28話 初めての野宿
地図を買って確認して、俺は南へ向けて出発した。
一応町から南へ馬車で3日のところに町があるそうで、その町への道の途中に横切る林が目的の林になる。
だから道があるので行き帰りは悪路になるようなことはないようだ。
だが、ここで計算外だったのは俺の体力だった。
そういえば忘れていたけど、俺は1ヶ月ちょい前まで普通の部活もしてない高校生だったから何時間も歩く体力なんてもちろんないわな。
1時間歩いて休憩、1時間歩いて休憩を繰り返して林についたときには太ももやふくらはぎはパンパンだったし足の裏は痛いしで林の近くの岩に座り込んでしまった。
『大丈夫?イオリ、治療の精霊呼ぶ?』
「いや、大丈夫。ちょっと休憩したら動けるようになると思う。」
精霊は心配してくれたけど、治療の精霊呼ぶほどではないし、なんか筋肉に効いてる?みたいだから治したら筋肉が鍛えられない気がしたのでこのままでいいかなと思った。
まあ、俺が気がすると思っているだけで、さっさと治してもらったらいいのかもしれないけど。
空を見上げたら時間はわからないけど、太陽の位置的に午後3~4時ぐらい。
出発したのが8時くらいだったから、7~8時間かかったことになる。
休憩しつつ来た割にはあんまり誤差もなくこれたかな。
林の様子を見ながらしばらく休憩したら動けるようになった。
こちらの世界でしばらく暮らすなら、こういう移動が多くなるかもしれないから体力つけないといけないかなあ。
林の周りはだだっ広い草原になっていて、もし魔物が来ても遠くからでもわかるかな。
「近くに川あるかな?」
『川は・・・う~ん、ちょっと遠いところにあるわねえ。』
水の精霊はキョロキョロしてそう言った。
「なんだそっか。せっかくなら川で魚でもとれるかなと思ったんだけど。」
『色々食べ物買ってマジックバッグに入れてるんでしょ?』
そうだね。それ食えよって話だね。
でもなんだかワクワクして、雰囲気は川で魚をとって焚き火で焼いて食う雰囲気なんですよ。
アレだ、野宿というよりはキャンプ。
あちらの世界でもキャンプなんてやったことないけど、いつもと違うところで寝るなんてちょっと楽しみなんだよな。
林の近くの原っぱに野宿することにして、精霊とああでもないこうでもないと言いながらテントをたてていると、日が暮れてきた。
テントは拾った木を柱にする、よくイメージする三角のやつだ。
ペラペラの素材だが、完成して中で寝転んでみたら思った以上に快適だった。
「そろそろ火の精霊来るかな。薪用意しとかないと。えーと、湿った木はだめらしいなあ。」
テレビでキャンプやってるの見てたらそんなことを言ってたな確か。
林の近くにいくらでも枝は落ちているから乾いた枝を広い集めて魔剣で適当な長さに切っていると、火の精霊がやって来た。
『おーう!待たせたな、イオリ。』
前に孤児院の少年ロックが魔法の練習をしたときに後ろ姿は見たが、火の精霊は全身が火に包まれた人型の姿をしている。
「お疲れさん火の精霊。ちょうど木を集めたところだよ。」
『うんうん、いい枝ばかりだ。長さも焚き火にちょうどいいぞ。』
それから火の精霊の指導のもと、石で囲って焚き火の場所を作った。
『んじゃあ、火をつけるぞ。そらっ』
ポッ
焚き火に火がついて、あっという間に燃えだした。
「おー!ついたついた。暖かい~。」
『後は火を見ながら薪をくべてったらいいさ。』
「了解。ありがとう、火の精霊。いくらでも魔力食べてって。」
『おお、遠慮なくいただくぜ。』
見ると、林がうっすら光っていた。
「うわっ!光ってる?もしかしてアレってヒカリキノコの光?」
『そうそう。もうちょっとして日が完全に暮れたら綺麗に光だすわよ。』
花の精霊がニコニコしながら言ったのがなんとなく感じ取れた。
「へえ、見てみたいなあ。・・・それにしても、なんで光るんだ?」
『食べられるのを避けるためみたいよ。火を動物が警戒するのと同じで、光るから魔物が警戒して食べないみたいよ。それもあって、この林の近くは魔物はいないのよ。人間には効果なかったけどね。』
確かに、ここまで来る途中はたまに魔物が出て来て戦ったりしてたけど、この林についてからテント張ってる間も魔物は全くいなかった。
なるほど。ヒカリキノコのおかげということか。
それから火を見ながら精霊と話していると日が完全に暮れて、辺りは焚き火の光と林からの淡い光で照らされていた。
「おーし!んじゃあ、行ってみようかな。」
俺は精霊たちと林に入っていった。
入ってすぐに、幻想的な光景を目の当たりにした。
地面から大小様々なキノコが生えていて、ほとんどが光を出していた。
光は淡いオレンジがかった光で、柔らかくてホワホワしてそうな光だった。
キノコ自体は笠が茶色い普通のキノコと変わらない。
昼間に採らないというのはすごく納得した。
「わー!ホントだ、きれいだなあ。」
田舎で見る蛍みたいだ。
そういやあ、田舎に帰った時にじいさんとばあさんと近くの川に蛍を見に行ったなあ。
『わあっ!イオリだあ!』
『あら、本当だわ。』
ん?一緒にいる精霊たちとは別の精霊の声がした。
「真眼」で「視て」みると、近くの岩の上に2人の精霊がいた。
『はじめまして!僕は茸の精霊だよお!』
『ふふふ、私は光の精霊よ。』
茸の精霊は赤い笠に白い斑点の、某配管工が食べたら体が大きくなりそうなキノコの姿をしていて眠そうな目が笠についている。
光の精霊は白く光る球体に慈愛に満ちた目がついている。
「こんばんわー。俺知ってると思うけどイオリ、よろしく。」
『『よろしくね。』』
「茸の精霊と光の精霊はここでなにしてんの?」
『私たちはここにいつもいるの。茸たちは自分を光らせるために私に魔力をくれて、私がもらった魔力で光らせているの。茸たちが増えすぎたり減りすぎたりしないように茸の精霊が調整してるのよ。』
へえ、だから林にしか生えないのかな?
