165話 畑と罠
そういえばここが貧しいのはわかってて心配していたが、それにしては畑がないなとウォーラに言われて初めて気がついた。
「一部改築は置いといて、畑はそういえばこんだけ広い原っぱがあるからできそうなもんだな。ローエやろうとは思わなかったのか?」
孤児院はなだらかな丘の上にぽつんと建っていて周囲は原っぱだ。
そこを毎日子供たちが駆け回っている。
なだらかな丘だからちょっと斜面にはなっているが、畑にできないこともないくらいのなだらかさだからローエならやりそうなもんだけどな。
「実は・・・ここに越してきた当初はこの孤児院の裏手に畑を作る予定だったの。でも試しに耕してみたけど土がとても固くてなかなか掘れなかったのよ。さらにどうやら土がいい土壌じゃないみたいで、なんとか耕せたところに植えてみてもほとんど育たず枯れちゃって。」
ドジョウ・・・じゃなくて土壌かあ。
それはさすがに俺にもわかんないな。
都会育ちだし、田舎に行っても都会にはない珍しさでなんとなく畑仕事を手伝ったことはあるけど、さすがに土壌がどうとかわかるわけないし。
「それにもうひとつ問題があってね。」
「問題?」
「畑を作ると作物を目当てに魔物や動物が孤児院近くまで来る可能性が高くなるのよ。そうなるの外で遊んでいた子供たちが襲われるかもしれないから、できないのよ。」
なるほど、そうだよな。
こっちの世界の動物も魔物ばりに逞しく進化しているようだから、子供たちは魔物だけじゃなく動物にも襲われないようにしないといけないわな。
あれ?でも・・・。
「そういえば、そもそもこの孤児院の近くで魔物も動物も見ないけど、どうなってんの?」
「それは前にチラッと話したけど、罠を張ってるのよ。」
あー、そういえばそんなことをホントーにチラッと聞いたような気がするな。
「魔物と動物が近付かないようにこの孤児院の周囲の土地4ポイントに魔道具を埋めてあるの。土地をぐるっと囲む特殊な糸を張り巡らせて、魔物と動物が触れたら雷魔法が出て入れないようにしているからよっぽどな魔物でもないと入り込めないわ。その他にその魔道具には悪意のある人間が近付いてきたら私に知らせが来るようになっている特殊なものなのよ。」
へえー!そんな魔道具埋めてたのか。
魔物と動物が触れたら雷魔法が出る魔道具・・・なんか俺の世界にもあったな、電気柵だっけか?田舎で見たことあるぞ。
「でもその魔道具は雷魔法が出る度に内蔵されている魔石の魔力を使うから1ヶ月に1回交換しないといけないのよ。畑がない今のままで1ヶ月に1回なら、畑を作ったら魔物や動物が来る頻度が多くなるだろうから、1週間に1回になるかもしれない。それなりの効果の魔道具だからそれなりの魔石を必要としているから、そうなると畑を作れば魔石にかかるお金が増えるからむしろ赤字になると思ってそういうこともあって畑を作れなかったのよ。」
「魔石ってどれくらいのレベルのやつが必要でいくらすんの?」
「レベルはBかCで、1個だいたい5000Gよ。」
「ご、5000G!?」
それを4ポイント・・・ってことは月2万G!?
それが畑があった場合、週に2万Gってことになるってかよ!?
そりゃ畑やらないよー!
「まあ、グランがちょくちょく討伐依頼でレベルBかCを倒した時に魔石をもらったりしてきてくれるから月に1~2個ですむ時もあるのよ。だから実際にはそこまでは出費はしてないけどね。浮いたお金は子供たちの将来のために回してるわ。」
あら、ローエは浮いたお金はへそくりとかにせずに子供たちのために貯めてんのね。堅実ですこと。
それにしても・・・魔物と動物のことがあるなら畑と魔道具の方もどうにかしないとな。
俺になにかできないかなあ・・・。
・・・あれ?
