1話 世界へ
「いった・・・――――――――!!」
後頭部の痛みで目が覚めた。
何かに頭を打ち付けたのか、ガンガンと響く。
後頭部を擦りながら目を開けると・・・目の前には雲ひとつない青空に白く輝く太陽が。
は?と思い頭を持ち上げながら周囲を見渡して驚愕した。
俺はなぜか砂漠の真ん中で倒れていたのだ。
見渡す限りの砂、砂、砂・・・。
植物などひとつもなく、太陽の陽射しを防ぐような日陰もない。
俺は帰ってきたままの姿―――学校の制服ズボンに、上は黒のノースリーブTシャツに制服の白い長袖を肘まで間繰り上げているシャツと、どう見ても砂漠に合う服装ではなかった。
しかもなぜか脱いでたはずのスニーカーを履いていたし、ポケットに入れていたはずのスマホも財布もなかった。
立ち上がって辺りを見回すも、本当に砂以外何もない。
ここは一体どこだ・・・?
えと、今までのことを整理しよう。
俺は今まで自分の部屋にいた、確かに。
そしたら男の声がして、ブラックホールに吸い込まれた。
んで気がついたら、ここにいた。
・・・・・・いや、ブラックホールに吸い込まれてここに来るまでどこかにいたような気がする?いたたたた・・・
何かを思い出そうとすると後頭部がいてー。
つーか、いきなり砂漠とかあり得ねーし、これは夢?
いや、夢にしては陽射しで頭が焼けそうだし、何より・・・暑い!
とりあえず、日陰になるような所を探して歩くことにするか。
方向は・・・もちろんわからん!よし、勘でこっち!
慣れない砂地に足をとられながら歩きだす。
だが・・・しばらく歩くも景色は変わらず、長袖シャツを脱いで頭に羽織ってみるも、それも無駄と思うくらいジリジリと太陽の光が降りそそぐ。
「あっち~~~!!何だよここは!?サハラ砂漠か!?」
誰に言うでもなく叫んだが、もちろん応える声などない。
そこまでの時間歩いたわけではないのに、息が粗くなり足も重くなってきた。
砂で足を何度もとられているからではあるが、何より運動部に所属したことがない俺にとってはキツかった。
「だ、誰かいねえのかよ・・・!?」
力なく一人呟く。
こんな砂漠によっぽどの用がなければ来る人もいないよな。
水も日陰もないのだし・・・。
「・・・・・・・・・。」
ふと、かすかに何か聞こえたような気がした。
辺りを見回すが、砂と空だらけ。
『・・・クスクス・・・クスクス。』
部屋で聞こえたあの男の声でなはなく、女性の軽やかな声が聞こえてきた。
その声はどうやら2つで、近づいてきているのはわかるが、姿が全く見えない。
ヤバい、暑すぎて頭がヤバくなったかもしれぬ。
「・・・誰かいんのか?笑ってる・・・?」
『・・・あら?あなた、私たちの声が聞こえるの・・・?』
声はすぐ前方の斜め上から聞こえるが、何をどう見ても誰もいない。
「ああ、聞こえる。・・・どこにいんの?」
『変わった子ね。魔法も使わずに私たちの声が聞こえるなんて。』
『本当。変わった人間。』
いよいよ頭がおかしくなったのか?魔法とか聞こえたんですけど。
「あんたたちは、なんで姿見えないんだ?」
『私たちは姿を消したりはしていないわ。あなたたち人間が退化して私たちの姿が見えなくなっただけよ。』
あなたたち人間が?じゃあこの声の主は人間じゃない?
『でもあなたは・・・多分見ようと思えば見えるわ。』
「見れる?俺だけ?」
『そう。あなたは変わった魔力をもってるから見れると思うわ。』
魔力とかさらっと言ってるし、この人らいよいよヤバくないか?
