176話 レベルA試験2
お待たせしました。
引き続きセシリオ視点です。
試験当日。
私はノヴェーラの町の西側出入り口の前にいた。
出入り口のすぐ側の誰にも邪魔にならない所に横付けした馬車は、一目で貴族が乗っているとわかる豪華な馬車だ。
その中に私はいて、イオリがやって来るのを待っている状態だ。
馬車の外には執事と護衛2人がいて御者がいる。
一応イオリは私の護衛という形で同行するので本来なら護衛2人はいらないのだが、性格の悪い貴族を演出するためにあえてつけている。
もしイオリが護衛について言ってくるようなら「信用できないハンターに私のような高貴な貴族が護衛されるなんてまっぴらだから通常通り護衛をつけている」と言えばいい。
しばらくして馬車の外から執事が声をかけてきた。
「セシリオ様、ハンターイオリが来ました。」
「わかった。」
馬車から出ると1人の青年が目に入った。
白金髪を立たせていて黒目で、ふむ、顔の作りは悪くはない。
服装は軽装に近くて両手と両足に防具がわりに幾重にも巻かれた革のベルトがなかったら町中を呑気に歩いている町人と変わらない格好で、斜め掛けの鞄を着けている。
うん?武器を持ってないとはどういうことだろう?
そういえば噂ではイオリが呼べば勇者の剣が飛んでくるらしいから、それで帯剣してないのか?
まあ、その噂も本当かついでに確かめたいな。
「ふうん、お前がイオリか?」
私はすぐさま演技に入って頭から爪先まで値踏みする視線を向けた。
「あ、はい。初めまして、イオリです。」
イオリは俺の視線に気づいてないのか気にしてないのか自己紹介してきた。
「私はプレチデス伯爵家の次男、セシリオ・フィド・プレチデスだ。今回は私の趣味の錬金術の素材集めに護衛として同行させてやる。本来ならば貴族の護衛がハンターなんて輩に務まるとは思えないがノヴェーラのギルマス直々に頼み込んできたから応じてやったまでだ。せいぜい足手まといになるなよ。」
見下して鼻で笑いながら言うと「はあ。よろしくお願いします。」となんとも言えない顔で返事をしてきた。
ここでムッとするのが普通なんだが・・・なんとも言えない顔とはどういうことだろう?
まあ、なにを言われても笑顔を張り付けて気の利いたことを言うくらいじゃないとこれから先貴族を相手にやっていけるかわからないが、特に機嫌を悪くしたようでもなく言葉遣いはましだから対面の印象としては一応及第点としよう。
そう思って次は服装と剣について聞いてみることにした。
「お前、見るからに軽装だが金がないのか?それに帯剣してないのか?」
「え、あ、これっすか。俺の世界に鎧なんてなかったから鎧ってのがなんかしっくりこなくて変わりにこのベルトを巻いてます。剣は呼べば最速0.1秒で来るんで帯剣してません。でも一応リンク・・・じゃなくてマジックバッグに魔剣あるんでそっち帯剣しときましょうか?」
・・・なんだろう、早速ツッコミどころ満載だ。
いくら世界的に発表されたからといってそんな普通に「俺の世界に」とか言って、オープン過ぎないか?
それに呼べば最速0.1秒ってどういうことだ?
っていうか、マジックバッグ持ってるのか?
魔剣?
そういえば・・・昨日ギルマスが言ってたな。
「あいつは自分の強さも無自覚だが、息を吸うようにやらかすぞ。」と。
「・・・お前を連れている私が恥をかく。帯剣しておけ。」
私がこめかみをおさえながら言うと「わかりましたー。」と軽く言ってマジックバッグからバスタードソードを出して腰にさしていた。
あのバスタードソードが魔剣とは・・・。
鞘からうっすら光が漏れてるぞ。
本当に魔剣なら国宝になってもおかしくないのに・・・普通に帯剣するとは、もしかして価値をわかってないのか?
そもそもどうやって手に入れたんだ?
聞いたら「帯剣してたらなりました」と訳のわからんことを言っていたが、嘘を言っているように見えなかったので流すことにした。
決して私の許容量を越えそうな気がしたわけではないぞ。
それから執事と護衛の2人を紹介したら普通に「よろしくお願いしまーす」と頭を下げていた。
え?いや、護衛がいて疑問ないのか?
イオリはどうやら全く気づいてなかったので私から言ってみることにした。
「本来ならお前が一応護衛としてつくということで、この護衛2人はいらないらしいが、私は貴族だからお前のような者に守られたくない。だから通常通り護衛をつけている。」
そう言うとイオリはうんうんと頷いた。
「それがいいと思いますよ。この護衛の人たち見た目からして俺よりめっちゃ強そうだからこういう人たちに守ってもらえる方がいいっすもんね。俺も護衛の人たちほどじゃないですけど頑張って護衛しますから気楽に素材集めやっちゃってください。」
・・・嫌みの護衛が効いてない。
というか、俺よりめっちゃ強そうとかどういうことだ?