「俺、依頼でヒカリキノコ20個欲しいんだけど、採っていいかな?」
『いいよお。おっきいヒカリキノコの場所に案内してあげる。』
そう言って茸の精霊は手も足もないのにジャンプして草や石に次々と跳び移りながら案内してくれた。
光の精霊もフワフワ浮かびながら俺と一緒に早しに入った精霊たちとついてきた。
『ここのは大きいよお!』
茸の精霊がピョンピョン跳びはねながら案内してくれたのは、大きな木の根元にヒカリキノコが群生しているところだった。
パッと見だけでも笠が20センチ位のものが20個以上ある。
「おおっ!ホントだ、おっきいな。んじゃあ遠慮なくもらうな。」
俺は魔剣で1本1本根元から切り分けて採取用のマジックバッグに入れていった。
あ、そうだ。晩飯まだだから、これ焼いて食べてみたいな。
うまいとグランも言ってたし。
「このキノコ焼いて食べてみたいから自分用に1本もらってっていい?」
『イオリだったら何本でもいいよお~。』
太っ腹なことを言ってくれたので、では自分用と孤児院のお土産用にもらおう。
俺は自分用に5本、孤児院用に10本もらった。
茸の精霊にお礼を言って魔力をあげて、林を出た。
晩御飯たーべよっと。
林にいたのは30分くらいだったので、焚き火の火は消えてなかった。
薪をくべて少し火を大きくして、適当な木の枝に自分用のヒカリキノコを2つ刺して焼いて食べた。
「はふはふっ、うわっ!すっげえうまいっ!!」
調味料は買ってなかったので用意してなかったが、そのままでも十分美味しくてプリプリしてジューシーだった。
その他、晩御飯用に飲食店で買ったロールパンにベーコンを焚き火で焼いてはさんでで食べたらベーコンの塩分でめちゃくちゃ美味しかった。
調味料って大事だな。
これからは塩胡椒だけでも買ってバッグに入れとこう。
「ふへー、美味しかったあ。」
『ふふふ、イオリは美味しそうに食べるのね。』
それから水の精霊に水を出してもらって、タオルで簡単に体を拭いた。
本当は沐浴か風呂に入りたいんだけど沐浴するにしても大きめの桶がいるし、風呂にするとしても浴槽がないので断念した。
「つーか、よく考えたら魔物が襲撃しないように見張っとかないといけないのか。」
一応魔物が避ける林の近くだし、焚き火があるから襲撃される可能性は低いかもしれないけど、寝てる間に襲われるとか怖いな。
『イオリできそう?』
「う~ん、見張るなんてやったことないからなあ。でも魔物が襲ってきたら大変だし。」
『イオリはヘタレだからな。』
ヘタレじゃないやい!危機管理能力が高いと言ってくれたまえ!
『だったら、今度は私が役に立つわ。』
と、花の精霊が言ってきた。
なんだ?と思って「視て」みると、花の精霊は片手に持っていた小さな花を魔法の杖のように振り回した。
『えーい!』
小さな花から花びらが次々と噴き出して、俺のテントの周りを囲むように花びらが散り、花びらは地面につくとそこに紫の花がポンポンと咲いた。
俺のテントが紫の花に囲まれるという、ものすごくメルヘンなことになった。
『この花は魔物が嫌う花粉を出す花よ。魔物以外には無臭だから匂わないと思うけど。』
くんくん。確かに全くなにも匂わない、というか花の香りさえしない。
『これで万が一ここに魔物の大群が来てもぐっすり寝て大丈夫よ。』
その状況でぐっすり寝れるか!
でもものすごくありがたい!
「すげえな、そんな花があるんだ。ありがとう、花の精霊。お礼に魔力どーぞ。」
『どういたしまして。』
程なくして精霊たちとは解散して、俺は寝ることにした。
テントの中で横になるも、地面はごつごつして固い。
やっと宿屋の固いベッドに慣れてきたのに、地面に寝転んで寝ることになるなんて・・・。
しかも外で寝たことなんてないし、寝れるかなあ・・・?
ぐー。




