閑話 その頃の何処か その5
ちょっと詰め込んだら長くなりました。
「グッ・・・クソオオォォォォ!あの人間め!!」
魔界のとある場所。
岩山に体をめり込ませてペルフィドは悔しげに唸った。
庵のドロップキックを受けて吹っ飛ばされて魔界に戻されたペルフィドは飛ばされた先にたまたま高くそびえていた岩山に激突した。
岩山は倒壊しかけるほどの衝撃を受け、周囲にはそれを物語るようにヒビが入り砕けた岩がボロボロと落ちていた。
「この俺様が・・・!やられるなどあってたまるか!」
4本の腕を失い袈裟斬りで胴体に傷を負いながらもペルフィドはまだ生きていた。
それは魔物か魔人故の驚異的な生命力によるもので、既に腕の血は止まって自然治癒を始めていたほどだ。
「まずは屋敷に戻って腕を治さねば。治りしだいもう一度人間界に行ってあのふざけた人間を殺して今度こそ・・・剣をバラバラに・・・いや!粉々にしてやる!」
ペルフィドは1人そう決意して岩山から出ようとした。
だが・・・その動きはできなかった。
いつの間にか目の前に誰かいたからだ。
「!?」
「やあ、ご苦労だったね、ペルフィド。」
目の前には魔界公爵ザウトレーヴがいつの間にかいた。
いつものように微笑んでペルフィドを見てくる。
ペルフィドは慌てて跪こうとすると、ザウトレーヴがそれを止めた。
「大事な任務を終えて戻ってきたのだろう?見たところ安静にした方がいい。」
ザウトレーヴは腕と胴体の傷を見てそう言った。
「公爵閣下・・・寛大なお心に感謝申し上げます。」
「それで、どうだった?報告してくれるかな?」
ザウトレーヴはそれはそれは優しい笑顔で聞いてきた。
ペルフィドはそれを聞いて一瞬躊躇した。
期待されて極秘任務を与えられたというのに、「剣を壊したが人間が剣の名を言うとすぐに復活した」「剣を復活させた人間に蹴られてここまで吹っ飛ばされた」など言えるか?
真実を報告したらザウトレーヴに失望される。
そして将軍という地位に子爵の爵位がもらえなくなる。
それは絶対に避けたい・・・!!
だが、相手は魔界公爵。
圧倒的強者に偽りの報告をしたとなれば・・・どうなるか。
ペルフィドは一瞬の間に迷い、言い訳を考えた。
「勇者の剣は壊しました。・・・が、人間どもの抵抗が予想以上でして、1度態勢を建て直すべく戻ってきたしだいです。」
「へえ!剣は壊したんだね?」
「は、はい・・・!」
復活したことは言わなかった。
再度向かった時に今度こそ壊せばザウトレーヴにバレないと考えたからだ。
「人間どもの抵抗が予想以上、とはどう予想以上だったんだい?」
「それは・・・け、剣を壊したところ、訳のわからないことを言い出した人間がいまして、不覚にも隙を生ませてしまいまして反撃をされてしまいました。恐らく訳のわからないことを言って動揺を誘っていたのかもしれません。ですがすぐに察知して人間の反撃を避け致命傷にならずにすみました。ですが腕を失ったため一旦態勢を整えようと魔界にやむなく帰還したところです。」
ペルフィドはできるだけ自分の都合のいいように言い換えた。
「腕を治ししだい、また人間界に向かう所存です。我ら魔人に反抗的な人間は捨て置けません。必ず殺し魔人が圧倒的存在であるということを知らしめて見せましょう。」
ペルフィドは饒舌に語ってみせ、これでもう一度人間界に行く大義名分ができると口元を緩ませた。
「ふむ、なるほど。そういうことか。」
ザウトレーヴは微笑んだままうんうんと頷いた。
ペルフィドは自分の言い分を信じてもらえたと安堵した。
「実に滑稽。君は本当に馬鹿だ。」
グシャッ
ペルフィドの腹部からそんな音がして血がビシャッと吹き出した。
そして襲ってくる激痛。
「グアァァァアアァァァ―――――!?」