『試しに、目を閉じてみて。』
目を閉じたらぶん殴られるんじゃないかと少し戸惑ったが、声の主はそんなことをするような感じのしない明るい声だし、女性だからそんな物騒なことはしないだろうと、それでも警戒しながらも目を閉じてみた。
『そうそう。閉じた目に魔力を薄く張るの。水の膜を張る感じをイメージしたらいいわ。』
「・・・・・・。」
魔力がよくわからないが、水の膜と言われて瞼に薄い、それこそコンタクトをつけるようなイメージをしてみた。
『・・・そうそう。出来たと思ったら目を開けて。』
ゆっくりと目を開けた。
自分の目に何かが被さってる感覚が確かにあった。
そして目の前には緑の風を纏い大きな瞳に翼の腕をもつ30センチ位のゆるキャラっぽい生き物2人が浮いていた。
明らかに先ほどまでいなかった生き物2人はニコニコ笑顔でこちらを見てくる。
『見えるでしょ?私たちの姿が。』
『はじめまして。私たちは風の精霊よ。』
俺はもちろん精霊など今まで一度も見たことがない。
今、初めて見て、しかも会話しているのだ。
本来なら大パニック!!泡を吹いて倒れてもおかしくないのだが・・・。
「・・・・・・はじめまして。」
当然驚いて唖然としたし、多分そういう表情をしたと思うが、なんか冷静な自分もいて、わりとすぐ落ち着いた。
暑すぎてそれどころじゃないのもあったが、なぜか精霊を見ても知らないものへの恐怖がなかった。
むしろ知り合いでしたか?というくらい既視感や親近感を感じていて、俺としてはそう感じている自分にむしろ驚いた。
「ええと・・・それで、どっかこの近くに町かオアシスみたいなのある?しばらくここを歩いてて、暑すぎて喉が乾いてさ・・・。」
『・・・あらまあ。初めて私たちを見たわりにはリアクション薄いわね、クール坊や?』
『さっと流して用件を言うなんて、むしろマイペース坊やじゃないかしら?私たちを見れるってすごいことよ?』
予想外のリアクションの少なさに風の精霊の方が驚いていた。
そういわれても自分でもよくわからないのだから、リアクションのしようがない。
「自分でもよくわかんない。でも何か・・・精霊を知ってる?気がして・・・。で、町かオアシスどこか知らね?俺、手ぶらで飲み物もないんだよ・・・。」
『ホント不思議な子ね。それより、手ぶらで砂漠を歩くなんて無謀よ。』
「そんなこと言われても、気がついたら砂漠の真ん中で倒れてたんだから、しょうがないんだよ。」
『ここの砂漠にはオアシスはないわ。』
『ここから近くだと、あっちに人間たちの町があるわよ。』
そう言って精霊は翼で右の方を指した。
しかし翼で指した右の方はどうみても砂漠と空しかなく、建物があるとは思えなかった。
「・・・ホント?ここからどれくらい歩いたらあんの?」
『ええと・・・人間が歩いたら、だいたい一時間くらいかしら?』
「ええーー!一時間!?・・・でもしゃーないな。ありがとう、教えてくれて。」
『こちらこそ、久しぶりに人間と話せて楽しかったわ。』
『私たちは風の精霊だから水を出すことはできないけど、町に着くまで風を纏わせてあげる。だいぶマシだと思うわ。頑張って。』
風の精霊はそう言って翼を大きく羽ばたかせると、俺の周囲にだけ風が吹きはじめた。
「わ~、気持ちいい!ありがとう!頑張って行くわ!」
風の精霊がそれこそ風のよう去っていくと「うっし!」と気合いを入れて精霊を指した方向に歩きだした。
風を纏わせてもらったので心地いい風を感じられるのと、暑さやしんどさや、なぜここにいるかわからない不安で気持ちが落ちていたが、しばらく会話出来たことで気分転換になったみたいで、心がちょっと軽くなったような気がする。
因みに目に被さっていた魔力?は風の精霊が去ってすぐに、役目を終えたとばかりに霧が晴れるようにさっと消えた。
再び歩き始めて、一時間が経とうとしていた。
もうすでに気合いなんてどこへやら、もう歩くのもやっとの状態。
心地いい風は吹いているが、喉が乾きまくりで、当初かいていた汗もでなくなり、関節がダルくて頭痛と激しいめまい・・・。
視界がぼやけてるので、もうすぐ町なのかもわからない。
足も一歩一歩踏み出してはいるが、砂にとられて進んでるのかもわからない。
靴のなかに砂が入ってるのももうどうでもいい、むしろ砂が入ってても感覚がないや。
あ、ヤバい・・・・・・。
足がふらついて前のめりに倒れた。
でももう腕を曲げ体を起こす気力もない。
視界がぼやけて・・・何も考えられない・・・。
そしてそのまま意識を失った・・・――――――――――。