32話 ナバラ村へ
早朝の鐘がなる頃。
俺は眠い目を擦りながら町の南側の出入り口に向かった。
朝が弱い俺はもちろん精霊に起こしてもらった。
『ほっほっほっ、ほれイオリ、もっとシャキッとせんか。』
俺の頭上辺りで今日の俺の担当?の雲の精霊の声が聞こえてきた。
白い雲の形でまゆげと口髭が雲みたいになってて目と口が見えない姿だ。
『走れ走れ~!』
同じく今日の俺の担当?の剣の精霊が俺の左肩辺りでそう呑気に言っているのが聞こえてきた。
「走んなくても大丈夫だって。もうすぐ出入り口に着くし。ふぁ~。」
俺は欠伸をしながら精霊たちに答えた。
今は早朝だから人がほとんどいない。
なので精霊としゃべっても周りから不審がられる心配がないから答えているのだ。
「わかってると思うけど、これから他の人たちと一緒に移動することになるから話しかけられても答えられないと思う。せっかく来てくれたのにごめんな。」
『そんなの気にせんでええ。わしらの声はもともと精霊以外誰にも聞こえないんじゃしのう。慣れておるよ。』
『俺たちは勝手についてくだけだぜ!』
そう言ってくれたら助かるな。
状況によっては助けてもらう可能性もあるからついてきてくれるのは俺としてはありがたいんだけど。
南側の出入り口に着くと、すぐに馬車と同じ緊急依頼を受けたであろうハンターたちがちらほら集まっていた。
まだどうやら全員集まってはいないようだ。
あ、グラン発見。1人でいるな。
「おはよー、グラン。」
「おお、イオリ。はよ。」
グランはなんでもないように見える。
すげえな、眠くないのかな?
と、ルビーナさんが集合場所に来た。
俺はルビーナさんに手を振って挨拶した。
「あ!ルビーナさん、おはよー。」
「おはようイオリ。」
ルビーナさんはにこやかに挨拶をしてこっちにやって来てくれた。
ルビーナさんの後ろには数人のハンターがついてきている。
「これがうちのパーティーなんだ。紹介するわ。」
そう言って、ルビーナさんと一緒にいた4人の男女を紹介してくれた。
「魔法使いのサフィア。水魔法が得意なんだ。」
サフィアさんは30代くらいで青い髪のサラサラストレートで青目で魔女のようなローブと三角帽と杖を持っている女性だ。
「戦士のダイアン。年はとってるけど強いのよ。」
ダイアンさんは60代くらいで白髪の短髪に白髪のアゴヒゲのイケジイで使い込まれた鎧を着ている。
「盗賊のアジスト。素早い攻撃が得意なんだ。」
アジストさんは20代くらいで紫の短髪をオールバックにしたキツネ目のレザーアーマー姿の男性だ。
「狩人のエメラ。弓矢はものすごく正確よ。」
エメラさんは20代くらいで緑のおかっぱの髪に緑の大きな目でレザーアーマーに大きな弓を背負っている女性だ。
「よろしくお願いします。俺イオリっす。」
「へえ、あなたがイオリなのね。ルビーナが褒めてたからどんな人か気になっていたのよ。よろしくね。」
サフィアさんがにこやかに言って、他の人たちもよろしくと言ってくれた。
「今回の依頼を受けた人たちで、レベルBの私たちが1番レベルが高いみたいだから私たちが代表ってことになったわ。」
「へえー、そうなんだ。・・・あれ?今さらだけど、グランってレベルは?」
「俺はレベルBだ。」
ええ!?ソロでレベルB!?
すげえな!強いんだ!
「レベルBなんてすごいな!あ、だったらグランも代表に?」
「俺は代表とか性に合わないというのがギルド職員はわかってるからルビーナに話が行ったんだよ。」
なーるほど。グランは人見知りっぽいからね。
代表とかそういう目立つの好きそうに思えないし。
「ナバラ村への緊急依頼のハンターは馬車に乗ってくださーい!」
職員が準備ができた馬車の前に立ってそう叫んだ。
馬車普通のものより少し大きい10人乗りが2つ用意されていて、俺はなんとなく流れでルビーナさんとグランと一緒に乗った。
そして馬車は出発した。
出発してしばらく。
なーんにもやることがないよ!
ルビーナさんらパーティーの人たちやグランと話すか同乗のハンターたちと話したりするくらいしかやることがない。
話は楽しいけど、なんか他にやることないかなあ?