ペルフィドはなにが起こっているのかわからず腹部を見ると、なにかに抉りとられたように無くなっていて臓器が垂れていた。
「アア・・・ア?」
ペルフィドは痛みと混乱で思わずザウトレーヴを見た。
そしてやっと、ザウトレーヴが微笑んでいるが目が笑っていないことに気がついた。
コツコツコツコツ
ザウトレーヴは微笑んだままゆっくりとペルフィドに近づいてくる。
ペルフィドはとんでもなく恐ろしいと思いながらも岩山にめり込んでいる体は動かせない。
動いたら体をバラバラにされると本能が警鐘をならしていたからだ。
「そんな言い訳が私に通じると思っていると本気で思っているのかい?」
グシャッ
「アアアアァァァアアァァ――――――!?」
抉られたところをまたなにかに抉られ、臓器が吹き飛ぶ。
激痛に叫び血を吐く。
「どうして私がここにいるのか、馬鹿な君には察せられないかな?」
どうしてここに魔界公爵閣下がいるのか?
痛みに耐えながらペルフィドはそういえばと考えた。
ここは岩山。
周囲には同じような岩山がいくつかあるだけで魔界公爵が来るどころか魔物がウロウロするところでもないほど、なにもないところなのだ。
ではなぜそんなところに閣下がいるのか?
・・・俺が、ここに来たから?
そう考えるとハッとした。
まさか・・・ここに来たということは、俺が吹き飛ばされて来たということを知っていた?
つまりは・・・人間界でなにがあったか、知ってる?
ペルフィドはさっと顔色を悪くしてザウトレーヴを見た。
ザウトレーヴはペルフィドが察したのを感じ取ってくくっと笑った。
「・・・!ち、違います!閣下!これは、あの!」
「なにが違うのかな?」
慌ててなにか言い訳を考えようとするが、ザウトレーヴの恐ろしい笑顔を目の前になにも浮かばずパクパクと口だけが動く。
「分かりやすい嘘をなんで君は吐くかなあ?まあ、君の考えてることなんて興味がないけどね。それよりもそもそもの話をしてあげるよ。私は元から君ごときが勇者の剣を壊せないことはわかっていたんだよ。」
「・・・・・・は?」
「勇者の剣は神々の父たる大神が創った唯一の剣として有名だ。そんな剣が魔王軍副将軍でしかない君に壊せると本気で思ってたかい?」
恐ろしいと思っていた笑顔はいつの間にか嘲笑う顔になっていた。
「それに君が壊しに行けてすぐに壊れたのなら、その前にもっと力のある魔人が壊すことは容易だったはずだよ。たとえば私や魔王様とかなら頑張れば1分くらいで人間界を消滅することは可能だから、剣の1本なんて数秒かからず壊せるだろうね。なのに剣は壊していない。これはどういうことかわかるかい?大神が創った剣だから壊せないということをわかっていたから壊すことをしなかったんだよ。」
「そ、そんな・・・!では、なぜ俺に壊せと・・・!?」
「んまあ、そこは君が知る必要はないね。」
これ以上言うつもりはない、という強い意思でぴしゃりと言われてしまった。
「ともかく、君は私の言うことをちゃんと聞いて剣を壊しに行ってくれた。だからもう、君は人間界に再度行く必要はなくなったんだよ。」
「え?・・・で、では!俺は将軍に!子爵になれるのですか!」
「うん?・・・ふふっ、見事な勘違いだね。」
「は?」
「私は剣を壊したら将軍にして子爵も賜れるように魔王様に言おうと言ったよね?でも剣は壊れてないじゃないか。」
「は!?で、ですが、剣は・・・―――――!」
ペルフィドはそこで気がついた。
剣を壊したら将軍と子爵にすると確かに閣下は言った。
だが、大神の創った剣は例え閣下や魔王様であっても壊すことができない。
だから俺様が壊せるわけがない。
つまり・・・俺様が壊せないとわかっていて閣下はこの話を持ちかけた?
