閑話 その頃の何処か
人間界の空の果て。
人間も魔物も動物も知らない空中神殿がそこにはあった。
あちらの世界でいう古代ヨーロッパの神殿そのままな真っ白な建物の中。
巨大ホールの真ん中に人間に似た姿の者が4人集まっていた。
「おう、全員揃ったな。俺達が集まんのも久しぶりだな。」
20代の顔はイケメンで赤い髪に襟足を伸ばした髪型の青年は煙草を吸いながらそう切り出した。
「本当に久しぶりねぇ。500年ぶりかしら?皆元気そうで嬉しいわ。」
30代の顔は美女で青いストレートの髪を腰まで伸ばした髪型の女性は女神のように微笑みながらそう言った。
「元気に決まってるわよ~。私らが元気じゃなかったら世界が滅ぶわよ~。」
10代の顔は美少女で黄色い髪をポニーテールにしている女性はニコニコ冗談混じりにそう言った。
「・・・うむ。」
30代の顔は厳ついイケメンで茶色の短髪の青年はポニーテール少女の冗談に口元だけあげて笑った。
「今日はあれでしょ?精霊と話せる人間が現れたってことで集まったんでしょ~?」
ポニーテール少女がそう言うと皆が頷いた。
「ああ、そうだ。今まで魔法もなしに精霊と話せる人間なんていなかった。しかも情報ネットワークによると、そいつは異世界から来たらしいときた。どんな奴か、今後そいつがどうなることが予想されるか、それについて俺らの対応について、今のうちから話し合わないとな。」
赤髪の青年はそうめんどくさそうに言った。
「ネットワークを読む限りは心配ないように見えるけれど・・・。その辺り、どうなのかしら?情報の精霊?」
青髪の美女がそう言うとどこからともなく情報の精霊が現れた。
『皆、心配し過ぎだよ~。イオリはそんな奴じゃないよ!』
情報の精霊はニコニコしながらその場でくるくる回った。
「ね!ね!イオリってどんな子なの!?超気になる!」
ポニーテール少女は興味深々にそう聞いた。
『イオリのいた世界にこの世界みたいな剣と魔法の設定の本がいっぱいあったらしいからあんまり戸惑わなかったらしいよ?ラノベとかいったかな?そうじゃなくても理解力と順応性は高いと思うな。頭はいい方と思うけど、体は鍛えてないように見えるね。あっちの世界では運動や体を鍛えてないと言ってたから、ここで生活するのならそれが心配な所かな。』
「鍛えてないのなら、この間のチンピラを倒したというのはおかしくねえか?」
赤髪の青年の言葉に情報の精霊はうーんと唸った。
『不思議なんだけど、戦う時はすごく速く動けるようなんだ。イオリに何となく説明してもらったけど、何でか戦うとなったときに周りが5倍遅くなるらしいんだ。僕らが1秒と経つ間にイオリは5秒経ってるらしいよ?』
その話に4人共驚いていた。
「その【能力】はあいつしか持ってないはずだぞ!?何故そいつが持ってる!?」
赤髪の青年が驚く中、冷静に為った青髪の美女はぽつりと言う。
「そういえば、最近彼を見かけた?」
「・・・え?最近どころか、だいぶ見てない。え!?もしかして、死―――」
「それはない。彼は神だから死と言う概念からかけ離れた存在だから。」
ポニーテール少女の言葉を遮って茶髪の青年は言い切った。
「その【能力】を持っている以上はあいつと無関係ではないだろうな。情報の精霊、そのイオリという人間の【能力】は?」
赤髪の青年の問いに情報の精霊は首を振った。
『イオリはまだ教会に行ってないから【能力】は本人すらわからない。』
「・・・では、どういう理由付けしてもいいから、イオリを教会に連れてって【能力】を明らかにしろ。何となく悪い奴ではないのはわかったが、イオリがこれからどうするかはまだまだ情報が足りなさすぎる。」
『了解~』
赤髪の青年の指示に情報の精霊はおどけながらも敬礼した。
「んじゃ、その【能力】がわかったらまた集まるってことで。それまではとりあえず様子見でいいだろ?」
