151話 魔人に挑む
ペルフィド寄りの三人称視点で、少しだけ短いです。
ザッ
魔人の混血で魔王軍副将軍ペルフィドは床に剣を刺すと凍った腕に力を入れた。
パキパキと音をたててあっという間に腕を覆っていた氷は砕けて凍った腕は何事もなかったように動いた。
「やはり勇者の剣とあって実に煩わしい。」
ブオンッ・・・ガキンッ!
ペルフィドは床に刺さった状態の剣を横から大きな腕で殴り付けた。
ゴオオォォォッ!!
剣はびくともすることなく拳を受け止めて、拳は触れたところから炎に包まれた。
「殴るのは触れる事になるから力ずくでは壊せないようだな。」
炎で腕の黒い毛が焼かれても動じることなくペルフィドは拳を剣から離した。
そして毛が燃える拳を振るうと炎は消えて無傷の拳がそこにはあった。
どうやら毛だけ燃えていたようで、それでペルフィドは平然としていたのだ。
殴っても壊れないならば魔法かとペルフィドが考えたところで、突き刺さる視線に気がついた。
ペルフィドが視線の気配を辿って人間たちが複数いる方を見ると、黒髪と金髪の2人の青年・・・グランとアルがこちらに剣を構え見据えながらなにやらコソコソと話していた。
グランとアルの後ろには苦しそうに俯く白金髪の青年・・・庵と庵の側で心配そうに様子を見ている双子姫の姿もあった。
国王夫婦や護衛騎士たちにクープーデンは少し離れたところで彼らとペルフィドの様子を見ていた。
ペルフィドと目が合ったグランとアルは鋭く目を細め、観察するように見ていた。
こんな状況でも向かってこようとするおかしな人間2人にペルフィドは興味本位で話しかけた。
「・・・なんだ?この剣を取り戻す算段でもしているのか?」
「・・・ああ、そうだ。」
ペルフィドが冗談でそう問えば、グランは至極真剣な顔で答えた。
「たった2人でか?はっ!」
ペルフィドは鼻で笑った。
グランやアルよりごつい騎士たちを次々と王城で吹っ飛ばしたペルフィドにはとても相手になるようには見えなかった。
「ふんっ!人間ごときの攻撃など、俺様に届く訳がない。身の程をわきまえぬ愚か者が。そんなに死にたいのならばかかってくるといい!」
「・・・そうさせてもらおう。」
グランはアルに目配せすると身をかがめて勢いよくペルフィドに向かってきた。
騎士や護衛騎士たちとは格段に素早い足取りにペルフィドは一瞬驚くがすぐにまっすぐに向かってくる姿に「バカ正直に正面から突っ込んでくるのか」と嘲笑い、ある程度近づいたところで腕の1本で殴りかかった。
王城の騎士たちはそれで面白いように吹っ飛んでいったので、こいつも吹っ飛んで壁に叩きつけられるだろうと思っていた。
「!?」
だが、ペルフィドの攻撃は確かにグランの姿をとらえていたのにも関わらず空を切った。
そして気がつくとペルフィドの目の前にグランはいた。
ペルフィドはぎょっとして殴りかかるが、それも空を切った。
「!?な!?」
ザシュッ
そんな音がして同時に左太ももに痛みが走り、見るとぱっくり切られて血が出ていた。
いつの間に切られた!?
ザシュッザシュッ
また音がして、今度は左腕2本のうち下の1本が2ヶ所切られた。
浅めではあるが2ヶ所の切り口からは血がドクドク出るが、腕を振るえないほどではない。
それよりもペルフィドは混乱したまま自分の周りを警戒した。
確かに姿をとらえて殴ったのにも関わらず、感触すらなく空を切り攻撃の瞬間すら見えなかった。
それゆえに続けて攻撃が来るかもしれないと警戒したのだ。
だが、その様子はなくペルフィドの拳が当たらなかったグランはいつの間にか距離を取ったところに短剣2本を構えていた。
その短剣からは血が滴っていた。
ということは、この人間の攻撃が当たったということを現していて、ペルフィドは混乱しつつもプライドを汚されたとイラついた。
グランの先ほどの攻防は【能力】を使ったために起きたものであった。
グランの【能力】、それは【視覚操作】という。
自身か相手の視覚を操作することができるというもので、一時的に視覚を奪うことはもちろん、見える位置などを変えることができるためにペルフィドはグランのいる位置を誤って攻撃が空を切ったのだ。
そして自身の攻撃時は相手に自身が見えないようにしたために、ペルフィドはいつの間にか攻撃されたのだ。
「人間ごときが!」
ペルフィドは怒って右腕の1本を掲げて魔法を唱えた。
『数多が精霊のひとり、火の精霊よ!大地に業火を放ち焼き尽くせ!フレイムスプレッド!』
ペルフィドの掲げた右手の前に五芒星の魔方陣が浮かんでそこから火が吹き出した。
火は溶岩が流れるように床に燃え広がって、ペルフィドの前は火の海となった。
これで容易には近づけなくなっただろうとペルフィドはニヤリと笑ったが、グランはつとめて冷静で表情を変えなかった。
『数多が精霊のひとり、風の精霊よ。天駆ける力を足に宿せ、ジャンピングアップ!』
グランがそう唱えると、グランの両足に四芒星の魔方陣が浮かんで両足が風に包まれた。
そしてグランが跳ぶと信じられないほど跳躍をして、途中で足をつけることなく火の海を横断してペルフィドの頭上まで来た。
グランは跳躍した体勢を空中で変えてペルフィドに蹴りをするように足を向けてきた。
ペルフィドは一気に跳躍するとは思っていなかったものの、チャンスだと思った。
跳躍して向かってくるため、殴りやすく相手は空中にいるので避けられる事もないからだ。
ペルフィドはニヤリと笑って再び殴りかかった。
「!?」
しかしまたもや空を切った。
ザシュッザシュッ
「!?ぐっ!?」
今度は背中に痛みが走った。
チラッと背後を見ると空中で向かってきていたはずのグランが短剣をペルフィドの背中に刺していたのだ。
音や声は操作できないのでグランは風魔法で跳躍力を強化して【視覚操作】で跳躍してまっすぐペルフィドを攻撃するように見えるようにして、火の海を跳躍力で迂回してペルフィドの背後に回ったのだ。
「く、くそっ!?どうなってる!?」
背後のグランに向けて拳を振るおうとしたが、グランは素早く短剣を抜いて距離を取った。
「・・・人間ごときと言っている割に、大したことないな。」
グランはくくっと笑った。
馬鹿にされたとペルフィドは怒りに震えた。
「黙れ!黙れ!人間のくせにいい気になるな!俺様が人間にやられることはない!!」
「何度も俺の攻撃を防げてもいないくせに?お前、本当に魔人の混血か?魔人はとても強いと伝承とかで伝わっていたが、お前と戦っていると嘘かと思えるが?」
「俺様を愚弄するなああっ!!」
ペルフィドは狼のような唸り声をあげて憤怒した。
「貴様!殺す!!俺様が殺してやる!!」
目を血走らせて睨み付けてくるペルフィドをグランはつとめて冷静に見ながら笑って小さく呟いた。
「俺に集中するように煽ったが・・・こうもうまくいくとは、単純な魔人だな。」
はい、ということで、グランの【能力】が明らかになりました。
次回はアルの【能力】が明らかになる予定です。
さて、グランが戦っている間、アルはなにしているのかな?




