ。」
『だったら僕に任せてよ~!』
木の精霊が俺の肩でピョンピョン跳んでいる感覚がする。
すると木の精霊は俺の肩からピョーンと跳んで近くの木の枝に乗った。
『みんな~、フクロウの巣がある子を教えて~。』
木の精霊は木の方に向いて話しかけた。
すると周りの木々が次々と風もないのにザワザワとざわめきだし、それはあっという間に森全体に広がっていった。
『ふんふん、なるほど~。ありがとう~!』
しばらく木と話したと思われる木の精霊はピョーンと跳んで俺の肩に着地した。
『木の穴に作っているフクロウの巣は全部把握したよ。1番近いところから案内しようか~?』
「お、そうしてくれるか?ありがとう。」
それから木の精霊に右とか左とか指示されて、歩いて5分くらいのところに穴が開いている大きな木を見つけた。
だが、その穴は地上から5メートルほどの高さにあって、フクロウの巣といっても今いるのかどうかもわからない。
「フクロウが中にいるかわかるか?」
俺が木の精霊に話しかけると、木の精霊は得意気に返事してきた。
『この子が、中にいないって~。出掛けてるみたい。』
「お、だったらちょうどいいな。」
「え?フクロウがいないと羽取れないのに、いないのがいいの?」
ウィンディは首を傾げて聞いてきた。
「巣の中に羽が落ちてるだろうから、それ拾えばいいかなって思ったんだけど。羽10枚のためにフクロウ捕まえるのは気の毒だし。殺すなんてもってのほかだから。」
「へえっ!フクロウのことをちゃんと考えてるのね。感心感心!」
ウィンディはニコニコしながらうんうんと頷いていた。
え?普通だと思うけどなあ。
「問題は、巣までどうやって登ろうかな・・・。」
周囲を見回してみるも、もちろんはしごなんてないしはしごになりそうな5メートルほどの木も落ちてない。
俺が無理矢理よじ登ろう・・・という考えは高すぎるので挑戦しようとも思えない。
例え5秒の謎現象が起きたとしても筋力は上がるわけではないので上がれないな。
うーんうーんと唸って考えていると、急にウィンディがえっへんと胸を張ってきた。
「ふふふ、イオリ、目の前に役立つ存在がいるわよ!」
「目の前に・・・?え、もしかして・・・ウィンディがどうにかできるってこと?」
「そうよ。まかせて!それっ!」
そう言ってウィンディが指をくるくると回すと、俺の周りに緑色の風がまとわりつくように吹いてふわりと俺は浮き上がった。
「うえっ!?わあぁっ!」
俺は緑色の風に腰かけているような体勢であっという間に5メートルの高さに来てしまった。
「うわっ!すげえ!ひゃー高い!」
地面を見たらすごい下の方だ。
緑色の風は色がついているけど透明だから下までしっかり見える。
でも風はしっかり固い感じがする。
多分風圧とかそこら辺が関係してそうだ。
まあ、つまりは高所恐怖症なら卒倒してるぞってことよ。
「ふふふ、これで大丈夫でしょ?」
ウィンディも緑色の風に乗って浮かんできた。
「すげえなこれ!ありがとう、ウィンディ。これで巣を見れるよ。」
「えへへっ!」
ウィンディは嬉しかったようで照れ笑いをした。
美少女の照れ笑いはめちゃくちゃかわいらしかった。
巣を覗いていると、本当に空だったがすぐ見えるところにある底には羽がこんもりたまっていた。
それを10枚拝借すると、ウィンディに降ろしてもらって地面に着地出来て、緑色の風はさーっと消えた。
「よし、んじゃあ、町に帰ろうか。」
「そうね。」
そうして帰っていると、思いがけない出会いがあった。
「グオオオォッ!」
突如として、いつかのあのゴリラが現れたのだ。
こんなところで会うなんて!1ヶ月ちょっとぶりかな!?久しぶり!
ゴリラは真っ赤な体毛を毛羽立たせてこっちに敵意剥き出しで睨んでくる。
「このゴリラ、前に町の近くの沼に出た奴だ!」
倒せるかな?一応、人型だからあんまり戦いたくない気もするけど・・・。
「ネットワークで見たゴリラっていうのはこのジャイアントエイプのことだったのね。」
あ、ジャイアントエイプっていうのね。
「前は町の近くの沼にいて、ここも一応町の近くよね。危険な子はこうしちゃうんだから!」
ウィンディは指を先ほどみたいにくるくる回すと、緑色の風がジャイアントエイプにまとわりついた。
ジャイアントエイプは何が起きたかわからない様子で戸惑っていると、ふわりと少し浮き上がった。
「えいっ!」
ビュウウウウウッ!
ウィンディが軽くそう言うと、ものすごい勢いでジャイアントエイプが空の彼方に飛んでった。
本当に、某バイキンのように空に消えてったのだ。
俺はあまりのことにめちゃくちゃ驚いた。
「う、えええええぇぇっ!?あんなでっかいのあんな飛ぶか!?す、すげえ!!」
しかもそれを軽くやるウィンディはさすが風の精霊神様だぜ!
「町に襲っていったら危ないと思って町から遠ざけるつもりだったのに、やり過ぎちゃった!テヘへ!」
風の精霊神様はそう言ってまた照れ笑いしていた。
イチャイチャしてる・・・。
爆発しろっ!




