21話 採取と遭遇
町の西側を進み、外へと出ると、そこは広大な草原だった。
石畳は砂利道へと変わっていて、その砂利道が遠く西の先へと曲がりくねりながらも続いていて、北の方は森が町の近くまで迫ってきており、南の方は遠くに森が見えた。
この草原に薬草がちょこちょこ生えてるらしい。
案外近くにあり過ぎじゃね?
もしかして楽勝案件ですか?
とか思って探してみるが・・・ない。あれ?
前に道具屋に上級薬草売りに行った時に普通の薬草見たから、覚えてるんだが、それっぽいのが見当たらない。
あ、そういえば、草の精霊が『ここら辺のは取り尽くされたからない』みたいなこと言ってたな!しまった!
どうしよう?
『もうちょっと西に行ってみる~?そこなら薬草あるかもね~。』
と俺の肩で呑気に言う鳥の精霊のアドバイスで草原の中を西に行ってみる。
・・・ん?
一瞬、なんか・・・。
『イオリ?どうしたの?』
「ん?なんか今、膜?みたいなのを感じたんだけど。」
水の精霊にそう返事して周りを見渡すも、膜?のようなものなんてない。
『あ、それ、きっと結界だよ~!』
「結界?」
『そうそう。町を守るために人間の魔法使いが張ってる結界。イオリの魔力が多いから、一瞬引っ掛かっちゃったんだろうね~。』
「え!?それっていいの?引っ掛かったって!?」
『いいんじゃない?多分魔物避けだろうから。』
2人の精霊は呑気だが、本当にいいのか!?
今ので結界が破れた!とかは無しでお願いしたい・・・。
◆◆◆◆◆
案外近くのあるところ
「・・・ふむ?」
「おや?どうされました?クープーデン殿」
「いや・・・今、面白いものが結界を通ったのでの。ほほう・・・精霊といるか。」
「面白いもの?精霊?何を言っているのです?」
「ふふふ。・・・安心せい、その内会えるでの。ワシとも、お主とも・・・ローワン王。」
◆◆◆◆◆
それから西へ10分くらい歩いたら、草原の端に見つけた!薬草!
北の森がここまで広がっていて、草原と森との境にちょこちょこあった。
それらを丁寧に引っこ抜き、前に草の精霊に習った通りに3株1束にしていき、30分くらいかけて5つ作って採取用のマジックバックに入れた。
本当はそれ以上入れて買い取りしてもらおうかとも思ったが、そんなにやたらめったら薬草取り尽くしたら次の採取の依頼の人が困るよね、と思ってしまいやめた。
まあ、幸いにも俺はまだそこまで金に困ってないし。
さーて、帰ろっと!
と、町へ歩き出したそのとき。
ガサガサ・・・
ポヨン!
なんだこの音!?と音のした森の方を見てみると、そこには崩れたゼリーのような水色の透明な体に、体の中央に赤い核をした姿をしたやつがいた。
『あ!スライム!』
俺は精霊のその言葉に目を剥いた。
いやーーーーーーーー!!!!
涙型じゃない!
目がない!
口がない!
スラリンじゃなーーーーーい!!
『ちょ、ちょっと!?イオリ!?どうしたの!?』
スライムを見た瞬間に俺は絶望してゆっくり膝から崩れ落ちた。
突然のことに精霊2人ともオロオロしている。
数分後。
「ご、ごめん。この世界のスライムが俺が知ってる姿じゃなかったショックで絶望してた。」
『そ、そう。イオリの知ってるスライムってどんなの?』
「水色の涙型で瞳孔が開いた目が2つにヘラヘラした口だよ。結構可愛いんだよ。」
『・・・あんまり可愛いと思えないんだけど~?』
『と、とにかくイオリ、倒さないと!頑張って!』
ああ、俺の憧れのフォルムじゃなかったのは誠に遺憾だが、魔物は魔物。
出会ってしまったので倒さねば・・・。
ゼリーを切る感じだから、罪悪感は起こらない・・・はず。
俺が腰の魔剣ナイフを抜くと、スライムは敵対行動ととったようでこちらに体当たりするつもりか体全体を沈み込み、と同時に5秒の謎現象が発動した。
俺はスライムに駆けより横一線に切りつけた。
シュパッ
そして素早く距離をとった。
すると5秒の謎現象はすぐに解け、スライムは上下に別れて動かなくなった。
「・・・倒した?」
ナイフでつんつんしても反応がなかった。
え?あっけなくね?こんなもんなん?
『よかった~!イオリかっこよく戦えてたね~!』
『あんなにヘタレてたのが嘘みたいね。まあ、スライムを魔剣で切るなんてオーバーキルもいいところよね。』
ですよねー!!
やっぱり魔物の中でも最弱レベルのスライム相手に魔剣はオーバーキルだったか!
さすがの魔剣様に感謝!ありがと~の頬擦り・・・はできないな。ほっぺた切れるわ。
ガサガサガサッ
ピョンピョン!
「え!?」
また音がしたのでそちらを見ると、今度は額から角の生えたウサギが2羽いた。2羽のウサギは茶色で目付きは信じられないくらい悪い。
『あ!戦ってた音を聞き付けてやって来たみたいね。ホーンラビットよ!』
そ、想像通りだーーーーー!!!
