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2話 出会い





意識を取り戻し、うっすらと目を開けると・・・。




目の前には知らない天井があった。




「あっ!気がついた?」


視界の右側から女性と少女が覗き込んできて、女性はしきりに「大丈夫?」「私たちのことわかる?」と声をかけてきた。

女性は20代前半くらいの白茶色の髪の胸元まで長い髪におしとやかな柔らかい感じの雰囲気で、長いスカートに白いエプロン姿。

少女は6~8歳くらいで黒髪でおかっぱ姿で物静かな性格か言葉は発しないが心配そうにこちらを見ていた。

もちろん、この2人に見覚えはない。


「・・・ここ、は・・・?」

そう言葉に出して、そのかすれた声に自分で驚いた。

と同時に、声を出したからか、喉がひどく渇いてるのに気付いた。


「ここはローワン王国の城下町ノヴェーラの外れにある孤児院よ。あなたはここのそばの砂漠で倒れてたのよ。」


ローワン王国?城下町ノヴェーラ?

聞いたことがない地名だな・・・。

孤児院・・・ということは、この2人はどうやら親子ではないのか。

まあ、2人とも雰囲気は似ていたが顔が似てないから多分そうだろう。

そしてどうやら俺は町にたどり着けなかったが、町から見えるところの砂漠で力尽きたみたいだな。


「今、水を持ってくるわね。」

女性はそう言ってあわてて部屋から出ていった。


まだクラクラする視界をどうにかならないかと思ってるうちに、女性はすぐさま水を入れたコップを持って戻ってきた。

そしてその女性の後ろに男性が続いて部屋に入ってきた。


男性は20代後半くらいで、水色の髪を後ろでひとつにまとめた結構整った顔立ちの美青年で、細かい彩飾が施されたきっちりとした身だしなみで、品のある感じがした。

こちらも見覚えが全くない。


「はい。・・・ゆっくり飲んで。」

「ああ・・・。すんません。」

女性と男性の介助で頭を少し起こして水を飲ませてもらった。


「はあ~・・・。水ありがとうございます。」

視界もはっきりして頭も水を飲んだことで回り出して部屋が狭いことに気付いた。

4畳くらいの狭さで全面板張りでベッド以外の家具がない殺風景な部屋で、板張りも結構古く天井の隅にクモの巣がはってあるほど・・・言い方が悪いがボロかった。

視界の左側に窓がひとつあり窓のすぐそばにベッドが配置させていたので外を見れたが、手前に少しの草原と奥に砂漠が見えた。

真上にあった太陽が少しだけ傾いていたのが見えた。


多分今は2~3時位か?となると、俺が倒れてから見つけてもらって気が付くまで数時間ってとこか?


「大丈夫?体調はどうだい?」

男性が自分の体調を気遣う視線と声を送ってきた。

「・・・少しめまいがして・・・頭が痛いっす。体もダルいです・・・。」

「多分砂漠を歩いてきたから日射病で倒れたんだろう。めまいがするなら立てないだろうから、もう少し寝てた方がいいかもしれないね。」

「え、でも・・・。」


見つけて介抱してもらっただけでもありがたいのに、そこまでされてはさすがに申し訳なくなった。

しかし女性は俺の申し訳なさをわかってかどうか、柔らかい笑顔をむけてきた。


「心配しないで。人を助けるのは当たり前のことだから。それにここは普段使ってない部屋だから寝てもらっても大丈夫よ。孤児院だから、子供たちの声がうるさいかも知れないけど、今は気にしないで体調を整えて。」

「・・・すいません。」

世話になる申し訳なさはあるが、正直気を使って出ていくほどの体力がないので、ありがたかった。

俺が素直に従うのを見届けて、3人は出ていった。






「・・・・・・はぁ~。」

天井を見上げてため息ひとつ。



なんか、えらいことになった気がする。

女性が言っていたローワン王国にも城下町ノヴェーラにも聞き覚えがない。

今いた3人は日本人とは思えない容姿なのに会話が出来た。日本語だった。


それに砂漠で会った精霊。

非現実な存在がしかも魔法とか魔力とか言ってたし。

そして自分の部屋にいたのに声が聞こえて、気が付いたら砂漠にいたというあり得ない状況から考えて・・・。



もしかしなくても、・・・ここは異世界なのではないだろうか?


普通ならこの不測の事態の連続にパニックしまくる状況なのだが、俺の精神はとても冷静だった。

というのも、異世界というものに抵抗がなかったからだ。


こういう状況ならばまず喜ぶのはオタクであろうが、俺はオタクではないものの、ラノベや漫画は読んでいた。

元々少年誌を読むくらいだったが、中学の時に同い年のオタクの従兄弟からラノベを勧められ、読みはじめたことがきっかけだった。


そういえばその中に今自分がおかれている状況に似たような異世界転生モノが何冊もあったなと思ってみたり。


高校生になってその従兄弟はますますどっぷりオタク化が進んで、コミケ参戦などするようになったが、俺はそこまでの情熱はなかったのでラノベや漫画やゲームを借りる程度だった。

俺自身もサボった時に漫喫で読んだり、スマホのアプリで読んだりしていたので非現実なものに一応理解はあった。

・・・理解はあったが、実際に体験するのとはやはり違う。

もちろん、異世界に行ってヒャッハーするつもりは俺にはないし、そこまではめをはずすのは現実的ではないというのは、ラノベを読んでるときから思っていた。


とはいえ、とりあえずは本当に異世界かどうかは誰かに聞いて確かめてみないと。

先ほどの3人・・・あの男性に聞いてみるか?

