26話 討伐完了
休憩をすませて討伐を再開した俺とエティーは引き続き、木の穴を見て回った。
といってもいくら森でたくさんの木々が生い茂っていても、そんなに木の穴なんてないので、ひたすら森をウロウロする。
ガサガサッガサガサッ
「「「チュー!!」」」
「あ!?いた!ブラックマウス!」
木の穴ではなく草むらから3匹のブラックマウスが飛び出してきた。
「さっきと逆で私が1匹倒すからあんたは2匹戦ってみなさい!」
エティーはそう言って1匹に向かって剣を構えて駆け出していた。
「わかった!」
俺も魔剣を構えた。
そして歩き出すと謎現象発動。
ゆっくり近づいて1匹ずつ首をはねた。
よし、終わった。ホント、あっという間だね。
エティーを見ると、1匹の体を切っているところだった。
ゆっくりゆっくり切っている。
あれ?
俺は終わったのに、謎現象が解けてない?
なんでだ?
・・・戦いは終わってない?
慌てて倒した2匹を見るも、首をはねたから動くわけはない。
周りを見てみて、気が付いた。
エティーの後方からブラックマウスが複数匹飛び出してきていたのだ。
数は5匹、完全にエティーの死角になるところからだ。
まさか、この3匹は囮!?
5匹はエティーの近くに飛び出してきたので、5匹ともエティーを狙って噛みつこうと口を開けて飛びかかろうとしていた。
エティーの死角からの攻撃なので全く気付いてない。
「エティー!危ない!」
思うより先に体が動いて、俺はエティーに駆け寄り彼女を片手で抱き寄せて、ブラックマウスに向けて魔剣を振りかぶった。
飛びかかってきていたブラックマウス5匹は急に狙いがいなくなったので空振りし、そのうち1匹を俺は切ることができた。
「大丈夫か!?エティー!?」
「え!?」
エティーは急に抱き寄せられてゆっくり驚いていたが、俺は気にせず空振りしてゆっくり近くの地面に着地していくブラックマウスを次々と突き刺して倒していった。
最後の1匹を突き刺したところで謎現象は解けた。
ふう、どうやらこれで全部ということか。
いやー、ビックリした。
魔物の群れってこういうことがあるんだね。
こりゃ確かにレベルEで慣れてきたハンター向けって言われるわけだ。
ん?エティーからなんか視線が。
見ると、抱き寄せていたので顔が目の前にあって、その顔が真っ赤で固まっていた。
わー、エティーってこうも間近で見ると、ホント美少女だなあ。
睫毛とかバシバシで青い瞳ってめっちゃキレイ。
女の子・・・抱き寄せ・・・近い・・・
「あ!!??ご、ごめん!」
俺は慌てて抱き寄せていたのをといて離した。
「ご、ごめんな、エティー!ブラックマウスが飛びかかってきてたから咄嗟に引き寄せたら・・・その・・・ホントごめん!」
なんか俺も顔を赤くして釈明した。
「・・・だ、大丈夫よ!・・・あ、謝らなくていいわよ!馬鹿!」
エティーは顔が赤いまま、そっぽを向いてしまった。
そっぽを向くついでにエティーは死角から襲ってきたブラックマウスの死体5匹を見回した。
「ブラックマウス5匹だなんて・・・あの3匹は囮だったってことで私は危なかったってことね。」
「あ、うん。そうみたいだ。」
「・・・だ、だったら助けられたのね。お礼を言うわ、ありがとう。」
またエティーは顔を真っ赤にしていた。
少しぎこちなくなったものの、ブラックマウスの死体は全部討伐用マジックバッグに入れた。
「これで全部で11匹だから、依頼完了だな。」
「そうね。帰りましょうか。」
ガサガサガサッ
「!?魔物か!?」
少し離れたところの草むらがガサガサいってきたので俺たちは警戒した。
「・・・い、いや~、お疲れお疲れ。」
「は!?ギルマス!?」
草むらから出てきたのはなぜかギルマスだった。
ギルマスはテヘへとばつが悪そうな苦笑いを浮かべながらこちらに近づいてきた。
「実は面白くて2人でやるようにしたのはいいが、ひょっとしたら強い魔物にでもあって怪我したらと思ったらなんか心配になってきちまってなあ。離れたところで尾行してたんだ。」
は!?尾行してきてたのか!?
全然気付かなかった・・・!
「だが、俺の考えすぎだったみたいだな。エティーもまったく危なげなく戦っていたが、イオリ!お前めちゃくちゃ強いじゃないか!素早すぎて俺見えなかったぞ!」
そう言ってギルマスは俺の背中をバンバン叩いた。
「痛い痛い!ギルマス、そこまでだった?俺よくわかんないんだけど。」
素人だし、戦ったのなんか昨日が初めてだったからギルマスが見えないくらい素早いというのがいまいち実感できない。
やっぱり5秒の謎現象のおかげなのかな。
「なに言ってんだ!お前すごいぞ。多分だが、レベルA並だな。」
・・・は!?
