14話 ハンター登録
こちらの世界に来て5日目。
俺はまた町に来ていた。
あのあとは情報の精霊にドン引きしながらも帰り、ローエ達にお土産を渡すととても喜ばれた。
特に子供達は経済的にお菓子を食べる機会が週に一度位しかないそうで、クッキーの詰め合わせ(300G)を大事そうに食べていた。
ロックが「3年かけて食べる」ととんでもない誓いをたてていたので、やめさせた。
そして夕食後、明後日の夕方から宿屋がとれたこともあり、明後日には孤児院を後にすることをローエ達に告げた。
子供達からは「もっとここにいて」とねだられたが、ちょくちょく遊びに来るつもりでもあったので、何とかそれで宥めることができた。
ローエは俺が孤児院の経済的余裕のないのを気遣ったことをすぐに理解したようで、申し訳ないと何回も言ってきた。
因みに今日の朝、ローエによると「今日の夕方、共同経営しているグランが帰ってくる」とのこと。
こちらとしてもしばらく厄介になってたので、明日出ていくにはちょうど挨拶にはいいと会いたいことをローエに言うと、「ちょっと警戒心が強いから気をつけて」と言われた。
なにに気をつけんの?と思ったが、それ以上は会ってみたらわかると言われたので、嫌な予感がしたので一旦忘れることにした。
さて、本日はハンター登録のため、朝食後町に出て来たのですよ。
草の精霊のおかげでお金の心配はしばらくないのだが、急な出費があるかも?と、貯めることにした典型的A型日本人の俺でーす。
そうなると今日のうちから働いた方がいいと考えた。
仕事に関しては、こちらの世界に来て3日目の、図書館を利用した後の町の散策の時に、どんな仕事があるか見ていたからなんとなくわかった。
まず鍛冶や防具などの職人は、誰かの元で数年弟子になり、それで一人立ちなのだそうだが俺はこちらの世界に突然来てしまったので、すぐ帰ることになってしまう可能性があるのでできないなと除外。
同じ理由で兵士も除外。
商人は店先で値引き交渉すら恥ずかしくてできない素人が出来るわけがなく・・・。
というわけで、いつ帰れる!となっても大丈夫なような、手軽にバイト感覚の・・・と探したら、まさにあちらの世界のバイトがこちらの世界のハンターという職業だった。
うう~ん、ラノベあるある「転移したらすぐ冒険者登録」そのままに冒険者・・・こっちではハンターと言うが・・・になることになったな。
ということで、町の中央の噴水のそばにある、第2地区の角地にあるハンターズギルドに到着。
ハンターズギルドは周りのヨーロッパ風の白い壁を特徴とした石造りの建物とちょっと違い、黄色の壁で頑丈そうな石でできた3階建て。
出入り口の扉は大きく何人かのハンターと思われる人達が出入りしていた。
中に入ると、1階は大きなホールになっていて、奥にカウンター兼事務所、左側に依頼が張り出されている掲示板が壁一面にあり、右側はテラス席チックな待合所があった。
今の時間はちょうどハンター達の勤務開始時間だったようで、ギルド内は人が多かった。
様子を見に来る目的で、あえて混んでるとローエから聞いた時間に来たのだが、さすがに人が多すぎて人の邪魔にならない待合所の隅の方で時間を潰させてもらい、30分ほどすると人の波が途切れた合間ができたので、カウンターにむかった。
「いらっしゃいませ。ご用件をお伺いいたします。」
受付のベテランぽい女性(40代)はそう言って営業スマイルを見せてきた。
「すんません、登録をお願いしたいんですが。」
そう言うと女性は手慣れた感じで、すぐに机のしたから紙とペンを取り出した。
「こちらに必要事項をご記入ください。代筆や代読は必要でしょうか?」
「大丈夫です。」
町の看板や図書館でこちらの世界の文字は日本語なことはわかったので、名前はイオリ・アソウとカタカナで書き、年齢は17と書いていく。
読んだことあるラノベでは名字もちは貴族だけ、があるあるだがこちらの世界では名字もちは当たり前だそうで、名前だけはむしろ少ないらしい。
職種という欄があったので聞いてみたら戦士とか魔法使いとか書く欄だそうだが、特にないなら空欄でいいとのことだったので何も書かず、得意武器や得意魔法の欄もあったが、適当にナイフと風魔法と書いておいた。
それが書き終わったら、女性からギルドの説明をしてもらった。
