161話 久しぶりに絡まれる
俺はとっとと逃げるように王城を後にすると町に向かった。
お昼過ぎにカナメのところに行ったから・・・太陽の位置的にも現在は2時頃かな?
っていうか約2時間もカナメと話していたのか。
主に美容の話を一方的にされただけだったし発表されてからの変化の話し合いはあんまりできてなかったけど・・・まあいっか。
なんか困ったことがあったらカナメの名前使っていいって言ってくれてたし、それがダメならカナメのとこに押し掛けて土下座して泣き喚いたらなんとかなるだろう。
え?プライド?なにそれ美味しいの?
『ちょっとイオリ、変な顔してる。なんか変なこと考えてるでしょ?』
風の精霊が俺の左上の空中で呆れたような目で見てくる感覚がした。
『面白そうなこと考えてるんじゃない?』
蔓の精霊が俺の右上の空中でニコニコしている感覚がした。
今日はこのふたりが俺の担当?だ。
さっきカナメと会った時はふたりは黙っててくれていたのだ。
「変なこと考えてないよ。困ったこと起こらないといいなって思ってただけだよ。」
『あー、さっきの宰相とかいう人間の会話のことね。』
『今のところ特になにもないんでしょ?』
「うん。」
『だったら大丈夫だよ。それになにかあったら僕ら手伝うし。』
『人間の考えてることなんてわからないけど、少なくても私たち精霊が味方なんだからイオリは大きくかまえてて大丈夫よ。』
「ありがと。大船に乗った気持ちとはこの事かと実感することにするよ。」
ふたりに励まされながら町に着いて町中をなんとなく歩く。
「あっ、魚屋が安売りしてる。ローエに買ってこうっと。」
魚屋の店頭に本日安売りの看板が見えて寄ってみた。
『あらあら、色んな色の魚があるのね。』
『僕はこの魚が気になる!キラキラしててきれいだね。』
風の精霊が見回してて蔓の精霊がサバに似た魔物魚を見ている感覚がする。
因みに店頭に並んでいる魚のほとんどが魔物魚で、普通の魚は肉同様に高くて魔物魚が庶民には一般的だ。
普通に孤児院でもソテーとかで出るし、外食とかでも食べてるけど、味は普通のとあまり変わらない。
「蔦の精霊が気になるならそれ買ってこうか。それをとりあえず10尾と・・・お、このマグロみたいのも10尾買おうっと。すいませーん!」
俺は店員さんを呼んで買って、その場でリンクに入れてった。
『イオリ、あのお店寄ってみたいわ。』
「オッケー風の精霊。」
俺は風の精霊が行ってる方向について歩きだした。
さっきから普通に精霊と話しながら町中を歩いて買い物をしているが、町の人はこっちをチラッと見る人もいるけど特に気にした様子はない。
端から見たら俺は独り言を話すやべえ奴なんだが、勇者の発表の時に俺が精霊と普通に話せることは発表されている。
それをすんなり受け入れた町の人たちはどうなんだろうとは思ったが、まあ気味悪がられるよりはるかにいいか。
俺としてはせっかく1日ついてきてくれてるのだから、こうやって話したりしたかったから俺としては今は楽しい。
「おうおう、お前がイオリか?」
そんな声をかけられて声の方を見たら、そこには3人の男たちが立っていた。
いずれも30代くらいで荒くれ者・・・というか多分ハンターと思われるマッチョの体にゴツゴツした鎧を着ていてる。
「なんだ、こんなヒョロヒョロしたのが本当に勇者かあ?」
真ん中の2メートルくらいのでかい男がニヤニヤしながら言ってきた。
多分こいつがリーダーっぽい。
っていうか、嫌な予感。
これは絡まれる展開しかないな。
「・・・確かに、俺はイオリですけど。」
とりあえず返事しといたら、リーダーぽいのがははっと思いっきり見下した目で鼻で笑ってきた。
「お前が勇者だとは笑えるな!どう見てもレベルBのブラッドベアに瞬殺されそうな貧弱そうなのにな!ははは!」
「「ぎゃははは!」」
リーダーぽいの言ったことに両側の2人が下品な笑い声をあげた。
「そう言われても・・・つか、ブラッドベアってなんすか?」
「ぶはっ!ブラッドベアも知らないのかこいつ!勇者様ってのは世間知らずなんだな!」
3人は爆笑して俺はちょっとむっとした。
だってしょうがねえじゃん。
俺はこっちの世界に来てまだ半年も経ってないんだよ?
