162話 剣を持ちたい猛者
前半主人公視点、後半三人称視点です。
『バロック』を掴ませたけど感電したリーダーぽいのは痙攣してぶっ倒れて取り巻きと思われる2人に抱えられて去ってった。
ふうやれやれ。
モテる男は辛いね。
っていうかモテるなら女子がいいんだけど。
実はこうして絡まれるなんて発表されて1週間ですでに3~4回目だ。
そのため、俺が絡まれてても町の人たちはあんまり気にしてなかったし、『バロック』が飛んできてもちょっと驚いたくらいですぐに普通に横とか歩いていたし。
町の人、勇者の発表の時もそうだけど受け入れ過ぎだろ。
どんだけ耐性高いんだよ。
「ヒヒヒヒ・・・!イオリ、ここにいやがったな。」
む、なんかまた嫌な予感・・・と思いつつ、声の方を見ると。
そこにはさっきの3人と同じくらいマッチョの男2人がいた。
赤いモヒカンの男とスキンヘッドに髭の男で、某昭和の世紀末に出てきそうなトゲのついた鎧を2人とも着ていて、悪そうな顔でニタニタしながら近づいてきた。
俺はこの2人に見覚えがあった。
「あ・・・、ども。」
「ヒヒヒヒ・・・!剣が飛んでくのを見かけてここに来て正解だったな。今日こそ覚悟してもらうぜ!!」
赤モヒカンがそう言ってきた。
「そうだ!俺たちの相手をしてもらうぜ!!」
スキンヘッド髭が続けて言ってきた。
俺は2人の勢いにため息を吐いた。
「わかったっすよ・・・。」
2人はニカッと笑った。
「「今日こそ・・・!剣を持っても耐えてやるぜえ!!」」
実はこの2人、勇者の剣を掴むイベントのいわゆる常連だった。
前にチラッと聞いたことがある、剣を掴むイベントに現れる猛者・・・という名の名物キャラ・・・それがこの2人なのだ。
この2人、元々は別の国から別々に来た他人同士で、力試しの意味もあってイベントに参加してあっさり持てなかった。
それが悔しくて己を鍛えるようになり毎年イベントに参加するうちに町や王城の人たちに知られるようになってお互いに顔見知りになって、良きライバルとなったらしい。
そして今年もイベントに参加してあっさり持てず、それでも諦めきれずに最終日にかけていたそうだが、「魔物の大群」のせいで最終日の数日前に中止になり、なんとかならないかと思っていたら勇者の剣を持つ者が現れたとなってそれが俺と来たもんだ。
それから2人は俺を見つけて剣を持つという目的が合致してダッグを組んで俺を探したらしい。
そして俺を見つけたわけだ。勇者発表の翌日に。
俺は発表の様子を見に町にたまたま来ていた時で、突然話しかけられた時はマジでおっかなびっくりだったが、見た目に反してちゃんと事情を話してくれたので『バロック』を呼んで掴ませた。
結果はご想像通りだけど。
それからは俺を見つけては剣を掴ませてくれと言ってくるから掴ませてる。
先ほど絡まれるのはこの1週間で3~4回と言ったが、この2人を除いてであって、この2人を数にいれたら二桁いく。
1日に3回も来た時もあったんだから、それでも諦めないこの2人はある意味すごいと思う。
「あ!またやってるぞあの2人!」
「今日は火が出るかしら?」
「腕が凍りつくんじゃねえか!?」
周りの町人たちは俺たちの様子に気がついて次々に言ってきたが・・・ちょっと物騒だな!