ハンターズギルドに日々集まる依頼を好きに選んで、達成すると報酬が得られる、というのが基本的な利用法だ。
レベルにより受けられる依頼が変わり、例えばレベルFならレベルFの依頼しか受けられないという。
レベルはS~Fの7段階があり、達成内容・回数によりレベルアップしていくが、一般的にCが普通で頑張ってB、才能あってA、人間やめてるS、とのこと。
因みにこのハンターズギルドは世界中に支部があり、本部はどこにあるか謎で、ギルド職員もお偉いさんでないと知らないらしい。
そして国には属さない、1つの独立した組織で、それは各国と対等に取引するためだとか。
そのため最初はならず者集団と思われ、結構な扱いを各国でされて来た歴史があるとのことだが、数百年たった今は国同等に信頼させる組織として人々に信頼されているらしい。
俺が熱心に聞いていたのを田舎出身者と勘違いしたのか、女性はそれからギルドの依頼内容についても詳しく教えてくれた。
魔物討伐・対人討伐・食材調達・護衛・輸送・採取などなどあり、町中で完結する依頼も結構あるとのことだった。
そして依頼を達成できない事案が生じた際(ハンターが死んだり、期限まで出来ない等)は依頼失敗となり、失敗した場合はペナルティ+1と罰金(依頼達成料の半額)となると説明が続いた。
ペナルティ+3で罰金増加で、ペナルティ+5でレベル-1ダウン、それからはペナルティ発生するごとにレベル-1ダウンし続け、最下位のFまでダウンしてもペナルティが発生した時点でクビになるという。
ただし元からレベル最下位のFの場合は、ペナルティ+5でクビ。
一度クビになったらよっぽどの理由がないと、またハンターになれないとのこと。
「ここまでの説明で、ご質問はございますか?」
「特にないです。・・・あ、依頼は今日から受けて大丈夫っすか?」
「はい、大丈夫ですよ。受ける際はこちらのハンターカードを提示してくださいね。」
女性はそう言ってカードを差し出して来た。
カードは手のひらサイズで金属の薄い板でできており、表面にハンターズギルドの紋章の火を吹く銀色のドラゴンの絵が書いてあり、裏面に俺の名前と年齢、レベルが彫られていた。
「続けてハンターカードの説明をしますね。依頼を受ける際と依頼が終わった際に一旦ギルドに提出していただくようになります。それで誰が依頼を受けたかわかるようになり、レベルアップやペナルティが判断できます。一応身分証にもなりますので、貴族街や王城などに行く際に必ず提示を求められますのでそちらに行くことがありましたらご注意ください。紛失した場合は再発行には5000Gかかりますので失くさないように注意してくださいね。」
「はい。」
「これで説明は以上となります。後からわからないことがありましたら、遠慮なくおっしゃって下さい。」
「ありがとうございます。」
説明を聞く限り、ハンターは俺が知ってるラノベの冒険者の扱いとあまり変わらないから、だいたいわかる。
「・・・これは、ちょっと助言といいますか・・・。」
なにやら女性は先程までの滑らかな口調とは違い、なにか言いにくそうに言ってきた。
「イオリさんの格好がちょっと・・・軽装過ぎるので、武器・防具を買われることをオススメします。」
周りは皮鎧や鉄鎧を来たハンターがたくさんいるのだ。ノースリーブとシャツだけの姿の俺は明らかに軽装だった。
「いや・・・俺、魔物と戦うのはちょっと今は難しいので、町中ですむ依頼を当分するつもりなんすけど・・・。」
「だとしても、簡単なものでもいいのでつけておいた方がいいですよ。武器・防具をつけないで依頼をやったりなんかしたら、"防具もろくに買えない下っ端"だと依頼主に見下され侮辱されることもあるんです。」
ヒエー、こえーなそれ。
これから町内ですむような依頼を試しに受けてみようかなと思ってたのに、なしにした方がいいのかな?
まあ、まだ午前中だし、武器・防具を先に整えた方がいいか。
依頼は午後からでってことで。
「了解です。んじゃ、今から武器・防具買いにいって午後からまた来ます。ありがとです。」
そう言ってギルドを後にした。
武器屋も防具屋もローエにオススメを何店舗が聞いていたので、一通り行くか、とギルド近くの武器屋に向かった。




