22話 ちょっと過去
ギルドに帰った俺は依頼達成の報告と採取用のマジックバックを渡した。
マジックバックに入っていたホーンラビット2羽は買い取ってもらって1000Gだったので、依頼報酬1600Gと合わせて2600Gをもらった。
受付のオリアナさんがえらく褒めてきた。
うん、絶対イジってきてますよね?ちくしょう!
まだ夕方前だったが、これから依頼をするとなっても夜になる可能性もあるし、自分で動いて魔物を倒したのは初めてだったので疲れたような気がする。
たくさんリアクションしたのも疲れた要因な気がするが。
銭湯が安い時間帯だったことを思い出して寄って風呂に入り、宿屋に戻って適当に晩飯を食べて、早々に寝ることにした。
鳥と水の精霊が去っていくのを見送って、ベッドに入るとあっという間に睡魔に襲われ眠った。
精霊と懐かしい話をしたせいか、じいさんの夢を見た。
じいさんは父方の祖父で、俺らが住んでいた都市から県外の、大分離れた山間部にばあさんと2人で住んでいた。
じいさんは白髪混じりの眉毛の長い優しい目が印象の、いつもは物静かでちょっと腰の曲がってて、相撲とお酒が大好きで酒を飲むとおしゃべりになって騒ぐ田舎のじいさんのイメージそのままで。
ばあさんはじいさんと対照的で、明るくておしゃべりでいつもにこにこして料理するのも食べるのも好きで甘いものに目がないぽっちゃりした姿で。
基本的に年金と自給自足で暮らしてて、家の前の広めの畑と歩いて数分のところにあるビニールハウスで野菜を育ててた。
農協に野菜を卸すこともたまにあるとかで、大金を持ってるわけではないけど、お金に困らない生活をしていて、それが余裕のあるゆったりした山の生活といった感じだった。
ガチの山間部なんで携帯の電波は家の中は入らないし、水道は山の水だから水道代なんてなかったし、お風呂は薪を燃やしてたし、トイレは和式どころかぼっとんだった。
周りは森と畑ばかりで、隣の家は歩いて5分かかった。
畑の脇に鶏小屋、ビニールハウスの隣に牛小屋があって、すぐ近くに小さな川があって魚釣りもできた。
野生の狸や猪なんかもきて、畑を荒らされるなんてこともあった。
年に3回くらいしか行けなかったが、子供の俺にとっては某ランド並みに魅力的で、帰っては裏の山などを駆けずり回って遊ぶのが面白かったし、どんだけ泥んこになっても両親は呆れながらも許してくれた。
なので毎回行くのが楽しみだった。
幼心にここに住みたい!と決意し、今も老後はあそこに住みたいと思っている。
あの都会にはないゆったりした空気が好きなんだよ。
物心ついてから中学2年で高校受験の波に巻き込まれるまで行っていた。
行く度にじいさんは色々なことを教えてくれて、じいさんの趣味の害獣駆除に同行させてもらったこともあったし、とった動物を捌くのを見学するのも両親に内緒で許してくれた。
じいさんは教えてくれることはなかったけど、捌くのを見るだけでも面白かった。
その見学が異世界の今、役に立つことになるとは、ね。
おかげで兎の首切っても切れてる断面とかの見ても込み上げてくるモノ(吐き気)はなかったな。
俺が高校受験真っ最中の時にばあさんが病気で逝って、その半年後の高校入学の時にじいさんも病気で逝ってしまったので、それ以降じいさんばあさんちに行っていない。
じいさんが逝ってからどうなったんだろう?
俺の両親のことだから、老後あそこで暮らすとは考えられないから、さっさと土地売っぱらってるかもしれないな。
だとしたら、結構・・・いや、かなり寂しいな。
朝、今日の俺担当?の精霊に起こされた。
じいさんの夢を見たからか、なんとなくまだ夢の中にいたい気持ちだった。
起きてしばらくぼーっと夢の内容を反芻し、じいさんの思い出に浸った。
そうすると・・・向こうの世界のことが気になった。
今、向こうの世界はどうなっているのだろう?
俺がいなくなって・・・誰か俺を探してくれているだろうか?
