189、暗殺者来る
やっと書けました。遅くなってすいません。
グランが帰ってきてすぐにどこかに遊びに行っていた子供たちも帰ってきて、俺へのインタビューは今日はここまでとなった。
そうは言ってもせっかく孤児院まで来てくれたフランクに「用はすんだらとっとと帰れ」と追い出す訳にはいかないので広間のテーブルを囲んでの皆でおしゃべりタイムとなってお菓子をつまみつつ皆でおしゃべりしまくった。
因みにお菓子はフランクが来た際に手土産としてもらったクッキー詰め合わせと俺がリンクに忍ばせていた焼き菓子セットだ。
え、いや、なぜ忍ばせていたかと言うと・・・うまそうなのを見つけたら買ってリンクに入れておいたら、ひょっとしたらザウトレーヴとのお茶会で出せるかなとか、急にどっかに遊びに行くことになった時の手土産に使えるかなってね。
決して小腹が空いた時とかに密かにつまめる用ではありません(泳ぎ目)。
なんだかどこかの土の精霊神に睨まれている気がするが今だけは気にしないことにして、俺はぱかぱか食べつつ皆とおしゃべりに興じた。
「フランクさん、イオリってね変なんだぜ。」
「勇者で精霊と話せて色んなことができるのに自分ですごいってわかってないの。」
「・・・魔法使ったら大変なことになるから禁止してるくらいなの。」
「へえ、そうなんですか。魔法使ったら大変なことになるって、どうなるんです?」
「すごかったぜ!空が真っ赤になってよ!」
「ファイアを空に放っただけでよ。」
「ええっ!?ファイアをやっただけでなんですか?」
「アレはしょうがなかったよなあ。だってあん時、火の精霊15にんくらい集まってたんだもん。」
「15!!??」
おや?なんかフランクのリアクションがやけに大きいぞ。
「15にんって珍しいん?」
「いやいやいや!5にん集まっただけでも大変珍しいと言われてるんです。それの3倍だなんて・・・もちろん聞いたことありません。」
5にんでめちゃくちゃ珍しいんかよ・・・。
という話をしたり、
「そういえば、イオリはもうすぐハンターのレベルS試験を受けると聞いたのですが。」
「そうそう。それに向けて今鍛えてるところなんだ。」
「そうなんですね。実は僕もレベルBハンターなんですよ。」
「え!?そうなの!?」
「全世界の色んなところに行くようになって、その都度護衛を雇うのは面倒というのもあってある程度戦えるようになった方がいいかなと思いまして。」
「へえ、そうなんだ。フランクは魔法で戦うの?」
「魔法も使いますけど、それだと魔法に強い魔物が出たらアレかなってことで弓矢も使って戦うようにしてるんです。」
「へえええ。その弓矢は今日は持ってきてないん?」
「持ってきてますよ。ここに入ってます。」
そう言ってフランクはでかいリュックから弓矢を取り出していた。
弓矢に引っ掛かって色々とドシャドシャと出てきて辺りに撒き散らされて慌てて拾ってリュックに入れていた。
弓矢はフランクの身長ほどでかくて金属っぽい素材のしゅっとしたデザインでかっこよくて、矢は矢筒にまとめて入っていた。
「わあ!弓かっこいい!」
「大きいわね!」
子供たちは興味津々に見てきて、アンも言葉は発しなかったが興味深げに見ていた。
確かにかっこいいよな。
・・・あれ、でもなんだろ?
なんとなーく、なにか普通の弓じゃ感じない感覚がするような気がするぞ。
魔剣みたいな感覚とはまた違うような、言うなれば精霊に近いような感じがする。
『ふふふ、イオリは気付いたみたいだね?』
首を傾げながら弓矢を見る俺を見て、情報の精霊が含み笑いをしてきた。
なんとなく俺は子供たちと話しているフランクとちょっと離れて小声で情報の精霊に話しかけた。
「気付いたってどういうことだ?情報の精霊はなにを知ってんだ?」
『ふふ、今は教えな~い。もうひとつ集まったら教えてあげてもいいかな?』
もうひとつ?集まる?どういうことだよ?
