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17話 初めての戦闘

初めての依頼を終えてハンターズギルドを出ると、外は茜色に染まりつつあった。


そういやあ、今日は孤児院にグランなる人物が帰ってくるとか言ってたな。

いつ帰ってくるか聞いてなかったが、もしかしたらもう帰ってるかも。

時間的にも帰ろうかな。


そうして町中を歩き、帰路につきながら先ほどの「5秒遅れる謎現象」について考えてみた。


まず疑問に思ったのはなぜこの現象が起きるのか?

あっちの世界で何回か喧嘩になったことがあるのだが、そんな現象になることはなかった。

そういえば、アドレナリンが出て周りがゆっくりに見える?とかいうのを聞いたことがあるが、果たしてこの現象がソレなのかわからない。

そしてこの現象は俺だけに起こる現象か、この世界の者は全員なる現象なのか?

いや、全員なる現象なら戦った相手も5秒遅れるはずだから、俺の動きがわかるし動けるはず。

そういやあ、俺は今まで2回経験したが、どちらも襲いかかられた側だ。

襲いかかられた方が5秒遅れるとか?もしくは不利な方が5秒遅れるとか?

まだ2回しか経験ないから解明するには判断材料がないな。

それとなく誰かに聞いた方がいいか?

誰に聞く?ローエや子供達は・・・聞かなくてもわからないと言いそうな気がする。なぜかそんな気がする。

精霊達に聞く?そういえば情報の精霊は5秒遅れる現象の時にいたのに気付いてなかったから、もしかしたらわからないかもしれない。

だとしたら・・・ローエの幼なじみのグランなる人物にそれとなく聞いてみるか?

確か長いことハンターやってるらしいから、危ない目にあったこともあるだろうし。



そう考えながら大きな道をそれ、孤児院に続く小さい道に差し掛かると、何やら声と、何かがぶつかったような音がどこからか聞こえてきた。



小さな道の左側は木がうっそうと繁っているのだが、その奥から聞こえてくる。

確かローエが、この場所はちょっとした林になっていて、5分くらい奥に行くと沼と池があるとか言ってた。

池自体は大きくはないが、池の周りを覆っている沼が広くてものすごくぬかるんでいるため、はまったら抜け出せないとも噂があって子供達に絶対に行かないようにとキツく言い聞かせているとか。

もしかしたら、誰かが沼にはまったんだろうか?


とりあえず様子見しようと、林の奥に行ってみた。

しばらく歩いていると精霊が複数近くにいるのか、あちこちから声が聞こえてきた。


『沼に人間がいるよ。』

『魔物と戦っているわ。』

『何してるか見に行こう。』


どうやら野次馬みたいだ。

ロックの時も野次馬してたし、君ら基本暇なん?

とか思ってたら沼についた。

とりあえず近くの木の影に隠れて音の正体を探すと、俺のいる位置から池を跨いだ反対側の沼のふちにこちらを背にして2人の人間と、対峙するようにこちらを正面にむいている魔物がいた。

2人の人間は1人は顔はわからないが体格から黒髪の若い青年と思われ膝下まで沼に浸かっていて、もう1人は10歳くらいのオレンジの髪の少年で腰まで沼に浸かっていて青年にしがみついていた。

それに対峙する魔物は、3メートル程のでっかいゴリラで肌は黒いが体毛が真っ赤だった。

ゴリラは腕を振り上げ殴るように青年に攻撃するが、青年は逆手に持つナイフでうまくさばいてるようで、その音が俺に聞こえてきたのがわかった。

ということは、声はあの2人の会話だろう。

少年は抜けないとか怖いとか言って泣き叫び、青年はさばきながら励ましている。


俺は木に隠れたまま囁いた。

「精霊達、詳しい状況わかる奴いるか?」

そう言って周りを「視て」みると、足元から空中やらに複数の精霊が自分に注目しているのがわかった。

『!?・・・あなたもしかして、イオリ!?』

近くの空中にいた精霊がそう言って来た。

「うん。そう。」

途端に精霊達が興奮しだした。


『キャー!本物よー!』

『まさかこんなところで会うなんて!』

『夢みたい!干からびそう!』


なにやら恐ろしいことを言っている者がいるが、落ち着いて落ち着いて。

数分待っていると、やっとこさ落ち着いてくれたみたいで近くの空中にいた精霊が状況説明してくれた。


この精霊は蔦の精霊で、そのまま蔦の体に細長い目がついた姿で、体を木に絡ませて昼寝してたらしい。

そうしたら、少年が沼に遊びに来たようで沼でしばらく遊んでいたらしい。

そこにゴリラが現れ驚いて逃げたが沼にはまって動けなくなってしまって、泣き叫んでいた所に青年が声を聞きつけて助けに先ほど来たらしい。

しかし、沼にはまっている少年を引き抜いてあげたいが、ゴリラが攻撃してきてそれどこではない、という状況とのこと。


なるほど、とりあえずあのゴリラをどうにかしないと少年に引っこ抜けないわけだ。

だけどどうやってあのゴリラを倒す?