それとも精霊に聞いてみるか?


どうしようかなと思っていると、なぜだか妙に何の変哲もない窓が気になった。


窓の外に何かがいるような気がする・・・。

チラッと見ても草原と砂漠しかない。

うう~ん。なんか(・・・)が窓から来そうな気がする・・・。

あ、あれで「視て」みようか。


目を閉じ、イメージしてゆっくりと目を開けた。

精霊を「視た」時と同じように何かが被さってる感覚を確かに感じ、その状態で窓に視線を向けた。

するとそのタイミングで窓ガラスをすり抜けて、2人の精霊が現れた。


1人は黄色と白の三角帽にギザギザの白いマントに緑の球体がいくつも回りに浮いてて穏やかな顔をしていて、もう1人は白いモジャモジャ頭に両手にはメモとペンのようなものを持っている。

2人とも全長30センチ位で、風の精霊も同じくらいの大きさだったので、もしかしたら精霊はだいたい同じ大きさなのかもしれないな。


『やあやあ!風の精霊と話した人間は君かい?僕のことわかるかい?』

モジャモジャ頭の精霊が目があった途端に、やや早口にそう言ってきた。


「え、あ、おお。わかる。は、はじめまして。」

『人間と話すのは初めてだ!嬉しいな~!あ、僕は情報の精霊。この世の色んな情報を流してるのさ~。よろしく☆』

情報の精霊はそう言ってウインクして星を飛ばしてきた。

どうやって星を視覚化して飛ばしてんの?なんかテンション高くてついていけるかもう不安だよ・・・。


『情報の、少し落ち着いて。あなたのテンションに人間がちょっと引いてるわ。あ、私は治癒の精霊よ。よろしくね。』

激しく空中を飛び回る情報の精霊を治癒の精霊がなだめながら自己紹介してきた。

こちらは落ち着いた感じてほっとした。

俺としてはこちらと仲良くしたい気分です。


「・・・ああ、よろしく、情報の精霊に治癒の精霊。俺は麻生庵、イオリでいいよ。」

『イオリ!・・・なるほど、イオリ・アソウというのか。』

そう言って情報の精霊は手に持っていたメモに書いた。

つーか、精霊がメモすんのかい!


『風の精霊から君のことを聞いて、ぜひとも取材したいと思って来たしだいなんだよ。取材いいかい?』

・・・しゅ、取材?

情報の精霊というくらいだから、あっちの世界で言う雑誌記者のような感じなのか?


「い、いや、取材はいいけど。・・・俺も聞きたいことあるからそれ教えてくれるなら。」

『いいよ!いいよ!ヒャッホー!!人間に取材できる~。』

そう言ってまた激しく空中を飛び回る情報の精霊。

でも急にピタッと止まった。

なんなの怖い。


『でもその前に!治癒の!よろしく!!』

『はいはい。わかってるわよ。』

治癒の精霊は情報の精霊のテンションをガン無視して、自分の回りに浮いていた緑の球体に指示を出すと、球体たちはふわ~っと俺の周囲に取り囲んだ。

すると俺の体が淡く光だし、あっと言う間に頭痛とめまいとダルさがなくなった。


「!?・・・あれ!?しんどかったのが・・・なんともない!?」

『取材をうけるには体調治してからがいいかと治癒と来たんだよね~。』

なるほど、だからこの組み合わせか。

つーか、取材うける前提で治癒の精霊連れて来たのかよ。


「まあ、・・・何はともあれ、体調治してくれてあんがと。取材をうける前に、俺から質問していいか?」

『いいよ~。何だい?』

「日本って国知ってる?もしくは東京って町は?」

『ニホン?トーキョー?・・・聞いたことがないなあ。』

『私も聞いたことがないわ。』

「じゃあ、日本語とか英語って言語わかるか?」

『ニホンゴ?エイゴ?そんな言語知らないなあ。この世界の言語は1つのはずだよ?』


そう言ってふたりの精霊は首をひねっていた。

その姿に見た目の可愛らしさはあれど、嘘をついているようには見えなかった。

日本や東京を知らないならともかく、言語が1つと言っている彼らがしゃべっているのは明らかに日本語というのはおかしい。

日本を知らない彼らが日本語をしゃべっているのは、どういうわけかはわからないが、魔法の世界だからそこは可能なのかもしれない。


つまり、俺の予想通り異世界に来てしまったというのがこれでハッキリした・・・。


「やっぱりな。・・・俺は日本の東京ってとこから来たんだ。気付いたら砂漠で倒れてた。多分・・・俺は異世界から来たと思う。」

『!!??異世界の人間だって!?』



それから取材をうけたはいいが、芸能リポーターのように次々に聞かれた。

『今の心境は!?』とか『もっと具体的にお願いします』とか・・・。

それはもう・・・何かの記者会見のように・・・。



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