もしかしてこれがギルマスの言っていた「無自覚」か。
「あいつはなんでか自分の強さに無自覚だ。もう何回も何回も何回もお前は強いって言ってんのにまたまたーとか言って全く信じてない。それがある意味厄介だ。」
そんなことをギルマスは打ち合わせでぼやいてたな。
強さに無自覚はさすがに試験の審査に関係ないが、興味もあるしそこら辺もついでに見てみたいな。
「お前に言われるまでもなく素材集めをやる。・・・移動するぞ。ここから西の草原の先にある森に行く。」
私はそう言って馬車に乗った。
馬車には私と執事が乗り、護衛2人が歩いて左右につく。
イオリにはあえて指示をしなかった。
どう動くかを見たかったからだ。
ここで「え、俺も馬車に乗りたい」という言動をするのはマイナス評価で、オロオロして指示をされないとなにもできないようならそれもマイナス評価だ。
馬車の中から様子を見るとイオリは護衛の配置を見てササッと馬車の後ろに配置についた。
他の護衛の位置関係で自分の最適の配置に着くところはいいし、誰にも指示を仰がず他の者たちの邪魔にならない配置に着く状況判断もいい。
なんか独り言をぶつぶつ言っているが・・・アレはもしかして精霊と会話しているのだろうか?
陛下の発表で精霊と魔法なしで会話ができて、町中でも普通に会話をしているという噂があるから恐らく会話していると思うが。
どんな会話をしているのか気になるが、まあ私は試験の審査をしないといけないからな。
馬車が動き出し護衛も歩き出すとイオリも同じように歩調を合わせて歩いてきた。
さりげなく周囲を確認しているようだし、護衛としてはいい感じだな。
そしてしばらく進んでいると、急にイオリが声を上げた。
「すいませーん!止まってくださーい!前方に魔物がいますー。」
は?
イオリは馬車の後方からそんなことを叫んでいる。
イオリは後方にいるのに前方に魔物?
意味がわからない。
左右の護衛が戸惑っていて馬車を引く御者はどうしたらいいのかと後ろを向いて小窓から馬車の中の俺を見てきている。
意味がわからないが、とりあえず止まるか。
御者に止まれの合図をすると御者は綱を引き馬車は止まった。
「ちょっと聞いてまいります。」
執事はそう言って馬車から出て、すぐに戻ってきた。
「ハンターイオリが言うには前方に魔物がいるのを精霊が伝えてきたそうで、倒すかどうかと聞いてきております。」
は?精霊が伝えてきた?
「精霊が伝えてきたとはどういうことだ?」
「なんでも護衛を開始した時に馬車の周囲に危険がないように精霊に頼んで周囲を見張っていてもらったそうで。」
はああ!?精霊に頼む!?
「な、なにを言っているんだ?精霊は魔法を使う時に力を貸して頂く他に基本的に無干渉ではないのか?」
それがこの世界で魔法を使うことについての大前提なことなのだ。
無干渉であるがゆえに善人にも悪人にも人間にも魔人にも神にも関係なく力を貸すから、誰でも魔法が使えるのだ。
「そうなのですが・・・、ハンターイオリがそう言うもので。」
私に伝えてきた執事自身も訳がわからないように困惑した顔だ。
とりあえず、本当に前方に魔物がいるのか確かめようと思い、御者に話しかけた。
「本当に前方に魔物がいるのか?」
「少々お待ちください。」
御者はそう言うと御者席から立ち上がり前方の道をじっと見た。
「!?・・・た、確かにおります!前方にポイズンスライムが2体おります!」
御者が言うには数十メートル先にいるそうだ。
もしそのまま走っていて気づかなかった場合、馬にポイズンスライムが飛び付いて馬が驚いて馬車が暴走する危険性があったな。
「イオリは後方にいて絶対に御者より先に見つけられる訳がありません。本当に言う通り、精霊が伝えてきたということではないでしょうか?」
そう私に言ってくる執事自身も半信半疑のような顔だ。
ポイズンスライムはその場から動くようではなかったので倒すこととなったが、ポイズンスライムはその名の通り毒を持っている緑のスライムだ。
容易に近づくと毒液をかけてきたり飛び付いてくる。
毒液は少量なら手足が痺れる程度だが、大量になると全身が麻痺して動けなくなりそうしている間にスライムに食われてしまうので毒液を避けつつ素早く倒すのがいい。
護衛に行かそうと思ったがここはイオリに行かそう。
「スライムごとき私の護衛を出すまでもない」と言ってイオリに倒させることにした。
勇者だから強いと思うがどこまで強いのか実際に戦ってるところを見たかったからだ。
イオリは嫌な顔ひとつせずにすぐに了承した。
「了解です。じゃ、ちょっと行ってきますー。」
ばびゅん
「終わりましたー。」
はあああ!?早すぎる!!??