いや、倒さなくても撃退できればいいんだけど、どうしたらいいかわからない。

当然だ。俺はあんなでかいゴリラを相手したことないし。

あれが世に言う魔物だろうが、初めての魔物としてはでかすぎね?

ラノベでは最初はスライムか角の生えたウサギとかから始めるもんなんですよ?

どう見ても一発殴られたら俺なんて瞬殺じゃん。




ガキン!!!




俺が考えてる間にも青年はゴリラの攻撃を何度もさばいていたが、タイミングがずれたようで殴られた際に、右手に持っていたナイフを手放してしまってようで、ナイフが遠くに飛んでってしまった。

左手にもナイフを持っていたが、さばききれずゴリラの攻撃を何回も受け始めた。

「うぐっ!・・・・がはっ!」

青年は肩や脇腹に何発かもらったが、それでもその場に留まり攻撃をさばいていた。

青年のすぐ後ろには少年がいるので動くわけにはいかないからだ。


「ヤバイよな!?助けに行かねえと!」

俺はすぐさま周りの精霊達がなんの精霊が頭に流れた文字で確認。

・・・よし!なんとかなるかも!


「蔦の精霊・泥の精霊・石の精霊は手伝ってくれないか?あのゴリラを気絶させて男の子を助けたいんだ。もちろん魔力は好きなだけあげるから。」

『『『いいよ!』』』

3精霊とも即答で言ってくれた。


そして俺は「視る」のをやめると、戦ってる所へ駆け出した。



途端に、「5秒遅れる現象」が始まった。


今回は襲われた訳ではない、襲う側だ。

なのにこの現象が起きたということは、戦いが始まったとなったら襲う襲われる関係なしになる現象ということか。

・・・いや、今考えるのは置いとこう、あのゴリラどうにかしないと!

ゴリラは片手を振り上げて青年を殴ろうとしている。

俺は指示を出した。


「蔦の精霊!蔦でゴリラの腕を拘束してくれ!」

するとゴリラの近くの木から丈夫そうな太い蔦が何本ものびてきて、殴りかかろうとしていたゴリラの右手を拘束した。

ゴリラが驚いてる間に左手も拘束。

それには青年も少年も驚いていた。


だが、ゴリラなんだから腕力すごいはず、引きちぎられる可能性があるからさっさと次の指示だ!


「泥の精霊!ゴリラの足元だけ柔らかくして底無し沼状態にしてくれ!」

ズブズブとゴリラは沈み始めた。

ゴリラは何が起きているのかわからず大暴れしているが、暴れるほど泥に沈み込んでいく。

大暴れしたので蔦は引きちぎられたが、同時に俺は青年の横にたどり着いた。

青年と少年はゆっくりと驚き続けている。


「石の精霊!結構いっぱい石つぶてお見舞いしてくれ!」

俺の結構いっぱいとかいうその場の適当表現にも石の精霊は応えてくれて、俺の後方から大小様々な石がゴリラに飛んでった。

うおお!20個くらい飛んでってないか!?

それらは全部ゴリラの全身に当たり、ゴリラは防御する暇もなくあっという間に気絶して仰向けにゆっくりと倒れていった。


なんで気絶したかわかったかって?

ゴリラが倒れたら謎現象が消えたからだ。

元に戻ったのでゴリラが気が付くまで大丈夫だろうと青年と少年に意識を向けた。


「大丈夫?」

俺が声をかけるとそこで初めて俺に気付いたみたいで、2人ともこちらを見て口を開けて驚いていた。

青年は黒髪のちょっと長めの髪に茶色の瞳でイケメンだけど目が鋭い細マッチョで全身黒づくめの服装だ。年齢は俺よりちょっと上くらいだろうか。

少年はオレンジの髪で瞳もオレンジで、かわいらしい感じだが今は涙と鼻水でぐちょぐちょだ。

ザ・町の少年!って感じの軽装だ。

少年は驚き続けているが、青年はすぐに俺を警戒して左手のナイフを構えてものすごく鋭い視線を送ってきた。

まあ、2人にしたら急に現れたんだし警戒するよね、すんませんね。


「えと、おにーさんがナイフ飛ばされてヤバそうだったから、勝手に加勢したんだ。おにーさん殴られてたけど大丈夫?」

俺がなるだけ敵じゃないよって感じで軽い口調で話したら、青年はナイフを構えるのをやめて腰の鞘に戻した。

けど一応こちらを警戒している目線はそのままだ。


「・・・少し痛むが問題ない。助けられたから礼は言っておく。」

あのゴリラに何回か殴られてましたよねあなた。

それで少し痛む?頑丈過ぎね?