「そんな世間知らずのガキがどうやって城に取り入ったか知らないが、勇者を語るにはやり過ぎだせ。どう見ても俺の方が勇者として相応しいだろう?俺の方がはるかに筋肉も実力も実績もある。だから勇者の剣をよこせ。」
「え?」
はあ?なにこいつ言ってんの?
「お前、貧弱だけじゃなくて阿保か。アニキが勇者に相応しいから剣をよこせって言ってんだよ!」
取り巻きの1人が息巻いて俺に吠えてきたが、いやいやいや!
剣をよこせって!
そんなむちゃくちゃな!
「つか剣はどこだ?どうせお前みたいのが触れるわけがないからなんかインチキして盗んだんじゃねえか?」
リーダーぽいのがそう言って俺の腰回りを見てきた。
実は俺は勇者の剣を手にしてから帯刀していない状態だ。
それまで愛用していた魔剣バスタードソードはリンクにある。
帯刀していないのはその必要がなくなったからだ。
「そうか!わかったぞ!お前、勇者の剣を盗んでどこかに隠したんだな?で、国王様を脅したんだな!剣を返してほしくば俺を勇者と発表しろって!じゃないとお前のような貧弱で阿保そうなのを勇者として発表する訳がない。」
はあ?なにその迷推理。
「さすがアニキ!だったらその剣を見つけてアニキが勇者になったらついでにこいつを泥棒として差し出したらいいですね!」
「ははは!そうするか!そういう訳でさっさと剣を隠している場所を言え!」
ええええ・・・!
そういう訳でって、横暴も横暴じゃねえかよ。
こいつらホント馬鹿だ。
『ちょっとイオリ、こいつら失礼な奴らね!竜巻で吹っ飛ばそうかしら?』
『僕の蔦で首をきゅっとやっちゃう?』
ふたりとも物騒だからやめて!特に蔦の精霊!
俺はさりげなくふたりの精霊がいるであろう方向に「なにもしないでよ」と目線と念を送って、「おい!きいてんのか!」とやいやい言ってくる3人に向かってため息を吐いた。
「俺は盗んでないし勇者なのは流れでそうなったんすよ。それでも納得してくれないなら、わかりましたよ。剣を呼びます。呼べばいいんでしょ?」
「は?剣を呼ぶ?」
「『バロック』」
ヒュウウウウゥゥゥゥゥン・・・ズシャアアッ
俺が『バロック』の名前を呼ぶと空の彼方からなにかが飛んでくる音がして、それは俺の足元に刺さった。
柄はちょうど俺が取りやすい位置にくるようになっている。
太陽を模したような彩飾の入った片刃のバスタードソード。
勇者の剣『バロック』だ。
「はいどうぞ。これが勇者の剣。持てたらあんたにあげますよ。」
突然飛んできた剣にぽかんとした3人に向かって、俺はなげやりにそう言った。
勇者の剣『バロック』は名前を呼べば飛んで来る謎の特性がついた剣だった。
魔人をドロップキックで魔界に飛ばして精霊と普通に話していたことがバレたあの直後、『バロック』は突然空の彼方に飛んでったのだ。
「もう出番ないよね」みたいな感じで飛んでったので、なかなかびっくりしたがなんとなく感覚でとりあえず呼べば来るのがわかったから落ち着けて、「剣が飛んでいった!?」と驚く国王様を宥めた。
でも国王様は信じられないみたいだったのでその場で名前を呼んでみたら空の彼方から飛んできた。
でもすぐに「はい、来たので帰ります」みたいな感じで去ってって、国王様は呆然としてたけどね。
『バロック』はヴォルデマル神が意思があるようなことを言っていたけど、ホントのようでものすごく空気を読む。
すぐに来てほしい時に呼ぶと0.1秒もかからず来ることもできるし、逆に今のように余裕がある時は数秒かけて来たりする。
因みに今来たのは急ぎではなかったから4秒くらいだった。
しかも来る時に俺が手に取りやすい絶妙の位置に来るように回転しながら飛んできたり、今のようにまっすぐ飛んできたりしてくれるのだ。
そしてもちろん、俺以外が持つと色んな事が起こるのは健在である。
「こ、これが・・・勇者の剣・・・。ふむ、俺に似合いそうだ。」
リーダーぽいのが剣をまじまじ見てそんなことを言った。
いやいやいや!剣が飛んできたことを突っ込まないと!
つか俺が呼んだのはスルーなの?
そんな俺の心のツッコミもよそにリーダーぽいのはがしっ!と柄を掴んだ。
バチバチバチバチ!!
「あばばばばば・・・!?」
リーダーぽいのはものすごく感電した。
御愁傷様です。