ま、まあ、剣を掴んだ人にしか被害が及ばないのがわかっているのか完全に野次馬となっているんだろうけど・・・。
町の人たち、本当に慣れすぎである。
『この人間たち見てたら剣もちょっとは手加減してあげたらいいと思えてくるわ。』
『頑張れ~!』
さっきとはうってかわって精霊たちはこの2人には寛容だ。
こうも来ては何度も返り討ちにあっても挑んでくるのは当然生配信されていて精霊皆が知っていて、その謎の不屈の精神を精霊たちは気に入ったようで応援している精霊もいたりする。
でもまあ、俺しか持てないようになってるから結果は見えてるんだよなあ。
俺はやれやれと思いつつ、地面に刺さったままの『バロック』に意気揚々と近づいて来る2人を見ながらとりあえず治療の精霊を呼んだ。
それからすぐに赤モヒカンは吹き飛んでスキンヘッド髭は腕に大岩が降ってきた。
庵が赤モヒカンとスキンヘッド髭を治療している頃。
ローワン王国の貴族街にある青い屋根の屋敷。
カンディンスキー子爵の屋敷内で、アルフレッドは父に呼ばれて書斎に来た。
「お呼びですか、父さん。」
アルフレッドにいつもの柔らかい表情はなく、少し緊張したような真面目な顔をしていた。
「来たか、アルフレッド。」
デスクに向かい書類整理をしていた父は固い表情で息子を迎え入れた。
40代後半ぐらいで青い短髪に青い目で口髭を生やしている。
アルフレッドに似て端正な顔をしているが今は冷たい印象を与えるような表情をしていた。
アルフレッドはデスクの前に置かれたソファに座った。
それを確認して父は口を開いた。
「呼ばれた用件はわかっているな?」
「・・・はい。先日、魔人が王城に現れた際におもむき、魔人と戦ったことでしょうか。」
「そうだ。・・・国王陛下から感謝の手紙と褒賞を与えることを書いた書状が来た。」
「そう、ですか・・・。」
国王から感謝の手紙と褒賞の書状が届くというのは大変名誉なことであるのに、アルフレッドと父の表情は固いままだ。
「さすが英雄の家系であるとお褒めの言葉をいただいたぞ。・・・ありがたいことだ。まだ英雄の力を発現させてないお前にはもったいないな。」
「それは・・・すいません。」
アルフレッドは頭を下げた。
「我がカンディンスキー家は英雄の子孫であり、その証として先祖代々その英雄の細剣を受け継いできた。嫡男がその剣に宿る英雄の力を発現させられて初めてカンディンスキー家当主となり、婚約や婚姻も認められるという掟がある。だが・・・なぜお前は23にもなって今だに発現できていないのだ?通常であれば大体20までには発現すると言われていて、私の時は19で発現したというのに。」
「すいません・・・。いつ発現できるように常に持ち歩いているのですが・・・。」
「本来ならば家宝を常に持ち歩くなど頭がおかしいこと許さんのだぞ?それをお前がどうしてもというから許して、しかもハンターなんて野蛮なことも許してやっているのに今だに発現しない。」
「すいません・・・。」
「このままお前に期待しても無駄やもしれん。そうなったら来年成人するルックスに細剣を持たせることになるぞ。」
「そんな!?弟に・・・!?」
「発現しないのであれば長男でも関係ない。もしルックスが発現したらあいつが当主となるのだ。そうなればお前はカンディンスキー家から出ていってもらうことになるぞ。」
「そ、それは・・・今一度待ってください!必ず、発現させますから!」
焦って声をあげるアルフレッドに対して父はなおも固い表情であった。
「ルックスの成人まで1年あるからな。それまで発現させるんだな。・・・いや、それかもしくは勇者に媚を売っておくことだ。」
「は!?」
一瞬意味がわからずアルフレッドは驚くが、すぐに言わんとすることがわかって思わず顔をしかめた。
「お前にしてはなかなかいい働きをしたな。なんでも勇者ととても仲がいいらしいな?ちょこちょこあの薄汚い孤児院に通ってたのはそのためか?いつから彼が勇者だとわかっていたのだ?」
「な!?・・・彼が勇者だと知りませんでした。彼は勇者だとかの前に大事な友人です。それに孤児院は薄汚くはありません。」
「ふん、どうだかな。まあ、勇者に媚を売っておいても損はないだろう。今のところうちが勇者と仲がいいからな。他の貴族どもの悔しがる顔が目に浮かぶぞ。勇者がなにか欲しがったらなんでもやれ。金でも女でも。そのための金はやろう。」
あまりに傲慢な考えにアルフレッドは実の父にイラついたが、グッとこらえた。
ここで怒ったところでなんにもならないと冷静な自分もいたからだ。
「・・・いえ、彼はそういうのを望んでませんし、私はやりません。彼は友人ですから。」
そう答えたアルフレッドに父は鼻で笑った。
「剣を発現できないくせに綺麗事を言うな。いいか、発現させるか媚を売るかしかお前にはないのだ。肝に命じておけ。」
「・・・。」
アルフレッドは悔しさでぐっと手を握りしめた。
そしてすくっとソファから立ち上がって真剣な顔で父を見つめた。
「私は彼を友人だと思ってますから、死んでも媚びを売るなど浅はかなことはしません。だから・・・」
腰にさしている細剣を無意識に撫でた。
「必ず・・・この魔剣「蒼天」の力を発現させてみせます・・・!」
お父ちゃんクソやね。
因みに蒼天は春の空を意味しています。