それともこっちの世界では普通なの?

俺やってけるかなあ?ははは・・・

青年のその返事を聞く限りは彼は大丈夫だろう思っていると、少年がまた泣き出したので沼から引っこ抜くことにした。

青年と2人係りで引っこ抜いたので少年はやっと沼から生還し、ゴリラに警戒しつつ林の中に移動した。

俺が少年を支えて歩いて、青年は飛ばされたナイフを回収しつつ周りを警戒して数分で町へ続く道に出た。

そこまでくると少年は元気が出てきたみたいで、1人で歩けると言ってきた。


「一応家まで送ってこうか?」

俺の申し出に少年はにこやかに笑って首を横に振ってきた。

「大丈夫だよ。お兄ちゃんって見たことないから最近この町に来た人でしょ?僕んちは結構要り組んでるから僕を送った帰りに迷うかもしれないから。」

「こいつんちは知ってるから、俺が送っていく。」

青年がそう言ってくれたのでお言葉に甘えて、そこで2人と別れた。


空を見上げると茜色になりつつあった空だったのに、今はきれいな茜色になっていた。

う~ん、沼歩いたから靴が泥だらけだ。

でも人助けできたから心はすごく満足している。

そういやあ、初めての魔物ででかかったからビビったが、助けようと思ったら何とも思わなかったな。

野生の動物よりもヤバい魔物なんだから、目の前にしたら怖いだろうと勝手に思ってたけど、怖さよりも助けようと思ったのが勝ったのか?

でも俺はそこまで助けるぞ!とは思ってなかったのに、だ。

なんだかわからないが、俺が思ってるよりも魔物討伐はできるかもしれない。

まあ、俺が直接戦った訳ではなく精霊達に協力してもらったし、あのゴリラは気絶はさせたが殺した訳じゃないし。

やっぱ俺が戦うのってまだまだかもな。

何はともあれ、精霊達のお陰で人助けできたんだ。感謝!


蔦の精霊・泥の精霊・石の精霊はずっとついてきてたのが感覚でわかってたので、俺がお礼を言って約束通り魔力をいくらでも食べてと言うと、俺にまとわりついてどうやら魔力を食べだした。

だが、なんか『グフフフフ』とか『うまぁ!うまぁ!』とか『酒池肉林や!』とか不穏な声が聞こえるので無視しよう。何となく「視た」くない。


ちょっと遠い目をしたまま帰宅した俺をローエ達はにこやかに迎えてくれた。

今日はグランが帰ってくるからちょっと晩御飯は豪勢にするわ!とローエが言っていたがその通りで、食卓には所狭しと料理が並べられていた。

手羽元や豚肉を焼いたものから唐揚げっぽいものから、煮物やサラダ、スープもいつもより具だくさんだし、パンも3種類あって目移りしまくる。

グランという奴はまだ帰ってきてないようで、子供達がまだかまだかと料理を気にしつつ、道が見える窓から外をのぞいていた。


「いつもならもうちょっと早く帰ってくるんだけど・・・。」

ローエもちょっと心配していたが、まぁ待ってたら帰ってくるでしょと言っていた。

そうして15分ほど経つと、窓から外をのぞいていたロックが声をあげた。

「あ!!グラン兄ちゃん帰ってきたよ!!」

そう言ってロック・インカ・アンの3人はドタドタと玄関に飛んでった。

そして玄関から3人の声が響いてきた。


「「「グラン兄ちゃんお帰り~~!!」」」

「・・・ああ、ただいま。皆元気そうだな。」


あれ?聞いたことある声だ?


「うん!グラン兄ちゃんハンターの仕事は終わったんでしょ?」

「ああ。1週間以上いなくてすまんな。なんか変わったことあったか?」

「あのね!あのね!イオリっていう男の人を保護したよ!」

「は!?」


なんか警戒した声。

え、さっき聞いた気がするんで・・・す・・・け・・・ど・・・。


「イオリ中にいるよ~。こっちこっち!」


グランなる人物はロックに手を引かれて広間に現れた。

お互い目を合わせた瞬間に驚いた。


「あれ!?あんた・・・!?」

「!?おま・・・!?」



さっき沼にはまった少年を助けて町へ送ってくれた黒髪の鋭い目つきの青年がそこにはいた。





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