19話 2週間後
俺がこの世界に来て20日。
孤児院「未来の家」を出て2週間がたった。
俺は週5でハンターやることにして、休みの2日で町中の散策や図書館に行って細かい生活や文化を学ぶことにした。
ハンターはもちろん町中の依頼ばかりだ。
雑貨屋の店番や犬の散歩、引っ越しの手伝いもやったが非力な俺は役に立たなかったな・・・。
もはや魔物か?というくらい激マッチョな先輩がやたらこちらをチラチラ見てきたときはいろんな意味で怖かった・・・。
配達の依頼もちょくちょくあって、例のグランデニア商会の道具屋の依頼もあれから何回か受けたが、あの男が来ることも襲われることもなかった。
店長も首を傾げていたが、まあ、何もないのが一番だからと安心したようだった。
でもまあ、いい加減町中ばっかりも飽きてきたから、そろそろ町の外に採集くらい行こうかなとは思い始めた。
え?討伐やんねえのかって?やだ!まだ怖いもん!
採集の時に戦うことになったらそれは仕方ないが、自らはまだ心の準備が・・・。
ギルドにちょくちょく行くので、受付の人とはちょっと話す程度には親しくなった。
他にも依頼主だった人達や、依頼先などで知り合った人達も町中で歩いているとばったり会うこともあるので浅く広く付き合っている。
あちらの世界でも俺は人との付き合い方が浅く広くがモットーだったので、こちらの世界でもモットーは変わらずだ。
でもこちらの世界で知ってる人がいるというのは安心する。
ワケわからんうちに異世界に来てしまってボッチって、悲惨やで・・・。
ホントの孤児院に感謝やね。
孤児院にはあの後、2回遊びに行った。
もち、お菓子とお肉を持ってね。
子供達は飛び付いて来ましたよ。・・・お菓子に。
お菓子目的でも子供達の笑顔が見れたからいいや、と自分を慰めたさ。
遊びに行った2回ともグランがいたが、やっぱりちょっとこちらを警戒している。
なんだろう?すごい人見知りかな?
んまあ、あっちから話しかけてくることもあるから、特に気にしなくてもいいのか?
そのうち慣れてくれるだろ。なんだか野良猫に対する考え方になったような・・・?
俺が置いてったお金の話と壁の話になったがテキトーに華麗にはぐらかした。
お金はそれぐらい世話になったってことだし、むしろもうちょっと出してもよかったかも、と思ってる位だ。
せいぜい子供達のために使って欲しい。
壁の話、とローエ達は言っていたが、実は壁だけじゃない。
孤児院の建物のボロさを見かねてってのがあって、どうにか修繕できないか?と考えたその時に、まな板とかを直したのを思い出して、木の精霊に協力してもらって数日に分けて建物全体を修繕・強化してもらったのだ。
ローエ達は気付いてないが、柱をしっかり強化したので耐震性はバッチリだし、廊下もたゆんでないし、壁も外壁を強化したからすきま風もナッシング!天井裏とかも修繕したから雨漏りの心配も無し。建物全体の歪みもなくなったから、玄関や窓もスムーズに開くし、完璧だね!
これは俺の勝手なお礼だから、気付いて欲しい訳ではないから俺からは言わないけどね。
そういえば、2回目に行った時にアルフレッドさんがいた。
俺が孤児院で気が付いた時に、水を飲むのを介助してくれた貴族の青年だ。
俺が真っ先に介助のお礼を言うと笑って気にしなくていいと言ってくれた。
その後ものすごく会話が弾んで、すぐに友達になり、爽やかで気さくなアルフレッドさんは敬語もいらないし、愛称のアルでいいよと言ってくれたので、アルと呼ばせてもらうことにした。
アルは貴族の生まれだが元々から町中を出歩くのが好きで、教会に孤児院があった頃から寄付やらお菓子の差し入れ等で度々孤児院に来ていて、グランとローエと年が近いこともあって友達になったそうだ。
今ではハンターの依頼でグランが遠出をする間はアルが様子を見に行くくらい親しいらしい。
だから俺が孤児院に保護されたときにいたんだ・・・。
休みの日に図書館を利用して基本的な文化も学んだな。
年月日はほぼ変わらずなのは分かりやすくてよかった。
1年が365日で月は12に日は30。
ただし曜日は7つなのは変わらないが、月は「ルネス」・火は「マルス」・水は「メルクリウス」・木は「ユピテル」・金は「ウェヌス」・土は「サバド」・日は「ドミンゴ」という。
読み方や表示方法は「○○○年1の月1、ルネス」となる。
今のところ困りはしないが、覚えてられるかな・・・俺?
時間はあちらの世界と同じだが、分秒はだいたいなようだ。
なぜなら各家庭に時計がないからだ。
時計は大変稀少で高価だそうで、王族か貴族か教会にしかないらしい。
なので庶民は教会の鐘と太陽の位置で時刻を把握しているそうだ。
因みに鐘は0時・3時・6時・9時・12時・・・と3時間ごとに鳴る。
町の外にある孤児院にいたときは、鐘は聞こえなかったが子供達が起こしてくれたから朝起きることができた。
しかし宿屋に泊まるようになったら起きたら昼近く、ということが何回かあって朝食を逃したことが何回かあったが、最近やっと毎朝起きれるようになった。
あちらの世界では朝起きれず二度寝は当たり前だったのにな。
1人で身の回りをやらないといけない状況だから、自然と気を付けるようになったのかもしれないな。
それでも二度寝の誘惑に負けそうな時は精霊が起こしてくれるけどね。
ホント、精霊には世話になっております。ヘコヘコ
精霊と言えば、宿屋に泊まるようになったら精霊達が俺の元に遊びに来ることが増えた。
彼らは町中を飛んでるのもいるので、いろんな種類の精霊と話す機会は格段に多くなったが、その中でも情報の精霊はちょくちょくやってくる。
精霊ともっと気軽に話したいが、いかんせん精霊達は俺にしか聞こえないし見えないから、端から見たら俺は独り言を話すヤベエ不審者に思われかねないので、今のところ泊まってる宿屋の部屋位でしか話せない。
町中で小声だったら話せるが、あまり長く話してるとこれまたヤベエ奴に見られかねないしな。
そんな俺の思いはよそに、精霊達は相当俺を気に入ったのか?はたまた魔力食べ放題だからか?なにやら俺の所に今日は誰が遊びに行くかとかで揉めたそうで、何がどうなったか毎日1~2匹の精霊が謎のローテーションで俺につくことになった。
んまあ、俺としては精霊からアドバイスをもらえるし、話し相手にもなるからからいいんだけどね。
こちらの世界に来て20日たったのに、あちらの世界で聞いた『声』の主らしき奴は現れない。『声』も聞こえてこない。
どうなってる?