・・・っといっても何がやれるか思い浮かばないけど。
精霊たちはさらに暇で、俺たちの会話を聞いたり昼寝したりしているのをなんとなく感じた。
夜寝ないのに昼寝するとはどういうことだろう?うーん、わからん。
俺はとりあえず、皆と親睦をはかることにした。
「へえ、ルビーナさんとアジストさんとエメルさんが幼なじみなんすね。」
3人は20代と年代が一緒な感じがしたけどその通りで、ルビーナさんの発案でハンターになってパーティーを組んで、サフィアさんとダイアンさんはルビーナさんのスカウトだそうだ。
「ルビーナは結構今まで思い付きで行動してたんだけど、それがなんかいい方向に向かうことが多くてね。おかげでか、俺やエメルまでがレベルBにまでなってるし。」
「ホントそう。元々私は料理人になるつもりだったし、アジストは手先が器用だから金細工職人になるつもりだったんだけどルビーナにハンターに登録しちゃって、あれよあれよと言う間に今に至るって感じよ。」
アジストさんとエメルさんが呆れたように言うと、ルビーナさんはえ?という顔で2人を見た。
「なに言ってんの2人とも!?なんか私が無理矢理ハンターにしたみたいな言い方して!」
「みたいなじゃなくて、したんだよ。」
ルビーナさんはガーンという顔をして落ち込んでいた。
「ははっ、面白いっすね。」
「ふふっ、わかってくれる?いつものパターンよ。」
ルビーナさんが突っ込まれて落ち込むのはいつものパターンらしい。
サフィアさんが言ってきてくれた。
ダイアンさんもわかってるみたいで一連のやり取りをして笑ってる。
いい雰囲気のパーティーだなあ。
そうして話をしていたら、急に馬車が止まった。
「うん?なんだ?」
なんか馬車の前の方が騒がしい。
俺たちが乗っている馬車は2台のうちの先頭なんだが、前が騒がしいということは御者席でなんかあったかな?
「これは・・・早速お出ましかしらね?」
ルビーナさんはポツリと呟いた。
「お出まし?」
俺は首を傾げたが、皆はわかってるみたいで真剣な顔で馬車の窓から外を眺め出した。
俺もとりあえず外を見てみたら、前の方で魔物が道を遮っているのが見えた。
甲羅が角だらけの赤い亀だ。
「あれはレベルDのレッドタートルね。硬くて角が鋭くてめんどくさい魔物なのよ。」
ルビーナさんがめんどくさげに言った。
あの亀を倒さないと馬車は走らないってことか。
だから魔物がお出ましってことだったんだ。なーるほど。
「誰が倒すんだ?」
「なに言ってんのよ、私たちで倒すのよ。」
どうやら移動中に出た魔物はハンターの誰かが倒すことになっているようだ。
「レッドタートルは剣とかじゃなくて魔法で攻撃するのがいいわ。私が行きましょうか。」
そう言ってサフィアさんが立ち上がった。
そして一応守りの役目でダイアンさんも一緒に行くことになった。
2人は馬車を降りるとさっさと馬車の前に向かって、すぐに雷の音が鳴り響いて、ほどなく戻ってきた。
「ふう、雷で倒したわ。」
「お疲れさまっす。」
レッドタートルの肉は食用ではないらしいし、マジックバッグを持ってないということで倒したレッドタートルは道のわきに寄せてきたらしい。
なんか埋めたりとかしないんだ・・・。
それからは移動中たまに魔物が出て、誰かが倒しに行ってを繰り返しながら馬車は進んでいって、3時間して馬の休憩をかねて俺たちも休憩となった。
といっても俺たちはたまに魔物を倒すかおしゃべりしかしてないので、馬車の外に出て気分転換するくらいなもんなんだけどね。
馬車を道のわきにつけて、皆外に出たので俺も外に出て、なんとなく周りを散策してみた。
馬車の周りでは体を動かしている人や、何人かで集まって話をしている人などがいた。
ルビーナさんたちは御者の人たちとこれからのルートや休憩時間のことなどを話し合っているようだ。
「ヒソヒソ・・・。」
ん?なんか集まって話をしているハンターたちが俺をチラチラ見てる?
なに話してんだろ?
「おい、アレ何者だ?」
「あいつって、イオリってやつらしい。この間まで魔物と戦えなかったレベルDなんだと。」
「は!?なんでそんな奴がこんな依頼受けてんだよ!?」
「ホントだよ。俺らの足引っ張られそうでやだな。どう見ても弱そうだし。」
「しかもレベルBのルビーナのパーティーやグランと親しげに話してたぜ。レベルDの分際で。」
「生意気だな。レベル上げたくて媚びてんじゃねえの?」
うわあ、俺ってすごい言われてんなあ。
そういやあ俺、魔物が出ても戦ってないもんな。
他のハンターたちが次々とさっさと決めて戦いに行っちゃうから、行けなかったんだよ。
『なんだあいつら!?イオリ!あいつらのケツに魔剣ぶっ刺してやれ!』
なんて物騒なこと言ってんだよ!?
『ではわしはあいつらの上にだけ雷雲を発生させてやろうかのう。』
そんなことしなくていいよ!!
「・・・なんだ、気になるか?」
「うわあっ!?グラン!?」
グリンがいつの間にか真横にいた。
精霊に動揺していたので近づいてきたのに気付かなかったよ!
精霊に話しかけてなくてよかった・・・!
「ああいうのは好きに言わしておいたらいい。誰も本気で言ってないんだから。」
「え、あ、うん。ありがとうグラン。」
気にしてると思われたようで、グランは慰めてくれた。
正直、あちらの世界で見た目チャラ男にした頃からヒソヒソ言われ慣れてるというか。
まあ、ちょっとは気になるけど、俺のこと知らない人に何言われても・・・ねえ?
でもそれよりグランが言葉かけてくれるのがありがたいな。
いい奴じゃん。初日で睨まれたとは思えないよ。
それからしばらくして、休憩は終わり馬車は再び動き出した。
精霊たちは小声でなだめた。




