184話 学者からの手紙
フラグ立ってすぐきた。
おおいに盛り上がったお茶会から1週間後。
「おはようイオリ、今日もあなた宛の手紙来てるわよ。」
起きて朝のルーティーンの走り込みを終えて孤児院の広間に帰ってくるとローエが挨拶と共にそう言ってきた。
「はよ、ここんとこ毎日だな。」
続けてグランが広間のテーブルで先に朝食を食べながらそう言ってきた。
「2人ともおはよー。また来たんだ。」
俺は苦笑しながらイスに座るとローエがすかさず朝食のサラダとちょっとした肉料理を出してきた。
そして続けてバサバサと手紙を置いた。
・・・今日は3通か。
食べつつ差出人を見ると3通それぞれ違うし、封筒の質がサラッサラで明らかにいい奴使ってるのがわかる。
全部開けて読んだら差出人は違うのに内容はほぼ同じで苦笑した。
この手紙の内容は全部お茶会の誘いだ。
差出人は3通とも貴族で、伯爵の令嬢1人に子爵の令嬢2人からだった。
勇者様とお会いしたいから是非お越しくださいといったもので、簡単な自己紹介と屋敷の場所と時間を書かれている。
実はネフィーとお茶会をしたことがどうやら貴族たちの間で噂になったようで、お茶会をした数日後から急にこういったお茶会の誘いの手紙が来るようになったのだ。
「・・・また茶会の誘いか?」
グランが呆れたように聞いてきたので俺はうんうんと頷いた。
「ここんとこ毎日来るよ。俺って急にモテ期が来たみたいだ。へへ、モテる男はつらいぜ。」
「アホなこと言うな。当然、行くわけないよな?」
「もちのろんよ。ネフィーとかエティーとかアルならともかく、知らない人のお茶会なんて行く理由ないし、面倒な事はごめんだもん。」
「だったらそれらは断りの手紙送るのか。」
「いんや。勝手に送って来てわざわざ返事送るなんてこっちがなんでそんな気を遣わないといけないのか意味わかんないし正直面倒臭いからカナメに相談したんだ。そしたらカナメが受け付けてくれるって言ってくれてさ。来たらその都度全部カナメの元に転移魔法で送ってる。」
「なんという人脈と魔法の使い方だよ・・・。まあ、宰相様が受け付けてくれるなら大丈夫か。」
「うん。なんか脅しのネタになるとか言って嬉々として受け付けるって言ってきてくれてさ。」
「・・・なんだその恐ろしい受け付け理由は。」
でも恐ろしくても受け付けくれるのはありがたいからお願いしてるのだ。
あ、当然受け付けてもらってんだからお礼もちゃんとしてるよ。
え?お礼はなんだって?
俺の世界の化粧水と乳液を召喚できたので転移したよ。
情報の精霊によると狂喜乱舞していたらしい。
余計なこと教えてくんなストーカーめ。
カナメによると噂を聞いて勇者とお近づきになるチャーンス!ってことで皆送ってきてるそうだ。
今まで接触がなかったのになんで今ごろ?と思ったら、どうやら俺が双子姫や宰相カナメとか最強魔法使いクープーデンとかと仲が良いのが知られてるみたいで、それで王族と宰相と魔法使いが後見人?みたいな感じになったような噂が流れて下手に俺に接触したら王族か宰相か魔法使いにチクられて目をつけられるんじゃないかと貴族たちはなっていたらしい。
要は腫れ物扱いみたいなもんか。
貴族が次から次へと来られるのは面倒臭そうだから今の方が断然いいけど、腫れ物扱いはちょっとだけ複雑・・・。
まあ、今まで仲いい人たちと引き続き仲良くできたら俺はいいんだけどね。
今回のお茶会の誘いは→勇者は姫のお茶会に行くなら誘ったら来てくれるかも→あくまでも誘うだけだから目をつけられることもないだろう→そうだ、せっかく送るなら娘の名前で送ってそれを見て来てくれて娘を気に入ってくれたら御の字!という連想ゲームよろしく思って送られてきたものだろうとのことだ。
・・・っていうか、差出人は娘の名前をわざと語ってたんかい。
怖いな貴族って。
俺は朝食を食べ終えて手紙を転送して、今日はハンター行こうかなと思っていそいそしていると。
「ごめんごめんイオリ、まだあなた宛の手紙あったわ。私のに紛れ込んでたみたい。」
ローエが慌てて持ってきた。
受け取ると手紙はそれまでのとは違って紙質が明らかに良くて封筒もでかめ。
印章がしてて、あれ?この印章、どっかで見たことあるような?