ラノベで最初の方で戦う魔物代表じゃねえか!
つうか、こっちは想像通りならなんでスライムはスラリンじゃないんだ!?
さっきのスライムが本当に悔やまれる・・・!くぅ!
『・・・なんだかよくわからないけど、イオリ大丈夫?』
俺がごちゃごちゃ百面相してるのを2人の精霊が引いて見ていた。
「・・・うん、なんかごめん。想像通りだったもので。」
『そ、そう・・・。どっちにしても、戦わないといけないみたいよ?』
見ると、2羽のホーンラビットはこちらをものすごく悪い目付きで睨んでいる。
「え、連戦!?うーん、まあ、しょうがないか。精霊に戦ってもらうわけにはいかないし。」
『だったらアドバイスしましょうか。ホーンラビットは確か魔物肉として流通してるはずよ。』
「ほぇ!?ってことは倒してギルドに持ってったら買い取ってくれるのか!?」
『だね~!』
ほうほう!やる気でました!現金な俺だね!
持ったままだったナイフを構えたらまた5秒の謎現象になったので、ホーンラビットの横へ駆けて行き1羽の首を狙って縦に一線。
続けてもう1羽に後ろから回り込んで、後ろから首を横一線。
ホーンラビット2羽は全く反応しないまま、ポトポトと頭を落として絶命した。
そして解ける謎現象。
「ふぅ、倒せた。」
そう言ってナイフを振って血がついてないのを確認して鞘に納めた。
『イオリすごいね~!倒せてよかったよかった!』
『またまたオーバーキルだったわね。』
「うん、2人ともありがとさん。この2羽どうしよう?採取用のマジックバックに入れていいのかなあ?」
『入りそう?』
採取用のマジックバックを取り出し中を確認。
大丈夫っぽいな。なんかよくわからんが入るか入らないか感覚でわかるようだ。多分マジックバックの機能?なんだろう。
「入るっぽい。あ、でもアレしないといけないよな。血抜き。」
ラノベで冒険者が皆やってる奴だな。
確か穴掘ってその上に倒した奴を逆さまにして血が全部出るようにするんだったか・・・?
『うーん、私たちはわからないわ。なんで血を抜くの?なんで穴掘るの?』
「えーと、俺の知ってる知識で合ってるかわかんないけど、血を抜かないと肉に血の味がついて美味しくない?らしい。んで、血の匂いで他の魔物が来ないように穴掘ってそこに血を埋めるんだよ。」
『ふ~ん。そうなんだ~。』
『だったらそうねえ・・・。イオリ、どこでもいいから穴掘って。血抜きは私に任せて。』
「え?水の精霊、何すんの?」
『いいからいいから。』
とりあえず、水の精霊の言う通り適当な所の地面にナイフを突き立てて、穴を浅めに掘った。
「これくらいでいいかな。水の精霊、掘ったよ。」
『はいはい、じゃあやるわね。』
そう言うとホーンラビット2羽の首から流れていた血がプクプクと浮かび上がり、赤い1つの大きなシャボン玉のような形でこちらに移動してきた。
「わわ!?」
そしてその血の塊は掘った穴に入ってじわ・・・っと周りの土に染み込んでいった。
『はい、イオリ埋めてね。』
「お、おう。」
掘った土を元に戻して平らにならした。
『これで血抜き完了よ。ホーンラビット見てみて。血がないはずよ。』
水の精霊がそう言うのでホーンラビットを1羽掴んで傷口を見てみると、確かに血が流れ出てない。
そればかりか、切った瞬間に周りに飛び散った少量の血すら地面にない。
『血はほとんど水分でしょ?だから私が操れないわけないとやってみたの。』
水の精霊のドヤァが炸裂した。
「う、うん。すごいな。助かったよ、水の精霊。血抜き結構時間かかるっぽかったから手間が省けた。ありがとう、魔力好きなだけどーぞ。」
『ふふふ、どういたしまして。さっきからもらいすぎてお腹いっぱいよ。』
『・・・そういえば、イオリ、血は大丈夫だったんだね。しかも初めてでウサギの首切るなんて、聞いた限りではイオリのいた世界ではとてもできそうもないなと思ってたんだけど。』
「あー、それ。確かに俺のいた世界ではほっとんどの人は出来ないと思う。俺はじいさんのおかげで動物の死体には他の人よりは慣れてるからかな。」
『イオリのおじいさん?』
「そう。ちょっと遠くに住んでて、年に2~3回しか会えなかったんだけどね。すげー山奥に住んでて、農家やりながら猟師やってて、捕ってきた動物を解体してるのとか見たことあったから、あんまりうわっと思わないんだよな。」
じいさんは俺に命のありがたさや、学校では教えてもらえないことを教えてもらった、大好きだった人の一人だ。
俺が高校にあがったくらいらに、ガンであっという間に逝っちゃったんだけどね。
「動物はじいさんのおかげで多分大丈夫なんだけど、人とか猿とかはマジ無理だな。やっぱりあっちの世界で育ってきたから、こればっかりは無理なんだよなぁ。」
という話をしながら町に帰った。
また結界?にひっかかったが、本当に大丈夫だろうか?