「最初の素人の構えをどうにかするだけでもレベルSはいけるかもな。」
「ふぁ!?」
それからギルマスと一緒に戻った俺たちは無事完了を報告して報酬をもらってエティーと半分こした。
報酬は7000Gにホーンラビットと1匹多めのブラックマウスの買い取り1500Gを足して合計8500Gとなったので半分こして4250Gとなった。
採取よりはさすがに高めだけど、宿と食事で1日で消える額だな。
レベルが上がれば受けれる依頼が増えて報酬も高いものが受けられるから、早いところレベルを上げたい気持ちがなんとなくわかってきた。
でもレベルが上がればそのぶん危険な依頼も増える。
そこはしょうがないのかも知れないけど、ワケわからないうちに異世界に来てそこで死ぬのはちょっと勘弁したいなあ。
依頼が終わったのは昼過ぎだったけど、初めて人と一緒に討伐なんてしたから疲れて今日はこれでハンターは終わりにしようと決めた。
「んじゃ、エティー。今日はありがとう。初めて一緒に戦ったけど、面白かったよ。」
「私と一緒に戦うんだから面白いなんて当たり前よ!まあ、私も助けられたし、楽しかったわ。・・・また、一緒に戦ってあげてもいいわよ?」
エティーはいつもの鼻で笑ったような態度だが、なんかチョッと顔が赤い。
なんだろ?わかんねー。
「うん、そだな。また一緒に行けたらいいな!」
俺たちはハンターズギルドの前で別れた。
「・・・なんでさっきからずっと黙ってるんだ?情報の精霊?」
俺は小声で左肩にいるであろう情報の精霊に話しかけた。
『・・・。』
なんかちょっと前から黙ってるようだ。
なんとなく気になったので小道に入って、周りに誰もいないことを確認してから目を魔力で覆って「視て」みると。
「・・・な、なんだよ、情報の精霊。その顔。」
『・・・グフフフ。』
なんでニヨニヨしてこっち見てくるんだ?
『いや~!かっこよかったよイオリ!相変わらず素早い攻撃にあの娘を助ける姿!シビれるねえ~!』
そこでハッとした。
情報の精霊・・・生配信・・・ネットワーク・・・
「うえ!?・・・も、もしかして!?」
『あの娘を抱き寄せて助けた後、しばらく見つめあってたね~!もちろん!生配信で全精霊に垂れ流したよ~!』
ニヨニヨ
ぎゃあああぁぁぁ!!
「そ、そんなつもりじゃなかったんだよ!見てた情報の精霊はわかってんだろ!?」
『え?そういうつもりとはどういうつもり?自分はただ、流しただけだし~?』
「いやいやいや!絶対なんか余計な情報も付け加えて流してないか!?変な誤解を招くようなことだけはやめてくれよ!」
あれ?そういえば・・・
あの場には、ギルマスもいたらしいから・・・
ギルマスにも見られたか!?ぎゃああ!!
なんか次から会いにくいな!
俺が必死に釈明したのだが、情報の精霊は全く聞く耳持たずだった。
『んまあ・・・でも、あの娘とは仲良くなったら面白いことになるから、仲良くしといたらいいよ。恋愛してくれたらもっともっと面白いことになるけどね。』
「いやいや、恋愛はないよ。エティーはロディオータサマ?ってのに夢中のようだから。」
俺としても顔は美少女だと思うけど、あんな超強気な性格はちょっとなあ。
「・・・っていうか、情報の精霊はエティーが何者か知ってんのか?」
『これでも情報を司る精霊だもん。あの娘が何者かなんて見た瞬間にわかるよ。知りたい?』
「う~ん、やめとくわ。なんか事情があるのかもしれないし。知りたくなったら本人に聞くよ。」
『それが賢明だね。』
一方その頃のエティー。
ハンターズギルドの前で庵と別れて少し歩くと、エティーの護衛の3人が駆け寄ってきた。
「お嬢様!だ、大丈夫でしたか!?お怪我は!?」
「大丈夫だったわよ。怪我もこの通りしてないし。」
エティーの元気な姿に3人はほっとしていた。
「本当に心配しました、お嬢様・・・いえ、姫様。」
「ちょっと大袈裟よ。たかがブラックマウス10匹よ?」
「いえいえ!もしお怪我をされたら御父上の国王様が心配なさいます。」
「父様は心配しすぎなだけよ。おかげでこうして父様に内緒でハンターやってるんだし。」
「国王様は絶対にお許しにならないでしょう。姫様のことを溺愛してらっしゃいますし。」
エティーは苦笑いをして肩をすくめた。
「あのイオリという青年と2人ということでも心配しましたが、どうでした?イオリは?」
そう聞かれた瞬間、エティーの頭の中では庵に抱き寄せられたあの時がよみがえった。
そして顔を赤くした。
それに驚く護衛3人。
「そ、そうねえ。意外に素早く動けて強いと思ったわ。ギルマスがレベルA並と言ってたわ。」
「なんと!?レベルA!?あの青年が!?」
またもや驚く3人。
「もういいでしょ!?依頼は無事終わったんだから、この話はおしまい!さ、城に帰るわよ!」
エティーはそう言って急ぎ足で城に歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ってください!姫様~!」
護衛3人はエティーのそんな姿見たことないと戸惑いながらもエティーを追いかけた。
「姫様があんな姿になるなんて・・・イオリという青年、侮れないですね。」
「だな。姫様にはロディオータ様という想い人がおられるのに。」
「イオリには一応注意しておきましょうか?」
「そうだな。さすがに姫様と庶民では・・・身分の差が激しすぎる。」
イオリは知らないところで要注意人物になった。