その時、俺はピンときた。
「そうか、なるほど。ウォーラ、そこで俺の出番ってことか。」
「ふふ、そういうこと。」
ウォーラは優しく頷いてくれた。
土の精霊なら固い土や土壌をよくすることができる。
埋めてある魔道具だって、代わりに精霊に頼んだらできるじゃないか。
精霊は俺に超協力的だから、頼んだらやってくれそうだ。
「そういうことなら早速、俺やっちゃうよ。」
「え、これから!?」
「善は急げと言うでしょ。」
戸惑うローエと微笑むウォーラを連れて孤児院の裏手に来た。
「あれー?イオリとローエ姉ちゃんとおねーさん、どうしたの?」
裏手の原っぱで遊んでいた子供たちのうちのインカがこっちに気づいて近づいてきた。
おねーさんとはどうやらウォーラのことのようだ。
「これからここに畑作ろうと思って。」
「畑!俺見たーい!」
「私も!」
「私も。」
ロックとアンも興味あるみたいで近づいてきた。
では皆の注目を集めたところで俺は土の精霊を「呼声」で呼んだ。
『この近くにいる土の精霊、ちょっと来てくれ。』
『・・・呼んだかイオリ。』
足元に土の精霊が現れた。
「ここら辺を畑にしたいんだけど、土を柔らかくして土壌をよくしてくれない?」
『・・・了解。』
「あ!ちょっと待って。ローエ、どこら辺まで畑にする?」
「え、えーと、とりあえずこの辺りくらいのを。」
ローエが軽く指差して範囲を決めてくれた。
「オッケー、今の見た?土の精霊。あの範囲を頼める?」
『・・・すぐ終わる。』
するとローエの指差した範囲内の土が勝手にボコボコうねりだして範囲内に生えていた雑草が全部土の中に飲み込まれていった。
そしてすぐにしっかり耕された畑になった。
「おおおおー!すげえー!ありがとー土の精霊!魔力どーぞ!」
『・・・うむ、うまい。おおそうだ、サービスだ。』
するとまた土がボコボコして勝手に畝ができた。
「おー!これですぐに植えられるぞ、ありがとー!」
「すげえええ!畑できた!!」
「さすが精霊ね!」
「すごい・・・!」
俺は大喜びで子供たちも精霊の力を見て感動していて、ローエは一気に畑ができてぽかんとしていた。
「さ、次は魔道具の方ね。」
微笑みながらも冷静に俺を促すウォーラ。
さっすが水の精霊神だけあってクールだね!
そしてローエの案内で魔道具が埋まっている4ポイントに行った。
孤児院を中心に四方に埋められてて、魔石を取り付けられている部分が地面から露出していた。
それを全部、ついてきていた土の精霊に掘り起こしてもらって回収した。
そこからは簡単。
『盾の精霊、ちょっと来てくれー』
すぐに盾の精霊が来てくれて俺は結界魔法で4ポイントと同じ範囲に結界を張った。
え?空間の精霊?
俺は「契約」してるから、空間魔法が精霊なしで使えるのだよ。
「大群」の時は空間の精霊が側にずっといたから頼んだんだよ。
因みにこういった一方が「契約」している精霊を使った魔法の場合の詠唱は『数多の精霊がひとり、盾の精霊よ。我が「契約」せし空間の精霊の力を合わせて強固な結界を作れ、バリアー』となる。
でも俺の場合は「契約」の時のサービスで魔法名だけでできるから盾の精霊が俺の魔法名とタイミングを合わせてくれることで結界が張れるのだ。
まあ、詠唱したらとんでもないことになるから詠唱しないけどね。
そして結界を張るにあたって通す通さないの条件は結界を張る時の俺のイメージで決められるということで、魔道具と同じで魔物と動物が結界に触れたら雷魔法が出ることと、悪意のある人間が来たらローエと俺にわかるようにした。
結界は圧迫感がないように普段はまったく見えないように透明にして鳥や虫は通れるようにしたから大丈夫だと思うんだけど。
「よし!これでオッケー!ありがとー盾の精霊!魔力どーぞ!」
『うむ、うまいな!』
「イオリありがとう!!これで子供たちも安全ね!魔石代がこれからかからないと思うとすごく楽だわ!」
ローエは感激してニコニコ笑ってお礼を言ってきてくれた。
「ローエちゃん、よかったわね。因みに気づいてないようだけど、この結界は全世界最高硬よ。」
「・・・・・・え?全、世界?」
「ふふ、つまりはね、天界魔界の者でも私たち精霊神でも多分破れないわよ。破れるのは大神くらいかしら?」
「えええええええええーーー!?」
最強魔法使い「む、興味深い結界の気配がするのう。」




