閑話 レベルD試験の裏話
閑話なので短めです。
ノヴェーラの町のハンターズギルド。
その2階の会議室にギルマスの姿はあった。
ギルマスは会議室の大きなテーブルに備え付けられた議長席に座っており、目の前には何枚もの書類がありそれに目を通していた。
「ふんふん、じゃあ、こいつは合格でいいな。」
ギルマスは書類に合格と書き込むとその書類を横に置いた。
「んじゃ、次は・・・お、イオリか。」
書類にはイオリのハンター登録の時の情報が書かれていた。
「まずはイオリの実力試験はどうだった?つっても、余裕で合格だろうけど。」
「あれ?ギルマス、イオリの実力知っているんですか?」
会議室の大きなテーブルの少し離れたところに座っていたカリュムは自分のメモを見ながら言った。
「んあ?ああ、ちょっと色々あって魔物と戦っているところを見たことがあんだよ。」
「なんだい、あるのかい。」
ギルマスの対面に座っていたルビーナはつまんなそうに頬杖をつきながらそう言った。
「あの子はとんでもないよ。素早く動けるのもすごいけど、私のクレイモアを壊したらいけないと直感で思って直前で寸止めしてきたんだけど。普通あのスピードで攻撃してて直前で寸止めしようと思っても力では止められないよ。勢いを殺すなんて思ってもできないよ。」
「しかもその様子だと、なんでもない感じでやったんじゃないか?」
「そうなのさ!そこがすごいところなのよ!」
ルビーナはテーブルをバンバン叩いて絶賛した。
「俺としてはあいつは実力はレベルAかもしかしたらSじゃねえかと思ったが、ルビーナはどうだ?」
ルビーナは驚いてギルマスを見た。
「レベルAかS!?あいにく私はレベルSに会ったことがないからねえ。Sかどうかはわからないけど、レベルAだと言われても不思議ではないとは思ったよ。」
「んじゃあ、実力試験は余裕で合格か。・・・野外試験はどうだった?」
「担当のハンターに聞いたんですが、問題ないと言ってました。ものすごい勢いでキャタピラーを狩ってたそうで、夕方には全部終わったらしいです。」
カリュムが担当のハンターからのメモを見ながら返事した。
「ははっ、すげえなそれは。レベルEなら夜中にやっと終わるくらいなんだがなあ。」
ギルマスは呆れて苦笑いした。
「えーと・・・これは、ちょっと・・・担当のハンターが感じたことみたいですけど。」
「ん?なんだ?どうしたそんな歯切れ悪くして。」
「担当のハンターは10メートル離れて尾行していたんですけど、なんか独り言をずっとブツブツ言ってたそうで。内容はさすがに聞き取れなかったそうですが。」
「独り言?ずっとというのは気になるな・・・。」
ギルマスはうーんと考え込んだ。
「あと、火をおこしたり水を出してたりしたそうなんですが、その時もなんかおかしいというか、魔方陣が出てなかったのに火がついたりしたらしいです。」
「魔方陣が出てなかったのに火がついた?なんだそりゃ?」
「俺もその場にいたわけではないのでなんとも・・・。でも担当のハンターはそう感じたようですよ。」
「うーん?どういうことだ?」
3人は首を傾げて考えるも、まさか精霊と話しているとは夢にも思っていないのでまったくもって結論は出ず、まあ、野外での活動はできているんだから問題ないか、という結論で合格となった。
「よし、つーことでイオリはレベルD合格でいいな。ちょっとわからんところもあるが、本人の人間性を見ても大丈夫だろう。」
ギルマスはそう言って、イオリの書類に合格と書き込んだ。
一方その頃のある人間界の空の果ての空中神殿では。
「や~ん!なにこれキュンキュンしちゃうう~!」
黄色い髪のポニーテールの美少女はホールの真ん中で悶絶しながら床を転がっていた。
目の前にはウインドウが浮かんでいて、庵とエティーが見つめ合っている例の瞬間の映像が映し出されていた。
美少女の周りには数多くの風の精霊がいて、風の精霊らも映像を見てキャッキャしていた。
「皆も萌えたわよねえ~!さすが情報の精霊よね。いい瞬間撮ってるわあ・・・!」
美少女はニヤニヤしながら庵とエティーはハッとして離れたところまで見た。
「今後この2人はどうなるのかしら?気になる~!フフフフフ・・・」
そう言ってまたゴロゴロ転がった。
「それにしても、普段頼りなさげな男の子がこういうところでかっこよく助けてくれるのなんて、アレよね?ギャップ萌えってやつよね?いつもは男を感じさせないのにこういう時に男を感じるのって、ドキッとしちゃうわ~!」
ゴロゴロゴロゴロ・・・。
「ますますイオリって気になるわ・・・。よし!決めた!」
美少女はしばらくウインドウ越しにイオリを見つめ、なにかを決心した。
「私、会いに行ってこよっと!」