部屋の天井に渦ができてそこに吸い込まれたことを考えると、俺はてっきり『召喚』されたとか思ったが、図書館で調べても『召喚魔法』はあるが3世界内限定だそうで、異世界のものを召喚する魔法は存在しないらしい。
しかし確かにあの『声』の主に俺は呼ばれ『召喚』されたと、理由はないがそんな気がするのだ。
が、そこで疑問なのは、なぜ呼ばれたかだ。
異世界の人間が来るなんて、しかも多分呼ばれてだからそれなりの理由があるはずだが、どう調べてもそれとなく町の人やローエ達に聞いても、呼ばれる理由がないのだ。
まあ、ラノベあるあるとしてはまずはじめに魔王の存在を疑ったが、いるにはいるが、基本的に魔界にいて人間界に来たことがない。
だから人間達は人間界にいる魔物を相手にしているだけだそうだ。
その魔物もすごく強いのがいたりするが、ハンターのレベルSがいるからどうにかなっているらしいし。
かといって人間同士、例えば国同士の戦争があるわけでもなく、仲が良くない国もあるが戦争に発展するほどでもないし、ローワンからちょっと離れた国では内紛が起こってるらしいが小規模ばかりらしいし。
つか、天界の神々が人間界を見守ってるからなんかあったら介入があるだろうから、そこまでなことはますます起こりにくい状況みたいだし。
ホントなんで俺はこの世界に来たんだ?
しかも精霊と話せる能力に魔力が駄々漏れだし、5秒の謎現象。
これらは多分チートなのかもしれないが、なぜこんなチートを持ってる?
もらった?誰から?
いたっ!いたたたたっ!!
砂漠で気付いた時に打った後頭部がなぜだか痛む・・・。
俺はそこまで考えて、宿屋の部屋の中に視線をうつした。
俺はベットに寝転がって天井を見つめて考えごとをしていたのだが、部屋の中では今日の俺担当?の精霊2人がフワフワ飛んでいた。
『イオリ、暇だよ~。』
『今日はハンターの依頼しないの?』
精霊2人の内、最初に声をかけてきたのは鳥の精霊だ。
他の精霊と同じく30センチの体長は丸くて全身黄色でコロコロしていて、つぶらな瞳に小さな嘴と、シマエナガの黄色版ような見た目だ。
その次に声をかけてきたのは水の精霊だ。
体長はやっぱり30センチで全身泡や水の玉に包まれた穏やかな目付きと表情の見た目だ。
「そろそろ昼だから、昼飯食ってからギルド行こうかなと思ってる。今日は町の外に出て採取の依頼やってみようかな。」
『あら!ついにイオリが町の外に出るのね、やっと。』
『やっと。』
「う、うるせぇやい!」
おもいッきり嫌みを言ってくる2人に悪態をつきながらベットから起き上がり、荷物をまとめる。
といっても、いつも全部マジックバックに入れてるからすぐ終わったけどね。
『そういえば、イオリは腰に下げてるナイフ使ってる?』
「使ってないよ?町中で使うこと今までなかったし。」
『じゃあ、手入れは?』
「手入れ?なにそれ?」
『え?』
『え?』
「え?」
俺は知らなかったが、刃物は手入れが必要なのだそうだ。
そういえばあちらの世界でも、テレビで料理人が包丁を研いだりしているのをなんとなく見たことあるが、あんな感じと思っていいのだろうか?
『町の外に採取の依頼で行くなら、もしかしたら魔物に遭遇することはあるから、ナイフの状態は今の内に見といたほうがいいんじゃない~?』
鳥の精霊にそう言われ、そういやそうだなと、腰にいつもつけていたナイフを買って以来初めてくらいに抜いてみた。
あれ?買ったのは普通の大振りのナイフのはずだが?
なんでうっすら光ってんの???
『あれ!?イオリ、魔剣持ってんの~!?』
「は!?魔剣!?」
精霊によると、魔力を帯びた剣のことを魔剣というらしい。
「でも・・・俺が買ったのはごく普通のナイフだったんだそ?なんで知らない間に魔剣に?」
『魔剣は長い間、魔力の濃いところにあったりすると、その魔力を吸収して魔剣なるのよ。もしかして・・・イオリ、そのナイフは買ってからずっと腰につけてた?』
「ああ。一応舐められないようにってことで買ったんだから、とりあえず風呂と寝るとき以外はずっとつけてた。・・・え、ちょっと待って。まさか?」
『イオリっていつも魔力が駄々漏れじゃない?しかも濃い。だからそのナイフはずっとイオリの魔力を吸収してたってことで、魔剣になったんじゃない?』
「ふぁ!?」
知らない間に魔剣装備してました。