赤髪の青年の問いに3人は頷いた。
そうして集まりは解散となった。
皆それぞれ去っていき、情報の精霊だけが残ったなか、風の精霊が近寄ってきた。
『なに考えてるか、当てていい?情報。』
『やあ、風の。当たるかな?』
『・・・教会で【能力】を明らかにするにはまだ早い。とか?』
『!?』
情報の精霊は驚いて思わず風の精霊を凝視した。
『情報を司る精霊がわからないことあるわけないわよね?イオリすらわかってない【能力】を知るなんてあなたなら楽勝でしょ?』
その言葉に情報の精霊はニヤリと笑った。
『流石風の。お見逸れしました。』
『私も何回かイオリに会ったけど、彼はあなたが言うように理解力も順応性も高い。けど、一気に教えてもイオリのためにはならない。沢山の力を持つことはイオリが目立つことになって、良からぬことに巻き込まれる可能性がある。特にこちらの世界に来て間もない常識もない状態だと特に、ね。』
『イオリは特別な力を持ってることは自覚してるけど、目立ちたいわけではないから、僕のアドバイスを聞いて力のことも異世界から来てることも誰にも言ってない。まあ、そのうち信頼出来る人間に言うだろうけど、それまではこっちの世界と自分の力に慣れて貰おうかと思ってね。』
『でも、彼の指示はどうするの?指示された以上は早く【能力】を報告しなきゃいけないじゃない?』
『500年ぶりの再会を「久しぶり」程度に感じる彼らなら、遅くなっても怒らないと思うよ?下手したら10年位報告しなくてもいいかも。』
情報の精霊がそうあっけらかんと言うと、風の精霊は呆れた目を向けた。
『んまあ、しばらくはイオリがこっちの世界に慣れるまでは僕から言うことはないかな。仲良くなった人間から【能力】のことを聞く可能性もあるけど、それはそれで止めるつもりもないし。』
『・・・なんかイオリに優し過ぎじゃない?情報、なんかイオリに弱味でも握られてるの?』
『逆に僕の弱味って何よ?って、違う違う。僕は友達には優しいタイプなだけさ。』
風の精霊はその言葉に微笑んだ。
『そう。実は私も友達には優しいタイプなのよ。だから私もイオリに【能力】のことは言わないわ。・・・でも、不思議なことがあるの。』
『不思議なこと?なんだい?』
『情報ネットワークのおかげで精霊は皆イオリに興味を持っている。皆がイオリに会って話すだけでイオリの味方はどんどん増えて、イオリは魔法を唱えなくても精霊がいるだけであらゆる魔法と同じ状況を起こすことができるようになって、やがて・・・いえ、もうすでにある意味で世界最強の位置にいるわね。イオリ本人が無自覚だけど。』
『うん。』
『なぜそうする必要があるの?イオリは何らかの理由で来てしまっただけの普通の子なのよ?特異な【能力】は持っているけど。世界最強にしたところで、敵はいないのよ?魔王はいるけど魔界で魔族を統治しているだけで、人間界に乗り込んだことすらないし、魔人は人間界で暴れることはあるけど、だいたい神の何人かが対応しているし。人間の中にもそこまで悪い人で強力な力を持つ人間もいないし。』
『・・・』
風の精霊がしきりに首を傾げるが、情報の精霊は真剣な顔をしている。
そして小さく呟く。
『・・・いや、いるよ。大昔からね。』
『え?何か言った?情報?』
風の精霊のその言葉に情報はすぐ微笑んだ。
『ううん。なにも言ってないよ!とにかく、イオリがこっちの世界に慣れるように僕達も協力しよう!』
『ええ、そうね。イオリの行動も面白いし。』
『お!流石、風の!じゃあ今からイオリに突撃密着取材する!?』
『やめたげなさい。』
その数時間後、イオリは突撃密着取材を受けた。
これにて第1章が終わりです。
次からやっと独り暮らし生活。
しっかり足を固めて進みたいタイプなんだろうね。
因みに次の章のどこかにヒロインっぽいのが出ます。