両親は多分、相変わらず仕事してるかな。俺のことは、悪い奴らと連れだってどっか行ってるとか思ってそうだな。悪い奴らなんて知らないよー。
友達らは・・・俺が髪の色を変えだしてから、あんまりつるまなくなったしな。
交遊関係は広く浅くがモットーだから、多分誰も俺のこと心配してないだろうな。
まあ、今まで誰のことも思い出してもいない俺が言うことじゃないか。
『イオリ~、ボーッとしてどうしたんだい?』
精霊のその言葉に我に返った。
いけないいけない。
精霊に挨拶とお礼しないと。
「ごめんごめん。なんか寝ぼけてた。起こしてくれてありがとう。えーっと・・・」
そう言いながら精霊を「視て」みると、情報の精霊だった。
「あれ、情報の精霊じゃん。この間遊びに来たって言って今日は担当?なん?なんなの?暇なの?」
『ぷはっ!失礼な!これでも君のストー・・・密着取材で忙しいんだからね!』
「おい今、ストーキングって言いかけたな。」
情報の精霊はなぜだか数日に一辺は俺に突撃取材してくる。
そして聞いた内容を全部、情報ネットワークに垂れ流すのが最近の趣味なんだとか。
はた迷惑な趣味だな!
おかげで未だに魔物とろくに戦わないヘタレと全精霊が知ってイジってくるし。
止めろと言ったが全くやめる気もないようで、今日もなにかのネタを探りに来たんだろう。
因みに精霊には様々な種類があって、めちゃくちゃ細かく分類されているが、それぞれの種類の個体数はバラバラらしい。
使用される魔法が多い精霊は呼ばれる頻度が多いってことで、その種類の精霊の個体数が増えて、逆にあんまり使われない魔法の精霊は呼ばれる頻度が少ないってことでその種類の個体数が減る仕組みらしい。
例えば火魔法は料理や魔物と戦う時によく使われるため、全世界で呼ばれる頻度が多いので、火の精霊の個体数はたくさんいる、って感じ。
その逆が、情報の精霊だ。
情報の精霊が呼ばれる魔法はラノベでよく見る鑑定魔法なんだが、この世界では教会の人間しか唱えてはいけない魔法なんだと。
しかも年に1回くらいしか使われない魔法なんだそうで、全然呼ばれないから情報の精霊の個体数は減って、今は俺のところに来るこの情報の精霊1人しかいないらしい。
情報って結構大事じゃないのか?と思って情報の精霊に聞いたことがあるが、こっちの世界の個人情報は本人の自己報告に委ねられてるところ大きいらしい。
俺から見たら、犯罪者は前科を隠蔽しまくれるんじゃないかと思ってしまうが、こっちの世界の人間は過去にあんまりこだわらないし、教会が「性善説」を説いてるからそっちな考えの人が多いようだ。
まあ、そもそも戸籍が王族・貴族くらいにしかない、そこら辺は緩い世界だからしょうがないかもしれないが。
『とーころで!聞いたよ!昨日は採集依頼受けて魔物と遭遇して戦ったってね!なんで僕を呼んでくれないかな!?』
「逆になんでお前を呼ばないといけないんだよ?」
『情報ネットワークに生配信入れたかったのに・・・。』
「生配信・・・!?お前のネットワークどうなってんの?最早あっちの世界のネットととも繋がってんじゃねえの?」
とかなんとか言いつつ、朝の身支度を整え、朝飯をさっさと食べると今日は朝からハンターズギルドに向かった。
昨日の採集依頼がうまくいったので、午前中に2つ依頼を受けてやってみようと思ったのだ。
もちろん、採集依頼があれば採集2つで。
なかったら思いきって討伐1つ受けてみてもいいかもな。
あ、もちろん人間と人型の魔物以外でだよ。
午前中に行った方が色々選べるからだが、人が多いのも午前中だからそこは周りの空気を読んで、かな。
ハンターズギルドに着いてドアを開けて中の様子を伺った俺は、早速空気を読むことになった。
え!?なに!?
めっちゃ空気が張りつめてますが!?
ギルドの中は冷たい空気が流れていて、その空気の中心地では厳つい身なりのハンターの男と白い鎧を着込んだハンターの少女が睨み合っていた。
主人公の実家のド田舎なんですが、作者のガチ実家のことです。
昔はマジで本編の通りでしたが、10年くらい前に風呂は薪を割ってあたためて入っていたのがボイラーになり、ぼっとんは水洗から洋式トイレになり、去年やっとWi-Fiが通ったので携帯が通じるようになり、一昨年水道を引いたので水道代が発生するようになったレベルです。
春はあらゆる山菜が採れて、夏は蛍が辺りをブンブン飛び回り、秋はあらゆる実がなりまくり、冬は寒さで水道が凍結します。
静かでのんびりしてて、作者は大好きで年寄りになったらそこで住む気満々です。