それから情報の精霊に聞いてみても『秘密だよーん』としか言わなくて結局なにも教えてくれなかった。
ほんと、このストーカーはなにを考えてるんたか・・・。
それからほどなくしてフランクはおいとますると言って、俺は孤児院の出入り口まで送ってった。
フランクは貴族の友人の邸宅に泊まっているそうで、今日のところはそこに帰って俺の話をまとめたいらしい。
「イオリの話はとてもとても面白くて興味深かったのでまたお話を聞かせてもらえませんか?もちろん、イオリの都合のいい日で構いませんので。」
「うん。俺もフランクと話してて面白かったよ。俺の話でよければまた話そうよ。」
「ありがとうございます!あ、それとレベルS試験頑張って下さいね!」
「ありがとー!がんばるよ!」
そうしてフランクは去っていった。
俺が思ってる学者さんのイメージとはいい意味で違ってて面白かったな。
フランクとならいい友達になれそうだ。
「ということで、ストーカーもとっととおいとま願いまーす。」
『えっ!?用がすんだらすぐ追い出されるの!?』
「だって今日俺の担当?になったのは俺とフランクが会うからだったんだろ?んでフランクが帰ったんならお前だって俺に用なないってことじゃね?」
『確かにそうだけど!でもでも!追い出すことはないんじゃないの!?やだやだひどーい!』
情報の精霊はそう言ってうそ泣きみたいなのをしながら俺の顔にピトッと張り付いてきた感覚がした。
「気持ち悪い!離れろ!」
手で振り払うが精霊は触れないので無意味だ。
『僕にひどいことを言った罰だ!これで今日は過ごすといい!』
「気持ち悪い罰すんな!」
その後、あまりにもわーわー言う俺にグランが怒ってお叱りを受けて、見かねた風の精霊がやって来て情報の精霊の頭を掴んで俺の顔からひっぺがしてくれてそのままどこかに連行して行ってくれた。
それで落ち着きを取り戻した俺は翌日からジアースに鍛えられていよいよ試験の前日を迎えた。
前日のこの日はいつものように朝走ってハンターをやった。
「ふー、ついに明日試験かあ。どうなるかなあ。」
『イオリなら合格するだろ。』
『明日が楽しみね。』
俺の担当?の火の精霊と鳥の精霊は本当に楽しみなようで俺の肩の上でキャッキャしている。
『イオリもわかってると思うけど、明日は情報の精霊が担当につくからとても騒がしいと思うけど気にせず頑張ってね。』
うん、明日情報の精霊が俺の担当?になるのはもう想定内だ。
ただ、とても騒がしいがめちゃくちゃ気になるんだが。
「・・・そういえば、俺の顔に張り付いてきて以来ストーカー見てないけど、あいつどうしたんだ?」
まさか俺の顔に張り付いてきたことを反省しているとか?ないか。ないな。
『風のに壊されたカメラよりすごいカメラの開発に心血注いでて、それを明日は試験の会場となる訓練場のいたるところに設置するって張り切ってるぜ。』
そんなもんに心血注ぐな。
「うん、風の精霊に頼んで明日全部壊すように頼もうかな。」
そんな会話をしていた時。
ハッと気が付くと景色がゆっくりになっていた。
・・・え!?あ、そういえばこの場所はジアースと初めて会った人気のない孤児院への細道だ。
その時も急に景色がゆっくりになってジアースが攻撃してきているところだった。
ってことは、もしかして・・・ジアース?
慌てて周囲を見回すと黒いフードを被ったマント姿の人影が近くの草むらから飛び出してくるところだった。
手にはでっかい鎌を持っていて明らかにそれを振りかぶっている。
ヤバい!!
一瞬でうなじに寒気がしてその場を飛び退いた。
直後に鎌が振るわれ俺は避けることができた。
「・・・。」
人影は驚いたような雰囲気が一瞬したが、鎌をいつでも振りかぶれるように構えた。
「・・・え!?なに?なにあんた?ジアースじゃない?」
黒いフードで顔がまったくわからない。
でも鎌を持っている手がなんとなく細い気がする。
『イオリ!大丈夫か!?こいつは土の精霊神じゃねえぞ!人間だ!』
火の精霊が慌てて言ってきた。
人間だって???
はて?俺の知り合いにこんな攻撃してくる人なんていないんだが?
「え?あんた誰?」
俺がそう問いかけると、黒い人影はゆっくりめにフードをおろしマントを脱いだ。
多分ゆっくりめなのは【武術超越】せいなんだろうけど。
フードの下の人物は美女だった。
20代前半くらいの太ももまでのめちゃくちゃ長い黒髪を後ろで結い上げ、切れ長の灰の目の無表情な美女で、黒くタイトな肩が出たドレスを着ていて片方の足の太ももがスリットの入ったスカートからチラチラ見えピンヒールブーツを履いているセクシーな姿だ。
手に持っている鎌は美女の身長ほどでかくて持つところは太くて禍々しい感じで曲がりくねっていて、刃の部分は長さも厚みもあってギラギラと光っている。
美女は俺を射抜くように見つめてきて、口を開いた。
「・・・依頼により、勇者には死んでもらう。」
「は、はああ!?」
俺はめちゃくちゃびっくりして後ずさった。
『なんだって!?』
『なんですって!?』
精霊ふたりもぎょっとしている感覚がする。
すると俺の足元からなにかがぽこっと出てきた感覚がした。
これは・・・土の精霊?
『・・・イオリ、土の精霊神からの伝言で「この人間と戦って勝て。特訓の最終日にはぴったりだ。明日の試験の前哨戦と思えばいい。」だそうだ。』
ええええええええ!!??
そんな無茶な!?