「お、おい!これ王城からのだぞ。その印章はこの国の紋章だ。」
印章を見て首を傾げていると覗き込んだグランがそう言ってきた。
あー、どこかで見たことあると思ったらこの国の紋章かあ。
王様に最初に謁見した時に壁にかかってたり、勇者発表の時に王様がその紋章の壁掛けの前で発表してたんだったなあ。
つうか、王城からの手紙ってことか?
なにか用なのかな?
開けてみると手紙が2枚入ってて、1枚目をまずは読んでみる。
・・・。
「有名な学者さんが俺に会いに隣国から来たんだって。んで、日にちと時間と場所はオレに任せるから会えないかってことらしい。」
「なんで王城がそんな手紙を送ってくんだ?その学者が送ってきたらいいのによ。」
「その学者さんは俺が孤児院に居候してるのを知ってて、突撃したら俺だけじゃなく孤児院に迷惑がかかってしまうかもって思ったみたいで、王城に仲介してもらってちゃんと会いたいみたい。だから王城に相談したらこうして手紙でお伺いをたてるようにしてくれたらしいよ。」
「へえ、ちゃんとしてるのね。その学者さんって、誰だかわかるの?」
内容に興味を持ったローエが話しかけてきて、俺は2枚目をグランとローエに差し出した。
「この2枚目が、その学者さんのプロフィールなんだって。わざわざ自分が何者か、どういった理由で俺に会いたいか書いてくれたみたい。」
その2枚目を読んだグランとローエが同時に驚きで目を見張った。
「「フランク・フェブアーノ!?」」
あら、あなたたち声が揃って、仲いいのね。
いい加減付き合えばいいのに。
まあ、それは置いといて。
「フランク・フェブアーノの名前で驚いてどうしたんだ?」
「すごいわ!この人、とても有名な学者さんよ!」
「ええと、お前が前に「魔物の大群」が魔人の仕業だとか言った時にそれを論文で発表した学者がいるとかいう話になっただろう?その学者だ。」
「あーあー!確かそんな話になったことあったな。王城の北の山で騎士とハンターで「大群」を相手にしたあの時の会議でそんな話を聞いた気がする。そうか、その人なんだ。」
「その他にも色々な論文を出してて、その人のおかげで発展したものもあるほどなのよ。でもその人は確か・・・私たちと変わらない年齢だったはずよ。」
「ついでに言うと隣国の貴族出身で、様々な論文での功績が認められて伯爵位も持っているらしい。」
へえー、すごい人なんだ。
そんな人が俺になんの用だろう?
考えられることは・・・勇者というのはどんな力を持っているのかとか、もしくは異世界人とは?とか、俺の【能力】に興味があるとか、はたまた精霊に色々聞きたいとか?
あれ?・・・よくよく考えたら俺って色々要素ありまくりじゃね?
学者からしたら研究対象過ぎて興味引きまくりじゃん。
『あらやだ、イオリが今頃なにかを自覚したような顔をしているわ。』
今日の俺の担当?の水の精霊が俺の心を読んだようなことを言ってきた。
『イオリはいまいち自分の力を自覚しておらんから仕方ないのう。』
もうひとりの担当?の雲の精霊までそんなことを言って!
俺は異世界に来ちゃっただけのただの高校生なはずだぞ!
いや、異世界に来た時点で「ただの」ではないか。
・・・とにかく精霊ふたりは黙らっしゃい!
「そんなすごい人?なんだ。そんな人が俺に会いたいってことだけど、俺は会った方がいいかなあ?」
学者フランクについての知識がさっぱりの俺はグランとローエに意見を求めてみた。
俺としては会っても会わなくてもどっちでもいいからこそ、2人の意見を聞きたかった。
「「会った方がいい。」」
2人は同時に断言してきた。
本当に仲いいね。もうさっさと結婚しちまえよ。
「お前はわからんだろうが、彼は学者の中でも結構な知識を持ってる。そういう人は繋がりを持っておいた方がいい。またわからんことが出てきた時に意見を聞けるだろ。」
「私も同意見。更に言うとフランク様と異世界人のイオリが話すことで、フランク様がますます世の中が発展するような論文を出してくれるかもしれないもの。」
「ふうん。・・・なるほど、わかった。2人が言うなら会うことにするよ。」
前に俺の【能力】と謎の魔方陣のことを調べるのにグランは情報屋に頼ったりアルはいろんな本を読み漁ってもらったことを思うと、あの時学者さんがいたらもっと早くわかった可能性があるもんな。
世の中が発展するような論文は・・・まあ、もしかしたら俺の世界のことを話したら何か参考になることもあるかもしれない。
なんせこの世界は俺の世界でいう500年前で止まってるんだからな。
こうして俺はフランクと会うことにした。