そして俺様に壊させたことはなにか目的があったようだが、それは達成された。
だから、もう俺様は人間界に行く必要がないと言った。
俺様は任務は完了したという意味にとらえていたのだが・・・もしかして、その逆で。
もう俺様に用はないということなのか・・・?
ペルフィドはまさかとザウトレーヴを凝視すると、ザウトレーヴはくくっと笑った。
「そ!そんな!閣下!俺はまだやれます!必ずやお役に立ちます!だから・・・だから!――――――――」
グシャッ
必死に言葉を紡ごうとしたペルフィドの頭は抉られて首から上はなくなった。
頭のあったところには大量の血が飛び散った。
「もうこれ以上の役に立つことはないと思うんだ。」
傷だらけの胴体だけとなったペルフィドにザウトレーヴはにこやかにそういい放った。
そして空間魔法を使うとあっという間にザウトレーヴの私室へと移動した。
ザウトレーヴは私室に着くと真っ先に骸骨へと目を向けた。
だがそれは魔王軍に関する時のみ連絡がくる用の通信骸骨とは別に持つ、魔王軍以外のもの用の通信骸骨だ。
そしてザウトレーヴがその骸骨の目の前に立つと、骸骨はしゃべりだした。
「おう、どうやら終わったようじゃのう。」
カタカタとしゃべる骸骨にザウトレーヴは笑顔で応えた。
「ちゃんと処理してきたよ。あんな馬鹿がまた人間界に向かったら魔王軍の品位に関わって迷惑だからね。」
「じゃが副将軍なんじゃろう?そんな地位にいたものを処分してよかったのかえ?」
「魔王軍の副将軍は30人以上いるから1人減ったくらいでどうもこうもならないよ。あいつは魔人と魔物の混ざり者だったけど魔物の血が濃かったし、【能力】があったわけでもないですから出世はないと思ってたし。」
「ほっほっ、怖い怖い。」
そう言いながらも骸骨はオプションで笑っていた。
「君も協力してくれてありがとう。イオリに剣が壊れるところを見せるためちょうどローワン城にいた君に協力を仰いだら、イオリを知っているということで驚いたよ。」
「まあ、わしは名の知れた魔法使いということで訪ねてきたのがきっかけじゃ。それよりもわしはお主がイオリを知っとる方が驚いたわ。」
「私は本当にたまたま息抜きでいたところに出くわして、仲良くなったんだよ。」
「変な縁よのう・・・。それが偶然か運命か、疑いたくなってくるのう。」
「神の中には運命の神もいるから、もしかしたらそいつが結んでいるかもね。そう考えると・・・結構不本意ではあるけど。」
ザウトレーヴが苦い顔をすると通信相手の骸骨も苦い顔をした。
「ほんに・・・お主は、いや、お主たちは神を嫌っておるのう。」
まあ、それもしょうがないかと骸骨は苦笑した。
「こんな疲れる話は止めよう。こういう時はのんびり紅茶を楽しもう。君もたまには魔界に来て話し相手にならないかい?」
「まだ王城がバタバタしておるでのう。しばらく出掛けれんわ。イオリが勇者だと公表がすんで落ち着いたらでよければ行こうかのう。」
「ふふっ、楽しみにしておくよ。」
ザウトレーヴは笑って通信を切った。
ザウトレーヴと通信相手の誰かさん(バレバレだね)の関係はまた後々触れるかも。
あ、因みにペルフィドが俺と言ったり俺様と言ったりしてますが、本来は自尊心が強いので俺様と言いますが自分より格上の者には俺と言って格下の者には俺様と言うようにペルフィドなりに区別しています。




